Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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今回、だいぶキャラの皆様に変なポジションを与えてしまったのではないかと見直しながら思ってしまった…

そんな14話でございます。




第14話

事の発端は1週間ほど前の話だ。

 

 

商店街に行き交う人々が集団催眠にかかり全員が3時間ほどの記憶を失っている間に台風が通ったかの如く舗装された路面が捲り上がり、電柱も傾いていたという。

 

 

問題はこれだけに留まらない。

 

 

その事件の中心にいた人物達はなんと異世界へと連れ去られ、無事戻ってきた際にはこれまた別世界の人間も同行していたらしい。

 

 

そしてその人物は空から降ってきた果実を頭から被って―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いい加減にしなさいよモオオオォォォォォォォォォォォォォォォォォッ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

受け入れ切れない内容に遠坂凛は手にした報告書や写真を絶叫と共に天井へと放り投げ、ガンっと額をテーブルへと叩き付けてしまう。

 

頭上からパラパラと舞い落ちる資料など気にも留めず頭を抱えた凛はメディアが魔術を白昼堂々披露してしまった事を何故か嗅ぎつけた聖堂教会へどう報告するかと悩んでいた。

秘匿すべき魔術を大勢の前で使用したことは魔術を使う者としての…などとチクチクとこちらをつつくような話が電話越しで数時間も続けた上で納得のいく報告書を提出しろというのだ。

もし監査へ現れた時は、異端を嫌う彼等は今度こそサーヴァント達を差し出せと言いかねない。

 

聖杯によって構成された使い魔が命を手にし、一個の生命体となった者など教会から見たら恰好の標的だ。魔術協会ならば最悪死ぬまで実験動物扱いにするが聖堂協会は間違いなくこの世から消し去る算段だろう。

そうしないのは以前に自分達では彼等の言う『異端』に太刀打ちできず、『異端』に助けられた借りがある故だ。神に仕える身としてはその中心となる人物が済む街ではそんな真似はできないのだろう。

いや、そんな事を許す人物でもないのだが。

 

 

 

 

報告書は適当にでっち上げると方向性だけは決めた凛の続いての悩みはその場に居合わせていたアーチャーから聞いた話となる。

 

 

 

 

『―――あれは異世界への『入口』と考え間違いないだろう。しかし、魔術無しにあのような入口を開けるとは敵の技術も大したものだ』

 

 

と他人事のように感心しているが、大師父のようにそう軽々と世界と世界の境界を越えてくる存在など恐ろしいにも程がある。教会と協会の連中には是非ともこちらを相手にして欲しいものだ。

だが決して立ち向かおうともしないはずだ。

自分達の技術や信仰を絶対のものだと自負していた彼等の心は数か月前に起きたゴルゴムの一斉蜂起によって粉々に砕かれている。今まで培った魔術や体術、全てを圧倒的な力と数で蹂躙された2つの勢力は、ゴルゴム以上の脅威となるクライシス帝国の存在に対しては静観する以外に手段はない。

 

 

結局の所、侵略者へと立ち向かうのはあの度を超えたお人好し達しかいないのだ。

 

 

 

「それにしたって異世界人なんて…」

 

 

桜達からの懇願でその青年がこの世界で生きられるよう戸籍を良い値で売ったのはいいが、話を聞いただけでは彼のイメージがまるでわかない説明を思い出す。

 

 

 

 

 

 

『そらから突然大きな果実が降ってきたんです!それを被ったらとても強くなって――――』

 

 

実の妹の頭を本気で心配してしまった瞬間だった。

 

 

なんだその愉快なパワーアップは。凛ですら知っている世界的に有名な配管工が菌糸類を摂取して大きくなるのと同じ原理なのだろうか?

 

 

…ともかく見たいようで見たくないその光景は置いておき、間桐家に居候が増えたことでさらに戦いは激化するであろう予感がする凛は居候含めた間桐家…特に桜の身を案じる他、今の自分には力になれることはないと考えながら散らかした資料を回収せねばと顔を上げた彼女の前に既に拾われ、綺麗にまとめられた紙束が差し出される。

さらに顔を上げてみると、普段より3割増しに深くため息をつく遠坂家の居候の顔が目に映る。

 

「せっかくの資料をぞんざいに扱うなど、遠坂家の家訓に反する行為ではないか、凛?」

「うっるさいわね!今片付けようと思ってたの!!」

「そうか、そういう事にしておこう」

 

目を閉じて皮肉を口にするアーチャーの態度に青筋を立てる凛だが今し方目の前の男に言われた遠坂家の家訓を何度も頭の中で唱え、落ち着きを取り戻すと彼が今にも外出しようとすることに気付く。

 

「…今日もなの?」

「ああ。心配せずとも夕方頃には戻るさ」

「子供扱いしないで頂戴。用があるのならとっとと行きなさい!」

「ああ、そうさせて貰うとしよう」

 

刺のある言い方をしてしまったと後悔する凛だったが、当のアーチャーは気にする様子もなく部屋を後にした。

 

凛は窓から様子を伺うと、しっかりと扉、門を順に潜り徒歩で外出していく、最近ようやく見慣れてきた私服姿のアーチャーを見守ると彼の所持品であるショルダーバックを見つめる。ここ数日、彼は同じ荷物を持って外出し先ほど言った通りに夕方には帰宅しては戻ったの一言を添えて食事の準備を始めている。

 

凛は特に理由は聞こうとは思っていなかった。

 

長い戦いの果てに守護者となり身体も理想も摩耗し続け、聖杯戦争へ英霊として召喚された彼が得ることの出来た2度目の人生。しかしアーチャーは以前と変わらずに凛の見の周りの世話を焼くばかりで自分の時間を持とうとしていなかった。

だが、行先を告げず外出をするようになって以来普段通りを装っているのだろうが帰宅した彼はとても充実。さらに言えば楽しそうに見えていた。

 

凛からして見れば人生をやっと自分の為に謳歌する事が出来たと喜ぶ所なのだろうが…なぜか、別の感情が込み上げてきている。

 

 

(なんだか、面白くないわね)

 

 

彼が何かに没頭し、楽しみなどむしろ歓迎するべきことだ。だが、彼をそんなにも楽しませる『何か』に凛は気に食わない。なんと子供じみた思考なのだろうとしっかりと自覚はしているのだが、気に食わないものは気に食わないので仕方がない。

ありえないと思うが、それが自分以外の人間…それも女性と関わっているということなら…

 

「…確認する必要があるわね」

 

それだけで物事を判断するほど凛も愚かではない。だが、効力は無いに等しいとは言え彼のマスターである凛は彼の行動を把握しなければならないという使命感を自発的に抱くと早速出かける準備を始めるのであった。

 

 

 

 

 

 

しかし、遠坂凛はどこまでも遠坂凛であることを忘れてはいけない。

 

 

 

 

「…………………………………………………………」

 

「まぁ、見られて困るものではないのだがな。君には理解のし難い世界なので伏せていたんだ」

 

 

普段とは違う服装と髪型にした上で伊達眼鏡を着用し、尾行を開始したまでは良かったが最初の角で既に待ち構えていたアーチャーへと声を掛けられた凛は裏声を使ってまで別人に成りすまそうと往生際の悪さを見せたたが敢え無く撃沈。

こうしてアーチャーの隣を無言で歩きながら行動を共にすることになっていた。

 

頬を朱に染めている凛はいっそ血祭りに合いたいと叫びたくなるほどの後悔に苛むがそうこうしている間に目的地へと到着する。だが、その場所は凛にとっては以外過ぎる場所であった

 

 

 

 

 

「間桐の家…?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

クライス要塞

 

「…本日は落ち着いているのかしら」

「みっともねぇ所見せちまったな…」

 

通路を歩くマリバロンの周りを浮遊するガテゾーンの頭部は先日起きたゲドリアンへの報復の為に重武装で追いかけ回した事件を詫びながら自らの計画をマリバロンへ説明する。

 

「前回、前々回とRXが戦った時のデータは十分にそろった。アイツ等が送り出した連中の犠牲も無駄じゃあなかったと俺が今回証明して見せるぜ」

 

ある一室の前でマリバロンが立ち止まると、ガテゾーンはモノアイから赤外線を照射して扉のロックを解除。ゆっくりと開かれる部屋の中ではある怪魔ロボットの開発が最終段階へと移行していた。

 

「これは…」

 

思わず声を漏らすマリバロンの横へと足音を立てて移動するガテゾーンのボディへ浮遊していた頭部が投下・接続されると立ち尽くす彼女の肩へ手を置き、完成を目の前にした怪魔ロボットを前に誇るように告げるのであった。

 

 

「見ていろ。このクライシス最強の怪魔ロボットが今度こそRXをなぶり殺して見せる…」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

間桐家の地下には魔術師にとっての作業場…言わば工房と呼ばれる場所は蟲蔵が併用して使われていた。だが、蟲だらけの環境ではどうしても進まない研究もあり当主であった間桐蔵硯は別の工房を作成する。

しかし造ったはいいが今度は逆に蟲が居なければ落ち着かない事実に気付いた蔵硯は二つ目の工房…別名『倉庫』はその名の通り不用品などを適当に放り込んで長年放置されていたのであった。

 

その空間を発見した光太郎達は中を徹底的に改造し、自分たち作業場向きに内装を変更した。それはまさに今進めている計画に相応しき場所へと変貌している。

 

蟲蔵と同じく石造りで暗くジメジメとしたその空間へは地上から引いた電気や空気の入れ替えが出来るよう吸気・排気口だけでなく空調機までも備えて環境を整え、壁面も調湿性に優れている漆喰を使用した塗り壁へと変更。

 

さらにネット環境も整え特注のコンピューターも配置したそこはもはや秘密基地に近い。

 

だが、そんなものは凛にとっては二の次である。

 

彼女はそんな空間よりも、間桐光太郎と慎二、その友人の衛宮士郎はともかく自分の同居人までもが共同して作成しているモノに対して本日二度目となる絶叫を木霊させるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「何なのよそれはあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

限られた狭い空間であるため彼女の声は良く響き、全員が思わず耳を塞ぎ作業を中断する程のものだった。

 

 

「うるさいわよ」

「あぅッ!」

 

その場にいた者達の気持ちを代弁し手にしたファイルの背表紙を凛の頭頂部へ叩き込んだ人物…メディアは頭を押さえて涙目となって振り返る凛の魂からくる訴えに仕方なく答えることにした。そんな事も理解出来ないのかと軽蔑の眼差しで。

 

 

 

「ねぇ遠坂さん?今男共が必死になって組み立ているものは、世間一般から見てどのような名称とされているか、本当に分からないの?」

 

 

強めの口調に思わず萎縮しながらも横目でもう一度確認する凛は優雅が服を着て歩くような上品な言葉使いでも、心許した相手に見せる気さくな口調でもなく不安まみれな小声を漏らした。

 

 

 

 

 

 

 

「…自動車…よね?」

「ええ正解。まさしく車、それ以外の何物でもないわ」

「ごめんなさいやっぱ色々言わせてもらえないかしら?」

 

 

メディアは調子を取り戻した凛を無視し、凛へ攻撃を与えたファイルを小休止へ入った間桐光太郎へと差し出した。メデューサから渡されたタオルで額から流れる汗を拭う光太郎はファイルを受け取るとパラパラを捲りながら残る手を顎に当てる。

 

 

「やっぱり代替品は難しいか…じゃあ、この部分の設計頼めるかい?」

「もう始めてるわ。あとは図面に落としたものが寸法通りのサイズになるかを確認した上であの二人に加工させるわ。ギアの負担が大きくなるから強度も考えないとね」

「それもそうか…じゃあこのまま俺は内部に入れるAI搭載に使えそうな―――」

 

 

2人の会話がまるで理解できない凛はエプロンをつけ、全員分のお茶を用意した桜に肩を叩かれるまで茫然としていたという。

 

 

 

 

 

 

 

「異世界の人がくれた、設計図?」

「はい。光太郎兄さんとメディアさんがこちらに戻ってくる寸前に渡されたメモリに…あ、メモリっていうのは図面などの電子媒体を保存できる小さな機械で…」

「…………ありがとう」

 

逐一わかりやすい説明をしてくれる実妹の優しさが辛い凛は大体の事業を察することが出来た。

 

 

怪魔界へとワープした光太郎とメディアはワールドなる人物から託された異世界の青年…現在では赤上武なる人物以外にも手渡されたデータメモリからある設計図を取り出す事に成功した。

 

そこには現在組み立て作業中である車の設計図であり、光太郎は形とする為にこの場にいる全員へ声をかけたということだ。

 

元々頼まれたら断ることを知らない士郎や義弟の慎二はともかくとして、まさかメディアやアーチャーが手伝っているとは意外にも程があると思いながら、何やら向こう側で口論している2人へと視線を向ける。

 

 

「だから貴様は甘いというのだ。見ろ、このような乗り物はちょっとしたボルトの緩みや溶接の甘さが命取りとなるのだぞ」

「お前に言われなくても分かってる!自分で気付いたからこうしてやり直してるんだろッ!」

 

と、見つけた粗に対して非難するアーチャーと反論する士郎の様子は同じ口喧嘩でも聖杯戦争時と比べたら実に愉快な光景となっていた。しかもどちらも色違いのツナギを着込んで煤だらけになっている姿が、どこか笑えた。

 

 

「ひょっとして、アイツが上機嫌で帰ってきてたのって…」

「はい、とても楽しそうに作業してましたよ」

 

流石に鼻歌混じりではありませんでしたがと言う桜の報告に苦笑しながらも、士郎とかつての彼が学校で備品の修理や整備に追われていたのをよく見ていたが、まさか今になってまで楽しめるとは…いや、備品と車では大分ジャンルが違い過ぎるが。

 

「それにしても、なるほどね。光太郎さんもちゃんと考えた上での人選ってわけね」

 

あの2人は投影魔術をする上でモノの構造を理解する事に長けている。それは刀剣という限られた範囲だけでなく、機械類にも含まれているのだろう。それを考えた上で誘ったというのだから、本当に大したものだと凛は感心する。

 

だが、適材適所で考えるならメディアに関してはどうしても腑に落ちない。

 

それに彼女は魔術師。自分と同じように近代の文明には疎いはずなのに、何故あのような作業…ブルーライトカットの眼鏡をかけてブラインドタッチでパソコンを操作する姿はとても様になっている反面非常に納得できない姿であった。

 

桜の説明によれば、元の設計図ではどうしても把握できない部分に関してメディアが設計図から3Dモデルで一端起こし、それを基にして一から光太郎達が作成や代替品を探しにでているらしい。意外にも重要なポジションである。

 

「…ふぅ、出来たわ。メデューサ、今プリントした平面図通りに加工するよう坊や達に言って頂戴」

「分かりました。では、一休みしたらどうでしょう?単純な数値の入力だけなら、私でもできますから」

「なら、お願いしようかしら」

 

眼鏡を外し、作業中は首の後でまとめいた長い髪を解くと桜と凛が使用しているテーブル席へ腰を下ろすメディアの前に湯呑が差し出される。その主は先日から間桐家に居候を始めた青年であった。

 

「どうぞ。粗茶でございますが」

「ありがとう。その後、調子はどうかしら」

「すこぶる順調、と言いたい所ですがやはりまだ慣れるモノではありません」

「まぁ、聞いた時代が時代ですもの。あと、そのような口調は結構よ。別に彼方には貸し借りのある関係ではないのですし」

「…なら、お言葉に甘えるとしよう」

「ええ、そうして頂戴」

 

一礼してその場から離れた武は視線の合った凛にも微笑みながら会釈するとこの空間を後にする。どうやら上で見張りも兼ねているらしい。

 

「なんというか…真面目な奴ね」

「武さん、この時代を理解しようと頑張ってますから」

「そう…でも今の問題は――」

 

武への関心に桜が補足してくれるが今凛が知りたいのはそこではない。凛は両手で湯呑を持ち上げるメディアへと問いかけた。なぜ、自分と同じく近代機器を嫌う趣向にあるコンピューターをあのように使いこなしているのかと。

しかしそう尋ねる凛の口調には自分には使えないのにという妬みが含まれているということを視線を向けられているメディアと苦笑いを浮かべる桜には手に取るように分かってしまう。

 

「そう目くじらを立てるようなものではないわ。これは――――」

 

 

湯呑をテーブルに置いたメディアはパソコンへと触れるようになった機会を思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

柳洞寺での家事にもなれ、時間を持て余すようになったメディアは趣味でもあるボトルシップに近いものはないかと調べた結果、手頃の大きさに縮小された造形物の作成に興味を持つ。

 

商店街の模型店などに通い、やがて専門誌を捲っていくうちにとある商品がメディアの目に留まる。

 

それは自分の思い描いた形に切削造形法で立体物を造りだす機械…俗にいう3Dプリンターへ非常に強い興味を持ったのだ。

 

しかしその為には機材は勿論、そのデータを入力するための知識を有さなければならない。

 

そこでメディアは夫である宗一郎の許しを得てパソコン教室に通って基礎知識を学んだ後、参考書やインターネットによる情報から得た技術によりメキメキと腕を上げていった。

 

その結果、作成ソフトやプリンター自体に改造を施し簡単な小物から部品を一つ一つを造形し、それらを組み立てることで城のミニチュアを作れるまでに至っている。

 

現在では住職の部屋に置いてある熊の置物すらメディアの傑作となっている程であった。

 

 

 

 

…ここまでの説明は偉く面倒で、この娘に言うこともあるまいと踏んだメディアはお茶を濁すことに決める。

 

 

 

 

 

 

 

「――――主婦の嗜みよ」

 

「絶対嘘よね今の間を考えてッ!?」

 

 

果たして凛の喉は持つのかと心配するアーチャーはふと自分でも気にかかることがあった。

 

ちょうど自分の近くに作業によって発生した金属片を回収している光太郎へと尋ねる。

 

「間桐光太郎。今回の件は私達が呼ばれたのは納得できた。しかしどうしても気になることがある」

「資金の出所ってとこかい?」

 

無言で視線をぶつけるアーチャーの様子から肯定と受け取った光太郎は何の躊躇もなく、あっさりと今回の資金面での協力者の名を告げた。

 

「ギルだよ」

「あの男か…」

 

ある程度は予想…いや、考えてみればこんなことに大喜びで手を貸す輩など奴以外にはいまいと、聞いた自分がどうかしていたと言ってアーチャーは台車に背中を当てると未完成である機体の底へと滑っていく。

どうやら底部での調整に入っていったらしい。

 

アーチャーの質問にでた出資者による贈り物が届いた状況は今でも忘れられない。

 

 

設計図の印紙に成功し、赤上武が間桐家に世話になると決まった翌日のことだ。さてどこから手をつけようかと設計図と睨み合いを始めた光太郎は自宅の前で数台のトラックが止まっていることに気付く。

業者の人間に求められ受領書へサインをすると、作業員が次々と間桐家の庭に幾つものコンテナ。その中身は現代の技術では決して精製できないレアメタルの山。そして今まさに入手方法を悩んでいた骨子となる新品の車両が停められたのであった。

 

ありがとうございました!と笑顔で去っていく業者を見送る間桐家の面々は光太郎が手にした受領書を一斉に目を向ける。差出人の名前には、簡単にこう書かれていた。

 

 

 

KING

 

 

 

あの男は日本にいないというのに、どこまで事態を理解しているのだろう。

 

光太郎は連絡も取れない協力者に届かない感謝を述べながら、ありがたく贈り物を使わせてもらうことにした。

 

 

 

 

 

 

金属類の破片の回収が終わった光太郎は地上のガレージからいつの間にか移動し、組み立て作業の様子を見守っていた友に笑いながら声をかけた。

 

「どうした?新しい仲間が増えるのが嬉しくなったか、アクロバッター」

「…………………」

「……?」

 

普段ならば電子音で反応か、最近発するようになった言葉で話してくれるはずの生体バイク、アクロバッターはただ赤い瞳を組み立て途中の機体へと向け、ただ一言告げると反転しその場を去ってしまう。

 

 

「…カンタンニイクトイイノダガナ」

 

 

アクロバッターの言葉の意味を光太郎が知るのは、完成を間近に控えたマシンの初起動時になるとは、この時は知る事すらなかったのだった。




ホッパーちゃん、改めアッちゃん(桜命名)が不穏な一言を残して次回に続きます。

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