では、12話となります!
敵の術中にはまり、囚われの身となった仮面ライダーBLACK…間桐光太郎の救出に向かった間桐慎二、桜、メデューサの3人であったが、クライシス帝国の怪人 怪魔異生獣キュルキュルテンの大群を前にして危機に陥ってしまう。
クライシス帝国 牙隊長ゲドリアンの爪が身動きのとれない光太郎に迫った時、彼らの前に記憶を取り戻し、仮面ライダー武神鎧武へ変身した青年が現れた。
圧倒的な力で次々とキュルキュルテンを蹴散らしていく武神鎧武であったが突如、全身に痛みが走り身動きが取れなくなってしまう。
変身に必要なアイテム『ロックシード』が限界を迎えつつあったが青年は力を振り絞り、光太郎を束縛していた機能停止ビームを放つマシンを一刀のもと切り伏せ、自由となった光太郎はすかさずRXへと変身。
残るキュルキュルテンをリボルクラッシュによって打倒すのであった。
戦いが終わり、怪魔界へと流れ着く以前に犯した罪の意識に苛み、死を望む青年であったが光太郎から罪を償う方法を一緒に見つけて行こうという言葉を聞き、生きる道を選択する。
そして…
「にいさーん、武さーん!ご飯できましたよー!」
自分達のいる場所へと木霊する義妹の知らせる声。呼吸するだけでも精一杯である慎二は膝をついて自分の額から落ちる多量の汗を眺めることしかできず、声を出すこともままならない。
「わかった!」
代わりに応えた青年は手を差し伸べ、慎二は自分と違い汗一つ流していない青年を見上げる。出会ったばかりに見た戸惑いなどいっさいなく、僅かな微笑みだけを浮かべていた。
「…慎二殿は射撃と相手の行動を見抜き、意表を付くことに秀でている。ならば、先日のように敵に接近された時の対応を更に広めれば戦術も広がろう」
「ハァッ…ハァッ…そのため、…組手…だって、のか…?」
「その通りだ。それに慎二殿は筋がいい。近いうちに攻撃を当てられてしまうかもしれんな」
「…どう、だかね…」
青年の手を取った慎二はなんとか立ち上がり、かつて『蟲倉』と呼ばれ訓練場となっている地下室の階段を上がっていく。先に階段を進み、自分へ体術の施した男の背中を見て、本当に笑うようになったなと慎二は思う。
それが武神鎧武である青年が今、名乗っている名前である。
元の世界での頃の名は捨てるという本人の意思を尊重し、慎二達が考えた名だ。
当初は変身後に名乗った『鎧武』でも良いのでは?との意見もあったが、本人より『自分より相応しき人物が名乗っている』ということで却下となった為、『武神』の『武』から捩り『たける』はどうだと尋ねた時は
『ありがたく、その名を頂戴する』
と、本当に嬉しそうに笑っていた。
そんな彼…武の提案で空いた時間を前回での戦いで得た教訓を活かし、接近戦でどのような対応も可能とする為の感覚を研ぎ澄ますために体術の訓練を開始した。武の分析では得意とする射撃を伸ばしつつ敵が近づいた際の下地を作っておけば充分であるらしい。
変にお節介な部分な所だけは似ていると言いながらも慎二は了承し、横で聞いていた桜とも日替わりで訓練を受けたいと希望していた。
(それにしても…)
ここ数日共にこの間桐家で過ごして分かった事は、武はこの世界に来る前…正確には武神鎧武となる前から相当の世話好きだったということ。
だからこそ納得できなかった。
(揃いも揃って、何でこうも…)
優しくて、良いやつばかりが望みもしない力を手にして苦しまなければならなかったのだろうと。
そんな事を考えながら廊下を抜け、食卓に到着した慎二は桜とメデューサから汗を流してくるようにと浴場へ追いやられてしまったのは余談である。
(あんのトカゲの化け物…ぜってぇ丸焼きにしてやる…)
「何日前の話している」
現在拠点として宿泊しているホテルの部屋に到着した直後、突拍子もなく数日前に自分達の前に現れ、食料を食い散らかして去っていった怪人へアンリマユは恨めしく声を上げる様子に信彦は呆れながらコートをハンガーへとかける。
あの時は身体の主導権をアンリマユに握られ、同行する遠野志貴達とファミレスで食事をしていた際に起きた事だ。念願の特大パフェが届きいざ挑もうとスプーンを伸ばした直後に店内で響く悲鳴。何事かと全員で厨房へと目を向けると現れたのはふとましい胴体と比べ手足が妙に細いトカゲの怪人であった。
その場で跳躍し、信彦達が座っていたテーブルに着地した怪人を警戒し離れて構える一同だが、怪人は信彦達に目もくれず、未だ手が出されていないパフェを掴むと一気に食道へと流し込んでしまう。固まること約1秒。
状況を理解したアンリマユは八つ裂きにしてやろうと両手に武器を出現させようとしたが怪人はそれよりも早く窓を突き破り、建物の屋根を足場にして早々と姿を晦ませてしまった。
数日ぶりの甘味が…と膝を着くアンリマユを見て咄嗟に武器を手にしていた志貫は大丈夫ですかと声をかけ、同行者は襲撃時に自分の注文したシフォンケーキだけをしっかりと確保して頬張っていた。
この怪人の名は怪魔異生獣キュルキュルテン。キッチンスタッフの手違いで孵化してしまった個体であり、後日に間桐光太郎に倒される事を彼等が知るのはもうしばらく後のことだった。
いつまでも引きずるアンリマユを無視して冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出した信彦は一口水を含むと窓の外を眺める。その部屋は街全体が一望でき、常夜灯や様々なビルから漏れる照明、車両のライトによって夜中だというのに明るさを失っていない。
だが、その中で一部だけ漆黒に染まっている建物が存在した。照明を一つも点灯させることのないその建造物は周辺と比べて不気味なほど異彩を放っている
街の中では有数の高級ホテル『センチュリーホテル』
数週間前に宿泊者、従業員含めその場にいた人間が信彦の知る2人を除き、一夜にして全員が行方不明となる事件が発生していた。
未だに行方不明者は発見できず、捜査は難航となっている怪事件。
だが、信彦は知っている。ホテルにいた人々は行方不明などではなく、その場で食い尽くされたのだと。
信彦は、その犯人から受けた襲撃を思い出していた。
「…ッ!?」
(なんだこりゃ…)
この街に滞在し、吸血鬼の始末をする為に調査を続ける信彦は一瞬、身が裂かれるような殺気を感じた。彼の中にいるアンリマユも同様であり、表面に出ていないというのに冷や汗を流している気分になる。
しかもその殺気には覚えがあった。
「ッチ…!」
考える前に信彦は駆け出していた。もし、殺気を放った人物が信彦の知る人物ならばと考えを巡らせている間に信彦は街中の公園へと辿りつく。まだ午前中だということもあり人通りも少ない。そのまま周囲を警戒しながら足を進めていく信彦はすんなりと目的の人物を発見してしまった。
「………………………」
遊具などなく、数本の植栽が目立つ広場の真ん中で、1人の少年が倒れていた。
学生服を纏い、彼の手元に落ちているのは普段着用している眼鏡と、見た事のない1本のナイフ。
間違いなく、遠野志貫だ。
ゆっくりと近づく信彦は聴力を強化し、定期的に呼吸や心音を耳にして少年が気を失っていることを確かめると周辺を見渡す。あの殺気が彼から放たれたものであれば、必然的に少年が『殺意』を向けた相手がいるはずだ。
だが、争った形跡はまるで見られず少年にも傷一つない。
この場で一体何が起きたのかと顎に手を当てる信彦に今まで沈黙を貫いていたアンリマユが提案を持ちかけた。
(なぁー考えてるとこ悪いんだけどよ、まずはこいつに話を聞くかどっかに移動させた方が無難じゃね)
「…お前にしてはまともな意見だ」
(へぇへぇ。俺はいつもおかしいですよー…あん?)
「どうした?」
(いや、一瞬『血の匂い』が…いや、気のせいだわ)
特に詳しく説明を求めることはなく、信彦は志貴の身体を起こし、背に乗せると眼鏡やナイフを回収してその場を離れていく。
アンリマユの言う通りに放置しておくわけにもいかない。争ったであろう相手が再び現れる可能性もある。そうなればこの少年の命も…
(いや…どうなろうと、俺には関係のないはずだ。だというのに)
どうしてこの少年を助けようとしているのか。そう自問自答しながらも足早に公園を離れた信彦達であった。
そして信彦達が去った後。完全に気配を遮断していた志貴の『被害者』となった者はなんとか歩行が出来る状態となり、遅れて公園から去っていく。彼等が出会うのはもう少し先の話だ。
「……………………」
志貴を自宅まで送り届け、家の中に通されることは数度あった。
だが、それは志貴がまだ有間という親戚の家で生活をしていた頃の話であり、志貴はどうやらその日から実家へと戻るということになっていたらしい。
そして今、信彦が座っているのは志貴の生まれた家である遠野家の客室である。
彼の生徒手帳に記載してあった住所を元に到着した場所は西洋を思わせる広大な屋敷であった。アンリマユは若干混乱気味であったが信彦は特に反応することなく門扉を抜け、扉の呼び鈴を鳴らす。
すると扉の向こうからパタパタという音が近づき、和服を纏った少女が現れる。恐らくは使用人の1人なのだろう。
若干困った顔をしながらどちら様でしょう?と当然の質問を受けた信彦は自分が背負っている少年と倒れていた事…無論、公園ではなく道端で倒れていたとある程度お茶を濁してはいるが説明すると志貴が寝室となる部屋へと案内された。
少女に誘導され、部屋のベットに志貴を寝かせてそのまま去ろうとしたが家の主がお礼を言いたいので帰るまで家で待って頂きたいと言われ今に至っている。
(どうしてこうなった…って状況だわな)
「珍しいな。貴様が今の状況を好まないなど…」
(そりゃまー…お茶菓子なんて頂けるなら大歓迎だけどよ…)
「……………?」
先程からアンリマユは軽口をたたきながらも普段と違い、どうにも落ち着かない様子に疑問を抱く信彦だが、その思考は部屋に和服の少女が現れた事で中断してしまう。
「もうしばしお待ちください。主が今、車で戻っておりますので。あ、日本茶で宜しかったでしょうか?」
「…ああ」
「あ、良かったです!既に入れてしまった後だったのでもし好みでなければどうしようかと思っちゃったんですよ~」
湯呑を信彦の前に置いた少女…琥珀は笑顔を絶やさず初対面である信彦へ話しかけてくる。信彦は琥珀が楽しそうに話す姿…というより彼女の笑顔に不自然さを抱きながらも会話を絶やさない程度に頷き、主の到着をまった。
「…どうやらお帰りのようです。お話は終わりですね」
残念ですと終始笑顔であった琥珀が扉を開けたその先から現れたのは、またもや少女であった。どこか優雅さを感じ取れる足取りで信彦の対面する形で座ると自己紹介と、志貴に関しての礼を信彦へと伝える。
「初めまして。この家の当主、遠野秋葉と申します。この度は兄を助けて頂き、ありがとうございます」
「…偶然だ。礼を言われるまでのことではない」
学生服…志貴とは学校が違うようだが長く艶やかな黒髪。そして強い意志を秘めた瞳でこちらを見つめてくる少女は信彦の短い返答を聞き、目を逸らさないまま尋ねた。
「…失礼ですが、貴方は兄とどのような関係でしょうか?」
「……ただの顔見知りだ」
彼女の視線は先ほどより強い。威圧をかけているつもりだろうか、偽りであったのならば容赦しないと目で伝えているように信彦には思えた。
しばし睨み合いのような状態が続くが、信彦は一度深く息を吐くと湯呑に残ったお茶を飲み干して立ち上がる。主から礼を聞くという最低限の要求を果たしたからにはもう用はない。
「…これで失礼する。用事もあるのでな」
「お忙しい中時間を頂き、申し訳ありません。玄関まで送らせて貰います。翡翠!」
秋葉の言葉と共に音もなく扉が開かれると、給仕服…メイド服姿と言った方が正確だろう。使用人の1人である翡翠と呼ばれた少女は一礼し、秋葉の背後へと移動する。
良く見れば先ほどまで信彦へ話し続けていた琥珀と瓜二つであるが、双子なのだろうか。大きな違いは琥珀が絶やさず笑顔を向けているとは逆に、翡翠は無表情…感情を表に出していない点だろうと分析する信彦の前へと移動した翡翠が仕事の一部分であるように淡々と伝える。
「…それでは、玄関へお連れ致します」
「……………………」
それきり2人は部屋、通路、玄関と抜けていく間に言葉一つ躱すことなく進んでいく。アンリマユだけがその沈黙に耐え切れなかったのか、翡翠と琥珀であればどっちが好みだという質問に信彦は曲がり角に足の小指をぶつけ、悶絶させるという回答を出すのであった。無論、自身へのダメージも承知の上で。
門の外へと出た信彦はそのまま翡翠に何も言わず去ろうとしたが、今まで口を開こうとしなかった少女から発せられた声にゆっくりと振り向く。
「あ、あの………」
「…なんだ」
胸の前で手を握った少女は言おう言わまいか、逡巡しているが信彦は無言で彼女を待つ。そして意を決した翡翠は真っ直ぐ信彦の瞳を見つめると視線を下へと向ける。
「志貴様を助けて頂き、本当にありがとうございました」
「…当主にも言ったが、礼を言われるようなことではない」
「それでも、言わせて欲しかったのです」
「……そうか」
少女の心からの言葉に短く答えた信彦は踵を返すと今度こそ遠野家から離れていった。
翡翠の言葉は事務的なことではなく、本心からの言葉だろう。彼女が長く屋敷にいなかった志貴とどのような関係にあるかは信彦に興味はない。
ただ…あのような真っ直ぐに相手を見つめ、屈託のない純粋な言葉をぶつけられるのが、信彦は苦手であった。
屋敷から離れ再び街を歩き回り街の地理を頭へ叩き込む作業に没頭し、日はとうに落ちており深夜と言って差し支えない時間となってようやくアンリマユは口を開いた。
(は~…もう勘弁だぜあのお化け屋敷に向かうのは)
「俺としては貴様が黙っているならばもう少し滞在してもよかったかも知れん」
(冗談キツイぜ旦那ぁ。アンタだってあの家…つーかあの胸の小せぇ嬢ちゃんが現れた時から理解してたんだろ?)
(あの家は普通じゃねぇ。人間以外の何かが混じってる…そんな人間を狂わせるような空気かあった)
「…………………」
流石は人間の悪意を一身に浴び続けていたサーヴァントだけのことはあると感心した信彦はアンリマユの言った通り、屋敷内に漂っていた異様な雰囲気を思い出す。常人では恐らく感じられないだろうが、空気に流れる僅かな『狂気』の残り香。
そしてそれを打ち消すように、上書きするように現れた遠野秋葉から滲み出る人とは違う何か。さらに言えば、あの少女とは自分…いや、自分達と同じではないかと思えていた。
自分とアンリマユが一つの身体を共有しているように、少女も何かを…と、信彦はグシャリと肉が潰れる音が自分の横で響くと同時に思考を中断する。
目を向ければ、自分が無意識に背後へ放っていた裏拳によって頭部を潰された…狼らしき動物だった肉塊がピクピクと身体を痙攣させて血液を流し続けている。
(うっわえげつなッ!もうちょい優しく殺しなさいよ)
「知った事ではない」
アンリマユが心にもない事をほざいた事を無視し、信彦は続いて現れた新手へと目を向けた。
四足歩行の動物。トラやシカの他にも肉食、草食などなんの統一感もない黒一色の生物の群れに囲まれていた。目は血走り、犬歯を震わせている様子から敵意どころか殺意を向けているのだろう。
(幼女と少年だけでなく、動物にも好かれてるとはね~幅が広すぎてびっくりだわ)
「黙っていろ」
1匹2匹だけならともかく、数十匹もの生物となると今の姿では対応が面倒だと腰を屈める信彦だったが、相手はそんな事を理解もなく待つつもりもない、本能に従う獣だ。
だから何の合図もなく、信彦へ飛び掛かっていく。
「ちッ!」
最初に突撃したシカの頭部を手刀で切断することに成功するが、後に続いていたハイエナに足を噛みつかれ、思わず膝を付いてしまうと相手が怯んだ事に乗じて次々と獣が伸し掛かっていった。
もがき、どうにか動物達を吹き飛ばそうとするが牙を肉へと喰い込ませ離すことが出来ず、ついには群がる獣の中に信彦の姿が消えてしまった。
その光景を離れてた場所で眺めていた長身の人物…黒いロングコートを纏い、そのコートの下は暗く、人としての肉体が存在するかどうかも分からないその男はふむと片目を瞑り、落胆したかのように呟いた。
「最初の一撃を見て只者ではないと踏んだが期待外れか…しかしその肉体に宿る力、取り込んで我が内包する世界の一つとしてくれよう」
その男があとは食い尽くすのを待つばかりと振り返った直後であった。
爆発と共に獣の群れが細かな肉片へと変わり、血の池となったその中心に立っていたのは銀色の甲冑を持つ世紀王の姿。
「…よもや月の王がこのような場所にいたとはな。私達死徒にとって悪夢と言えよう」
信彦の正体を知った男は、その黒いコートの下、街灯に照らされる影から新たな獣が姿を現す。より巨大、より凶暴な生物を顕現させた男の言葉をさも戯言だと言わんばかりに、信彦は…否、世紀王は言い放った。
「悪夢…?何を言っている。貴様が今から味わうのは、地獄だ」
月下に降臨したシャドームーンはそう宣言し、緑色の複眼を輝かせるのであった。
~今回のNG~
「…それでは、玄関『を』お連れ致します」
「………………」
信彦は考えた。彼女の言った事は果たして言い間違いなのだろうが。しかしなぜかそれが正しいと認識してしまっている自分がいる。もしや洗脳されてしまっているのではないかと思えるほどに。
一方、先に進み無言で信彦を案内する翡翠の顔は羞恥で赤く染めてしまっている。客人の前であのような醜態を晒してしまうなどと…
2人はそれぞれ思惑する中、無言で門の前まで到達すると何事もなかったかのように別れるのであった。
…さて、洗脳探偵翡翠が理解できる方、どれほどいらっしゃるか…
今回月姫サイドの初分割話。次回で決着しまた光太郎サイドへと戻る予定となっております。
ご意見・ご感想お待ちしておりっます。