Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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さて、ついにあのキャラもこの世界へと乱入…いや、ほんとすみません


第109話

あれから一週間。

 

照りつける太陽に初夏の兆しを感じながら、遠野志貴はたった一晩で様々な事が起こったと、教室内の窓際に座り思い出していた。

 

 

自身の身体の一部であった混沌が死んだはずの人物の形となって動きだし、その混沌が同級生の姉であり、そんな彼女を殺そうとした存在が、月影信彦に恨みを持っていた…

 

 

説明を受けた後でも理解するには暫く時間を要した。窓の外を見て溜息を深くつく志貴の様子に気づいた乾有彦はしばし志貴を見つめるが、見つめただけで隣の女子と会話を再開する。恐らく志貴の様子を見て自分が聞いても仕方がない悩みだと判断したのだろう。

そういう察しの良いところは、本当に助かっている。

 

肩肘をついてグラウンドを見下ろすと、次の時間に体育でもあるのだろう。別クラスの生徒達が陸上競技の用具を持って、談笑しながら準備を進める姿が見える。その中に、先日の出来事に巻き込まれた山瀬明美の姿があった。

 

 

あれから山瀬明美とは、時折食堂で顔を合わせる。しかし、明美は常に友人たちと揃って行動する為、すれ違い様に挨拶をする程度で同伴にまでは至らない。その程度で十分だと思う。変にこちらと接してまた同じ境遇に巻き込まれる可能性だってゼロではないのだから。

 

それに…あの時、彼女は志貴が自分の眼の前で姉を『殺そう』としたところをはっきりと見ている。

 

 

(本当だったら敵意を向けれても…仕方ないよな)

 

 

最悪、恨まれる事すら覚悟している志貴なのではあるが、数か月後に迫る文化祭実行委員会で彼女と同じ班となり、それなりの友好的な関係となることを、志貴はまだ知らない。

 

 

それまでの間に一夏の悪夢を志貴達を襲うのだが、それはまだ先の話。来るべき日が訪れるまで、志貴達は今まで通りの日々を過ごしていく。

 

 

ただ、一点変わったことがあるとすれば···と考える志貴の耳に授業開始を告げる鐘が鳴ると共に、引き戸を開く教員の挨拶が届いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間前

 

 

 

 

 

 

 

「始末…月影さん、それはどういう――」

 

 

シャドームーン…月影信彦が告げた言葉を反復する志貴がその意味を確認すべく尋ねる前より早く、今も体内で蠢く獣達を抑え苦しむ山瀬舞子へ接近、緑色の複眼で見下ろした。

 

 

「月影…信彦さん…」

 

「時間がない。手短に済ませるつもりだが…その前に2つ質問がある」

 

「………………」

 

「一つ目だ。お前は、お前の妹とここにいる志貴を見て、飢餓感を覚えたか?」

 

「残酷な…質問ですね」

 

 

分かった上で聞いたのなら、志貴が抱く印象とは異なる性格なのだと舞子は今も躍動する自分の腹部を見つめ、途切れ途切れに応えた。

 

 

「見て、分かるでしょう…ボクの中にいるモノたちは今も密度を高めようとして、いる。このままでは明美や…志貴くんだけでなく―――」

 

「それはあくまで貴様の中にいる獣の因子が養分を求めているに過ぎない」

 

「―――え?」

 

「…もう一度訊ねる。貴様は、貴様の意思で妹と志貴を食したいと本能が訴えていたか?」

 

 

 

言葉に詰まる舞子。

 

数時間前、自宅へと赴いた時に襲ってきた飢餓感を抑える為に備蓄されていた数日分の食料を貪ったが、それは舞子の中にいる数百以上いる獣の因子が欲した為。

このままでは家族はおろか周囲の人間達も巻き込んでしまうという恐れが先行し、無我夢中で食料を取り込んだ舞子であったが、思い返してみれば『舞子自身』が欲していなかった。

 

そして信彦の言う通り、マキュリアスの攻撃によって身体を貫かれた舞子の傍でずっと泣いていた妹の明美や、舞子が望んだ通りに躊躇しながらも殺そうとした志貴を『食べたい』とは微塵も思えなかった。

 

 

「…志貴という人間に融合した時間が長かった分、混沌であろうと食指そのものは変わっていなかったという訳、か」

 

「え…?」

 

「なんでもない。次の…最後の質問だ」

 

 

朝日に煌く複眼に、いくつもの顔が反射して映る。どこか怯えながらも、何かに期待してしまっている舞子自身の表情だ。

 

なんと情けないのだろうと、舞子は自ら課した決意の脆さに呆れながらも信彦の言葉を待った。

 

 

(でも、ボクは…)

 

 

例え自分の意思ではなかったとしても、混沌の因子によって数名の犠牲者がでてしまっている。自分は、生きてはならない存在。ならば、確実に死ぬ事によってこれ以上の犠牲は生まない為にと、ネロ・カオスを倒した志貴の前に現れたというのに。

 

 

だが、押し留めた本心には抗えなかった。

 

 

傷ついた自分の隣で泣き続けた妹を悲しませたくない…違う。そんな事は方便だ。舞子は思ってしまったのだ。自分の為に泣いてくれる妹と、これから先も…

 

 

志貴が望み、舞子が求めた言葉を、信彦は静かに告げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「生きたいか?」

 

 

 

 

 

何の感情も込められていない、短い言葉だというのに、呼吸を荒くする舞子の目に涙が溢れる。

 

 

 

 

 

「はい」

 

 

 

 

舞子の万感の思いが込められた返答を聞き入れた信彦は、掌にシャドーセイバーを顕現させる。赤く煌く刀身の先を、何の躊躇も見せず…

 

 

 

 

 

 

舞子の胸部へと突き立てた。

 

 

 

「あ…」

 

 

漏れた声が誰の者かは分からない。呟かれたその直後、舞子の黒い身体を突き破らんと胎動し続けていた動きが収まり、あれ程呼吸を乱していた舞子の動きもピタリと止まってしまう。まるで、事切れてしまったかのように。

 

 

 

信彦の予測がつかない行動に志貴を始め凍り付く一同であったが、一番に反応を示したのは、やはり彼女であった。

 

 

 

「いやああぁぁぁぁぁぁぁッ!?お姉ちゃぁんッ!」

 

 

姉の元へ駆け寄ろうと暴れる明美をどうにか羽交い絞めで押さえるシエルであるが、彼女も信彦の真意は分からない。今回ばかりは、あの真祖すら助けた信彦も匙を投げて混沌の後継者を『消す』判断を下したのか…?

 

 

だが、こういった場合誰よりも感情的になり、信頼している信彦に行動の是非を問うはずの志貴が、動きを止めている。

 

信彦の行動が余程ショックであったのか、動きを見せない志貴に近づいたアルクェイドは気持ちを確かめようと彼の方に優しく手を置き、静かに尋ねた。

 

 

「志貴、一体どうしたの…」

 

「アルクェイド…あれは、どういう事なんだ」

 

「…教えて志貴。貴方の眼に、何が視えているの?」

 

 

 

生きたいと願う舞子を直後に殺したと考えた志貴は当然逆上して信彦に問いただすつもりだったが、彼の眼には…直死の魔眼に異様な光景が映った。

 

 

ただでさえ物体の『死』を視覚化して脳に送り続ける物騒極まりない眼が捉えたのは、舞子の身体に走る無数の点。点は『死』の数…即ち、それと同等の獣の因子が存在するとも言えるだろう。

 

以前、ネロ・カオスに奇襲をかけようとした際に殺しきれない程の死の点を視た時と同様に、ネロ程ではないが混沌の後継者だけあって、その数は膨大だった。

 

だが、志貴が視たのは彼女の身体に浮かぶ点の数が一つ、また一つ消えていく現象。否、点が消えているのではなく…

 

 

「点と点が、重なり合っていく…それで、点が減っているように見えるのか?」

 

「…そう。そういう事」

 

「そう言う事って…アルクェイドはこれが何だか分かるのか?」

 

 

志貴の漠然とした説明で理解したのか、アルクェイドは赤い目を細めて舞子に剣を突き立てたまま微動だにしない信彦の背中を見た。志貴の眼に映っている本来あり得ない現象は、間違いなく信彦が突き立てたシャドーセイバーから流している『力』によるものなのだろう。

 

 

「志貴、よく聞いて。貴方はネロの身体…混沌についてはある程度理解しているという前提で話をするわよ」

 

「あ、あぁ…」

 

「今ノブヒコがネロモドキに行っている事…言うなれば因子同士の結合のようなものね」

 

「因子同士の、結合…?」

 

「私も断言できることじゃないけど、志貴が視たという点と点が重なっていくという事からそう判断するしかないの。ノブヒコはああして力を送り込むことによって体内に存在している混沌の数百以上いる因子を洗脳して共食いさせている…もしくは強引に融合させているんでしょうね」

 

「強引に…融合?」

 

 

志貴の知る限り、ネロは666の動物の因子が一つの生命体として存在するその名の通り『混沌』であるのだが、それを融合させるなどありえるのかと疑問を抱くものの、今さら信彦の行動に常識など通用しない事を思い出すが、さらなる疑問が生まれてしまう。

 

なぜ、混沌の因子を融合させる必要があるのか?

 

 

「分からないって顔してる。志貴、以前ネロがホテルで『食事』をした事を覚えている?」

 

「…ああ」

 

 

嫌な事を思い出してしまう。自分が殺したことで消耗したアルクェイドを休ませるためにセンチュリーホテルに身を潜めていた2人を突如ネロ・カオスが襲撃。その際、食事と称して数百人の命を一瞬にして奪い去ってしまった。

 

志貴の表情を見て、思い出したであろうとアルクェイドは話を進める。

 

 

「あれはネロを含め666の獣がいた故にやった事。食事の量は過剰とも言えるけど、身体は一つでも、あくまで666の『食欲』を満たす為にやった事よ。けど、もしその数が極端に減れば…」

 

「減った分だけ、食べなくても済む…?」

 

 

これは簡単に因子の数が減れば減るほど、飢餓が収まるというだけの理屈だ。現に666という数では人間をダース単位で捕食してしまうが、舞子の場合は冷蔵庫の他にインスタント食品を取り込んでいたが、それは数日分の量であり、数百人単位とは比べ量にないほどに少ない。つまり、現時点でもその程度の食糧で飢餓感を満たす事が出来ている。

さらに因子の数を極端に減れば、欲する食事の量が人間並みに収まる事になる。

 

 

「けど…それでも彼女は人間を食糧とするんじゃないのか?」

 

「その為の質問だったんでしょ?ほんと、どこまで見透かしてるのかしら」

 

「あっ…」

 

 

ここで志貴は信彦が舞子に問いかけた質問の意図を理解した。

 

今混沌の主人格である舞子は、人間に対して食したいという衝動は持ち合わせていない。むしろ、彼女は拒んでいるが故に自ら命を絶つように志貴へ願っていたのではないか。

 

 

段々と希望が湧いて来る。

 

もし、このまま上手くいけば…

 

 

「そうとは限らないわよ、志貴」

 

 

冷たい言葉に、志貴は現実へと引き戻された。

 

 

「今、ノブヒコがやっているのは、全ての因子を融合させるのではなく、あの人間以外の因子を融合させる事なの。その結果、決して混沌以外のものになりはしないわ」

 

「どういう…事だ?」

 

「恐らく志貴はこう期待してるんでしょ?あのまま因子を融合し続け、最後の一つと人間の命を合わせれば、彼女は混沌ではなくなるって」

 

「…っ」

 

 

事実、アルクェイドの言う通りだった。あのまま信彦の処置が進めば、少なくとも混沌として、死徒として生きていく必要はなくなると考えた。考えたかったのかもしれない。

 

しかし、現実主義者であるアルクェイドは容赦なくこの後に起きるであろう事実を志貴へと伝える。

 

 

「いい?もし志貴の思う通りに事が進んだとしても、最後に待っているのは数百の因子の融合体と人間の意思のせめぎ合いになる。どちらが身体の主導権を握るかという、ね。数百の獣の頂点にまで勝ち残った因子と、偶然にも呼び起こされた人間の意思では、もう結果は分かっている」

「それなら…月影さんはなんで?」

「そればっかりは、本人に確認しなければわからないわ…」

 

アルクェイドとて、信彦の行動全てを把握している訳ではない。

 

 

突き立てた剣へ力を送り続ける直立不動となった信彦に、志貴は不安を抱きながらも、信彦を信じることしかできないでいた。

 

 

 

 

 

 

 

「くぅ…あと、何体…だ…」

 

 

 

シャドームーンの深層世界

 

 

そこでは突き立てたシャドーセイバーへ全ての力を注ぎ込む信彦と、それをフォローする2人の魂の姿があった。

 

 

 

『あーようやく片手の指で数えられるぐらいまで減ったぜ信ひー。いんやどれもこれも我が強くてマゼマゼすんもの一苦労ですねぇ』

 

 

軽口を叩きながらも額に汗を拭う事無く信彦のフォローに走るアンリマユは、ようやく見えたゴールに安堵しながらも未だ余談を許さない状況に気を抜けない状態だ。

 

 

舞子の願いを受けた信彦は咄嗟にアルクェイドの推測通りの方法を実行する。

 

だが、混沌に宿る因子の洗脳。舞子を因子から切り離し安全を確保させ、さらに融合させるなど先の戦いで結界を維持しながらの戦闘以上に集中力を要する状況に彼の精神は極限まで追いつめられ、普段茶化すしかないアンリマユに対してまで手助けをさせるまでに至っている。

 

 

そして、現在は信彦へキングストーンの力を注ぐだけである碧月にはさらに重要な役割が課せられ、緊張状態に陥っている。

 

 

『御しやすい動物を強くイメージしろ』

 

『イメージ…?』

 

『俺とアヴェンジャーは今から山瀬舞子以外の混沌を洗脳し、融合させる。だが、強引に融合させた際、どのような化け物が生まれるか想像がつかん』

 

『そこで碧月ちゃんにぁあのねーちゃんに成り代わって身体を乗っ取ろうなんて考えないような動物になるように働きかけてながら力を注いで欲しいってわけ』

 

『で、でもそれならアンリの方が…』

 

『ま、そうだよなー。別に?俺でも良かったんだろうけど信ひーに猛反対されちゃってさー』

 

 

 

 

山瀬舞子を混沌に融合させるというリスクが高い手段よりも、舞子と混沌を共存させる方法を考えた信彦は、最期に残った混沌を舞子でも扱える動物にさせる方法を思いついた。

 

だが、洗脳と融合に集中するため、どのような動物にするかまでは至らない。そこで碧月であればアンリマユと違い妙な生物にしないと考えた上で役目を任せたのだが、思った以上に緊張してしまっている。

 

それもそうだろう。もし、ふとした事から一瞬でも幻想種のイメージが混じってしまったら、もはや信彦達にも手に負えない。

 

 

因子の融合があと2体と迫った時、緊張をほぐそうとしたアンリマユはそっと碧月へと耳打ちする。

 

 

「ヘイヘイ碧月ちゃん!こんな時は、あの小動物に限るぜ…!」

 

「あのって…あッ!!」

 

 

碧月が思わず笑顔で声を上げた直後、ついに獣の因子は舞子を除き、一つの因子へと融合を遂げた…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぅ…」

 

「月影さん!」

 

 

これまで指一つ動かなかった信彦が舞子からシャドーセイバーを抜き取り、よろめきながら後退する所を志貴が支える。どうやら信彦による処置は終わったらしく、複眼と腹部に輝く緑色の輝きは、著しく弱っている。

 

 

「終わったんですが…」

 

「それは…これから分かる」

 

 

曖昧な返答をする信彦の言葉へと続くように、再び舞子が苦悶の表情を浮かべる。

 

 

 

「うぅ…あああぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

「お、お姉ちゃん!しっかりしてお姉ちゃんッ!!」

 

 

目を閉じ、汗を浮かべて声を上げる舞子にシエルを振り切った明美が駆け寄って姉の手を強く握る。それに反応したかのように、舞子はゆっくりと目を開けた。

 

 

「バカ…もう会えないって、言ったのに…」

 

「いやだよ…そんなの絶対いやだよ!私…ずっとお姉ちゃんと一緒に居たい!」

 

 

妹による必死の呼びかけに少しずつ意思を取り戻す舞子の苦悶は未だ止まらない。そして、変化は起き始めた。

 

 

「う…あぁぁぁぁああぁ!!」

 

「お、お姉ちゃんのお腹が…」

 

 

明美は目を見開いて、姉の腹部を凝視する。先ほど、銀色の怪人が剣を突き立てる前も身体のあちこちが内部で別の生物が暴れているかのように膨らんだり縮んだりとしていたが今回は違う。腹の中に風船でも仕込んでいるかのように段々と大きく膨らんでいるのだ。

 

 

「ついに…か…」

 

そう呟いた信彦は膨らみ続ける舞子の腹から何が飛び出してくるのか見当もつかない。

 

確かに因子となるべく動物のイメージは碧月に任せたが、その寸前にアンリマユが入れ知恵した事は眼に入っている。その結果、どのような生物をイメージしたのか…?

 

 

「う、うまれ、る…」

 

「生まれる!?ど、どういう事なのお姉ちゃん!?」

 

 

 

 

全員が様々な思惑の中で息を飲み見守る中、舞子の黒い腹部を突き破って、とうとうその姿を現したのは…

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「んん~、マンダム」

 

 

 

 

無駄に渋い声を発する、黒い謎生物であった。

 

 

 

「ほうほう、朝日と共に生誕した吾輩をこんなにも見目麗しゅうガールズやボーイに祝福されるとは、混沌冥利に尽きるってやつ?」

 

 

 

ぷぅ~、といつから手にしていたのか分からないタバコを噴かせるソイツの外見は、縮めた…というかデフォルメしたアルクェイドに猫耳が生え、おまけにどこもかしこも黒くなっている様子。

 

さらに上半身のみが舞子の腹部からはみ出ているというシュールな状況で、宿主である舞子へとその開いているか閉じているのか分からない目を向ける。

 

 

「ヘイ主ぃ。中々キュートないで立ちの中、こんな真っ黒黒なネコを宿す事になっちまったけどその辺はノープロブレム。吾輩、空気を読む事だけなら自信あるからプライベートに口は出さないぜ」

 

「え、えっと…」

 

「二人の新たな人生を祝して夜明けのコーヒーとしゃれこむのはどぉよ?」

 

 

自分の腹から生えている生物にどこなく口説かれている舞子は返答に困るが、そこに片膝をついて生物の頭部を鷲掴みした信彦が割り込んだ。

 

 

「おぉうこれは世紀王。以前はいきり立った吾輩たちが失礼を」

 

「…記憶があるという事は、貴様は間違いなく混沌の因子だったものか」

 

「イエス。けど、記憶があるだけで実感がないのよこれが。言うなれば混ざりに混ざり過ぎたおかげで以前の吾輩たちもどこか他人のように思えちゃう」

 

「…確認する。貴様は、人間を食したいと思うか?」

 

 

 

その質問に舞子と、混乱していた明美も固まってしまう。見た目はあれだが、確かに御しやすい生物を作り出したことには成功したのだろう。

 

なぜこのような動物と言っていいのか分からない存在をイメージしたかは後で2人に問いただすとして、今はこの生物に確認を取らなければならない。

 

いくら混ざり混ざって新たな獣の因子となったとはいえ、元は死徒だ。志貴と融合し、キングストーンの力を浴びたことで人間の血液を取り込んで身体を維持するという死徒の特性が無くなったとはいえ、その食指が人間に向いているのだとしたら…

 

 

「おいおいキングぅ、自分で血液を吸う必要のない身体にいじくっといてそんな質問はないんでなぁい?それに吾輩ネコであるし、求めるものは同じ赤でもワインと決めてるし、食事もサバ缶を所望するね」

 

 

と、訳知り顔で告げる自称ネコを殴りたくなる衝動を抑えながらも、これで他人を殺して摂取するという最悪な展開は起こらないだろう。

 

心配そうにこちらを見つめる志貴に、複眼を向けた信彦はゆっくりと頷いた。

 

 

 

 

 

破顔して状況を伝える志貴の説明を受けた山瀬姉妹は互いに涙を流して抱き着いていた。猫型生物も自称通り空気を読んだのか、舞子の腹に引っ込んで今は身を潜めている。

 

 

「お姉ちゃん、お姉ちゃん…!」

 

「明美、笑って。ボクは泣き顔より、笑顔の明美がみたいな…」

 

「―うん!」

 

 

 

 

どうにか丸く収まったと複雑な笑みを信彦へと向けるアルクェイドは真逆に、先ほどから口を噤んでいたシエルは無表情のまま山瀬舞子を、そして人間へと戻った信彦を見つめていた。

 




と、いう訳でございましてどうにかなったのですけど、次回少々信彦さんに辛辣な言葉をシエルさんが浴びせるかもしれませぬ

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