Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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さて、またタグを一つ消化いたします。

もうある程度予測のついている方はいるかもしれませんが…

では、10話となります!


第10話

スーパーの裏方…アルバイトの青年は惣菜で使用するゆで卵を作る為に冷蔵庫から幾つもの生卵を取り出した時であった。

 

「あれ、この卵…なんか色違うな?」

 

他の白い卵とは違い、所々に黒い斑点が目立つ異様な卵。しかし、青年は怪しいと考えたのはそこまでだった。

 

(ま、いっか。茹でれば一緒だろう)

 

迷うことなく他の卵と共に鍋へと投入し、ガスコンロを点火したアルバイトの青年は茹で上がるまでの時間をタイマーでセットし、他の作業へと取り掛かる。これが恐るべき怪人を生み出すことになるとは知らずに…

 

 

 

 

 

 

間桐家へと招待された青年は差し出されたお茶をゆっくりと啜る。味にはどこかで口にした記憶があり、少なくとも自分は光太郎達と同じく日本…もしくはそれに近しい国の出身かも知れないと推測を重ねていた。

青年の判断材料は無論緑茶の味に覚えがあるという単純なことだけではなく、壁に貼られたカレンダーや本棚の背表紙に掛かれている漢字や日本語が読み取れる点からもだ。

 

こうして徐々に突き詰めていけば、自分が何者か思い出す日は近いと意気込む青年に慎二は焦る必要ないんじゃない?と相変わらず本から視線を外さず声を掛けている。

 

余程自分の行動が分かりやすかったのだろうか、青年は自分の内面を見抜いた事に目を丸くした。義兄である光太郎を上手く丸め込んでこき使う口八丁といい、少年の観察眼に感服する。そして、先ほどから一切会話を発生させずとも気にかけてくれる慎二の言葉はありがたいと思う青年だったが、だからこそ早く自分の記憶を呼び戻したいと考えていた。

 

これ以上、自分という異物が紛れ込むことで迷惑を被る前に、いなくなるべきだ。

青年はこの家に住まう人々…器用に片手で本を手に持ったままページを捲る慎二、ニュースの報道番組に釘付けになっているメデューサ、メインであるビーフストロガノフの仕上げにかかっている桜へと順番に目を向ける。そしてこの場にいない光太郎を含め、全員がそのようなことを気にせず受け入れてくれる心優しい人々であると重々承知している。

 

 

だからこそ、自分は早く消えなければならない。

 

 

ずっと聞こえてくる『声』がさらに大きくならないうちに。

 

 

 

 

 

―――お前はいるべき場所は、そのような場所ではない

 

 

 

 

 

―――お前がいるべき、相応しい場所は―――…

 

 

 

 

 

―――この私の――として…

 

 

 

 

 

診療所で目覚める直前と、メデューサから光太郎がいかなる人物であるかを聞いた直後からそう自分に投げかける、自分の耳にしか聞こえない悍ましい声。

 

様子を窺っている慎二にそれだけは悟られぬよう隠しているが抑えれば抑え込む程、声は強くなっていた。

 

声の主は誰なのかはわからない。

 

自分に関係する者が囁いているのか、それとも自分自身の内なる声なのか…

 

どちらにしろ自分のような危険人物は彼らと共にいるべきではないと考えた青年は何かしらの隙…一人きりになる状況となった時、この家を抜け出す決意を固める。庭を見てみたいとでも言えば警戒されることはないだろう。

 

光太郎は記憶が戻るまで家にいればいいと言ってくれたが自分が何者であるか思い出すことは家を離れた後でも遅くはない。

 

光太郎へ感謝を述べずに去るのは心残りとなるが、意を決した青年は立ち上がろうとしたその時だった。

 

 

 

 

 

慎二はパタンと本を閉じ、メデューサはテレビをリモコンで電源を落とし、桜に至っては調理作業を全て中断し、刻んだ野菜にラップを張っている。

 

3人が全く同じタイミングで中断したことに青年はもしや自分の行動が見抜かれたかと冷や汗を流すが、当の3人は互いに目配りすると別々に動き始めた。

 

桜は駆け足で自室に向かい、慎二とメデューサは何やら話しこんでいるようだが事情が呑み込めない青年は恐る恐る慎二へと尋ねてみる。

 

「その…何かあったのか?」

「…30分たった」

「え…?」

 

ソファーの底から縦長のケースを取り出しつつ、階段を3つほど飛び越えた返答に困惑する青年にメデューサの補足が入る。彼女の表情に先程の優しい微笑みはない。

 

「…光太郎が本日向かったのは近所のスーパーです。いつもなら御用達の商店街を利用するところですが夕食に合わせてそちらへと向かったのでしょう。光太郎がバイクを使用しスーパーまで到着するまで7分。御米を見つけ、その他の購入物を探した時間を加えても10分。そして帰宅するまでに7分…つまり光太郎が外出し戻ってくるまでは24分前後でなければばりません」

 

補足というより光太郎の観察記録を聞かされている青年の頬に汗が流れる。

 

「…光太郎はどこかに寄り道する場合は必ず遅れるって連絡を入れる。馬鹿みたいにきっちりね…その連絡なしに遅くなるってことは何かに巻き込まれた可能性が高い」

「なっ!?」

 

ケースから応急処置で溶接されたライフル銃を取り出す慎二からの言葉に幾らなんでも極端ではないかと口から出かかった青年だったが、すぐに押し黙る。

 

心配性と言っても過言ではない対応ではあるが、彼等にとってはもう『当たり前』となっている一面なのかも知れない。

 

 

(あの者は、常に危険と隣り合わせということなのか。そして、彼等もまた…)

 

青年にはあどけない笑顔しか向けることのない光太郎と家族である慎二達が日頃対峙しているものとは、一体なんなのか。その疑問は数刻後に判明することとなる。

 

 

 

「お待たせしました」

 

背中まで届く黒髪を頭頂部でまとめた桜の姿はジーンズにライダースジャケットを身に付けた彼女なりの戦闘衣であり、袖から見える手首には亀裂の走った赤い手甲が装着されていた。

 

 

「姉さん…光太郎兄さんは?」

「聖杯戦争時ほど強くは感じられませんが…恐らく、『変身』しています。そして、力が徐々に弱まっているようで…」

「ちぇっ…今日は静かに終わると思ったのにさ」

 

転生してからも光太郎とはキングストーンの力により繋がりのあるメデューサの分析に愚痴を零した慎二はケースを肩にかけ、他の2人と共に玄関へと向かう。何かを思い出したかのように振り向くと、青年に向けて告げるのであった。

 

「悪いけど、夕食ちょっと待ってて貰える?なるべく早く済ませてくるから」

「後は盛り付けるだけですから、光太郎兄さんと帰ってから一緒に食べましょうね!」

 

少年に続き笑顔で話す少女はまるで近所で用事を済ませてくるような、気軽が声であった。

 

「それでは、行ってまいります」

 

最後に会釈したメデューサと共に、3人は今度こそ外へと向かっていく。窓から見ると、青年が気が付かぬ間に2台のバイクが停車しており玄関の前でエンジンを吹かしていた。青いバッタのようなバイクには慎二が、赤と白のオンロードバイクに桜が搭乗。

そしてメデューサの身体から紫色の力がユラユラと立ち昇ると彼女が纏っていた衣服が変貌。すらりとした手足を大胆に露出した戦闘装束の姿となったメデューサが地を蹴り、電柱や民家の屋根を足場にして移動を開始したと同時に慎二と桜もバイクを急発進させ、後を追うのであった。

 

 

 

 

「…………………………」

 

今、間桐邸にはただ1人しかいない。青年が望んでいた展開通り、このまま光太郎達の帰りなどまたず、家からいなくなればいい。そうすれば、彼等が迷惑を被ることはなく消えることができる。

 

だが、青年は慎二達が戻らぬ長兄達の元へ向かう前に聞こえたある単語が耳から離れなかった。

 

 

 

「変…身…」

 

思わず自分の口に出した途端に、響く頭痛。

 

 

知っている。

 

 

その言葉を、青年はよく知っている。

 

 

だが、完全に思い出すには至らない。

 

 

しかしきっかけとしては十分だったのだろう。その証拠に頭に響く今の自分を否定する声はさらに強くなっている。そしてノイズ混じりに浮かぶ様々な風景。確実に、徐々に、彼は思い出そうとしている。自分が何者であるかを。

 

 

(だからこそ、長居は無用だ)

 

 

そのイメージの中で一番多かったのは、斬り捨てた記憶。数え切れない、多くの者を自分は手に掛けた。手に馴染み過ぎた感覚が段々と蘇ってくる。なおさら、自分はあの者達といるべきではない。

 

 

青年は額を抑えながら玄関の扉を開け、外へと向かう。

 

 

門を飛び越えた青年は、短時間とはいえ滞在した洋風の屋敷を見上げる。最初こそその年季の入った造りに恐れ入るものがあったが、あの者達が帰るべき温かい印象が残る場所へと見方が変わった。

 

もう、自分が敷居を跨ぐことはないだろう。

 

青年は視界に間桐邸が映らないようにして、駈け出して行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「くぅ…ぐッ!!」

 

苦悶の声を上げる光太郎は現在、手術台の上に手足を厚さ15センチは超えているであろう金具で束縛されている。その程度であれば光太郎はキングストーンに頼らなくとも引き千切ることは可能であるが、問題は彼が浴び続けている光に原因があった。

 

(まさか、あの時と同じものだなんて…)

 

 

 

スーパーに突如出現した怪人と対峙した光太郎は仮面ライダーへ変身。暴れながら食品を貪り食う怪人を建物の外へと追い出し、被害の及ばない広場へと怪人を追い詰めた。

 

今考えてみれば、それ自体が罠だったかも知れない。

 

怪人は未だ身体が成熟しきっていない為か、光太郎が牽制で打ち出した攻撃でもがき苦しんでいた様子であり、好機と踏んだ光太郎は一撃で決着をつけるべく、両手を左右に広げ、拳をベルトの前で重ねた時であった。

 

空中を浮遊する小型の機械が光太郎の四方、八方と現れ一斉にビームを照射。

 

光太郎の力が抜けてしまい、キングストーンの力も弱まる結果となってしまった。

 

 

光太郎が浴びた光はかつて暗黒結社ゴルゴムがキングストーンの力を封じる為に開発した兵器。慎二と桜によって不発に終わるものの密かに回収され修復したものをクライシスが強奪、光太郎が初めて闘った際に使用されたものをさらに強化したようだ。

 

 

膝を付いた光太郎に怪人は爬虫類特有の目を鋭くつり上げ、光太郎へ反撃を開始。手出しできない光太郎はダメージを抑えるために、攻撃を受ける際に咄嗟に防御するか、受け身を取ることしかできないでいた。

 

 

このままじゃ慎二君達に叱られるなぁ、などと怪人の攻撃を受けながらも呑気なことを考えていた矢先に新たな敵が現れる。

 

『シャアアァァァァ…』

 

威嚇とも受け取れる声を震わせて現れたのは、同種の怪人が2体。ただし、色が青・赤と異なっており、身体も一回り大きい。これは覚悟を決めなければと震える膝を叩き、立ち上がった光太郎へ怪人2体は攻撃することはなく、なぜか光太郎を抱きかかえて何処かへ移動を開始する。

 

 

そしてたどり着いた場所は……

 

 

 

 

(縁が有り過ぎるな…)

 

 

 

10年程前、幼い慎二と殺人鬼に遭遇し、半年程前に慎二と桜を誘拐したゴルゴムの剣聖ビルゲニアが拠点として使われた廃工場。その中央に設置された手術台に現在、光太郎は拘束されて機能停止ビームを受け続けている。ご丁寧に日の光が入ってこないように窓には全て暗幕が敷いてある辺り対策は万全のようだ。

 

光太郎が苦しむ光景を愉快そうに飛び跳ねて眺めている小柄の異形は背後に自分へ襲い掛かった怪人と洗脳したゴルゴムの怪人素体、雑兵のチャップ達を従え、歪な口をさらに歪めて耳元でワザとらしく大声で叫んでくる。

 

 

「どうだどうだ今の気分はッ?このゲドリアン様にかかればお前を倒すことなんてお茶の子さいさいなのだッ!!」

 

なぜ日本の俗謡が由来である言葉を知っているのかというのは兎も角、確かにしてやられてしまった。同じ目に合うなど油断以外の何物でもない。どうにかこの場を何とかしなけばと両手に力を込めるが、思うように動かない。

 

だが、光太郎は気が付かなかったが、彼がどうにか動かそうと手足に力を込めている時点で、ゲドリアンは内心で焦り始めていた。

 

 

(ウソだろ…なんで『動ける』んだよ)

 

 

そう、以前ならば一度ビームを浴びてしまえば指一つ動かせない状態に陥っていたはずなのに、現在の光太郎は強化されたビームを浴び続けながらも脱出しようと手足に力を込め続けている。RXとなったことで力を得たのか、それともこの短期間で機能停止ビームに対する免疫が上がっているのか…いずれにせよ、この男はこの場で始末しなければならない。

 

 

「よしお前らッ!要塞との映像を繋げッ!動けないこいつを処刑する俺の姿を、ジャーク将軍にお見せするのだッ!!!」

 

ゲドリアンの命令に従い、数人のチャップが通信用のカメラを肩に乗せた途端、カメラは突如炎上し驚いたチャップは逃れる為に放り投げてしまう。

 

「あぁ、ガテゾーンの部屋から黙って持ってきた機械を…お前何てことしやがるッ!?」

「それはこちらの台詞ですっ!!」

「さ…桜ちゃん…?」

 

ガテゾーンが聞けば無言で銃口を向けかねない発言をするゲドリアンはチャップを張り倒そうとしたが工場の入り口からカメラを仕留め、自分に向かい怒号を浴びせた存在の方へと目を向ける。

 

光太郎に名を呼ばれ、カメラを炎上させた犯人である少女は新たに矢を番え、狙いをゲドリアンへと定める。その背後にはライフル銃に弾丸を装填する少年と、鎖を握りしめる長身の女性が控えていた。

 

「なんだお前らはッ!」

「そこでおねんねしてる愚兄の身内だ」

「客人を待たせていますので、早々にお引き取り願います」

 

 

堂々と光太郎の家族である事と彼を解放しろと宣言した慎二とメデューサ達の顔を見て、はてどこかで見覚えがあると顎に手を当てるゲドリアンはああと思い出し、ケタケタと嫌らしく笑う。

 

「ケケケ…誰かと思えばRXのオマケに元サーヴァントじゃねぇか?わざわざ死ににきたってかぁッ?」

 

腹を抱えて嘲笑うゲドリアンだが、突如工場内に響く銃声と共に、上半身を大きく仰け反ってしまう。何事かと慌てるチャップ達が見たのは、煙を吹くライフル銃をゲドリアンに向けていた慎二。慎二はゲドリアンが笑い終えたその直後に銃を構え、躊躇なく引き金を引いたのであった。

 

弾丸は外れることなくゲドリアンの頭部に向けて放たれ、慎二の狙い通りならあの薄汚い口を貫通したはずだが…

 

「…残念だったなぁ小僧」

 

仰け反っていた上半身をゆっくりと戻したゲドリアンの口部の周りある左右の牙が伸び、煙を上げる弾丸を受け止めていた。顎の奥にある口をニヤリと歪めるゲドリアンを見た慎二はライフル銃を肩に乗せると特に悔しがる様子もなく不意打ちを凌いだ敵へと称賛を送る。

 

「へぇ…流石は敵の幹部さん。早打ちの練習散々したんだけどなぁ」

「ケケケッ!残念ながら俺様にこんな小さい玉じゃ―――」

 

ゲドリアンが上機嫌に笑っていたのもつかの間。牙で摘まんでいた弾丸が突如光を放った直後に爆発を起こす。

 

「ぐ…ギャオオォォォォォぉッ!!」

 

両手で顎を抑えるゲドリアンは余りの痛みにのた打ち回り、フーフーと息を乱して再び慎二を睨んだ。先程とは立場が逆となり、慎二の方が得意げの表情を浮かべ、ゲドリアンの口元で爆発した弾丸と同じものを指で弄んでいる。

 

「さっすが若奥様お手製だよ。時間差で爆発するなんて、えげつないねぇ…」

 

してやったりとすまし顔の慎二ではあるが、内心ではゲドリアンの発言に激しい怒りを抱いていた。光太郎をあのように痛めつけていることは勿論だが、自分達を光太郎のオマケ扱いしたことだけは絶対に許さない。それは隣に立つ桜とメデューサも同意しているようであり、手に持っている得物を握る手に力が籠っている。

 

ヨロヨロと立ち上がるゲドリアンは黒ずみとなった口を押えながら控えていたチャップと素体達へと命令する。たかが地球人如きにクライシス帝国の牙隊長である自分がコケにされるなどゆるされないのだ。

 

「も、もう勘弁ならねぇッ!やっちまえ野郎どもッ!!!」

 

ゲドリアンの命令で一斉に走り出すチャップと素体達。新たな弾丸を装填した慎二に続き、桜・メデューサも戦闘態勢に入った。

 

 

 

 

 

 

彼等が戦いを始め時、壁一枚を隔てて敷地内の様子を伺っている者がいた。

 

 

(状況は、あまりよくないな)

 

 

青年は間桐邸を出て、もう関わることはないと決意したはずだった。

 

しかし、家から離れれば離れる程、頭に響く謎の声すら霞むほどに彼等の存在が大きくなってしまっていた。

 

気が付けば青年は慎二達が向かった方角へと身体を向け、無我夢中に走り始めていた。

 

そして辿りついた廃工場…偶然にしては出来過ぎているが今は感謝するしかない。

 

見張りのチャップ数体は先に潜入したメデューサ達によって既に倒されており、彼らの持つ棍棒を拝借して足音を立てぬように移動。ついには敵との戦いを始めた慎二達を発見する。

 

 

戦闘に関しては、見事としか言いようがない。

 

慎二の攻撃は遠距離からの精密射撃のみと判断したゲドリアンはチャップや素体達に接近戦をしかけるよう指示を送るが、慎二は敵が刃物で切りかかると銃身を両手で持ち、チャップの顔面へ銃床を叩き込んだ。銃を鈍器替わりにするという危険極まりないが、だからこそ相手も見抜けない戦法なのだろう。

 

桜は離れた相手は爆発する術式が組み込まれた矢を。接近した相手には青年も身をもって知った掌底や蹴りを繰り出す等、安定した闘法で敵を退けている。

 

メデューサは2人と比べ身体能力が高く雑兵如きでは敵わないと踏んだゲドリアンの指示でトカゲのような怪人を相手にしている。

 

 

青年は当初、光太郎の救出を第一にした行動を取ると予測していたが彼等の力はそれを上回っている。

 

 

だが、青年はこのままでは目的を果たせないと結論付けていた。メデューサが相手をしているのは他の個体と比べると小さい1体のみであり、他の色違いは立ち位置を変えず、ゲドリアンの背後へと立っていた。加えて、口元が黒いままのゲドリアンは敵が乱入したというのに慌てる様子もなく静観している。

それどころか、自分の部下が次々と倒されている光景を目の当たりにして笑っているのだ。

 

(あの余裕な態度。何かをまだ隠し持っているという事か)

 

分析する青年はゲドリアンの後方で手術台で拘束されながらも3人の戦いをもどかしく見つめる黒い戦士へと視線を向ける。

 

(彼…なのか)

 

戦士から聞こえた声と慎二が光太郎と呼ぶことから間違いはないだろう。経緯は分からないが光太郎は姿を変えることができる特異な人物だったようだ。しかし、青年は光太郎が変身できるという事実より、現在の光太郎の姿…仮面ライダーBLACKを見てさらに頭痛が酷くなっていた。

 

(…あの言葉を聞いた時よりもさらに強くなっている。やはり、俺は知っているのか、彼を…いや、あの姿を)

 

 

 

 

 

 

「ケケケ…やるもんだな」

 

未だ戦闘中であるメデューサを除き、慎二と桜は大半のチャップと素体を地に沈め、警戒を解くことなくゲドリアンへと武器を構える。拘束された光太郎はゲドリアンの後方。近づいて助けるには容易ではないが、手段がない訳ではない。懐に忍ばせた閃光弾やそれ以外に隙を作り、怯んだ際に3人の中で俊敏性に長けるメデューサが光太郎を解放する…

敢えて全力で戦わず、怪人へ牽制を続けるメデューサへの合図は慎二がゲドリアンを挑発し、激高した直後。相手を怒らせることには秀でている慎二に取っては造作もない十八番であるが、さぁどう言い負かすかと出方を伺った時、慎二の足元に突如として液体が落下する。

 

漏水や雨水などではない、ヌメリと嫌悪感が走るそれは、生物の唾液。

 

「…ッ!?」

 

まさかと思い天井を見上げた慎二の視界に映ったのは、天井を覆い尽くすほどに張り付き、鉄骨にぶら下がっているトカゲの怪人の大軍だった。見る限り、メデューサと戦っている怪人の幼体なのだろうと判断する慎二にゲドリアンの大声が届く。

 

 

「ヒャアーハハハハハハッ!!ようやく気が付きやがったか…さぁ、キュルキュルテンども、やっちまえッ!!」

 

 

『シャアアアアアアアアアアッ!!』

 

 

ゲドリアンの言葉に従い、一斉に飛び降りたトカゲの怪人は着地と同時に慎二と桜へ向かっていく。

 

 

 

怪魔異生獣キュルキュルテン

 

流星に偽造して地球へ降下させた多量の卵を地球人の体内に植え付け、寄生させ意のままに操りクライシス帝国の労働力として利用することが本来の計画であった。

 

しかし、地球では孵化に必要な温度に達していなかった為にほとんどが卵のままであり、偶然孵化し成熟した2体によって卵を回収。廃工場で放棄されていた巨大な容器の中で温めることで次々と孵化させる事に成功した。

だがその容器内に付着していた化学物質が原因で孵化したキュルキュルテンは本来の半分にも満たない大きさである幼体のままであった。

 

成熟した2体には及ばないが、人間を追い詰めるには十分であった。

 

 

 

「きゃあッ!?」

 

素早く動く複数の敵に狙いが定まらず、迷った桜の背中に走る痛み。身体を丸めたキュルキュルテンの幼体が体当たりを受けてしまった桜は武器である弓を手放してしまい、とっさに手甲に魔力を込めてようとしたがキュルキュルテンの方が早く動いてしまった。

 

桜を囲うキュルキュルテンの幼体達は大きく口を開くと泡を吐き出し、その泡を浴びせていく。

 

「うッ…なんですがこ…れ…」

 

身体に付着した泡を取り除く為に手甲から放つ炎で蒸発させようとした桜だったが突然意識が朦朧とし、その場で倒れてしまった。

 

「さ、さく…ら」

 

桜同様に敵の泡を浴びてしまった慎二はライフル銃を杖代わりにして倒れることをは無かったが呼吸が荒くなり、自分の体温が急激に上がっていくように感じ、倒れた桜の顔が赤くなっている様子を見て敵の能力を見抜く。

 

「あの、怪人の泡は…人に高熱を出させるのか…よ…」

 

「シンジッ!サクラッ!」

 

ついに床へ伏してしまった慎二と桜の姿を見たメデューサは相手をしていたキュルキュルテンを蹴り飛ばし、救出に向かおうとその場を跳躍する。しかし―――

 

「なっ!?」

 

「「シャアアアアアアァァァァァッ!!!」」

 

今までゲドリアンの背後で控えていたキュルキュルテン2体は既にメデューサの背後におり、彼女にしがみ付きそのまま落下すると組み伏せてしまう。振り切ろうと懸命に身体を捩るがキュルキュルテンもよりメデューサを拘束する力を強め、抜け出さない。現れた曲者を片付き、上機嫌となったゲドリアンは自分の家族が次々と倒れていく姿を見せつけられた光太郎に対し、高笑いを放っていた。

 

 

「ギャハハハハハハハハッ!!どうだどうだRXッ?貴様を助けに来た連中は全員潰れたぞ!それにあの小僧と小娘はあと何分持つのかねぇ…」

 

「き…様ァッ!!」

 

怒りの衝動を抑えるつもりもない光太郎の手首を固定していた金具に亀裂が走っていく。それを見たゲドリアンは慌てて手元にあるコントローラーを操作し、光太郎に向けて放たれている機能停止ビームの出力を更に強めた。

 

「が、アアァァァァァッ!」

「お、驚かせやがって…だが安心しろよ。アイツらの前にまずお前を処刑してくれるッ!!」

「こ、光太郎ッ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

「いかん、あのままでは…っ!」

 

光太郎の姿を見て痛む頭も、自身の正体など全ては後回しだ。悲鳴を上げる光太郎に迫るゲドリアンの鋭い爪。

 

彼等を助ける。

 

それだけのために駆け出そうとした、その時だった。

 

 

 

 

 

「な、なんだ…?」

 

 

 

全てが静止している。

 

 

 

高熱に苦しみながらも義兄に迫る凶刃に向かい叫ぶ慎二と桜も、どうにか拘束を逃れた片手を必死に光太郎へと伸ばすメデューサも、主の機嫌に合わせ、飛び跳ねているキュルキュルテンの幼体も。

 

身動きできない光太郎の横まで移動し、上を見上げて笑うゲドリアンも。

 

まるで時間がとまってしまったかのように、動かなくなっている。

 

 

青年がおかしいと思ったのはそれだけではない。なぜ、自分が動けるのだろうか?

 

 

 

 

 

 

 

「どうするつもりだい?今の君には何の力もないというのに」

 

 

 

 

 

 

 

その疑問に答えられる人物の声が青年の背後から響く。

 

 

 

急ぎ振り返った青年の前にいたのは、男だった。

 

どこか人を食ったような表情を浮かべ、微笑みを絶やさないまま歩み寄ってくる男に対して青年は警戒しつつ、相手が何者であるかを尋ねてみる。

 

 

「誰だ、お前は…」

「僕かい?なに、通りすがりのトレジャーハンターさ」

「この現象は、お前によるものか?」

「中々冴えているじゃないか。そう受け取ってもらっても構わないよ」

 

曖昧な回答に敵として認識し、青年は握った棍棒を突出し、青年の喉元へと触れる。少しでも力を込めれば喉を潰すことが出来るというのに、男の態度は崩れない。

 

「まぁ落ち着きたまえ。僕は君の敵ではないさ」

「…何を根拠に、そんなことを言える?」

「証拠を見せればいいのかい?なら簡単だ」

 

 

 

 

 

 

 

「君の失った『お宝』を見せればいいのだろう?」

 

 

 

 

 

 

自分の…宝?

 

訳のわからない言葉に目を細める青年の反応にニヤリと笑う男は棍棒をゆっくりと払う。青年も特に抗うことなく手を下ろすがトレジャーハンターを名乗る男に気を許した訳ではない。

さっさと要件を聞き、光太郎達を助けに行かなければならないのだ。

 

 

「宝とは、何のことだ?こちらも時間がない。さっさと話してもらおう」

「…へぇ。話に聞いていたのとはずいぶん違うな。まぁ、当然と言えば当然か」

「なんの事だ?」

「あぁ、こちらの話さ。でもその前に君は君である事を思い出さなければならないね」

 

表情を崩さない男がいつの間にか手に取っていたのは、派手な装飾が施され、銃口部分が異様に大きい銃だった。

 

男が武器を取り出したことで一歩下がり、両手で棍棒を構える青年だが、男は銃の引き金に指をかけてクルクルと回し、懐から一枚のカードを取り出す。

 

「落ち着きたまえ。これは君を傷つける為に使うものではないよ。しかし…」

 

ピタリと止めた銃の側面にカードを差し込み、スライドさせると銃身にバーコードのような紋章が現れ、電子音声が発せられる。

 

 

『ATTACK-RIDE』

 

 

『REMIND』

 

 

 

「痛みが一瞬、あるかもね」

 

訳の分からない言葉を男が放った直後、銃口を上空に向けてトリガーを引く。

 

銃から放たれたエネルギーが上昇し、突如軌道を変えて青年へと降り注ぐ。

 

 

「グッ!?」

 

両手を交差して防御をするがエネルギーは青年の全身を覆い、その力を記憶の底へと浸透していく。

 

まるで狂った歯車を噛みあわせるために、パズルの失ったピースをはめ込んでいくように、青年の記憶にあるノイズ全てを除去するかのような効果をもたらした。

 

「こ、これは…」

「さぁ、思い出すがいい」

 

 

「自分が何者で、どのような事をしてきたのかを」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

青年は全てを思い出した。

 

光太郎達に出会う前。いや、怪魔界でワールドに発見され、治療を受ける前に、自分は何者であったのかを。そして、自分の目的の為にどれ程の命を散らし、光太郎と『似た者』達を利用してきたのかを。

 

 

「…………………」

 

カランと、手にした棍棒が落ちる音が異様に大きく聞こえた。

 

「どうだい?全てを思い出した感想は?」

「…最悪だ」

「だろうね。君の意思はなかったとしても、君自身が起こしたことだ」

 

青年に対して、男は容赦ない言葉を浴びせる。先ほどまでにからかうような感情が籠っておらず、だからと言って青年を責めるような刺もなかった。ただ、青年の過去に対して自分の感想を述べたにすぎないのだろう。

 

そして立ち尽くす事数秒。青年は男を背に向けるとしっかりとした足取りで光太郎達の元へ向かっていく。

 

「…早く時間を動かせ。俺にはしなければならないことがある」

「聞かせてもらえるかい?それは何なのか」

「決まっている。彼等を助けることだ」

 

男は再びからかうような笑みを浮かべ、青年に問いかける。

 

 

「もしや、彼等を助けたことで自分のやったことが帳消しになるとでも考えたのかい?」

「今更そんなことで消えるなど都合よく思っていない。俺が、そうすべきと考えているからだ」

 

青年の声には過去に犯した罪で自分を責めているような、弱々しさを感じない。だが、男は青年が直ぐにでも光太郎達を救出に向かうことにそれだけは納得が出来なかった。

 

「なら、その理由を聞かせてくれないかな。君を助けた事への恩か?それとも、助けた後に何かを要求するつもりか?」

「…お前は知らないようだな」

 

 

 

 

 

 

 

「誰かを助けることに、理由など必要ない」

 

 

 

 

 

 

振り向いた青年の表情には迷いは一切ない。青年の回答に面食らった男だったが、直後にからかうわけでもなく、優しく微笑えんだ。

 

 

「…過去に苛まれるよりも今目の前にいる者を守る、か。そんな考えは嫌いじゃない」

 

 

頷いた男は再度何処からともなく取り出したアルミ製のアタッシュケースを手に取ると青年へと放り投げた。

 

「受け取りたまえ」

「…なんだ、これは?」

 

両手で受け取った青年はアタッシュケースのロックを解除し、ゆっくりと開いていく。そこにあったのは…自分との因縁深い2つの道具。

 

 

 

「さっき言った君の世界で手に入れたお宝さ。しかし、どうやら僕の手元にあるよりも、君が持つことに価値があるようだ」

「お前…」

「ただし注意したまえ。ご覧の通りの状態だから使用できるのは、あと一回が限度だろう」

 

注意を促した男は人差し指で青年を差し、まるで銃を撃つような仕草をすると踵を返して去っていく。

 

 

「…感謝する」

 

青年の言葉が聞こえたのか、片手を上げて歩んでいく青年の前方に灰色のオーロラが出現。男がオーロラを潜ると同時に、消失したのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「慎二…くん。桜ちゃん…」

 

(こ、こいつ…出力を10倍にしたってのに、まだ変身が解けない上に動こうとしてやがる)

 

 

追い詰めているにも関わらず戦慄が止まないゲドリアンであるが、あと一撃を加えるだけでこいつは死ぬ。キングストーンも防御に使うエネルギーも回せないはずだ。

 

右手の爪を伸ばし、いざ串刺しにしようと腕を振り上げる途中、更なる乱入者が現れてしまった。

 

 

「まてッ!!」

 

 

その声にゲドリアンやキュルキュルテンだけでなく、高熱で苦しむ慎二や桜、そして光線を浴び続ける光太郎も顔を向けた。

 

「あ、あんた…!」

「どうしてここに…?」

「……………」

 

無言で歩み続ける青年をキュルキュルテンの幼体複数が囲うが、青年に慌てる様子はない。ゲドリアンは先程慎二にしてやられた教訓から容赦なく攻撃するように命令したようだ。

 

 

「誰だが知らんが、命知らずな奴!さっさとくたばるがいい!!」

 

 

どうやらダメージを受けている慎二や桜よりこちらを優先して倒す事に専念してくれているようだ。

 

彼等を囲っていた幼体が次々とこちらへと集い、八方塞がりとなっている。

 

だが、不思議と落ち着いている。

 

まるで、あの時のような状況だと、青年はゆっくりと息を吐くと先ほど受け取ったものの一つを下腹部へと当てる。同時に右端からベルトが飛び出し、青年の腰を一周して左端へ接続・固定される。

 

 

「あ、あれは…」

 

青年が装着した装飾品…形は違えど彼女が良く知っているものと似ている…いや、近いものかもしれない。そして青年は右手にもった『それ』をゆっくりと掲げていく。

 

『それ』を使うことで再び自分を失う可能性もある。そして、再びあのようなことを繰り返すことも…

 

だが、青年は決めた。過去のような過ちを犯さない。その為に強い心を持つと。

 

光太郎達が教えてくれた、ただ誰かを助けるためだけに。

 

 

 

 

(もう二度と、俺は『俺』に負けんッ!!)

 

 

 

決意と共に、青年はその言葉を轟かせた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「変身ッ!!」

 

 

 

 

 

 

『ブラッドオレンジ!』

 

 

 

 

 

青年が叫ぶと同時に手にした傷だらけの錠前…中央に黒い斑模様の走った真紅の果実が装飾れた『ロックシード』を開錠したと同時に青年の真上に突如として現れたファスナーが円を描くように空を切り裂き、ペラりと捲れてしまう。

裂かれた空間は工場とは異う場所なのか、暗い空と植物に囲われいる。

 

そして空間の隙間からゆっくりと降下する錠前の柄と同じく血のように紅い球体…

 

 

 

誰もが目を奪われる現象の中、青年だけは行程を進めていた。

 

 

 

ベルトの中央にある窪みへと錠前をはめ込み、上から錠を押し込むと力強く爪弾かれたギター音が周囲へと響く。

 

 

青年はベルトの右側に着けられた小刀のような装飾…カッティングブレードを握り、振り下ろすことでロックシードが展開、キャスパレットが現れたことで紅い球体は急降下。

 

青年の頭に被さってしまう。

 

 

 

 

 

余りにもシュールな光景に敵も味方も茫然とするが、それだけでは終わらない。

 

球体から流れるエネルギーが青年を紺色のアンダースーツ・ライドウェアで包むと球体は前後、左右と四方へとゆっくりと展開。青年の背中、両肩、胸を守る鎧と化し、その中から現れた三日月形の角飾りを持つ鎧武者のようなヘッドギア。

単眼である複眼は赤く、黒い模様が走っていた。

 

 

果汁のようなエネルギーが飛び散り、腰には長刀。右手には果物の断面のような刃を持つ短刀を握った青年の周囲にヒラリヒラリと紅い花弁が舞い落ちる。

 

 

 

 

 

 

 

『ブラットオレンジアームズ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

『  邪  ノ  道  オ  ン  ス  テ  ー  ジ  ! 』

 

 

 

 

電子音声が鳴り響く中、青年は散る花弁の中で変身を遂げた自身の名を告げるのであった。

 

 

 

 

「武神鎧武、推して参る!!」




はい、正解は中の人が霞さんと同じこの方でしたー
…やっちまった感がハンパない。
原作映画の終盤ではブラットオレンジロックシードはミッチの手の中で無傷の状態でしたが、その点はパラレルということでご勘弁を…

やってみたかったのはてつを氏ライダーと小山氏ライダーが並び立つことだったので…

そして特別ゲストの通りすがりの御方。また出番はあるかな…

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