Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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お久しぶりです。3月末に向けて色々と事が起きてしまいますねーもう…
FGOで突然の藤乃さん実装とか不意打ち過ぎる…

では、106話です!


第106話

106

 

 

月影信彦の登場に遠野志貴は息を飲む。いや、志貴だけでなくアルクェイド・ブリュンスタッドもシエルも。彼がこの公園に現れることには特段驚きはない。志貴達が反応したのは、信彦の状態だ。

 

普段から纏っている黒を統一とした服装…特に黒いコートがあちこちと破け、よく見れば血に染まっている。血の跡は衣服だけに留まらず、信彦の手首、そして左頬は赤黒く、皮膚が丸々と剥がされたかのような損傷だ。

今すぐにでも治療をしなければならない程に痛々しい姿だと言うのに、信彦はまるで痛がる様子を見せない。

それどころか今の彼は変身せずとも敵を射殺す程の殺気を放っている。彼が放つ殺気に圧倒されないのは、姉であった山瀬舞子の無残な姿にただ泣くことしか出来ない山瀬明美と、巨大な鎌を肩に担ぐ仮面の男だけだった。

 

 

「さて、なぜお前は動けるのか。お前はワタシがこのハルペーで全身に傷を負わせたはず。動けるはずが…」

 

「ハルペー…まさか、不死殺しのッ!?」

 

 

男の声に反応したシエルは驚きのあまりに声をあげてしまい、混沌の後継者となろうとする山瀬舞子がなぜ傷をいやす事が出来なかったのか納得する。確かにかのペルセウスがゴルゴンの怪物を倒した鎌ならば自然以外の治癒を妨げてしまうだろう。

しかし、それではなぜ全身を切り刻まれたという信彦が立っていられるのか?

シエルの視線が信彦の背中へと向けられた時、先ほど仮面の男を吹き飛ばした緑色の光球が信彦の頭上へと戻り、さらに3色の光へと分裂。

 

「あれは…?」

 

やがて3つの光は信彦の前に降り立ち、四足の獣…狼へと姿を変えた。それぞれ青、赤、紫色の毛色を持つ狼たちは犬歯をむき出しにし、信彦が敵対する男に対して今にも跳びかかろうと喉を唸らせる。そして、みれば3匹とも美しい毛並みとは裏腹に赤黒く染まった口元をみて、男は合点がいく。

なぜ、この場に信彦が現れる事ができたのかを。

 

 

「なるほど。随分と乱暴な手段を取るのだな」

 

「…………………」

 

 

 

1人納得する様子の男の発言に、志貴達は息を飲む。特に志貴は信彦の取った行動に思わず吐き気すら催してしまった。

 

 

 

「お前、その狼どもにワタシの付けた傷を喰い千切ぎらせ、傷そのものをなくしたな?」

 

 

 

 

本来ならば一度傷ついた傷は塞がらず、止血すらできずに全身から血を流し死ぬはずであった。だが、信彦は体内に宿る天・地・海の力を司る狼たちを顕現させ、男の言うように自身の身体に付いた傷を食い千切るように命令した。無論、反対の意思を見せる狼たちであったが信彦の再三に渡る怒号により、主人の血を味わう事になってしまう。

ハルペーによってつけられた傷は薄皮一枚などに留まらず血管や神経、下手をすれば骨にまで達するものもあった。

命令に従いつつも自分を思い、反対した狼たちに躊躇させぬよう自身の血肉が飛び散る中、悲鳴一つ上げない信彦。そして狼が噛み切り、ハルペーによる傷がなくなった一部をキングストーンの力を注ぎ、再生を開始する。だが、損傷した肉体組織の増殖させ、一から作り直す事は安易でなく、再生する間も出血と痛みが全身を走り信彦は滝のような汗を流す。

それでも、信彦は耐え続けた。

 

こんな事で、最期を迎える訳にはいかないと。そしてこのような目に合わせた者に、相応の報復をしなければならないと。

 

 

 

 

 

 

 

「なんて無茶を…では、あの傷は…」

 

かつて吸血鬼ロアであったシエルは頭や心臓を射抜かれようが死ぬことのない身体であったが、当然痛みはある。信彦の身体を見れば確かに動けるようになってはいるようだが、頬を見れば完全に再生しきれておらず、筋肉を覆う皮膚すらまだ満足に生成されないため血液が滴り落ちている。

それは、手足。または胴体も同じなのだろう。

やせ我慢などでは済まされない想像を絶するような痛みに耐え、あの男は…月影信彦は立っているのだから。

 

 

 

「敵ながら見上げたものだ。そこまでして立ち上がり、ワタシの前に現れるなど」

 

「……………………」

 

「その熱意を評して一度だけチャンスを与える」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これからそこにいる少年と少女を殺すのだが、邪魔しなければこの場は見逃してやろう」

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あいつ何を言って…」

 

「落ち着けアルクェイド…」

 

 

男の言う少年と少女…先ほど舞子に泣きつく明美を殺そうとしたところから少女とは間違いなく明美を指しているのだろう。だが、この場に少年と呼ぶ対象は志貴1人。疑問よりも先に志貴の命を狙うという宣言に怒りを覚えるアルクェイドだが、敵がなぜ自分を狙うのか知る為に今にも飛び掛からんとする彼女を抑えた。

 

 

「…なぜ、その娘と志貴を殺す必要がある?」

 

「簡単な事だ。この街に哀しみのない平和で静かな街とするためだよ」

 

 

男の言う事に、まるで理解が追い付かない。

 

哀しみのない?

 

平和?静か?

 

 

男の行動からはまるで関連が見えない言葉に志貴たちが唖然とする中、信彦はただ黙って男の言葉を聞き続けた。

 

 

「この街へと辿り着いて一月ほど経つが…とても静かだ。人々は笑い、平和を謳歌している。だが、その裏でそんな平和を打ち壊そうとする輩が影を忍ばせていた」

 

 

「そう。魔術協会の者共だ」

 

 

男は語る。

 

 

この街に侵入した魔術師は4人。うち1人は名だたる魔術師の家で6代目となる若者であるのだが飛びぬけた才能があった訳でもなく大きな成果を出せぬまま時計塔の卒業試験が目前に迫っていた。

そこで目をつけたのが、極東の国で起きた事件だった。

以前、世界中にその名を轟かせた暗黒結社ゴルゴムの出自が日本であると聞いた魔術師は、どこかに利用できる何かが残っていないかと調査を開始した。

だがゴルゴムが滅びた後に痕跡はなく、秘密基地といった場所は全て特殊部隊によって抑えられ、何一つ掴めない状況が続く。何か、何か見つからないのかと魔術師が探し回る中、買収した聖堂教会の隠者からある死徒関連の方向書を目にする。

 

ただの人間が、2体の死徒を殺した。

 

それもうち1体が二十七祖であるネロ・カオスを滅ぼしたというのだから驚きだ。

 

魔術師は志貴の経歴を徹底的に調べた上で金で雇ったフリーランスの魔術師を従え、誘拐を計画。彼の眼球『直視の魔眼』を研究成果として発表し、あわよくば魔眼を取り入れれば自分を七光りと笑う連中の鼻を明かすことが出来る…

 

全ては自分の思うがままであると高笑いする魔術師であったが、それが人生最後の豪笑であった。

 

 

 

 

「では、魔術師4人を殺害したのは…!」

 

「ワタシで間違いないよ代行者。この平和な街を汚そうとする輩を片づけた。ただそれだけだ」

 

 

シエルの反応からして、彼女が信彦へ報告した身元不明の殺人事件に関しては、これが答えだったのだろう。男の説明では、志貴を狙った魔術師はどのような経緯かは知らないが聖堂協会との癒着があった。それを表沙汰に出来なかった為、信彦へはっきりとした説明はしなかったのだろう。

これで殺人の犯人ははっきりしたが、未だ分からないのは、なぜ志貴を殺さなければならないという事だ。

 

 

「…お前は放つ殺気とは不似合いな程他人を気遣っているようだな」

 

 

仮面から差す視線が信彦の僅かな表情の動きを捉えたのか、信彦の疑問に応えるべく語り出した。

 

常人では、まるで理解できない自らの主張を。

 

 

 

「そもそも、魔術師共がこの街に巣食ったのは、その少年がいたからだ。ならば、二度と同じ事が起きぬよう原因を絶つ事は当然ではないか?」

 

 

同意を求めるように片腕を信彦へと向ける男の発言に、空気が凍る。

 

何一つ理解できないシエルは、膝をついたまま青い顔となった志貴に視線を向けた。男の言い分は、殺されてた魔術師たちがやってきたのは、志貴がこの街で暮らしているからだとなんの根拠もない能書きに思わず反論する。

 

 

「そんな事ありません!遠野くんにそんな責任は――」

 

「ああ、そもそも吸血鬼を見つけ出し、少年が力を発揮させるような機会がこなければ良かったのだよ。そうだろう、代行者…」

 

「なっ…」

 

「それに、その少年が吸血鬼である可能性が浮かんでいた時点で殺しておけば、この街は何者にも侵されず、その混沌すら近づくことはなかっただろう…」

 

「その混沌が起こした事件、知らないとは言わせんぞ?あの未だに明かりの灯らないホテルにた関係のない人間が、何人犠牲となった?」

 

「それはっ…!」

 

 

 

砂利を握りしめる志貴の顔はさらに暗いものへと変わってしまう。男の言う一言一言が心臓を鋭い刃物で少しずつ、少しずつ削り取っていくような感覚であった。

 

男へ必死に反論するシエルの声も自分を揺さぶるアルクェイドの声も志貴には届かない。

 

 

 

(先生が言っていた…俺の眼は、何かを引き付けてしまう危ういものだって。だったら、本当に…)

 

 

自身の出生やロアへと変わり果ててしまった遠野四季に関しては、もう自分の中で決着が着いた事だった。だが、男の口から語られる魔術師や一般人に関しては、何も言えない。もし、男の言うように自分が原因でこれからも何者かが街へと侵入してしまった場合、自分の家族や関係者が巻き込まれる危険性だってある。

 

 

 

 

「そう、だらかこそ死んでもらうしかないのだよ。この街の誰もが静かに、平和に暮らすように。ワタシに光明を与えてくれた者の為にも…」

 

 

 

 

ズブズブと精神が底の無い沼へと沈みかけていく志貴の思考だったが、またも信彦によって乱暴に沼から吊り上げられてしまうのだった。

 

 

 

 

 

 

 

「高説を説いているようだが、俺が聞いたのは志貴を殺す理由だけだ。貴様の自己満足な殺戮の理由など微塵も興味はない」

 

 

 

 

バッサリと、男の述べた思考を切り払った信彦に一同は眼を丸くする。

 

 

 

「…ワタシの話を聞いていなかったのか?原因は彼に―――」

 

「ならば黙って魔術師どもに志貴を拉致させておけばいいだけの話だ。貴様が殺す必要などなく、問題は解決する」

 

 

シエルは確かにと、不謹慎ではあるが信彦の言う事の方がはるかに効率がいい。シエルにとっては絶対に認められない事ではなるが、魔術師が実験の為に異能の人間を連れ去る事で街に宿るそのものを無くすという事はそう珍しいケースではない。

殺人という『事件』すら起きない事が一番世間を欺く事ができるのだ。

 

 

「そして、貴様は言ったな。そこにいる混沌の家族に哀しみを負わせえない為に、この場で殺すと。なら志貴が死んだ場合に嘆き、悲しみ、殺した貴様に恨みを持つ者が現れた場合はどうするつもりだ」

 

「殺すさ」

 

 

信彦の質問に何の迷いもなく、男は言い切った。その声には、何の感情も込められていない。

 

 

 

「その少年には確か妹と使用人がいたな。ならば彼を殺した後に悲しまぬようすぐに後を追わせなければならい。いや、それだけでなく遠縁の者や学友も合わせて…」

 

 

「なに、言ってんだアイツは…」

 

 

先ほどとは別の意味で凍り付く志貴は、男の言動への理解が追い付かない。

 

誰かの死に人間は様々な感情を表に表す。涙を流し悲しむ者も、殺人であれば怒り狂う者だっている。あの男は、そのような感情すら認めずに殺すのだと言い切った。

 

1人が死んで4人悲しんでいたのなら4人を殺し、3人怒りを抱くのであれば3人を殺す。

 

男はこの街に男の言う『平和』が訪れるまで、殺し続ける。今もブツブツと葬る対象を次々と増やし続ける中、月影信彦は遮る為に言葉を放った。

 

 

 

「もう貴様の下らない殺戮の言い分は聞き飽きた。それに、御大層な大儀を抱えているようで私念で殺戮を起こす者が放つ言葉に、何の重みも説得力もない」

 

「…なんだと?」

 

 

 

僅かながら、男の言葉に感情が込められていると志貴は読み取れた。

これまでどこまでも冷徹に、淡々と自分やその関係者を殺し、街に平穏を齎すと言った男に、初めて何かの感情が籠っていたと感じた。

仮面の下に隠された素顔に浮かんでいるのは…『怒り』だろう。

 

 

 

「わかったような口を聞かない方が身のためだぞ?ワタシが平和を実現した暁には、もう一人と合わせて殺してやったのにな…」

 

 

静かに告げ、男は肩に担いでいた鎌を下ろし、両手で柄を強く握りしめる。どうやら問答の時間はこれまでのようだ。

 

 

口元を釣り上げた信彦は自身の体内に狼たちを戻し、纏っていたボロボロの黒いコートへと手を伸ばす。

 

 

「確か、マキュリアスと名乗っていたな。悪いが、貴様のような小悪党に殺されるほど、俺は落ちぶれていない」

 

 

小悪党。

 

 

自身に致命傷とも言える傷を負わせ、治癒が不可能である恐るべき武器を手にした相手に対し、信彦はそう啖呵を切ってコートを脱ぎ捨てた。

 

 

 

 

五指を広げた左手を前方に突き出し、右腕を腰に添えた構えから大きく両腕を左側へと振るう。

 

 

 

重心を左半身に置き、振るった左拳を脇に添え、右拳を左頬の前へと移動。

 

 

 

ギチギチと骨が軋む音が響くほどまでに握る力を開放するかのように右腕を右下へ向け空を切り、瞬時に両手を左側に向けて突き出す。

 

 

 

 

 

「変―――」

 

 

 

 

 

両手で扇を描くように左側から右側へと旋回し―――

 

 

 

 

「―――身ッ!!!」

 

 

 

 

右拳を腰に添え、左手で再度空を切るように素早く左上へと突き出した。

 

 

 

信彦の腹部にキングストーンを宿した漆黒のベルト『シャドーチャージャー』が出現。

 

 

シャドーチャージャーから漏れる光が彼をバッタ怪人・そして強化皮膚リプラス・フォースで包んだ戦士へと変化させる。

 

 

だがそれだけでは終わらない。

 

 

さらに輝きを増したシャドーチャージャーから銀と黒の装甲が出現し、信彦の全身を包んでいく。

 

 

脚部と椀部に装着された黒く鋭い爪。

 

 

銀色の胸に走る世紀王の証であるエンブレム

 

 

緑色に輝く複眼―――

 

 

 

「それが、お前の……………」

 

 

仮面の下で信彦の腹部で輝くキングストーンを眩く、そして黒い感情を湧きたてる仮面の男…マキュリアスへ信彦は名乗った。

 

 

 

「我が名は、シャドームーン」

 

 

黒と銀の装甲を纏った腕をゆっくりと上げ、マキュリアスを指差す。

 

 

「貴様を断罪する者だ」

 

 

 

 

 

 

 




次回で取りあえず決着、かな?

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