Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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お久しぶりでございます。師走なんて言葉が大嫌いになりそう…

そんな中行きました魂ネイションに展示された(恐らく)撮影用のスーツを拝んでいました…

多分年内最後の更新となる102をどうぞ!


第102話

「わからない?」

 

「ええ…」

 

 

月影信彦の質問にキングストーンの意思である碧月の答えがそれであった。

日中、シエルと外出中であった碧月を襲った謎の気配。ただ視線を浴びるだけで心臓を射抜かれたと感じる程の殺気を放った人物は、碧月と目があった途端に人の波に隠れて、去っていった。

 

「そんな熱烈な視線を浴びせたってのに碧月ちゃんの記憶にないって事は、そいつはストーカーの可能性がありますなぁ」

 

「すとーかー?」

 

「ありゃ知らない?ストーカーってのはね…」

 

「余計な話はいい。碧月、その者に見覚えはないが何故か雰囲気に覚えがある。そういう事か?」

 

「うん。曖昧な内容でゴメンなさい」

 

「構わん。お前に走った恐怖は俺と馬鹿にもダイレクトに伝わる。どれ程の恨みを持っていたか分かるぐらいにな」

 

「ちょっとー、ナチュラルに人を馬鹿と呼ぶのは失礼じゃありません?」

 

 

一筋の光しか差さない空間の中で、丸いテーブルを囲む信彦、碧月、そして馬鹿の烙印を押されたアンリマユは謎の存在について情報の共有を続ける。

 

 

ここは信彦の深層意識であり、以前に3人が意思を通わせて以降に対話が可能となっていた。唯一のデメリットとして、3人の意思が集まると信彦の肉体は意識を失い無防備となってしまう点。今現在、ホテルの一室で碧月から信彦へと戻った身体は腕を組んだまま椅子にもたれかかっているだろう。

 

しかし、肉体から魂が離れている訳ではないため、もし外敵が接近した場合でも意識を肉体へ戻す事も可能となっている。

 

 

「この街に滞在している間、俺と阿呆が表になって行動しているのがとんどだ。碧月が表になって行動は数回しかない」

 

「オマケに身体も女のそれになっちまうしなー…って、バカの次はアホってか?おいこら泣くぞ」

 

「つまり、碧月をしっている者に限定される。その姿を知る過去に聖杯戦争に参加したものか。あるいは…キングストーンを知る者なのか」

 

 

悉く無視され続けテーブルにうつ伏したアンリマユに構わず人物像を組み上げていく。10年前に勃発した第四次聖杯戦争の生き残りが碧月の『基となった姿』へ恨みを持つ者を頭に浮かべたが、ゴルゴム時代に調べた限り『聖杯となった彼女』に関係し、生存する人物は時計塔の講師しか思い当たらない。講師も彼女とは接点は薄く、恨みを抱くような関係ではなかったはずだ。

となれば、キングストーンに対して恨みを持つ者…これは正直難しい。ゴルゴムに恨みを持つ者など心当たりがあり過ぎるのだが、シャドームーンである信彦が対象であるのならともかく、力の核となるキングストーンへ敵意を向ける者は皆無といっていい程に、対象が思い浮かばない。

かつてゴルゴムに所属していた社会の重鎮、怪人、神官候補…その誰もがゴルゴムの崩壊と共にその地位を失った者ばかりであり、恨みを買っても不思議ではないが、それも碧月ではなく信彦へと向けられるものだ。

 

 

(思い当たらん…)

 

 

今思えば、この美咲町に辿り着く前に聖堂教会や魔術協会の手の者に紛れて信彦を襲ってきたが、その全てが取るに足らない相手ばかり。そんな連中がキングストーンの意思である碧月を怯えさせるなどありえるはずがないと考えこむ信彦の耳に、今までテーブルにうつ伏していたアンリマユは顔を上げぬままふと言い放った。

 

 

「あのよぉ、それじゃあ信ヒーが世紀王になる前の知り合いとかどうなん?」

 

「何を言っている。そんな者がいる訳が―――」

 

 

信彦は途中、言葉を切った。

 

アンリマユの何気ない考えなしの発言であると頭ごなしに否定しようとしたがありえないと断言できない。信彦がそう考えたと同じ考えに至ったらしく、碧月も片手で口を押えている。

 

信彦が考えていたのは、あくまで自身が世紀王となった後に恨みを抱いた存在を懸念していた。だが、世紀王という存在は信彦が最初ではない。ゴルゴムの支配者、創世王によって見出された信彦と同じ世紀王は、何代もいたはず。

5万年という通常では考えも及ばないサイクルで繰り返されていた戦い。その中でゴルゴムの民とも言える者が生き続けてもなんら不思議はない。

その支配者である創世王ですら、肉体を世紀王に移し替えていたといえど、生き続けていたのだから。

 

 

「ん?どしたのよお二人さん。なんか悪い事言っちゃったかしら僕ちゃん?」

 

「…碧月、どうなんだ?俺より以前の世紀王に関しては…」

 

「もしかしたら…そうだったかもしれないわ」

 

「すいませーん。そろそろ俺も混ぜてくれませーん?」

 

 

自分のふとした一言から何か思いついたと顔を上げたアンリマユであったが、またもや自分抜きで話を進める信彦と碧月の姿に、本当に泣きそうになったのは余談である。

 

 

「どういう事だ?キングストーンの意思であるお前には、これまでの戦いの記憶があるはずだろう」

 

「…『私達』がただの力の塊から自意識を持つようになったもうその時から、殺し合いが始まっていたの。私は、嫌だった。私達の力が、ただ殺し合いにだけ利用される事が。|創世王≪あの人≫の望みによって次々と犠牲となっていく人々を目にすることが。だからいつしか私達はただ願われれば力を発揮するという機能しか表面に出さず、眠りについてしまった」

 

「…………………」

 

「必死に止めるように訴えてきた。それでも聞く耳を持ってくれなかった。止める事が、出来なかったの」

 

 

目に涙を溜める碧月を見て、自分は無神経な質問をしたのかもしれないと信彦は強く拳を握る。

 

最初に彼女と意識を交わした時、言っていたではないか。

 

ようやく信彦や間桐光太郎のような人物と出会い、自分の意思を告げられるようになったのだと。失念していた信彦は目を閉じて、静かに碧月へと謝罪した。

 

 

「どうやら過ぎた話を蒸し返してしまったようだ。許せ」

 

「…ううん。私こそ御免なさい。せっかく2人が私の不安を取り除く為に、聞いてくれたのに…」

 

「以前お前が言っただろう。お前に起きた問題は、俺達の問題でもあるんだ」

 

「信彦…」

 

 

無表情のまま視線をそらす信彦の不器用な優しさに、碧月は白い指先で涙を拭いながら感謝した。

 

 

「ありがとう…」

 

「……………………」

 

 

「んじゃーとりあえず結果としちゃあ前回の世紀王さん、もしくは創世王を恨んでるやつかも知れないって事でOK?んじゃあさっそく外出がてら調査に向かうとしましょうかね?」

 

 

 

と、静かな雰囲気をぶち壊す大声が響く方向へと顔を向けた信彦と碧月。そこには扉の外へと今にも出ようとしたアンリマユが邪悪な笑いを浮かべていた。

 

 

その扉は深層意識内ではあくまで分かりやすいイメージとして存在しているが、扉の向こうは表層意識への入り口。つまり、その扉を潜った者が主人格として肉体の主導権を握る事ができるのだ。

 

 

 

「貴様、いつもの間に」

 

「あーそこでいつの間にとか言っちゃう?別に?俺はハブられていた事なんて微塵も気にしちゃあいませんけど?ただいつもの3割増しで周囲にご迷惑を掛けちゃおうって気分になってるだけだし?」

 

「アンリ、べつに私達悪気があった訳じゃ…」

 

「はーいつまりはナチュラルに無視していたって事になりまーすッ!こりゃあ気が晴れるまで遊び倒すしかないじゃん!」

 

「さっそく本音を漏らしたな…」

 

「シャラップこの野郎!てなわけでお二人さんは好きなだけ話の続きをして後程レポートで提出してやがれ!アデュー!!」

 

 

完全に本心を信彦と碧月に悟られていながらも開き直ったアンリマユはテンション高めに扉を乱暴に閉じて、現実世界に向かったのであった。

 

 

「あいつめ…」

 

「…いいの?アンリ、だいぶ怒っていたようだけど」

 

 

眉間に指を当てて溜息をつく信彦の顔を覗き込んで尋ねる碧月に、力なく答えた。

 

 

「一応は奴の言葉もあって切っ掛けを見つけたんだ。ならば、最初に口にした奴が調べにいくというの筋が通る」

 

「フフッ。なんだかんだ言って、彼抜きに話にした事を申し訳ないと思っているんだから。信彦は優しいわね」

 

「うるさい…それに奴の事だ。敢えて戯れ言を口にして、調査に向かうつもりなのだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 

ホテルの一室。

 

 

目をゆっくりと開ける月影信彦の肉体を操る人格アンリマユ。身体を寝かせていたベットから上半身をゆっくりと起こし、手を握って開くといった一通りの確認を終えた後に盛大に叫ぶ。

 

 

 

「やったぜキャッホーッ!久々の世界だ飲むぜ食うぜ遊ぶぜ!!!虫歯やカロリー計算なんざ置いといてこの辺のパフェを征服だ!!」

 

 

 

精神世界にて少しでもアンリマユへ期待を寄せていた信彦は激しい怒りに燃えていた事は言うまでもない。

 

 

 

「さてさて、それじゃあ信さんのアイデンティティーであるこの真っ黒コートを持ってっと…ん?」

 

 

クローゼットに収納されていたコートを手に取ったアンリマユの耳に、呼び出しを告げるインターホンが届く。はてルームサービスなんざ頼んだ覚えがないなと口にするアンリマユは出入り口のドアを何の疑いもなく開錠した。

 

 

「はいはーいどちらさんで…」

 

「どうもこんばんは!先ほどぶりですね」

 

 

眼鏡をかけ、学生服姿のシエルが満面の笑みで立っていた。

 

 

「………………………………………間に合ってますんで」

 

 

開けた際とは反対に勢いを付けてドアを閉じるアンリマユであったが扉の間にシエルが爪先を挟み込みこんで阻止してしまう。

 

 

「お、前さんどこの、訪問販売員、だって、の…」

 

「お話…くらい聞いてくれても…いいじゃないですかッ!!」

 

「うおぉッ!?」

 

 

ドアを閉じる為必死にドアノブを引くアンリマユだが、反対側から引くシエルの全力に敵わず、躓く形へ通路へと飛び出してしまった。見っとも無く転んでしまったアンリマユを嘲笑うかのようにオートロックの扉は静かに閉じる。

 

 

「ふぅ…さて、お久しぶりといっていいんでしょうか?アンリマユさん」

 

「てんめこのカレー女…人さまがこれからプライベートを楽しもうって時にやってきやがって…」

 

「それは申し訳ありません。でも、貴方にとっても有意義なお話かもしれませんよ?」

 

「いやーそんな事言ってまた俺らをいい様に使おうってんなら…」

 

「あ、最近雑誌で紹介された甘味処を知っているのですけど」

 

「まずはそこに行ってから話を聞こうか」

 

 

ていよく買収されるアンリマユの行動に、精神世界の碧月はただただ、苦笑するしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

「志貴の様子が可笑しい?」

 

「ええ。実は先ほど路地裏でお会いしたのですが…」

 

 

場所は24時間営業のファミリーレストラン。

 

季節限定のデザートを満足いくままに食したアンリマユに代わり主人格となった信彦はシエルより持ち掛けられた案件に目を細める。ちなみにアンリマユへの制裁は後程下されるという事で、現在子犬のように震えているようだ。

 

 

聞けば、血の臭いを嗅ぎ取ったシエルが向かった先にあったのは、複数の人間だった残骸と、立ち尽くしている遠野士貴。しかもひどく混乱している様子であったようだ。士貴が死骸を見て狼狽えていたという話に違和感を覚える信彦だったが、最近奇妙な事件に巻き込まれていたとはいえ元は一般人。短期間で死体に慣れるという方が難しいと切り替えるつもりでいたが、その意見はシエルも同様であったようだ。

 

 

「他に理由があるというのか?」

 

「はい。遠野くんが持つ短刀…柄に七夜と刻まれているナイフを覚えていますか?」

 

「…ああ」

 

「ナイフは彼の足もとに落ちていました。もちろん、ナイフに人を切断したような後はありませんでしたが、手に取って遠野くんに渡そうとした際、一瞬躊躇したんです。まるで初めて見たかのように」

 

 

その後、思い出しかのようにナイフを受け取った士貴の視線が泳いでいた事を見逃さなかったシエルはさらに気になっていた事を信彦へと伝える。

 

 

「遠野くんは普段見かける私服や学生服とは異なる姿でした。それも、真っ黒なコートを身に纏って…そう貴方と同じように」

 

「………………なぜそこで目つきを変える」

 

 

眼鏡の奥から伝わる殺気から逃れるように視線を外す信彦は、自分の横に畳んだコートに目を止める。まさかこの女、士貴が自分の物まねして着用しているとでも言うつもりなのかと考えていたが、彼女もそこまで浅はかではなかったようだ。

 

 

「まあ、冗談はともかく。明らかに彼の様子はおかしかったんです。何かご存じであればと思いまして今日はお誘いしたんですが…」

 

「生憎と心当たりは欠片もない。アルクェイドあたりに聞け」

 

「あら。信彦さんは私と真祖の血で血を洗う争いをお望みで?」

 

 

笑顔でとんでもない事を言うシエルに構わず、タバコを銜える信彦は士貴が黒いコートに身を包んでいたと聞き、紫煙を吐きながら自分ではなく、この街に辿り着いて最初に戦った存在の姿を連想する。その身に無数の存在を宿していた敵を…

 

 

「そして、貴方にもう一つ伺いたい事がありまして」

 

「…今度はなんだ?」

 

 

頭の中で連想した敵が大きく締めていく事を遮断したシエルの声に少なからずシエルに感謝しながら正面を向く信彦。正直、あれは彼にとって苦い記憶だからだ。全力が出せなかったとは言え、宿敵以外に苦戦を強いられるなど彼にとっては屈辱でしかなかったのだから。

 

 

 

「実は、遠野君が出くわした件以外も、もう一つ殺人事件が起きていたんです。表沙汰にはなっていませんが、今週で4人の死者がいます」

 

 

あまり良い話ではないが、ここまで聞いてしまったらもう逃れられまい。覚悟をして信彦は利き続けた。

 

 

「私の使い魔も断片的にしか犯人の姿を捉えていません。唯一確認できたのが―――」

 

 

 

 

 

 

 

「犯人は男であり、巨大な鎌を持っていたという事です」

 

 

 

 

 

 

 




半分が脳内会議で終わりました今回です。

では皆様、今年もお付き合いいただきありがとうございました。新年にお会いしましょう!

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