Fate/Radiant of X   作:ヨーヨー

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急な仕事でマイPCをいじる時間がまるで取れなかったこの一週間…いつも通りに更新できず申し訳ありません…

さて、今回は彼らにスポットを当てるお話となります9話となります。


第9話

「光太郎、起きてますか?」

 

時刻は休日の午前10時過ぎ。メデューサは扉を数度ノックした後に部屋の主である光太郎へと声をかけるが返事はない。

大学で講義のない日や休日でも7時には目を覚まし、早朝のトレーニングを欠かすことなく行っているのだが今日に限り光太郎は起きた様子もなく、それどころか部屋からも出ていないのだ。

 

「…開けますよ」

 

もしや先日の怪魔界の一件でのダメージが残っているのだろうか。不安に思ったメデューサは断りを入れてからドアノブを捻り、ゆっくりと扉を開く。

 

朝日の差し込む光太郎の私室。目につくのは部屋の隅で乱雑に重ねられたバイクの雑誌とダンベルなどの器具。桜から整頓するように注意しても聞かないようなら問答無用でゴミの日に出しても構わないと絶対零度の微笑みで指示されているが、今回は目的が違うの見なかったことにしたメデューサは光太郎の姿を確認すると、思わず頬を緩ませてしまう。

 

机の上で組んだ腕を枕代わりにして寝息を立てる光太郎の顔は、何かをやり遂げた後のような、穏やかな寝顔だ。

メデューサは光太郎を起こさないようにそっと肩へ毛布を掛けると、彼が今の時間まで眠っていた原因を発見する。

設置されたパソコンへ幾つもの…メデューサに取って理解不能な機械を接続したことでようやく閲覧出来た異世界の人間から託されたデータ。

ワールドに手渡されてたメモリは地球上のどの機器の規格にも対応しなかった為、光太郎は自力で解読することを覚悟した。

異界の電子システムを自分の知る限りのあらゆる知識を駆使して、ついに読み込むことに成功する。そしてプリンタからメモリ内のデータを印刷した時に力尽き、座ったまま眠りについてしまったのだろう。

 

メデューサは床に散らばった紙を拾い上げ、そこに描かれている何かの設計図と、記載された名前を静かに読み上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ライドロン』…ですか」

 

 

 

 

 

 

 

宇宙空間を移動するクライス要塞の一室。部屋に一切の証明が存在しない代わりに、鎖で両手を縛られたボスガンへ打ち付けられる激しい閃光が室内を照らしていた。

 

「ぐおぉぉぉぉぉ…!!お、お許し下さいジャーク将軍ッ…わ、私はクライシスの為に宿敵であるRXを…」

「ええい黙れ愚か者めが…その結果、怪魔界へ残した兵力を失うだけでなく、砂漠一帯の指揮を任せていたガイナギスカンを失うなど本末転倒ではないかッ!!貴様はそのまま24時間、この光線に撃たれ続けるがいいッ!!」

「そ、そんな…お慈悲を、ジャーク将軍ッ!!」

 

部屋に設置されたビーム砲を浴びながら懇願するボスガンの声など聞く耳を持たず、ジャーク将軍はマントを翻して部屋を後にする。

 

「キシシシシシシ…抜け駆けしようとするからあんな目に合うんだぜボスガンの野郎は…」

 

部屋での一部始終をケタケタと笑うゲドリアンはボスガンの悲鳴が木霊する部屋を離れ、自分の依頼通りに事を進めてくれているであろう他の大隊長の元へと向かった。

 

 

「む…エネルギーバランスがまだまだか…」

「ガテゾーン!ガテゾーンはいるか!!」

「…騒がしい隊長さんだなおい」

 

手に持ったパッドから浮かぶ立体映像…新たに造られる怪魔ロボットの作業工程を確認するガテゾーンの元へピョンピョンと飛び跳ねて接近する同僚へ皮肉を送るが聞こえていないようなのでそのまま話を続ける。

 

「…前に話していた件のことか?ほらよ」

「おう!仕事が早くて助かるぜっ!!」

 

ガテゾーンは胸ポケットから小型の機械…幾つかのボタンと十字キーが仕込まれたコントロールユニットをゲドリアンに放り投げ、再び調整作業に手を付けながら尋ねた。

 

「威力は前よりは上げてあるが、今更どう使うつもりだ?RXに通用するとは思えんが…」

「ケケケ…確かにRXに通用しねぇだろうが…BLACKならまだ足止めくらいにはなると思わないかガテゾーン?」

「なるほど…数日前に流星に偽装してバラ撒いた『アレ』の孵りが著しくないから併用するってとこか」

「理解が早くて助かるぜ…まさか地球の気温じゃあんなにも相性が悪いとは思わなかったからなぁ。んじゃ、邪魔するぜぃ」

 

コントロールユニットを片手で遊ばせながら離れていくゲドリアンはガテゾーンへ謝礼を述べた口は、相手に勘付かれないように歪めていた。

 

(ケケケ…RXを倒すのはお高くとまったボスガンでも気取り屋のガテゾーンでもねぇ…ジャーク将軍にお褒めの言葉を頂くのは、このゲドリアン様よッ!!)

 

 

「…と、考えてるんだろうがな」

 

データの入力しながらゲドリアンが頭の中で考えているであろう言葉を予測するガテゾーン。生粋のクライシス人ではないゲドリアンは貴族である事を棚に上げ見下すボスガンや敬愛するジャーク将軍の懐刀であるマリバロンを快く思っていない。さらに地球攻撃軍では同じ境遇でもあるガテゾーンへ今回は頼る形となっているが、どこかで敵視している部分もあった。

ボスガンのように手柄を立て、誰かの地位を狙っているのではなく純粋にジャーク将軍へ認められたい。

ある意味、ジャーク将軍への忠誠は誰よりも厚い隊長であろう。

 

「ま、その分時間を稼いでくれれば俺も作業に集中できるわけだが」

 

ゲドリアンへ協力をしたが、RX…間桐光太郎がそうそうに負けるとガテゾーンは考えていない。彼を倒せるのは他の誰でもなく、自分の作り上げた怪魔ロボットのみ。

キューブリガンでは遅れを取ってしまったが、今造り上げている最強の怪魔ロボットであれば、負けるはずがない…

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふわぁ…」

「もう、だらしがないですよ兄さん?」

「ごめん、昨日寝たのが日が差した辺りだったから」

「それ、既に今日の話じゃないですか。メデューサ姉さんから聞きましたよ?」

「あ~。やっぱりあの毛布、メデューサだったか…」

 

隣を歩く義兄の話を聞きながら苦笑する間桐桜は現在、光太郎と共に間桐家御用達である診療所へ向かっていた。

 

「そう言えば慎二君は?今日は藤村先生が不在ってことで部活は休みなんでしょ?」

「今日は午前中に図書館で勉強を済ませてから新都でお買い物をするそうですよ。しかも、そのお買い物が美綴先輩の付添いなんですって!」

「へぇー。衛宮君以外と休日に出かけるなんて珍しいな。あの二人、そんなに仲好かったっけ?」

「さぁ、どうなんでしょーねー」

「?」

 

意外な組み合わせに光太郎は思わず尋ねてみるが、桜はお茶を濁すように曖昧な答えしか返さない。首を傾げる光太郎の顔が面白いのか、クスクスと笑いを漏らす桜。やがて互いに無言となると、2人が向かっている先で眠っているであろう『彼』の話題となる。

 

「あの人…早く元気になるといいですね」

「うん。そうだね…」

 

 

光太郎がメディアと共に怪魔界から帰還した際にワールドから託された謎の青年。ワールドの言葉を信じるならば異世界の人間である彼は光太郎達の世界には存在しない人物であり、無論戸籍もない。

そのため魔術や光太郎の身体にも理解のある診療所へ青年をあずけ、検査も同時に依頼したのだった。

 

こうして様子を見に行くのも4回目となるが、青年は起きることなく眠り続けている。医師の話では極端に体力を消耗しているが異常はないため、近いうちに目は覚めるという話ではあるが、光太郎は慎二や桜、メデューサに頼み、自分も含めて青年の様子を交代制へ見に行くようにしている。

何故そこまでして彼を気にかけるのかと慎二に問われたが光太郎は彼が起きた時、誰もいなかったら心細いだろうと説明をしたが、なぜか彼を放っておくことができない…そんな思いが光太郎の心を大きく占めている。

 

「さて、もうすぐ到着だ―――」

 

悩んでいても仕方ないと、目に入った診療所の看板を見てワザとらしく声を上げるがガラスが砕けた音によって光太郎の声はかき消されてしまう。それも一回だけではない。次々と何かがぶつかり、砕ける音が立て続けに発生し、光太郎と桜は目を合わせると診療所の中へと駆け込んでいく。

 

 

 

「先生ッ!?」

「ぐぉッ…!」

 

診療所のガラス戸を乱暴に開いた光太郎達の目に最初に映ったのは診察室の扉をぶち破り、背中から壁へと衝突して床へ沈む恩師の姿。思わず駆け寄る光太郎と桜は苦悶の声を上げる医師を介抱しようと膝を着くが、直後に別の悲鳴が光太郎の耳へと響く。

 

「キャッ!?」

「桜ちゃんッ!?」

 

診察室から飛び出した腕が桜の肩を掴み、強引に室内へと連れ込んでしまう。

振り返ったその先で桜の首を左腕で覆い、右手に持ったメスを顔に突き付けている人物…カプセルで眠っていた青年が息を荒らしながら光太郎を睨みつけている。

 

「…なんだ貴様ら?俺を一体どうするつもりだッ!?」

「…………………………」

「答えろッ!ここは何処だッ!?俺は…誰なんだッ!?」

「…っ」

 

興奮状態になるのか、青年は三白眼をさらに鋭くし光太郎を睨む。青年から問い質された内容は至極真っ当ではあるが、最後の部分をより強調していたように光太郎は思えた。

 

(もしかして…記憶喪失なのか?)

「早く答えろッ!?この娘がどうなっても――ッ」

「分かった。じゃあ一つだけ答えよう」

 

相手に警戒されないように両手を上げた光太郎はゆっくりと息を吸い、青年を睨み返して口を開いていく。青年も真剣な眼差しを向ける光太郎の言葉を聞き逃せないようゴクリと息を飲み、待つこと数秒―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「舌を噛まないようにしてくれ」

 

「は?」

 

 

 

 

 

意味の分からない返答に間抜けな声を発した直後だった。

 

人質にされていた桜は光太郎の言葉に力を緩めてしまった青年の右腕を掌で押し上げ、顔に向けられていたメスで自身を傷つけない範囲まで移動したと同時に青年の足…しかも小指を中心に踏みつけた。

 

「………ッ!?!?!?!?!?」

 

声にならない悲鳴を上げる青年へさらなる追い打ちが続き、桜は拳と肘を青年の腹部に当てると魔力を上乗せした状態で強く一歩踏み込む。ゼロ距離で叩き込まれた衝撃に仰け反った青年は胸を押さえ後退しながら自分へこれ程までの攻撃を加えた少女を見返す。

コォ…と深く息を吐き残心の為に構えたままであったが、苦しそうに自分を見上げる青年を見てハッと我に返るとアワアワと慌てふためいて謝罪を始めてしまう。

 

「ご、ごめんなさいッ!つい癖で護身術を怪人に仕掛けてるつもりでぶつけてしまって…怪我しませんでしたかッ!?」

 

癖で護身術を叩き込んでくるとはこの娘、どのような日常を送っているのかと問いただしたくなるが未だ胸が痛み上手く喋れない青年は何度も頭を下げる桜とやっぱり…と言わんばかりに肩を竦ませる光太郎を見て苛立つを通り越し、逆に冷静となってしまった。

 

「やれやれ、ようやく落ち着いてくれたか」

「先生、大丈夫ですか?」

「無事なものかッ!見ろ、診察室が荒れ放題だ。妻が旅行中であることが唯一の救いだよ…」

「ハハハ、相変わらず丈夫ですね」

 

確か力一杯に蹴り飛ばしたはずの初老の男が何事もなかったかのように立ち上がるどころか自分が攻撃を受けた事よりも散らかった室内の心配をしている姿に、青年は今度こそガクリと項垂れてしまう。

 

 

 

 

 

 

「ふむ…どうやら桜くんの技の跡は残っていないようだな」

「………」

 

触診によって青年は桜によって怪我を負った形跡なしとの診断に少女はホッと胸を撫で下ろし、義妹の頭を撫でる光太郎は改めて青年の姿を見る。

 

肩に触れる程度まで延ばされた黒髪と無自覚に周囲を警戒させてしまいそうな鋭い目。細見ながらも鍛え抜かれた筋肉質の体躯は何かの訓練を受けたような印象を受ける。

そして光太郎が彼の眠っていたカプセルをこじ開けた時から目についていた額と胸板に残る大きな傷。ワールドによって治療を受けたのだろうがそれでもクッキリと残ってしまい、医師の見解でも消えることのない傷痕だという。

 

先程はやはり混乱していた為だったのか暴れる様子もなく、医師の質問には落ち着いた様子で答えている。これが彼本来の性格なのかも知れない。何より光太郎と桜が注目したのは…

 

 

 

「では、君自身の名前も分からないということだね」

「ああ。まるで思い出せん」

 

 

 

 

((渋い声だ…))

 

 

外見の年齢からすれば光太郎より下、桜よりは上、といったところだろう。だが若い見た目とは裏腹に声質は低く、一度聞けば耳に残る印象を与える声。

黒いスーツとコートを着用し、煙草を吹かせながらハードボイルドな台詞を放つ姿が異様に似合いそうだ…と2人が同じ想像を浮かべていると医師が椅子を回転させ、これからの方針を訪ねてきた。

 

「さて、見た所では異常は見られない。ここに来た時は体力の消耗が激しかったが先程の元気な姿を考えれば…言うまでもないな」

「面目ない…」

「ああ、別に責める気はないよ。光太郎君、ひとまず彼を一時退院を進めるが如何かね?片付けを手伝ってもらい寝室は元通りにはなったが、同じ空間にいては息が詰まるだろう。外の空気に触れば、何かを思い出すきっかけになるかも知れん」

「なら、泊まるにはとっておきの場所がありますよ!」

 

医師も光太郎の提案を期待していたのだろう。予測通りの回答に優しい笑みを浮かべ、桜も義兄同様にお任せあれと胸を張っている。

 

ただ1人蚊帳の外である青年は恐らく拒否権というものはないだろうと覚悟を決めるしかなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…で?うちに泊める、と。光太郎、前も言ったこと覚えている…?」

「はい…この家に関わる際には思いつきで行動せずみんなの意見を聞いてから、でした」

「へぇ…ちゃんと覚えているんだねぇ。じゃあ、今日の事は僕が聞きはぐっただけなのかなぁ。おかしいなぁ」

「…すいませんでした」

 

 

間桐家の食卓で頬杖を突き、魔道書のページを捲る慎二は床に正座した光太郎へ視線を向けることなく重圧をかけていく。その光景は既に日常なのか、桜は気にすることなくメデューサと共に畳んだ洗濯物を定位置へと運んでおり、アウェーである青年は一見普通の少年に見える慎二が只者ではないと踏んだ光太郎があそこまで萎縮させる姿を見てこの家のパワーバランスが分からなくなってしまっていた。

 

 

「…米10キロ」

「…!?わかったよ慎二君。彼の分の買足しだね!今すぐスーパーへ行ってくるよッ!!」

 

 

紙の擦れる音だけが異様に大きく聞こえる中、ぼそりと慎二は呟いた単語を聞き取った光太郎はすくりと立ち上がり、力強く頷くと慎二の要望に答える為に部屋を飛び出していくのであった。

 

その動きは正に電光石火。リビングのドアが開いたと思った次の瞬間には閉じており、外部に耳を向けるとけたましいエンジン音が遠のいていく。唖然とする青年の横では変わらず読書を続ける慎二へエプロンを着用した桜が呆れた様子で溜息をついている。

 

「そのお買い物。明日慎二兄さんが行くことになっていたんじゃありませんか?」

「そうだっけ?」

「そうですよ。もう、子供じゃないんですから拗ねるのは駄目ですよ?」

「報告を怠ったアイツが悪い」

 

拗ねているのは認めるんですねと苦笑を浮かべた桜は袖をまくり、キッチンの奥へと移動する。光太郎の買い物と合わせて夕食の準備に取り掛かるらしい。

 

「座ったら?」

「あ、あぁ…」

 

どことなく緊張してしまっている青年は慎二に言われるがまま向かい側の椅子に座るが互いに口を開くことがなく再び沈黙が続き、今度は桜が野菜を包丁で刻む音が妙に大きく聞こえている。

 

 

「どうして、なんだ?」

 

「………………」

 

「どうして、彼は俺を助けてくれる。何者かもわからない、俺を…」

 

青年には理解できない。間桐光太郎という人物がまるで理解できなかった。ここまでの道中、気さくに話かけていくる光太郎に曖昧な返事しか返せなかった青年は光太郎は何故、ここまで自分に警戒せずにいるのか。何故こんなにも、暖かく迎えてくれるのか。

 

自分自身でもどこの誰なのかも分からない不審な存在を、どうして間桐光太郎という男は受け入れることができるのか。

 

 

「馬鹿だからアイツは」

「え…は?」

 

同じ日に2回も間抜けな声を発してしまったと青年は我に返る前に、慎二の回答は続いていく。

 

 

「目の前で困った奴がいたら無条件で手を伸ばす馬鹿。その結果がどうなろうが…助けた相手に裏切られようがそれ自体が罠であろうが光太郎は迷いなく助ける事を優先させる。そんな、馬鹿な奴なんだよ」

 

貶めているはずなのにその表情は柔らかく、侮蔑の言葉も信頼の裏返しのようなものかもしれない。ああ、この少年は心の底から間桐光太郎という男を信頼している。それはキッチンから横目でこちらの様子を見て、笑みを浮かべて作業へと戻った少女も同様だろう。

それでも、青年は解せなかった。

光太郎がそうまでする理由が、はっきりと分かる形で知りたかったのだ。

 

「わからん。どうして、知りもしない赤の他人へ手を伸ばすことが出来るんだ?」

「…以前、こんな事を言っていました」

 

青年の前へ緑茶の入った湯呑を置いたメデューサは懐かしむように、かつての自分と青年を重ね、光太郎が自分へ伝えた言葉を口にする。

 

 

 

 

まだ聖杯戦争が始まる前。召喚されたばかりの彼女はマスターがどのような人物かを知る為に彼の戦いへと同行した。

 

その際、怪人は逃れる為に当たり構わずに怪光線を乱射した結果、ビルの瓦礫が子供と子犬に向けて落下。光太郎は迷いなく子供の救助のためにその身で瓦礫を受け、怪人を取り逃がしてしまった。

 

メデューサはやれやれと肩を竦ませるマスターへなぜあのような効率の悪い方法を取ったのかと尋ねた。あの場で怪人を倒せば取り逃がすことも無く、被害を最小限に抑えられたかもしれないのにと。

 

今考えれば、あの場で怒鳴られても仕方がないような言い分だったが、光太郎は怒るどころか笑いを浮かべてこう言ったのだった。

 

 

 

 

 

 

「誰かを助けるのに、理由なんていらないよ」

 

 

 

 

 

 

 

「…………」

 

 

青年は黙るしかなかった。

 

彼の行動は誰かに強要されたものでも、己を保つためではない。

 

理由があるとすれば、助ける為。ただ、それだけの為に彼は動くのだと。

 

余りにも簡単であり、誰にも成しえない愚直過ぎる回答を青年は不思議と不快と思えず、むしろ先ほどまでの疑心が氷解していくような気分となっていた。

 

 

 

「誰かの為なら常に全力…あいつの癖というか、本能みたいなもんだよ」

「ええ。言いえて妙とは、この事なのでしょう」

「だから、アンタが気にすることじゃない。台風にでも巻き込まれたと思って、大人しく光太郎に助けられてくれ」

 

 

ニヤリと笑う少年に対し、青年の返答は余りにも簡単なものだった。

 

 

「ああ。暫く、世話になる」

 

 

その時、僅かだが青年は初めて微笑みを浮かべたのだった。

 

 

 

 

 

 

「さて、米はこれでいいし後は…」

『キャアアアァァァァァァァッ!!」

「ッ!?」

 

スーパー内で愛用している米袋を掴み、レジへと向かおうとした光太郎は店内の奥から響く悲鳴を聞いた途端に米袋を元の位置に放り投げ急行する。避難する人々を掻き分け、その先にいたのは店内の食料品を口へとかき込んでいる怪人であった。

 

ダルマのような胴体に比べ手足は長く、トカゲを思わせる頭を持つ異形…そして光太郎の存在に気が付いたのか、手に取った野菜を放り捨て、光太郎へと向かっていく。

 

 

「ゴルゴムじゃない…ならば、クライシスが送り込んだ怪人かッ!?」

 

光太郎は腹部にキングストーンを宿したベルトを出現させ、一定の構えを取った後にその場で跳躍。戦う為の姿へ変わる言葉を強く叫んだ。

 

「変身ッ!!」

 

赤い光に包まれた光太郎はバッタ怪人、そして仮面ライダーBLACKへとその身を変え、襲い掛かる怪人へと拳を繰り出した。




さて、赤いアイツの前に彼のお話となりました。そして出てきた怪人。原作RXでは結構怖い作戦でしたね。

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