「おいおい、なんだこりゃ・・・」
空中を移動し、事前に聞いていた場所に近づいてきた。だが、向こう側から感じ取れる妖怪の規模がおかしい。
明らかに数が多いのだ。感じ取れるだけでも50は超えている。予想の倍以上とかマジかよ。
『隊長どうする。明らかに数が多いぜ』
仲間から通信が入る。
『どうもこうも、変わらん。むしろこれ以上増えた方が厄介だ。今のうちに叩くぞ』
『了解。やっぱそうでなくっちゃな』
通信が切れる。あいつは強いんだが、いかんせん戦闘狂の気があるのがな・・・。
頭を切り替えて、俺は最終確認に入る。
『各員、どうだ?』
『いつでも行けるぜ』
『配置につきました。いつでもいけます』
『こちらもだ。合図をくれればいける』
『問題なしよ。いつでもどうぞ』
『オーケー、じゃあ・・・いくぞ!』
俺は上空から奴らのうち一体に狙いを定め急速で接近する。そしてその勢いのまま右手に持つ武器で頭から突き刺す。こいつは何をされたのか気づかないまま死んだんだろうな。
武器を突き刺したまま、左手に持つ武器でとびかかってきた妖怪を両断する。血が飛び散ってくるが、そんなの気にしている場合じゃない。
引き抜きいた右手の武器にあるスイッチを押す。するとランス状だった刀身部分が真ん中から2つに分かれ、握りの部分に引き金が現れる。
そしてすぐさま狙いを定めて引き金を引く。すると武器から複数光弾が飛んでいき、少し離れていたところにいた妖怪3体の肉体を抉り取っていく。そして武器をランスに戻しつつ体勢が崩れた奴らに接近し、一匹は腹を突き刺し、二体を同時に切り裂く。その二体は体が二つに分かれて絶命した。
さて、とりあえず近場にいた奴らは一掃できたか。
「くそ、おまえあそこの奴か!」
「ああ、そうだ」
そう言いながら俺は突き刺している妖怪を見る。こいつは聞きたいことがあるのでわざと生かしておいた。
「さて、質問だ。お前らの親玉はどこにいる?」
「な、なんのことだ・・・?」
「気づかないと思ったのか?今まで自分勝手だったお前らが足並みそろえてるんだ、いるんだろう?」
「・・・」
「なるほど、だんまりか。まぁいいけど」
「なにを・・・!?」
妖怪の身体を貫いた部分から結晶が覆っていく。妖怪が何か言おうとしてるが、そんなものは知らん。
そして体全体を覆い尽くし、砕け散った。そして俺は無線機を使って仲間の様子を確認する。
『奇襲は成功、だがこちらに親玉はいない。お前らはどうだ?』
『こちら01、ここには雑魚しかいねぇ』
『03および04、こちらにもそれらしき奴はいない』
『そうか、02。お前はどうだ?』
『こちら02、範囲内にそれらしき反応はなし。視界にもうつりません』
『わかったならこのまま妖怪共を各個撃破。もし親玉が現れたならすぐ俺たちに知らせろ!』
『『『『了解』』』』
そして通信を切り、俺を囲むように存在している妖怪共を見渡す。ざっと20体といった所か。
「さて、お前らは俺たちの都市の安全を脅かす存在だ。ここから去るというなら見逃してもいいぞ?」
≪ウオァァァァァァァ!!≫
「聞く耳なしか・・・まぁいいけどな。その方が殺りやすい!」
そのまま俺は奴らに突撃していった。
『こちら00、お掃除完了。各員、状況報告』
『こちら01、こっちはもうおわってっぞ』
『こちら02、バラバラになっている数体を倒せば終了です』
『こちら03、今最後の一体を殺したところだ』
『こちら04、終了だよ』
『わかった。各員、ばらけている奴をかたづけたら一度集合。親玉をあぶりだす』
そう言いながら俺は送られてきたレーダー反応をみる。そしてこの中で一番近いところにいる妖怪を殺すため再び飛ぼうとする。
「見ぃつけた」
その声が聞こえた瞬間、俺の視界はブレた。そのまま吹き飛ばされ、木々を数本なぎ倒したところでようやく止まる。そこでようやく殴り飛ばされたことに気づいた。
「ほぅ、今のに耐えるか。大抵の奴は今ので死ぬんだがなぁ」
そう言いながら奴は現れた。
その姿は俺よりはるかに巨体で、俺の3倍くらいはあるんじゃなかろうか。それに加え腕が4本あり、灼熱のような赤髪を垂らす顔はまるで般若のようだった。
「・・・ったく、ずいぶんと厄介な奴が現れたな」
そう言いながら立ち上がる。少々体は痛むがたいした問題じゃない。それよりも厄介なのは奴から感じ取れる圧倒的な力と感情。
それは感心や退屈。そして、心の底の方にある絶望。どう考えてもこれから戦うやつが発する感情じゃない。つまりは、俺を敵としてすら認識してないのだろう。
「で、確認するまででもないだろうが、おまえが親玉か?」
「そうさ、オレの名は土蜘蛛。こいつらを束ねている」
「なぜおまえが直接俺のところへ?親玉は親玉らしく、本拠地でふんぞり返っていればいいものを」
「5人の中でお前が一番強いんだろ?オレはただ強いやつとやりに来ただけだ。そんなことするわけねえだろ」
「・・・最初からこっちの動きはバレてたのかよ」
「まぁな、だがお前らはいい。今までの奴らは逃げ出すか命乞いをするかだった。たまーに向かってくるやつもいたが、弱くて仕方がねぇ。その点お前らは見つけたその日に向かってきた。おかげで部下が大勢死んじまったがな」
「お褒めの言葉ドーモ」
そんなことを話していると、通信機が点滅する。これは俺たちがよくやる連絡の短縮だ。これの意味は作戦の成功、つまりは妖怪の殲滅をほぼ終わらせたことになる。
「さて、残るはお前だけらしいぞ?」
「みてぇだな。だが、それがどうした?」
「さいですか・・・っと!」
俺は殴り掛かってきた奴の腕を紙一重で跳んで避ける。さっきは不意を打たれたが、奴をとらえている今なら避けることができる。それでも、かなりギリギリだがな。
「やっぱこれも避けるか、ならこれならどうだぁ!」
残りの3本で空中にいる俺に殴り掛かる。込められている力が先ほどとはまるで違う。一つでも当たったらアウトだなこりゃ。
一つ目、左手の武器で受け流す。二つ目、右手の武器でぎりぎり受け止めるが完全に体勢を崩す。そして飛んでくる三つ目を俺はーーー
「ッハ、なんか違ぇとは思っていたがやっぱお前人じゃねえな。面白ぇ!!」
両肩から突き出る爪で受け流した。
あっぶね、とっさに出せたからよかったけど今のはかなりヤバかった。
「まぁな・・・!!」
そう言いながら俺は両手の武器と爪を使って奴の嵐のような攻撃を防ぐ。受けて流して避けて流して避けて流して跳んで受けて、そこで奴の足を狙ってワームスフィアーを展開する。
「こざかしいわ!!」
が、奴は足を強引に引き抜き蹴りを放つ。ワームスフィアーから抜けられると思わなかった俺はその蹴りをまともに受ける。
「ッガ・・・!」
右足が潰れた。動かそうとしても全く動かない。
だが奴もさすがに無事じゃないようだ。奴の脚はなくなってこそいないが、血濡れになっていて変な方向に曲がっている。
「ほぅ・・・おもしれぇ業だな」
「ある意味奥の手なんだがな。まさかあそこから強引に引き抜くとは思わなんだ」
「だが、その足じゃさっきみてぇに動けねぇ。さらに獲物も屑鉄同然。もう終わりか?」
奴の言う通り、俺の武器はボロボロだ。こいつは開発班に作らせた特注品で並大抵の妖怪の攻撃じゃビクともしないほど頑丈なのだが、こいつの攻撃を数回受けただけでこの有様である。
「おっと、生憎だが・・・」
そう言いながら俺は意識を集中させる。すると俺の右足と武器を結晶が覆い始め、それぞれ全体を覆ったところで結晶が砕ける。そこには先ほどの傷などなかったかのように、無傷の足と新品同然の武器があった。
「この程度じゃ俺は殺せないぞ?」
「・・・ハッ」
奴は俺を見る。そしてスッと右手を上に掲げる。その直後、右手付近で爆発が起きる。どうやら仲間が到着したようだな。
「隊長!!」
「ウッハ、なんだこりゃ。今までの奴とは比べ物にならねえなぁ」
「こりゃまたとんでもないのが現れたわね」
次々に仲間がそろう。ほぼ全員がは血で汚れているが、どうせ妖怪のだろう。全員疲労こそあるものの、重傷を負うものはいなかった。
「さて、これで5対1だ。まだやるかい?」
「当たり前だ・・・と言いたいが、今宵はこれでしめぇだ。興が冷めたしな」
そう言いながら奴は腰につけていた瓢箪を持ち、中に入っているであろうモノ(多分酒)を飲む。なんでか知らんが、戦う気が失せたようだ。
「帰る。だが、おまえとは必ず決着をつけるぞ」
「言ってろ」
そして奴は森の奥に消えていった。というか、当たり前のように足動かしていたんだがあいつの再生力どうなってんだ。
『隊長、追いますか?』
狙撃した仲間から通信が入る。こいつは遠距離からの狙撃を得意としているので、奴の前に姿を現していない。
「いや、追うな。あいつは今までの妖怪とは別格の存在だ。にしても、なぜあれほどの妖力。なぜ今まで反応がなかったんだ?」
『すみません。レーダーの範囲外から急速接近してきて、隊長に伝える間もなく・・・』
「まじかよ。なんで今まで奴の存在を認知できていなかったのが不思議なくらいだな」
「遠方からやってきた、と考えるしかあるまい」
とりあえず危機は去ったが、奴という脅威の存在は変わらない。キッチリ対策とっとかないと、下手すれば奴一体だけで防衛隊が壊滅するかもしれん。
「帰るぞ。一応目的は達した」
「了解。にしても、あんたよく飛び出さなかったわね?」
「ん、どういう意味だ?」
「どうもこうも、いつものお前なら強敵を目の前にして隊長の命令など聞かないと思っていたのだが」
「馬鹿言え、生憎と対策なしに突っ込むとどうなるか身にしみてわかってるんでね。無茶はするが無謀なことはしねぇよ」
「そうか。それなら今度からは俺の命令をちゃんと聞いてくれよ?」
「ヘイヘイ、了解しましたよ」
そう言いながら俺たちは都市に向かい、離れたところにいた仲間とも合流し帰路につく。その中俺は、奴が去る際に感じ取った感情の変化について考えていた。
俺がワームスフィアーを放って奴の足を負傷させた時。さらに顕著になったのが俺が身体と武器を再生した時。
奴から絶望の感情が減り、代わりに歓喜と、期待の感情が現れていた。
うん、どう考えても俺目つけられたね。どないしよ。
次回は、月計画