簡単な仕事を探した結果防衛隊隊長をやっている件について。
「まだ構えてから照準を定めるのが遅い。妖怪ならそのスキにお前らを簡単に切り裂くぞ」
「「「ハイ!」」」
「後おまえ、引き金を引くときに手首を返す癖がついている。そのままじゃ狙った所には当たらん」
「わ、わかりました!」
「隊長、先ほど東門付近に妖怪が出現したとの報告が」
「なんだって?・・・わかった。直接あいつらから報告を受けに行く」
「とまぁ、そんなわけで俺は一時離れる。お前らはさっきのメニューもう一回やった後休憩しとけ。今度は全員スコアA以上はとれよー」
『ハイ!!』
・・・ほんと、なんでこんなことになってしまったんだか。
そう思いながら俺は訓練場を後にして、東門に向かう。フェストゥム形態なら3分もかからない距離だが、今現在の俺は人間の姿をしているので、向こうにつくのにしばし時間がかかる。なので、なんでこんなことになったのか軽く説明しておこう。
あれは今から大体2年前。例のほとぼりも少しづつおさまっていき、嫉妬メンチもあまり食らわなくなってきた頃、俺は働こうと決心したのが始まりだった。
正直この数年間で都市のことについてあらかた把握してしまい、ここ最近は暇だったのだ。相変わらず実験は続けられているがな。だが最近では、その頻度も減ってきている。今までは永琳に用事がない限り毎日やっていたが、今では一週間に一度くらいだ。
それに、自分で金を稼ぎたいというのもある。今までは報酬として永琳からお金をもらっていたが、居候の身なのでお金をもらってよいものかと考えてしまっていた。なので、今まではもらったお金を彼女たちへの手土産(お菓子とか)に使ったりしてきたわけだが、自身に対してお金を使っていないことが若菜ちゃんにばれてしまい、嬉しいですけどもうちょっと自分のために使ってください!。と怒られてしまったのだ。
そんなわけで自分自身にもお金を使おうと思ったのだが、それでは彼女たちへあまりお菓子を買って帰れないことに気づいた。俺の中で、三人そろってお菓子を食べながらお茶を飲み、のんびり談笑する時間がとても気に入っているらしい。彼女たちといると、自分がここにいることを証明できているような気がして、とても心が安らぐのだ。
そんなこともあり、何か都合の良い仕事はないものかと俺は求人誌を読んでいた。そしてその中で目を付けたのが、『都市防衛隊の雑務』系統のバイトだ。内容を見た感じ、これなら時間帯にもいくらか余裕がある。それに給料もそこそこいい。前世がサラリーマンだったので、書類整理には心得がある。
これを見つけた俺は研究室に戻り、さっそく書いてある所へ連絡を取り、面接の日程を決めてもらった。
そして面接当日、意気揚々と会場に向かった俺はーーー
動きやすい服に着替え、屈強な男たちを殴り飛ばしていた。
・・・うん、俺にも訳が分からないよ。
会場についた途端と思ったら。
「ようこそ。では、こちらに着替えて彼の指示に従って会場まで移動してください」
と言われ、疑問に思いつつも着替えてスタッフの後ろについて言ったと思ったら。
「こちらです。あなたの受験番号は21です、こちらを持って並んでください」
とカードのようなものを渡され並んでいた。そして、しばらくして試験管のような人が俺たちの正面に立ち、スピーカーを使って大声で言った。
「では、これより都市防衛実働部隊の入隊試験を始める!!」
わっつ?
「試験内容はいたってシンプル!今からお前たちでバトルロワイヤル形式で戦ってもらう。最後の3人にまで残ったものが合格だ。では・・・始めッ!!」
え、え?ちょっと待ってどういうこと?俺はバイトの面接に来たはずなんだが?
あまりにも急な展開に頭が追い付かず混乱していた俺だが、後ろから殺気を感じ素早く頭を下げる。そのすぐ後、先ほどまで俺がいた場所に鋭いけりが通過した。
「ッち、外したか」
そう言って、けりを放った男は再び構え、俺に突っ込んでくる。周りの奴など眼中にないようだ。
とりあえずこれ以上無防備な姿を見せるのもあれなので、少し気を引き締める。すると男は近づくのをやめ、俺の間合いの外で立ち止まる。
そのままお互いに行動を起こさず数秒後、男が口を開いた。
「よぉ、あんただろ?八意様の家に居候してるやつってのは」
「あぁ、そうだ。しかし、なぜ俺だとわかった?」
「ハ、あんたほどの巨体を見間違うものかよ。そんな巨人みたいなのはこの都市の中でただ一人だ」
「なるほど、そりゃそうか。で、俺と戦うのか?」
「当たり前だろ?試験に受かりてぇってのもあるが、まさかこんなところで妖怪を圧倒したっつう奴と戦えるんだからよ」
何言ってんだお前?。とでも言いたげな顔で男は俺を見る。当たり前だが、彼は俺が入隊試験を受けに来たものだと思っているようだ。
「そうか。ならその願いはまた今度にしてくれないか?」
「あぁ、まさかビビっちまったのか?」
「いや違う。どうやら手違いが起きたみたいでね。今日、俺はただ防衛隊のバイト面接を受けに来ただけなんだ」
「・・・へぇ、そいつは災難だな」
わかってくれるのか?、そう言おうとした俺だが、その言葉は出てこなかった。
なぜなら、俺の顔面に男のけりが炸裂しているからだ。俺は体制こそ崩さなかったが、数歩後ろへ下がる。
「・・・どういうつもりだ?」
「どうもこうも、こういう意味だよ。手違いなんぞ知ったことか。こんな相手、次なんか待ってたらいつになるかわかんねぇ。なら今のうちに味わっておくのが吉ってもんだろ!」
「・・・つまりお前はやめるつもりはない。と」
「その通り!」
そのまま男は俺の首を狙って先ほどより早いけりを繰り出してくる。それに対して、俺がとった行動はーーーとても単純なものだった。
「そうかそうか。じゃあ別に殴ってもいいよな?いきなり蹴りやがって、この野郎」
相手のけりが俺に届く前に、体を壊さない程度に加減をして、ぶん殴った。殴られた男は壁際まで吹き飛んでいき、あおむけに倒れる。その表情から見るに、どうやら殴られたことすら気づかず気絶したようだ。
永琳のところで居候していた俺だが、別に平和ボケしていたわけじゃない。時間を見つけては、森の中でしてきたように軽く戦いの訓練はしてきたのだ。とはいっても、俺は武術とかをしていたわけではないので、ほぼ我流になってしまったけどね。
それに、存外この体自体もハイスペックなのだ。若菜ちゃんを助けたあの戦い、あの時俺は両腕だが妖怪を突進を受け止めていた。つまり、身体能力の基本スペックは妖怪並み、もしくはそれ以上なのだ。生憎と多少強い程度の人間相手に後れを取ったりはしないんだよ。
「おい今の聞いたか?やっぱりあの21番、例の男らしいぞ」
「例のって・・・まさか、あの賢者様のところに住んでいるっていう!?」
「ああ、そうだ。しかも、妖怪を圧倒したっていう噂だぞ・・・」
「・・・なぁ、バトルロワイヤルつっても、最後に残った3人が合格なんだよな?」
「あぁ、そうだな。俺たちにとって、今のところ脅威となっているのはあの男ただ一人だ」
他の受験者たちが何か話している。俺には聞こえないようにしているが、お前らから感じる感情で何をしようとしているのかなんとなくわかってきたぞ。というか、やっぱりこういうことになるのかよ・・・。
「相手は一人。一気にかかれば倒せるはずだ!行くぞォ!!」
『オォォォ!!』
まぁそうなりますよねー。これで1対20くらいか。めんどくせぇ。事情を説明したいところだが、今のあいつらに何を言っても聞き流されるだろうな。
うん、しょうがない。ストレス発散の相手になってもらうとしよう。
その後、十分もしないうちに勝負はついた。俺は服についたホコリを払い、周囲を見る。そこにはもれなく全員ぶん殴ってできた死屍累々の山(パッと見)。
すこしやりすぎたかな?
「それまで!今回の合格者は、21番ただ一人とする!」
・・・・・・もういいや、どうにでもな~れ。
・・・そんなわけで、そのままなし崩し的に俺は防衛実働隊に入隊することになった。試験の後俺は試験管の人に事情を説明したのだが、どうやら上からの指示であったそうだ。
妖怪を圧倒する実力を持った噂の人物が防衛隊の面接を希望している。実力の確認がしたいので、実働隊の試験を受けさせよ。
ざっくり説明するとこんな感じだ。これを聞いて俺は、例の求人誌に前世の癖で面接を受けるところに印をつけていたことを思い出した。あれは多分まだ研究室においてあるはず。つまり、俺の状況を知っていて、かつ権力がある人物なんて一人しかいない。なにやっちゃってくれてるんですかねぇ?
まぁ今となっては俺に確かめるすべはない。あの後いろいろな方法で確かめようとしたが、のらりくらりと話をそらされてしまうし。
それはさておき、入隊した俺に待っていたのは連日訓練をしたり妖怪と戦ったりする日々であった。
ここで防衛隊について簡単に説明しておこう。基本的に防衛隊は4つの部隊に分けられている。
第一部隊、これは主に重要人物の身辺の警護などが仕事だ。永琳の家周辺にも数名警護がついているらしい。と言っても、永琳にあまり負担をかけないように普段は一般人に変装しているらしく俺は見たことがない。
第二部隊、これは都市内の警護が仕事だ。俺の前世で言う警察が最もこれに近いのかもしれない。
第三部隊、これは都市の外、つまり防壁での警護や防衛が仕事だ。度々外からやってくる人と交易したり、人を襲いに来た妖怪を殺したりしている。
第四部隊、これは主に書類整理などの雑務が仕事だ。ちなみに俺が最初にやろうとしていたバイトはここが募集していたりする。
そんでもって俺が配属されたのは第三部隊だった。
そしてこの部隊は他部隊に比べて実戦の回数がとても多い。というか基本的に毎日訓練があって、ない日には妖怪共と戦う日々だった。
ここまで発展しているこの都市だが、どうやら妖怪にとっては一種の宝箱のように思っているみたいだ。宝箱を守る門番(俺たち防衛隊)がわんさかいて倒すのは難しいが、倒せたなら中身の宝(都市の人たち)を独り占めできる。とまぁ、こんな感じで。
少なくともここら一帯ではそういう認識らしく、どんなに妖怪を殺しても数日後にはほかの妖怪がやってくる。俺が入隊して一ヶ月もたたない頃には5日連続できたこともあったくらいだ。
そんなわけで連日戦闘をしているここの部隊は常に人手が不足している。最近になって武器が改良されたおかげで戦闘による死傷者の数が激減したが、それでも毎日襲ってくる妖怪共を相手にしていたらこちらの身が持たなくなっちまう。と言っていたのは、入隊した当時の俺の上司であり第3部隊の先代隊長だったっけか。
そんでもってそこから2年間働き続けた俺はその功績を認められ、晴れてこの第3部隊の隊長になったというわけだ。
・・・と、もう着いたのか。思ってたよりも時間がかからなかったな。
「あ、隊長。お疲れ様です!」
「おう、お疲れ。で、妖怪共が出現したと報告を受けているが?」
「はい。どうやらここから少し離れたところに妖怪が集結しつつあるみたいです。今のところ何の動きもありませんが、これまで連携などしてこなかった奴らの行動にしてはいささか不可解だと思いまして」
「あの単身特攻してくるような奴らが?・・・確かにそれは妙だ」
ここに襲ってくる奴らはたいてい知能が低い上に己の力を過信している傾向がある。そんな奴らが連携をとるなどあり得ないと言ってもいいだろう。
そんな奴らが集結という行動をとった。それはつまりーーー
「ついに知能の高い妖怪が現れたか・・・」
「確定ではありませんが、おそらくそうかと」
「奴らの規模は?」
「観測した時点では2,30体ほどです。ですが、これから増加していく可能性は高いでしょう」
・・・うーむ、これはちょっとめんどくさいな。防衛隊の戦闘力では少数の妖怪なら相手どれるが、まだ集団戦は経験がないやつが多い。守りきることはできるだろうが、負傷者、もしくは死者が出ることは間違いないだろう。
・・・となると、奇襲からの短期決戦のほうがマシか。
「わかった、第3特務部隊に通達。1時間後、奴らに奇襲を仕掛ける。」
「了解!隊長はどうするので?」
「いつも通りだ。あれ(・・)を用意しといてくれ」
「わかりました!」
数時間後、俺の目の前には4人の武装した人間が立っていた。
こいつらは名前こそ特務部隊と名付けているが、俺が少数精鋭による電撃戦が好きなので隊長になった時に新たに創設した部隊だ。
「で、隊長。今度はどいつと戦うんだ?」
そう4人のうち、日本刀のような武器を腰にぶら下げている男性が聞いてくる。
全員が普段は小隊の隊長をしており、俺が直接呼び出すことはほとんどない。なので、こうやって俺が急に呼び出すときは戦いがある時と決まっているのだ。
「今回の敵は妖怪数十体に親玉級の妖怪だ。数は報告の時点で20体以上、これは増加しているとみておいた方がいいだろう」
「親玉級の妖怪の情報は?」
そう聞くのは狙撃銃を持つ女性。
「ない。こいつがいるというのは俺の勘だしな」
「だがあいつらは今、曲がりなりにも連携を取ろうとしているのだろう?あの猪突猛進なあいつらが」
「そうそう。なら少なくとも知能が高いやつがいると考えるべきだろうねぇ」
そう言うのは斧を持つ男性と重火器を持った女性。
「あぁ、その通りだ。つーわけで、序盤はいつものように俺が奇襲かけて奴らを乱すから各個撃破しろ。親玉級は見つけ次第部隊全員へ連絡。連携して潰せ」
「「「「了解!!」」」」
そして4人は森の中へ、俺は空中から妖怪共のところへ飛んでいった。
さーて、藪をつついて鬼が出るか蛇が出るか・・・。
「ふはは、お前らはそう来るか?今までと違って、今度は楽しめそうだなぁ」
戦闘は次回に。
次回は
戦闘→邂逅→ガチ戦闘
こんな感じで。戦闘描写うまく書けますように・・・。