試作小説保管庫   作:zelga

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※今回はREDのネタバレがあります、無理な方は要注意。


試作その8 第2話

 

――ほぉ、まさか今話題の歌姫様がゴードンの子供じゃったとはな。……ん、どうした変な顔して?――

 

 

 

あの人は、私とゴードンの2人しかいない世界に突然現れた。

 

私がUTAとして活動を始めてから大体半年。世界中の人達が私の声に気づき、感謝の声がたくさん届くようになってきたある日。彼はゴードンを訪ねてこの島に訪れ、そこで私と出会った。

 

 

 

――のぉウタ、わしはk……冒険家なんじゃ。世界のあちこちを回り、様々な人を見てきたと思っておる――

 

――おぬしに感謝の声を届ける人々。彼らがどんな島でどんな生活をしているか、聞いてみたくはないか?――

 

 

 

そしてゴードンと何かを話し合った後、その人はちょくちょくエレジアに来て、私に世界の冒険譚を聞かせてくれるようになった。

 

ただ正直なところ、最初はすごく警戒していた。だってしょうがないでしょ? 変な髭と変なしゃべり方だったんだから。

 

 

 

――それでな、その島にいる生き物は全部巨大なんじゃぜ? まさか蟻に乗って移動する日が来るなんて思わなかったのぉ――

 

――まぁ最後は記録がたまったんでその島を離れたんじゃが、結局あ奴らは戦い続けておったのぉ。もしかしたら、今でも戦い続けているのかもしれん――

 

――次はこいつじゃ。これは何と雲の上にあると伝説にある空島にのみ生息する貝で、こいつはこうして音を……――

 

 

 

ただそんなことはすぐにどうでもよくなるくらい、あの人が話す冒険譚は魅力的だった。

 

時には想像もつかない環境の島の話を。

時には己の心情を貫く人々の話を。

時には壮大な生命の話を。

 

身振り手振りを交えつつ話す内容を聞いていると、まるでその時の情景が目の奥に浮かんでくるような気がした。もう遠い記憶の中にある、あの日々を思い出すようだった。

 

 

 

――まぁそん時は思わず王様をぶん殴っちまったんじゃ。まぁ最終的に何とかしたとはいえ、さすがにあれは早計じゃったと反省しとるわい――

 

――西の海、その端っこだったからかのぉ。一般人を守るはずの海軍の腐敗はそらもうひどい状態じゃった。まさか襲ってきたギャング共を潰しに奴らの拠点に行ったら海軍大佐がおるなんざ、想像もしておらなんだ――

 

――じゃから、そこでは今も橋を作り続けておる。犯罪者はともかく、世界政府非加盟国という理由だけで罪なき一般人まで連れてこられてな――

 

 

 

だけどあの頃とは違い、あの人は悪い人の話を時々話す。

 

時には追い詰められた人が過ちを犯してしまった話を。

時には普通の人たちを守るはずだった海軍が過ちを犯していた話を。

……時には、天竜人という人が行ってきた過ちの話を。

 

 

「ねぇ、なんでウェイスは悲しい話もするの?」

 

「やっぱり外の世界にいる人たちは皆、そんなに苦しい思いをしているの?」

 

「海賊だけが悪いんじゃないの? 普通の人も海軍も、みんな悪いの?」

 

 

何度か話を聞いた後、思わず聞いたことがある。それを聞いた時、あの人はどこか悲しそうに、だけどもどこか嬉しそうな表情になってそれに答えてくれた。

 

 

 

――違う、違うんじゃよウタ。わしが話しているのは、あくまでこの世界で起きたほんの一部の話じゃ――

 

――これ以上の悲しみが世界のどこかで起きとるかもしれん。が、これ以上の喜びだってこの世界のどこかで起きとるはずなんじゃ――

 

――ゴードンから少しだけ事情を聞いた。……ウタ、おぬしの世界は狭すぎる。電伝虫からの声は良くも悪くも物事の一面しか教えてくれぬ――

 

――清濁交じり合ってこその世界なんじゃ。両方を直接知った上で、おぬし自身で決めて行動せねばならん――

 

 

 

わしがこうして話してきたことだって、嘘か本当かは見に行かんとわからんじゃろ? 

 

あの人はそう言って笑う。

 

確かに今まで聞いたのは私にとって、まるで本の中の出来事のような突飛な話だ。私自身が見て、感じたわけじゃない。彼が言いたかったのはたぶん、そういうことなのだろう。

 

 

 

――じゃからウタ、わしと世界を見に行かないか?――

 

 

返事は今じゃなくていい、ゆっくり考えなさい。あの人はそう言って、私の部屋を出ていった。

 

だからいっぱい考えた。私はどうしたいのか、どうするべきなのか。

 

UTAではなく、ウタとして。民衆の代弁者ではなく、一人の人間として。

 

ずっとずっと考えていた。ウタワールドの中で考え続け、ふと気づけば深夜になっている時もあった。

 

 

 

 

 

 

……だからなのだろうか。あの会話を聞いてしまったとき、閉じ切っていた記憶が滲み出てきたのは。

 

 

 

――私は愚か者だ。あれがどれだけの災いをもたらしたか知っているというのに、音楽家としての心があれほどの曲を消すことを躊躇っている……!――

 

――ならばゴードン。お前が作れ、トットムジカ(・・・・・・)を超える曲を! あんなの目にないくらい、人の心を動かす曲を!!――

 

 

 

トット……ムジ、カ……?

 

 

頭が痛くなる。その日の夜は涼しかったというのに、ダラダラと汗が止まらない。生唾を飲むと、喉が千切れそうだ。

 

いつもどこか靄がかかっていたあの日の記憶。先程の言葉を聞いた時、その一部が見えたような気がした。

 

 

 

 

 

――ウタ? その手に持っているのは……?――

 

――……まさかッ! 待つんだウタ、それを聞いてはならない!――

 

 

そして私は、なぜか近くに落ちていた(・・・・・・・・・・・)音貝を拾い上げ、そこに込められた音声を聞くスイッチを躊躇いなく押す。

 

 

 

神様の祝福か、あるいは悪魔の悪戯か。

 

猛烈な痛みとともに、私はあの日のすべてを思い出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………あれ?」

 

 

微睡みの中、目を開いた私は思わず声を漏らす。

 

いけない、いつの間にか眠っていたみたいだ。そう思った私は急いで起き上がって部屋を出るが、意外と外は騒がしくない。

 

あの海賊たちは私のウタウタの実の能力で眠らせていたが、それは私が眠ることで解除される。そのため頑張って起きていたのだが、海軍本部にたどり着く前に限界を迎えてしまったみたいだ。

 

だから起きた彼らが騒いでいるかもしれないと思っていたけれど、そんなことはなく静かだ。時々作業をしている人たちの声は聞こえるけど、深夜なのも相まってそれも抑えられた声量だった。

 

 

……ということは、あの人か来てくれた海軍の人が何とかしてくれたのかも?

 

 

そう思いながら歩を進め、牢屋につながる扉を開く。するとその先にあの人が立っており、牢屋内の海賊たちが全員頭にたんこぶを作って気絶していた。

 

 

「む、起きてしもうたか」

「……おはよう、ウェイス。どれくらい私眠ってた?」

「言うて3時間くらいじゃ、もう大丈夫じゃからちゃんと眠っとれ。……あと、ちゃんとウェイス先生と呼ばんかい」

「あ、なら寝る前にホットミルク飲みたい。ウェイス、話のついでに作って」

「話を聞け」

 

 

あーあー聞こえなーい。そう言いながら私は扉を開け、あの人に当てられた部屋に向かう。彼はグチグチ言いながらついてくるが、そんなことは気にしません。

 

 

 

 

 

……あの日、その後のことは実はほとんど覚えていない。

 

結果としては、私はベッドの上で目が覚めた。そしてゴードンは起きた私をずっと心配していたが、どこか晴れ晴れした表情になっていた。あの人も無傷だったし、悪い夢でも見たのだろうと言ってくれた。

 

そしてゴードンと話し合った後、私はあの人と一緒にエレジアを出た。そして助手のメアリーという体で世界の海を渡り、いろんなものを見てきている。

 

 

みんなの苦しみを癒したい、そんな私の願いは変わってない。

 

けれどただ苦しみをすべてなくせばいいのかというと、多分そうじゃないと今では思えている。かといってUTAとしてやってきたことは間違っていないとも思っている。

 

まずは知るべきなのだろうと、私は思う。世界がどうなっているのかを、みんながどう願っているのかを。

 

だけどその中でも私は歌う。手が届く範囲にはウタ(メアリー)として、届かない範囲にはUTAとして。

 

私は、私のこの願いは。決して間違ってなんかいないのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――ふざけるなよ。誰の子供かなんぞ知ったことか、貴様の存在意義なぞ知ったことか!――

 

――世界の、魔王の意思なんぞ背負わせるな! あの子は、ウタはただ普通の子供なんだよ!!――

 

 


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