試作小説保管庫   作:zelga

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その男は、とにかくチグハグだった。

見た目に似合わない口調。 
練度に対して貧弱すぎる範囲の覇気。
政府の狗の割に低すぎる元の懸賞金額。
一国の支配者でありながら移動手段は主に誰かの船に相乗りという体たらく。

何もかもが噛み合わない男、ウェイス・D・ローマン。
だが、彼と接したことのある人物はみんな口を添えてこう言うだろう。


彼は自由なだけでただの人間だ、と。





※この作品は公式最強の夢女に世界を見て回ってほしくて書き始めました。つまりそういう内容になっていきます。


……という設定で書き始めたが、よりによって一番重要な設定が本編と矛盾する事態に。おのれオダセン聖。


ワンピース
試作その8 第1話


 

 

――偉大なる航路(グランドライン)、そのどこかの島。

 

そこは人々が慎ましく日々を過ごし、質素ながらも穏やかな日常を送っていた。……のだが、しかし今日は様子が少し違うようだ。

 

港から少し進んだ先、突貫で作られた小屋に一人の青年が座っている。そしてその正面には苦しそうな表情で子供が男性を睨みつけ、その子を抱きかかえている女性もまた深刻な表情を浮かべていた。

 

そして右手に持った金属具をゆっくりと子供の胸元に近づけていき――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ふむ、もう大丈夫そうじゃな」

「……本当ですか?」

「あぁ、上手いこと効いたようじゃわい。この様子なら、今日渡す分の薬がなくなるころには元気に走り回れるじゃろうよ」

「あ……ありがとうございます、先生!」

 

 

――女性からの感謝を受け取りつつ、青年は手に持った聴診器を子供の体から離す。

 

そしてニッと笑って子供も安心させようとするが、子供の表情は相変わらず苦しそうだった。

 

 

「なんじゃい、そんな表情して。もう苦しいのは治っとるはずじゃが?」

「……うん、もう痛くない」

「本当に? よかった……じゃあ、どうして?」

「あ゛の゛薬゛飲゛み゛た゛く゛な゛い゛!!」

 

 

とてつもなく必死である、10にも満たない子供なのに。

 

そしてこんな表情をさせている当の青年は面倒そうに頭をかいており、手元にある子供に渡す予定の薬を取りながら口を開く。

 

 

「何言うとるんじゃ。良薬は口に苦し……つまり、苦ければ苦いほど効果があるっていうことなんじゃぞ?」

「「「「「んな訳あるかッ!?」」」」」

 

 

滅茶苦茶な言い分に思わず子供や女性に加え、周りで順番を待っていた人たちが一斉に突っ込む。それを受けた青年は構わずガハハと笑い、薬が入った袋を女性に手渡した。

 

 

「材料の中には下手に加工したら効能を失うやつもあるんじゃから我慢せえ。これでも飲みやすくなったほうなんじゃぞ?」

「絶゛対゛嘘゛た゛!」

「嘘じゃないわい! これを初めて作った時は今の数倍苦かった……」

 

 

何せ試作1号はあまりの苦さに気絶。とにかく甘く飲みやすくしようとした試作2号は甘みと苦みの超絶不協和音により、試しに飲ませたとある海軍大将が身体の形状を維持できない程にフラフラになったのだ。これでもかなりマシにはなっているのである。

 

 

「だから頑張れ小僧。それにこいつを飲んでも平気な男はそりゃもう……格好いいぞ?」

「う゛……うん、わかった。頑張るよ、変なおじさん!」

「あ、コラッ!」

 

 

女性が起こるも急いで子供は外に出ていく。走り回るにはもう少しかかると思っていたのだが、案外彼が元気になるのはもう少し早いのかもしれないと青年は考えた。

 

 

「すみません先生、あの子が変なことを……」

「なーに、慣れとるよ。ほい次じゃ次、おぬしらもさっさと症状見せんかい」

 

 

そう言って訪れる人たちの様子を見ていく青年。次々と経過を観察し、必要なら追加で処置を行っていった。

 

……そう、青年だ。ここで彼の容姿について記述しよう。

 

容姿は10代後半だろうか。徐々に大人になっていく過程を感じ取れるがどこかまだ幼く、ややツリ目で短くまとめられた黒髪はオールバックになっている。そしてその口元には髭が付いていた(・・・・・)

 

そう、生えているのではなく付いているのだ。どこからどう見ても、それは付け髭だった。いっそ大げさに言うと、海軍の象徴でもあるカモメのマークを上下反転したかのような大きな白髭、彼はそれをつけていた。そしてあの口調、彼がこの島を訪れた時からずっとそうだったので、それが彼本来のものなのだろう。

 

 

 

 

 

――まぁ簡単に言うと、どこからどう見ても変な人であった。子供の言うことは何も間違っていないのである。実際に女性も変なこととは言っているが否定しているわけではないので、内心同じことを考えていたのだろう。

 

 

 

 

 

「よし、もうみんな良さそうじゃな。……全く、新世界のウイルスなんぞどこの馬鹿が持ち込んだのやら」

「本当にありがとうございます、先生。先生が来てくれなかったら俺たちはどうなってたことか……」

「ガハハ、気にするな。こういった直接医師が出向きにくい島からのSOS。それを偶々わしの助手が受け取ったからこそ、こうして来れたんじゃからな。間に合って本当によかったわい」

 

最後の男性の診察が終わり、満足そうに青年がつぶやく。それに対し診てもらっていた男性は深くお辞儀をしながら感謝の言葉を伝え、青年は笑いながら返事をした。

 

そして道具を片付けてながら貰った地図を眺めていると、再び男性が口を開く。

 

 

「それでも、本当にありがとうございます。ここは海軍支部からも遠いし、最近じゃあ海賊が目撃されたみたいで船を出すのも難しく……」

「海賊ならしばらくは大丈夫じゃよ。……さて、それじゃ迎えもそろそろ来そうだしわしは行くぞ」

「え?……あれ、そういえばメアリーさんはどこに?」

「あ奴ならもう海岸におる。今頃いつものように歌っとるんじゃないか?」

 

 

そう言いながら荷物を詰め込んだリュックを背負い、建物を出て海岸に向かって歩き出す。自分が今日島を出ることは島民には伝えてあるが、見送りは不要とも伝えてある。それに挨拶は先程までの回診で終わらせてあるので、もう後顧の憂いは存在しなかった。

 

そのまま歩いていく青年の姿を見ていた男性は大きく手を振りながら、あらためて感謝するために大きく口を開く。

 

 

「ウェイス先生、ありがとうございました! あんたは俺たちの恩人だ!!」

「――――フッ」

 

 

男性のほうに振り向くことはなかったが、右腕を上げることで答える青年――ウェイス。

 

それを見送った男性は振り向き、改めて彼がいた建物を見上げる。緊急で作った割には意外と様になっているその建物の表札には、こう刻まれていた。

 

 

――ウェイス診療所――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……ふむ、やはり来ておったか」

 

 

島の港とは反対側の海岸。その砂浜までたどり着き、ウェイスは目の前に広がる光景を見ながら髭に手を添わせて呟く。

 

彼の視界、そこには男性が複数人映っていた。そして視界の端に大きな船――海賊船もあることから、彼らはすでにこの島に人がいることを把握していたみたいだ。

 

 

「え~と……お、『血染めのザハル:懸賞金1億900万ベリー』か。こいつ確か新世界に行ってたはずじゃが……ノコノコと戻ってきてたんじゃな」

 

 

てことは、原因こいつらじゃね? 内心そう思いながら、ウェイスは彼らをじっと見つめる。手配書をめくりながら顔を照らし合わせていくと、全員かはともかくどうやら幹部級以上は全員いるようだ。

 

 

 

 

 

――さて、彼はこうして手配書一覧から探して眺めるくらいにはのんびりやっている。

 

なのになぜ、海賊である彼らが手を出してこないのか? 

そもそもなぜ、彼らは一言も口を開かないのか?

 

 

『…………』

「ハ、のんきに眠りおって。さて、あ奴はどこに……『~~♪』……あっちのようじゃな」

 

 

その理由は簡単、誰も声を発せる状況では無いからだ。

 

砂浜にいる海賊、総勢27名。そのすべてが倒れており、眠っていた。しかし見たところ傷一つなく、その全員が寝息を立てていることから間違いなく生きている。

 

その様子を確認したウェイスは先程から聞こえていた歌声に耳を澄ませ、方向を割り出す。そしてその方向へ歩き出してしばらくすると、その先は岩場になっていた。

 

そしてその中でもひときわ大きな岩、その頂点に座って歌っている少女を視界に収めた。

 

 

『~~~~♪』

「……全く、気持ちよさげに歌いおって」

 

 

彼女は近づくウェイスに気づくことなく、目を閉じて歌っている。その儚げなようで力強い声を聞き続けたい気持ちに傾きそうになるがそれをこらえ、彼は声をかけるために口を開く。

 

 

「おい、メアリー!」

「~~~~♪」

 

 

しっかり声が届くように呼び掛けてみたが、フードをかぶっている少女の顔がこちらに向くことはない。

 

 

「メアリー、聞こえんのか!?」

「ッ、~~~~♪」

 

 

肩が一瞬ピクリと動く。しかし変わらずウェイスのほうに向くことはなく、歌い続けていた。

 

どうやら呼び掛けていることには気づいているのだが、なぜか気づかないふりを続けているらしい。そしてその原因に心あたりのあるウェイスは大きくため息をつき、再び口を開いた。

 

 

「ハァ……返事をせんか、ウタ!!

 

「……あれ、ウェイス。もう終わったの?」

「全く……いや、結構時間たっとるぞ。後、砂浜の連中は新世界から戻ってきた海賊じゃ。多分じゃが、今回の原因はあ奴らが一端を握っとるじゃろう」

「……そっか。じゃあこの島の人たちはもう大丈夫なんだね?」

「あぁ。すでに薬は予備を含めてあるし、わしのところにつながる電伝虫も渡してある。もう病に苦しむことはそうないはずじゃ」

 

 

そう呟きつつ、少女は岩から飛び降りる。危なげなく砂浜に着地した彼女はウェイスの話を聞いて少し悲しげに微笑み、両腕を後ろに組んで返事をした。

 

それを見つつも指摘することはなく、ウェイスは歩いてきた道から戻るために振り返って歩き出す。それを見た少女も小走りで彼の隣まで行き、並んでから歩き出した。

 

 

「おぉ、そうじゃった。ほれ」

「え?……これって、貝殻にガラス石?」

 

 

そう言いながら少女がウェイスから手渡されたものを眺める。それらと一緒に小さな紙がつけられてあり、『メアリーお姉ちゃん、ありがとう!』と書かれていた。

 

 

「子供たちからだ。楽しかったと言っておったぞ」

「そっか……うん、本当によかった」

「あぁ、気づけて本当によかった。お手柄じゃぞ、メアリー」

「私はなにもしていないよ、あの電伝虫がたまたま電波を拾っただけ。……て言うか、なんでまたそっちの名前で呼ぶの?」

 

 

先程まで嬉しそうに微笑んでいたというのに、急に口を膨らませてウェイスを睨む少女。おそらく周りに誰もいないのに偽名で呼んだことが不服だったのだろうが、彼はそれに動じることなく口を開いた。

 

 

「いつどこで誰が聞いとるかなんぞわかったもんじゃないわい。もうすぐ海軍が迎えの船をよこすだろうし、用心に越したことはないじゃろうて」

「えー?……イーッ、ウェイスのケチ!」

「コラ、お前はわしの助手という体で来とるんじゃから『さん』か『先生』をつけんか!」

「ウェイスが私をちゃんとウタって呼ぶまでつけませーん!」

「そんなことは自分の知名度を考えてから口にせぇー!」

 

 

ギャイギャイ言い合いながらも砂浜に戻る二人。しかし仲が悪いという訳ではなく、どちらかというとこの言い合いもコミュニケーションの一種のように感じ取れた。

 

 

 

 

 

見た目だけなら男女のような。

話だけなら兄妹のような。

雰囲気だけなら親戚のような。

 

 

――これはそんな二人が世界をめぐり、様々な出会いとつながりを重ねていく様子を綴る物語である。

 

 

 


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