試作小説保管庫   作:zelga

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突撃!お前が晩御飯




試作その5 第6話

 

光が収まり、紫電も消え去る。その中心にいた存在は、再び姿が変わっていた。

 

先ほどの用に纏っている全身鎧。しかし先ほどとは違う点が二つある。

 

一つはその周囲を覆うように浮きながら回転している鎖。そしてもう一つはその手に握っている、一振りの剣だった。

 

異様な雰囲気を放つ西洋剣、もし彼の意識があれば、それは夢の中で見たあの剣と同等のものと判断していただろう。

 

 

『……デハ、ハジメヨウカ』

 

 

その言葉とともに、高速で上空へ飛ぶ。

 

勢いよく飛んだそれは天井を突き破り、建物や地面を抉りながら上昇していく。

 

そして数秒もたたないうちに、遺跡の中よりその姿を現した。

 

 

『ミテイルノダロウ? サッサトデテコイ』

 

 

その言葉が周囲に響く。その後、周りの空間が歪みノイズが出現する。

 

辺りの空間を覆い尽くすほどのノイズ。明らかに先ほどよりも数は多く、優に千は超えているだろう。

 

それらを一瞥し、剣を上へ翳す。

 

 

『サア、トクトミヨ。ダインスレイフノチカラヲッ!!』

 

 

その瞬間剣が輝き、それを中心に黒い球体が本体ごと周囲を覆い尽くしていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここ、は……?」

 

 

異様なほどの悪意にのまれ気を失った俺は、気づけばまた違う空間にいた。

 

先ほどまでいた遺跡でもなく、夢の中の荒れ地でもない。今いる場所は草原、そのとある木の根元に座っていた。

 

 

「っ、僕にはまだ足りないということなのか……?」

『そうだ。意志と覚悟、それらがなければ我々は制御できない』

「…………ニヒトか」

 

 

その声が聞こえ、横を見る。いつの間にか、僕のすぐそばに少年が立っていた。

 

 

『我々は災厄の魔剣。己を律する心がなければ、飲まれるだけだ』

「その結果がこれ、か。……まったく、あれだけ大層な事を言ったというのにな」

 

 

その言葉に思わず寝転がる。

 

俺ならばあの憎しみを律しきれると思っていた。僕ならば、あの力を扱い切れると思っていた。

 

……結局のところ、俺が手に入れたのは力だけだったということ、か。

 

 

「全く、嫌になる。……さてニヒト、答えてもらうぞ」

『なにを?』

「ここから出る方法を、だ」

 

 

恐らく今の俺は暴走しているはず。このままでは周囲への被害がどれほどになるかわからないのだ、今すぐにでも戻らなければまずいだろう。

 

 

『その問いには答えることはできない』

「なぜだ。まだ俺がお前たちの祝福を理解できていないからか?」

『それもある。だがそれと同時に、そもそも私はお前をここに連れてきていない』

「なんだと?」

 

 

そう言うとニヒトは僕から目をそらし、木の上を見る。それになぞって僕も見ると、そこには僕たちとはまた別の存在が木の枝に座っていた。

 

 

『私たちを連れてきたのは、奴だ』

「話は終わったかな?」

 

 

中性的な声が聞こえる。それとともにそいつは木の枝から降り、僕たちの前に着地した。

 

大きな白い布を被ったかのようなシンプルな服を着て、周りにある草原のような若草色の髪を腰まで伸ばしたそれは、男性とも女性ともとれる中性的な顔つきをしていた。

 

 

「……何者だ」

「やれやれ、ボクを起こしておいて第一声がそれかい?」

「なに……?」

 

 

俺がここ最近で起こした存在、そんなもの1つしか心当たりがない。

 

 

「まさかお前……エンキドゥか?」

「そうだよ。初期状態こそ鎖になっているがボクは本来は泥の野人。自我を持っていても不思議ではないだろう?」

「ということは、その姿が人型の君か」

「似て非なるが正しい、かな。あの時、君の擦れた記憶の中を覗いてこの姿と性格を参考にしたのさ」

 

 

そう言いながら自分の姿をまじまじと見るエンキドゥ。気に入ったのだろうか、その様子はどことなく楽しそうだ。

 

 

「うん、やはりこの姿もいい」

『それで、なぜ私たちをここに呼びだした?』

 

 

業を煮やしたのか、ニヒトが問う。その様子はどことなく焦っているようでそれをいぶかしんでいると、エンキドゥがにっこりと笑う。

 

 

「ここに呼んだ理由は簡単さ。こんなところで君に消えてもらうわけにはいかないからだよ」

「なんだと……?」

「嘘だと思うなら聞けばいいさ。だからあの子も呼んだのだから」

 

 

一度の暴走、それだけで? そう思った僕に、エンキドゥはそう言葉を加える。

 

それを聞き、ニヒトを見る。彼もまた、僕をただじっと見ていた。

 

 

「……俺は、あのままだと消えていたのか?」

『…………』

 

 

その問いに対し、ニヒトは答えない。それだけでも、僕が真実を知るには十分だった。

 

 

「そうか……」

「事実、君という存在はほとんど消えかけている。ボクがこうして呼び寄せることができたのも、彼が守った君を象るほんの一部だ」

『っ、エンキドゥ!』

 

 

 

 

 

「……どういう、ことだ?」

 

あっさりと言われたその言葉。事実を受け止めるのに、僕は少し時間がかかった。

 

認めたくないという思いとともに放った俺の言葉に対し、エンキドゥからの回答は淡々と告げられた。

 

 

「そのままの意味さ。今ここにいる君には、鮮烈な記憶しか残っていない。楽しかった思い出や日常の記憶は、先程の暴走で(・・・・・・)ダインスレイフに焼き尽くされた(・・・・・・・・・・・・・・・)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ショセン、コンナモノカ……』

 

 

その言葉とともに、掲げた剣を下ろす。その周囲の光景は、数分前から一変していた。

 

厳かな雰囲気を発していた遺跡は破片も残らず、ノイズは一体残らず消滅し、周りの大地は抉られたかのように凹んでいた。

 

 

『マダダ、マダタリナイ……!』

 

 

その言葉とともに、両手から紫電がほとばしる。それらは無秩序に周囲に放たれ、自然を破壊していく。

 

そしてその途中で気づく。かなり遠いが確かに感じる、自身と近い存在を。

 

方向を変え、それに向かって飛んでいく。あまりの速度に、通った後は衝撃波で付近の物が吹き飛んでいく。

 

 

『サラナルタタカイヲ、サラナルニクシミヲ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そんな馬鹿な、俺は今だってこうして家族との思い出を……!?」

 

 

そこまで言って、愕然とする。

 

思い出せないのだ、家族の名前を。

 

 

「嘘、だ」

 

 

家族がいたのはわかる。だが名前は思い出せず、思い出の映像は顔の部分に霧がかかって見えない。

 

 

「嘘だ……」

 

 

あの日、目覚めた時以降の記憶は残っている。しかしそれ以外だと明確に残っているのは一つしかなかった。

 

それは、ノイズに家族を消された瞬間のみ。

 

 

「嘘だ……!」

 

 

それ以外の記憶は、何一つ思い出せなくなっていた。

 

自分を象っている、名前すらも。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だああああぁぁぁぁぁ!!!!」

 

 

 

 

 




まさかの目標1つとも達成できなかったぜ()

次回こそ奴を食べたいなー


※多機能フォームではルビ振りできているのに、実際に見ると何故かルビ振りができてない。なぜなんじゃ……

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