試作小説保管庫   作:zelga

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覚醒、戦闘



試作その5 第4話

 

 

 

『どうした≪ーーー≫、≪ーーー≫? 置いていくぞ?』

 

 

 

声が、聞こえる。

 

とても懐かしく、とても暖かい声が。

 

 

 

『今いくよ! ほら≪ーーー≫、行くぞ』

『うん!』

『あらあら、飛行機で疲れたでしょうに。二人とも元気ね』

 

 

 

なんてことのない会話。それがひどく、心地よい。

 

まるで陽だまりの中にいるような感覚。ずっとここにいたいと感じてしまう程、気持ちのいい感覚。

 

それを感じつつ目を開けると、目の前にいる男の子が正面の男女に向かって質問していた。

 

 

『……なぁ父さん、母さん』

『うん?』

『何かしら?』

『これ、いつまで続けるつもりなんだ? 歌で争いをなくすなんて普通無理じゃないのか?』

 

 

……あぁ、懐かしい。そう言えば俺は以前、こんなことを両親に聞いたことがあった。

 

両親の夢。歌で争いをなくすという夢。それを聞いた時、そんなことできるわけがないと思った。

 

だからこそ聞いた。そんな夢のために様々な国を飛び回っている両親に。

 

 

『≪ーーー≫は父さんたちの夢は変だと思うか?』

『変じゃないよ、争いがなくなってほしいとは俺も思ってる。でも、それができるなんて本気で思っているの?』

 

 

目の前の少年ーーーかつての自分が言った言葉に思わず苦笑いを浮かべる。

 

あまりにも遠慮のないものいい。【俺も思ってる】などと言っておきながらその言い方は【叶うはずがない】と言っているようなものだ。

 

 

 

『ハハハ、≪ーーー≫は遠慮がないな』

『っ……で、どうなんだよ?』

『そんなこと、決まっているさ』

 

 

そう言いながら目の前の男性ーーー俺の父親はかつての自分に近づき、頭に手を乗せて口を開く。

 

 

『思っているとも。本気で叶うと思っている。だからこそ、父さんと母さんは世界を回り続けているのさ』

『……でも、そんな世界なんて夢物語じゃないか』

 

 

父さんの言葉に嘘はない。それを直感したからこそ、目の前の自分は俯きながらそう呟く。それを見た女性ーーー俺の母親は穏やかな笑みを浮かべて俺を抱きしめ、当たり前のように言った。

 

 

 

 

 

『何言ってるの≪ーーー≫。夢っていうものはね、見るだけじゃなくて叶えるためにあるものなのよ?』

 

 

 

 

 

ーーーあぁ、そうだ。俺はこの言葉で覚悟を決めたんだ。

 

 

その言葉があったからこそ、俺は彼らがこの世界で生きている存在であることをを実感できたんだ。

だからこそ、夢物語だと思って隠していたものを実現させようと決めたのだ。だからこそ、定められた運命に抗おうと決めたのだ。

 

 

そうだ。俺が欲しかったのは…………。

 

 

そう思いつつ、両親の顔を見ようと一歩踏み出す。そしてーーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー目の前の風景が一変した。

 

 

「…………っ!」

 

 

燃え盛る大地、崩れ去る建築物、響き渡る悲鳴、うごめくノイズ。この世と地獄といえるものが、目の前には広がっていた。

 

 

 

 

 

……あぁ、忘れるものか。思い出が消えていく中、魂に刻まれたかのようにこの風景はハッキリと覚えている。

 

この風景こそ、まさしく運命の分岐点だったのだから。

 

 

「……これが俺の過去だというのなら!」

 

 

そう叫び、飛翔する。そして高速で飛び回りながら生存者を探す。

 

……いや、違う。俺が探しているのは生存者ではなく、まだいるかもしれないあの人たちだ。

 

 

 

あの時、ノイズ共が襲撃してきた時。混乱のせいで俺は家族とはぐれてしまい、合流できた時にはすべて終わってしまっていた。

 

 

「だが今なら、この力を手に入れた今の俺ならば……!」

 

 

 

 

 

そして探し出すこと数分後、僕はそれをついに見つけた。

 

人影に近づくノイズ。覚悟を決めたのか、決して目をそらさずにノイズを睨みつける二人の人影。

 

その光景を見た時、俺の行動は既に始まっていた。

 

 

「二人から、離れろおおおおおぉぉっ!!」

 

 

全速力で飛び蹴りをノイズにぶつける。奴らが実体化しているのは確認していたので、手加減など一切ない蹴りだ。

 

不意打ちだったのか、ノイズに攻撃が通る。消すには至らなかったもののノイズは吹き飛び、後方の建物にぶつかってガレキが奴に落ちていく。それを確認した俺は振り返り、二つの人影と対峙する。

 

その二人は突然ノイズを撃破した俺を見て驚いているのか、こちらをジッと凝視していた。それを確認できた時、歓喜の感情が溢れ出てくるの感じた。

 

 

「ふ、ハハハ…………」

 

 

あぁ、やはり俺は間違っていなかった。

 

運命をも覆す圧倒的な力。この力さえあればーーー!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ハハハハハ…………な?」

『父さん、母さん! ……え?』

 

 

こちらを見ている二人、彼らの色彩が急速になくなっていく。徐々に黒に染まっていく肉体には、ひびが入りはじめていた。

 

それを確認した二つの存在。一つは呆然と立ち尽くし、もう一つは二人へと駆け寄っていく。

 

 

「なぜだ……ノイズには触れられていないはずだ!」

『いやだ、そんな……! いなくならないで!!』

 

 

思わず叫ぶも、運命は変わらない。急いで俺も近づこうとするが、背後から悪寒を感じ振り向きながら蹴りを放つ。それは紐状となり襲い掛かってきたノイズとせめぎ合い、そのままノイズを粉砕する。

 

 

 

 

 

その直後、背後で何かが崩れ去る音がした。

 

 

『あ、あああ…………ああああああああああああああアアアアアアアアアアアアアアアアァァァァァッッッ!!!!』

「なぜだ……俺は何のためにこの力を…………ガッ!?」

 

 

嘘だ、嘘であってくれ。またあの光景を見てしまうのかと考えた瞬間、激しい頭痛が僕を襲う。

 

あまりの激痛で崩れ去るなか、俺の見知らぬ光景が浮かんでくる。

 

 

 

ノイズに消される光景。

逃げていく中、同じ人間に見捨てられてしまう光景。

崩れ去る建築物に押しつぶされる光景。

 

 

 

様々な光景が浮かんでは消えていく。不可解なのは光景だけではなく、その時感じたであろう痛みと感情が俺を襲っているということだ。

 

痛い、苦しい、死にたくない。種類こそいくつかあるが、そのすべてが黒い感情で埋め尽くされていた。

 

そしてその中で一際強く、どす黒い感情が何度も頭の中で反射する。

 

 

『憎い』

 

 

 

 

 

ノイズが憎い。ここで死んでしまう運命が憎い。自分を見捨てた人間が憎い。

 

 

「ぐ……!」

 

 

フザケルナ、ナンデワレワレガコンナメニアワナケレバナラナイ?

 

 

「や…………めろ……!」

 

 

憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎憎ーーー

 

 

「やめろおおおおぉぉぉっ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

どれほどの時間が経ったのか、わからない。耐えきったのか、はたまた気を失ったのか。あれほど激しかった頭痛や憎しみの奔流は収まり、目を開けると周りの風景は再び一変していた。

 

 

 

そこは異様な光景だった。とても広い荒れ地。草木など一つもなく、人どころか生物も全く見当たらない。他にあるものと言えば、所々に散らばっている結晶の破片くらいだろうか。

 

こんどはなんだ、そう思いながら立ち上がる。そして前方を見ると、そこには一つの剣が地面に突き刺さっていた。その刀身は黒と赤を基調とし、根元で交差しつつ西洋剣のような剣状をしていた。

 

それを見た瞬間、胸元が熱くなる。見ると、結晶が今までよりも強く輝いていた。

 

 

「……お前が俺をここに呼び寄せたのか?」

『そうだ』

 

 

背後から聞こえる声に素早く振り返る。するとそこには一人の少年ーーー数年前の僕が、こちらを見ていた。先ほどとは違い、目の前の少年はまるで仮面の様に無表情だ。

 

 

「……なぜ、俺にあの光景を見せた?」

『それが我々が君に与える祝福だから』

「祝福、だと……?」

 

 

放たれた解答に思わず聞き返す。

 

あれほどの憎しみと怒り、それらがどうなったら祝福となる? まるで意味が分からなかった。

 

 

「ふざけるな。俺にとってあれがなぜ祝福になる?」

『求めたのは君だ。だからこそ、我々は君を祝福している』

「俺が……?」

 

 

俺がこいつに求めたことなんて一つしかない。しかしそれがあれにつながるとでも言うのか?

 

そう考えている間に少年は立ち位置を変え、剣の前に立つ。そして俺を見て、無表情のまま口を開く。

 

 

『欲しいのだろう、圧倒的な力を?』

「あぁ……」

『手に入れたいのだろう、運命をも覆す力を?』

「あぁ……!」

 

 

声に力が入る。先ほどの光景のせいか、奴らに対する憎しみが知らずと湧き上がってくる。

 

だがそれを止めようとは思わない。俺もまた、あの日から奴らを憎み続けているのだから。

 

 

『……良き想いだ。その想いがある限り、私は君と共にある』

 

 

そう言いながら少年は初めて笑う。そして横にずれ、僕に剣までの道を空ける。

 

それを一瞥し、俺は剣に向かって歩き始める。途中横目で少年を見るが、先ほどとは違い再び仮面のような無表情に戻っていた。

 

そして剣の前に立ち、その柄を握る。

 

 

『覚悟せよ、≪ーーー≫。我々の祝福を受け入れれば最後、君はもう完全に戻れなくなる』

「覚悟だと?……なめるな。覚悟なんて、あの日にすでに済ませている」

 

 

背後からの忠告に、前を向いたまま答える。そして手に力を込めーーーー

 

 

「……最後に一つ、聞いて言いか?」

『なんだ?』

「お前の名は?」

『我々の名称を伝えることはできない。だが、そう遠くないうちに自ずとわかるだろう』

「……」

『だが、私の名は君に伝えよう。聞け、私の名は……』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……これにて契約は結ばれた。君がここにいる限り、私もここで力を与えよう』

 

 

ーーーその剣を引き抜いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

煙が晴れてくる。あれほどの衝撃なら、あの人間を仕留められただろう。

 

思考があるのかはわからない。しかし複数のノイズは先ほどまで戦っていた相手に追撃を加えようとはせず、台座の方を見つめていた。

 

そして1体、また1体と爆心地から離れ、台座の方へと近づいていきーーー

 

 

 

 

 

「どこを見ている? 俺はまだここにいるぞ」

 

 

ーーーその声が聞こえた時、その場にいたノイズは全て炭へと還っていった。

 

 

その場にいる唯一の存在。その姿は異形であった。

 

まるで1つの生命体のような全身を覆う機械鎧。胴体は体に沿うように細いシルエットだが、手足はその強さを物語るように肥大化している。そして翼のような形状をしたユニットからは、複数の小型機器が羽のように生えていた。

 

そして何よりもその存在を物語るのに必要なことは、その色だ。

 

黒、という言葉では足りない。

漆黒、でもまだ足りないだろう。

 

闇、虚無。このあたりでようやく表現できると言えるほどのものが全身を覆っていた。

 

それは周りを見渡す。すると空間が歪み、大量のノイズが現れる。

 

 

「随分と多いな。ざっと数えても百はくだらないか」

 

 

普通ならば生存を諦める状況。今までなら逃げていたであろう状況。しかし大量のノイズを目にしている今は、自分でも驚くほど冷静になっていた。

 

 

「さて、これが僕たちの初陣になるわけだが……負ける気がしないな」

 

 

モノアイが赤く輝く。お前たちを逃がさない、そんな思いが無機質なモノアイには宿っていた。

 

 

「始めようか、ノイズ共。後悔する間も与えるつもりはない」

 

 

言い終えたのち、静かに目をつむる。無機質な荒野で、あの少年がこちらを見ているのが瞼の裏に映る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ーーー行くぞニヒト、鏖殺だ。

 

 

そして目を見開いて全速力で飛び出し、ノイズの海へ飛び込んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『……そうだ、それでいい。これで君はより長く、より多く、戦える』

 

 

 

 

 




お宝ゲット&【】BOU☆SOU

次はこんな感じ。

見た目のイメージは✝虚無の申し子✝の1期verです。それがシンフォギア世界でも違和感ない程度にオミットした感じ。


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