試作小説保管庫   作:zelga

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シリアス風味でいきたい


試作その2 第8話

 

あの戦いから1年と少し経った。

 

あれ以降妖怪の襲撃の頻度は減少したが、目に見えて規模が増大していった。

原因は言うまでもなく土蜘蛛だろう。あいつが統制を取り始めてから、妖怪共もただ突撃するのではなくいろいろな戦術を使い始めた。

 

以前のように奇襲をかけて一気に殲滅できればいいのだが、俺はあの戦い以降完全に奴に目をつけられたらしい。戦いに出るたびにどこからともなく現れて俺に一対一を仕掛けてくる。

 

最初の頃は苦戦して、奴の攻撃を防御するのが精いっぱいだった。だが、回数を重ねるうちに反撃に出れるようになり、今ではほぼ互角と言っていいだろう。

 

こういう言い方をするとあれだが、俺は土蜘蛛との戦いを楽しんでいる。日に日に自分の実力があがっているのを感じていて、土蜘蛛との戦いを望んでいる時すらあるのだ。そして土蜘蛛は俺との戦いを心の底から楽しんでいる。

奴の攻撃を受け止めた時、奴を傷つけた時、体を再生させて立ち上がった時。そう言った時、土蜘蛛からは心の底から歓喜の感情を感じ取れる。

 

 

 

はっきり言うと土蜘蛛は強い。巨大でありながら一瞬で間合いに入ってくるほど俊敏であり、その一撃は岩であろうと打ち砕く。さらにそれを嵐のように放ってくる。防衛隊に一般的に配布されている武器では傷などつかず、ワームスフィアで抉った傷も次あった時には全快しているほどの再生力。それに憶測だが奴も何か能力を持っているとみて間違いないだろう。

 

それほどの力を持っているのだ。あいつとたたかえるやつなどこの時代で、いや、人類でいるのだろうか。

 

向かうところ敵なしな土蜘蛛は長い間望んでいたのだろう、自分と本気をで戦える強敵を。

まぁ、それが人でも妖怪でもない俺だったというわけだ。

 

ある時になぜこの都市を狙うのか聞いてみたことがある。妖怪は大概人間を食うために来ているのだが、なんとなくだが土蜘蛛は違う気がしたのだ。それに対した奴の返答はこうだった。

 

 

 

『あぁ?そんなのつええ奴と戦うために決まってるだろ。最初はここの神とやりあうつもりだったんだがな』

 

 

 

・・・なんというか、ものすごく土蜘蛛らしい考えだった。

 

 

その結果防衛隊vs妖怪というよりも、俺vs土蜘蛛という感じになってきている。というか、土蜘蛛のほうは絶対そうなるよう指示をしているに違いない。まぁ俺も、土蜘蛛には手を出すなと言っているのだが。

 

ただここで少し問題がでてきた。俺と土蜘蛛の戦いが激しすぎるせいでここら辺一帯が荒れ地になりつつあるということだ。俺も土蜘蛛も戦闘に夢中になるので周りへの被害を一切考慮しない。俺たちの戦いに巻き込まれて負傷した奴も両陣営合わせて結構な数いるだろう。

 

 

 

 

 

まぁそん感じで日々を過ごしていったある日の夜。ここ最近は妖怪の襲撃もなく、平和だが少し退屈な日々を送っている。

 

永琳も今日の仕事が早めに終ったらしく、若菜ちゃんも家に帰っている。そんなわけで、久々に二人きりだ。そんわけで俺たちはコーヒーを飲みながらかるい談笑をしている。

 

そして話し、飲み物のお代わりを入れたところで俺は本題に入ることにする。

 

 

「永琳、都市の人間全員が月へ移動するってのは本当か?」

「・・・なぜそれを。って聞くのは野暮かしら」

「当たり前だ。町中噂になってる。で、どうなんだ?」

「えぇ、本当よ。近々正式に発表があるわ」

「そうか、そいつは残念だな。ここでの暮らしは結構気に入っていたのだが」

「確かにね。けど、月での暮らしもいいと思うわ。・・・それで、あなたはどうするの?」

 

俺がどうするか?

そんなの決まっている、というよりそれしかないと俺は思う。

 

「・・・おいおい、そんなの無理に決まってるだろ。実のところ計画の理由まで俺は知ってる。確かに俺は妖怪じゃないが、人間じゃないし、ましてや神様でもない。そんな俺が穢れを拒む月に行けるわけがない」

「でもあなたは穢れを持っていない」

 

永琳の言う通りだ。それでも、俺は月に行くつもりはない。

 

「あぁ、そうだな。だが俺はいわゆる“無”だ。何者でもないが、何者にでもなれるんだよ。俺が穢れになる可能性は低くない。・・・それに、俺はこの星が好きなんでな」

 

そう言いながら俺は再びコーヒーを飲む。

 

う~む、苦いが美味い。

 

そう。試行錯誤した結果、俺は味覚を取得することに成功したのだ。味覚の際現に成功した後食べたクッキーはとてもおいしかった。

やはり食事は素晴らしいと改めて実感したっけな。

 

「・・・そう、寂しくなるわね」

 

そう永琳は静かにいう。その言い方は、最初から俺が行かないことを知っていたかのようだった。

 

だがそのすぐあと、寂しいという感情を彼女から少し感じた。

・・・なんか、少し罪悪感を感じてしまうな。

 

「あ~・・・悪いがこのことは若菜ちゃんたちには黙っておいてくれないか?ギリギリまでこの日常がほしいんだ」

 

気まずそうに俺が言うと、永琳は意外そうな顔で俺を見た。 そのあと、笑みを浮かべながら永琳は答える。

 

「えぇ、わかったわ。でもそのかわり・・・」

「そのかわり?」

「いつか必ず会いに来なさい。その時に若菜達からこってり絞られなさいな」

「ハハッ、それは大変そうだ」

 

そう言いながら俺は外を見る。今日は月や星がよく見えるいい夜だ。

だが、ふとした拍子に寂しいと感じた。ここから先しばらくの間、俺は多分独りになる。そう考えてしまうと、何だが不安になってしまった。

 

だからだろうか。自分でも無意識の間に、俺は永琳に聞いていた。

 

「・・・なぁ、永琳」

「なに?」

「お前は俺のこと、覚えていてくれるか?」

「・・・えぇ、あなたみたいなのを忘れるわけがないわ。ずっと、覚えてる」

「そうか。・・・ありがとう」

 

不思議と、不安は消え去っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして数日後、月移転計画は実行に移された。

 

都市の住人が乗ったロケットが次々に発射されていく。

だが、どこからかぎつけたのか、妖怪共が今まで見たことない規模で襲撃をかけてきたのだ。

 

俺たち防衛隊の仕事はロケットがすべて発射されるまでの間、奴らを食い止めること。

 

「グギャアアアアアアァァ!!」

「・・・ったく、これで一体何体目だ?」

 

少なくとも50は超えているだろうな。そう思っていると部下の一人がこちらに走ってくる。

 

「隊長、すべてのロケットが無事発射しました!」

「よし、聞いたなお前ら!早く乗れ!」

『了解!!』

 

連絡を切った俺は周りを見渡す。さっきまで暴れまわっていたおかげで妖怪の姿はない。乗るなら今がチャンスだろう。

 

「全員乗りました、隊長も早く!!」

「そうか。・・・すまんが、俺はここでお別れだ」

「隊長!?」

 

何か言ってくるが俺はそれを無視してロケットを同化する。

すると継ぎ目の部分に結晶が生え、内側からでは開けられないようにする。ついでにプログラムも乗っ取り、すぐに月に発射するようにした。

 

今回はロケットだけを同化したので、中の仲間は全員無事だ。

 

「俺はお前らとはいっしょに行けない。それに、倒さなきゃならん奴がいる」

「しかしそれでは隊長が!?」

「俺のことはいい、もうじき最終フェイズになる。じゃあな、楽しかったぜ」

「・・・隊長、ご無事で!」

 

そして防衛隊のロケットが発射される。これでここに残っているのは俺だけだ。

 

さて、いい加減向こうにいるあいつに会いに行くとしますかね。

なぜか奴はこの戦いでは真っ先に俺のところには来ず、ある場所からずっと動いていない。

 

俺は二振りの武器を持ち、奴のところへ移動した。

 

 

 

 

 

「よぉ、もういいのか?」

 

そう言いながら奴は瓢箪の酒を飲む。だがそこから発せられる気迫は今まで以上だ。

 

「あぁ。わりいな、今まで待ってもらって」

 

そう言いながら俺も武器を構える。

 

「問題ねえよ。これで・・・これでよぉやく本気(ガチンコ)で殺りあえるんだからよぉぉぉぉぉ・・・!!」

 

そう言いながら奴は立ち上がり、体をかがめ、腕を地面につける。

いわゆる、相撲のはっけよいの時の構えだ。

 

「本気・・・?今までのは本気じゃなかったのか?」

「今までのももちろん本気さ。だが、今は違うぜ」

「というと?」

「オレの能力さ。『飢えるほど強くなる程度の能力』、それがオレの能力だ」

「・・へぇ、じゃあここ最近襲いに来なかったのも?」

「そうだ。俺はこの一ヶ月、おまえと戦わないことで、飢えていた。お前と戦いたくて、しょうがねぇんだ。そういうもんを、今日までずっとためてきた」

 

そこまで言うと土蜘蛛の気配が変わる。あまりおしゃべりするつもりはないようだ。

 

「あぁ。お前との長い戦いもこれが最後だ・・・いくぞ」

 

俺も意識を集中し、武器と同化する。これは戦ううちにできるようになったもので、これをすることで武器の性能が飛躍的に上昇し、奴の攻撃にも耐えることができるようになる。

 

そして同化した武器のうち、ランスを土蜘蛛に向け、俺は一気に加速する。

 

 

 

「おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおぉぉぉぉぉァァァアアアアアアア!!」

「来いやあああああああああああああああああああああああああああああああっっっっっ!!!」

 

 

 

そこから先は、もはや殴り合いと言ってもよかった。お互いに防御は完全に捨て、相手を倒すことだけを考えていた。

 

俺の右腕が吹き飛べば、瞬時に再構成し奴にとびかかり、切り裂いた。

 

奴の身体が抉れれば、それをものともせずに奴はおれに肉薄し、殴り飛ばした。

 

いつまでも、この戦いが続けばいいと思ってしまう自分がいた。それほどまでに、この戦いは楽しかったのだ。

 

 

 

 

だが、決着は突然訪れた。

 

 

 

ザシュッッッッ!!!

 

俺が突き出したランスが、奴の身体を貫いた。いつもなら表皮で拮抗している間に反撃が来るのだが、抵抗なぞなかった。

 

 

「避けないんだな」

「当たり前だ。こういうの、めったにねえからよ。味あわなきゃな、こんなにウメーもんはよぉぉぉ」

「・・・そうかよ」

 

そして俺は、引き金を引いた。

 

 

 

 

 

俺の目の前に、土蜘蛛が倒れている。

その胸には、風穴があいていた。今はまだそこにいるが、もうじき土蜘蛛はいなくなるだろう。

 

だが俺とて満身創痍だ。肉体と武器は再生させたが精神的に限界で、今にも倒れてしまいそうだった。

 

俺は少しずつ歩いて奴に近づく。すると上から聞いた覚えのない音が聞こえてきて、上を見た。

 

それは、ミサイルだった。

 

あぁ、そういえば都市の文明を残さないよう跡形もなく破壊するんだっけか。もうそんなに経っていたのか。

 

そう思いながら俺は土蜘蛛の近くに行く。そして虫の息である土蜘蛛の方に触れた。するとそこから少しずつ結晶が生え始める。

 

同化だ。

だが、これは今までやってきたのと違う気がする。確証などないが、なぜかそれを確信できた。

 

「・・・俺は、妖怪という種族を理解できなかった」

「だが、おまえとの戦いを俺は楽しんでいた」

「お前は妖怪という存在の恐ろしさを。そして、戦いの楽しさを俺に教えてくれた」

「だから、俺はお前(土蜘蛛)という存在を祝福しよう」

 

そして結晶は土蜘蛛の全身を覆い、そしてーーー

 

 

 

「俺は、おまえだ。おまえは、俺だ」

 

 

 

砕け散った。

 

そして、

 

ミサイルが爆発した。

 

 

 

「ウグッ・・・・・・ガァァ!!」

 

妖怪、植物、動物。あらゆる生命の感情が流れ込んでくる。もはやそれは川から氾濫した濁流のよう。止める暇など、なかった。

 

「これが、痛み。そして、これが恐怖か・・・!!」

 

 

 

 

 

そして、俺の身体は光に包まれた。

 

 

 




次回は、

一気に諏訪神社まで行けたらいいな。


追伸
主人公が持ってる武器は蒼穹のファフナーで登場するルガーランスとレイヴンソードです。

※1,2話で書き終えるつもりが意外と話数が伸びつつあるのでこれ単独で出しなおすことにします。これはこのまま放置。

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