「ドーモ、初めまして。ソウカイヤ・威力部門シックスゲイツ統括部長のゲイトキーパーです。名刺をどうぞ。」
ミラーめいた装束のニンジャ、ゲイトキーパーから名刺を受け取り自身の座布団から見て右斜め前に、名刺入れと隣り合わせて配置する。
おお!ソニックブームの額から汗が一滴、豪華な接待部屋の畳に垂れ落ちる。緊張しているのか!?
(ブッダファック!ゲイトキーパー=サンだと!?あの、のっぴきならないソウカイヤ首領ラオモト・カンの右腕が俺に何の用だ!?まさかとは、まさかとは思うがデイリか?オヤブンは無事なのか?アーッ、ワカラナイ!)
「ドーモ、ゲイトキーパー=サン。ヤバレカバレクラン所属、ソニックブームです。お噂はかねがね伺っております。名刺をどうぞ。」
ヤバレカバレクラン・ヤクザバウンサー、決断的武力、頼りになる。等のコトダマが力強くショドーされた名刺を、奥ゆかしく両手で渡す。普段の何倍も丁重なアイサツだ!レンドリース・キャットめいて大人しいソニックブーム!コワイ!
「頂戴いたします。では早速、本題に入らせて頂きたく思います。今日の用件なんだが、簡単に言うならばヘッドハンティングといったところだ。勿論、オヤブンの許可は得ている。後は君の意志次第なんだが...」
「ヘッドハンティングと申しますと?」
ソニックブームは内心の焦りをソンケイで覆い隠す。実際幹部ヤクザに就任してからはタフな交渉も何度もこなしてきた。あの日、ニンジャとなったソニックブームは危険な交渉の席にもってこいの人材と言えたからだ。
「私は確固とした理念の下にシックスゲイツを組織した。ともすれば無軌道な暴力の発露に走りがちなニンジャ存在を、ラオモト=サンという清濁併せ呑む器の下に統率し、ニンジャの威力によって混沌のネオサイタマに秩序をもたらすという。」
「アッハイ。」
「これからもニンジャ存在は増加し続けるだろう。それらのニュービーニンジャの管理育成の為、直属の信頼できる部下が必要だ。無論、ニンジャを管理育成する以上は手練れのニンジャでなくてはならない。そこで君だ、ソニックブーム=サン。君の組織人としての力量とカラテを鑑みて、君しかいないと感じた。どうかソウカイヤ秩序の確立に力を貸してくれないか。」
最早、ソニックブームの脂汗は止まらない。明らかにソニックブームをスカウトに来るタイミングが早いのだ。しかもオヤブンは承諾済みだという。何たる根回し、何たる交渉力か!ソニックブームに逃げ場無し!ゴウランガ!ゲイトキーパー!
「...ヨロコンデー」
「おお、やってくれるか!ではソニックブーム=サン、君は今日からシックスゲイツ・ニンジャ人材育成室室長だ。早速明日から、トコロザワピラーに9時までに出勤してくれ。いいね?」
「アッハイ。」
おかしい。なにかがおかしい。実際嵐のように去っていくゲイトキーパーを見てソニックブームは頭を抱えた。
「オヤブン、お世話になりました。」
オヤブンより授かった偉大なるドスダガーを、返す。つまりはソニックブームがヤクザではなくなるということだ。今後はソウカイヤ組織の一員として行動するという、精神的ケジメでもある。
「いや、世話になったのは此方の方よ。そのドスダガーはそのまま持っておけ。」
「オヤブン...」
「盃を。」
オヤブンが隣に控えるオイランから盃を受け取り、たっぷりとサケを注ぎソニックブームに手渡す。ソニックブームは一度くるりと盃を回し、一息にサケを飲み干す。そして今度はソニックブームが盃を満たし、オヤブンに手渡す。オヤブンもまた一息で飲み干した。
「参ったなァ...」
夜半のネオサイタマ。欺瞞的な自然を演出する公園空間にて、ソニックブームは異様であった。昼間はマケグミサラリマンが昼食を摂っているベンチに、どっかりと座り込みZBRタバコを燻らせている。
当然のように周囲は無人。人が来たとしても、ソニックブームに気付くと人が皆怖じ気づいて去っていくのだ。今もモヒカンパンクスがビクつきながら足早に通り過ぎていった。
「アイエエエエ...ヤクザナンデ?」
(まだゲイトキーパー=サンが現役って点から、マルノウチ抗争までは時間が在ると分かった。それは収穫だ。それにしてもなぁ、ゲイトキーパー=サンの思想と俺がボンヤリと考えてた事が実際似てる。確かにつまらんガキをのさばらせるよりか、俺らが管理メント重点する方が遥かにイイ。後はスカウト部門に配属された先で、信頼できるニンジャ戦士が居るといいが...)
「君がソニックブームか?」
カネモチ・ディストリクト的制服を着た...ニンジャ!ニンジャの女子高生!
カラスめいた漆黒の髪、クロスカタナエンブレムのバッジを着けたブレザー、学内規則違反の黒玉色Yシャツにリボン、青い光の宿る瞳。そしてその胸囲は実際豊満だった。しかしその身体に満ちるのは、あまりにもアブナイ過ぎるカラテ!ソニックブームは即座に戦闘態勢に移行!
「アァン?ナンオラー!」
一見、女子高生とヤクザにしか見えない2人が殺気を滲ませる異様な光景!コワイ!たまたま近くにいたサラリマンがしめやかに失禁!
「ドーモ、ドミナントです。そう噛みつくなよ。センセイが直々にスカウトしたっていうから気になって会いに来たんだ。ちょうど入れ違いだったのかな、君の所属していたクランのヤクザに聞いたらココに居るって言うから。」
「ダッテメッコラー?スッゾオラー?ガキはお家帰ってろオラー!」
「ボクはガキじゃない!ドミナントだ!無礼だぞ!」
タバコを捨て、ヤクザシューズで踏みにじり、消す。おもむろに立ち上がると両手を合わせて、オジギだ!
「チッ。ドーモ、ドミナント=サン!ソニックブームです!」
「これだから野良犬は...!どうもボクには君がね、センセイが直々にスカウトして役職を任せるほどのニンジャ人材には思えないのさ。所詮ヤクザなど野良犬!ヤクザ上がりのニンジャなど劣等に決まっている!」
青く燃える瞳がソニックブームを蔑むようにねめつける。
「ダッテメッコラー!ソマシャッテコラー!スッゾオラー!」
「馬の骨めいた野良犬でないと言うならば!カラテを見せろ!」
ドミナントの改造ブレザーからエメイシが飛び出す!即座に青い燐光を放つエメイシを指に装着!何らかのエンハンスメント・ジツがはたらいているのか!?ソニックブームの四肢を狙ってエメイシが飛来!
「スッゾオラー!」
ハヤイ!ハヤイ過ぎるチョップ速度が真空波を起こす!ソニックカラテチョップだ!返す刀で残りのエメイシも全て迎撃!ワザマエ!
「まだまだエメイシは残っているぞ。イヤーッ!」
青い燐光を纏ったエメイシが不規則な軌道でソニックブームに迫る!
「スッゾコラドグサレッガコラー!」
ナムサン!取りこぼしたエメイシがソニックブームの太股に突き刺さる!
引き抜きエメイシを破壊!
この勝負、互いに譲らずだ!
「思ったよりもやるね!ソニックブーム=サン!」
「ソマシャッテコラー!」
ソニックブームの怒りがソウルの力を引き出す!カゼ・ニンジャ由来の精密なカゼ操作ジツでスリ・アシが加速!一瞬でドミナントのワン・インチ距離に飛び込む!コッポ掌打とエメイシの打撃の応酬だ!
「イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤヤヤヤヤーッ!」「イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!イヤッ!...ンアーッ!?」
ワンインチ打撃戦を制したのはソニックブームだ!ワザマエ!コッポ掌打はソニックカラテ技術で風を纏うことで、通常の三倍のニンジャ打撃力を実現している!
たちまちドミナントは脳震盪を起こし、行動不能に陥る。下半身から力が抜けたところにソニックブームの決断的ジェットヤクザ・ケリ・キックだ!武骨なヤクザシューズがドミナントの下腹部に突き刺さる!当然のように三倍!吹き飛ぶドミナント!
「おのれ雑種ッ...ンアーッ!オゴッ、オゴゴーッ!」
転がり、血や胃液を吐くドミナント。最早、最初の威勢はどこにもない。ショッギョムッジョ!
太股の激しい出血ダメージの他にも、近距離でジェットカラテを行使した代償として、ソニックブームも裂傷を負っているが精密なカゼ操作・ジツで自爆ダメージは最小限に抑えられている。ゴウランガ!カゼ操作・ジツ!
ソニックブームが優勢だ!
「ドミナント=サン。テメェの優等カラテとやらの浅い底が見えてきたぞ!まだ続けるってんならなぁ、エエッ?スッゾオラー!」
コワイ!色々と傷を負い、実際青少年のなんかがアブナイ状態なドミナントの顔の横、コンクリ舗装道路にヤクザ・ケリ・キックがめり込む!
「ア、アイエエエエ...」
「ソマシャッテコラー!ゴメンナサイシロッオラー!」
ZDOOM!再びヤクザ・ケリ・キック!威圧的だ!
「アイエエエエ!ゴメンナサイ!」
「なぁ、ドミナント=サン。俺にもお前の気持ちはよく分かる。そりゃニンジャとしてのキャリアは自分と大して変わらねぇような奴が、役職付きでスカウトなんてされて来たら腹立つよなぁ?ン?」
「アイエッ...?」
おお、一体どうしたというのか!ソニックブームの声音が唐突にやさしみを帯びる。イクサのプレッシャーに耐えかねて人格が分裂してしまったのか!?
いや、違う!これはキタカゼ・アンド・タイヨウメソッドだ!激しく冷たくされた後に、やさしみを示されると実際効果が三倍だ!
「ドミナント=サンはその若さに比べて、かなりのワザマエだ。積み上げてきたソンケイを感じるぜ。実際、俺はソウカイヤじゃあ新参者よ。だからこそ、これも何かのご縁かもしれねぇ。ここは一つよろしくしてもらいてぇところだ、エエッ?頼むぜ先輩?」
「アイエッ...?先輩?」
「先輩だ!ドミナント=サン!」
「...そうか、ボクにも後輩が。」
転がったままドミナントが呟く。ニンジャは本能的に弟子や後輩に自身の存在した証を残したがるものだ。ドミナントのニューロンに一片の温かみ。
「よろしく頼むぜ、先輩。実際頼もしいカラテだ。頼もしい。...ほら、起きてくれ。」
手を差し伸べるソニックブーム。おお、何たる!何たるヤクザ幹部人心掌握・ジツか!ドミナントの心からは敵愾心が消え、ソニックブームへの親しみすら生まれている!
「ありがと、コウハイ。君のカラテも中々だったよ、ソニックブーム=サン!」
顎を腫らしながらドミナントが微笑んだ。実際、ドミナントは才気ばしった鼻持ちならない小娘で、邪悪なソウカイニンジャだ。だが、だからこそカラテを通じて身内として認めた者には強いやさしみを見せるものだ。それがモータルには共感可能性の低い狂気的心理であっても。
「顎がかなり痛むだろ、先輩?」
「君こそ太股の血が止まってないぞ。」
「グハハハハハハ!」
「フフフフフハハハハ!」
「ユウジョウ!」「ユウジョウ!」
両拳を叩きつけ合い、血みどろで笑い合うニンジャ二人という、モータルなら重度NRS不可避な光景を尻目にネオサイタマの夜は更けていくのだった。