ヘルサレムズ・ロットの中心で愛を叫びたい   作:三代目盲打ちテイク

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虹と偏執の恋愛講座

「ああ、なぜこんなことに」

 

 本当、なぜこんなとになってしまったのだろう。クリスはこの儘ならない状況への嘆きの言葉を吐き出す。今どこにいるのかって? それは簡単だ。偏執王アリギュラが作ったのか、それとも創造したのか、はたまたどこからか連れて来たのか。

 ともかくとしてそんな些細なことはどうでもいい。それで何か変わることはないのだから。ともかく彼女が所有しているモンスタートラックの中であり、今現在パンドラム超異常犯罪者保護拘束施設(アサイラム)へ向かって大爆走の真っ最中の渦中にある。

 

 道行く車やらなんやらを捕食しながらの大、大、大暴走。何と言うか、もうモニターが赤いみなさんお馴染みのアレで真っ赤っかである。

 明らかにいつもの世界滅亡待ったなしの展開。なにせ、アサイラムの中には途轍もなくやばい奴らが収監されているからだ。それもそうだろう。なにせ、ここはHLだ。犯罪者もド級である。

 

 しかも、不味いことにあの中には先代ローゼンクロイツが遺して行った者たちが収監されている。黄金薔薇十字団。そんな秘密組織が。

 それを今朝がた、この事態でも予期しているかのように先々代が電話で伝えてきたのだ。軽い調子で、そんなの在るよと。レーエを送ってきたのも突然だったので、まったくと言ってよいほど気にしてなかったのだが、その直後にモンスタートラックに拉致されてしまい、気にせざるを得なくなった。

 

 では、なぜそんなところにこんなモンスタートラックで向かっているのかというと、

 

「寄りにもよって、こんな世界がヤバイ案件なのに、自分の作った作品を取り返しに行くだけなんて」

 

 正確に言えば好きな人に会いに行くとかいうとても乙女チックで可愛らしい理由になるのだが、一般市民たちからしたらそんな理由で世界を危険にさらされてはたまったものではないだろう。

 クリスからしたらバッチ来いだ。このような試練の時こそ、人の輝きというものは輝くのだから。ここはそれを見る特等席としては最上だろう。

 

 喜ぶべきことではあるのだが、どうにも気が乗らない。これは非常に珍しい。こういう事態であれば常にテンションがあがってしかるべきなのだが、どうにも祖父からの今朝の電話(・・・・・)からテンションがちっとも上がらない。

 

「いいじゃないのぉ。困難があるからこそ、燃えると言ったのはあなたでしょぉ~」

「そうですけどね。これでも一応、正義の味方なんですよ。残念なことに」

「向いてないわよぉ」

「自覚はしてますけど、お仕事ですからね」

「だったらぁ。辞めちゃえば~?」

 

 アリギュラの一言に目を瞬かせるクリス。

 

「……その考えはありませんでした」

 

 生まれた時から、人を愛していた。人を愛するがゆえに守りたいと思っていた。そう教育されたし、そうなることに誇りがあった。

 

「あんたって、馬鹿よねぇ」

「む、失敬なこれでも大学ほどの知識はあります」

「そういうことじゃないわよぉ。だから、気が付かないのよぉ。まあ、そんなわけだから、もう一つプーレゼントー」

「プレゼント?」

「そう、恋愛講座ともう一つ、あんたが、楽しく自由に出来るようにしてあげるぅ。まあ、それはあっちの仕事なんだけどねぇ~」

 

 あっち、とはいったいどっちだろうか。少しばかり心当たりがあるのだが、嫌な予感がする。それを止めなければとも思う使命感はあれど、楽しく自由に、ああ、なんたる甘美な響きか。

 その言葉に、期待している自分もいるのだ。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「さて、さて、さて」

 

 アサイラムの前にその男はいた。堕落王フェムト。異界のヒマ人の中でもだいぶやばい類の男。そんな男と絶望王と呼ばれる少年が、その前にいた。

 

「さて、これから楽しくなりそうだし、彼女には彼ら必要だろうからねぇ。先代の置き土産、渡してくれって言うのも遺言だし。友人の頼みくらい聞いてやらないこともないよね」

「ったく、なんでそれで俺まで駆り出されなきゃらならねえんだ」

 

 勝手にやってろよと半眼の絶望王。

 

「連れないこというなよ。僕だって、こういうことは性分じゃないさ。けど、彼女が輝くところを見たいだろう? 人類を堕落させる僕とは真逆だけど、なんともそそるじゃないか。この頃退屈していたからね、暇つぶしにはちょうどいい」

「……だいたいよォ、それは、先代の話だろ。アレが、先代と一緒とは限らねえんじゃねえのか」

「それはどうかな。なにせ、あの一族の事だ。どうせ、規格は変わらないだろうさ。最初の一人に戻ろうと躍起さ。おそらく、彼女が最もアレに近いだろう。勿体ないと思っていたんだよ。あれだけ戻っておいて、戻り切らないというのはね」

「――まあいい。俺の順番は、まだ先だからな。タイミングも悪い。それなら良い時まで、“あいつ”に譲ってやるとするか」

 

 そういうこと、とフェムトが頷いて、こつこつと地面をたたく。

 

「それじゃ、まあ、始めるとしようか」

 

 そう言って、呼び出される異界の化け物。走る異形の力、破裂する警備。異形によってくりぬかれるは黄金薔薇十字騎士団の牢獄。

 さあ、パーティーを始めよう。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「というわけで、みなさん、お久しぶりですー」

 

 素晴らしい容姿をした短髪で浅黒い肌の青年――ドグ・ハマーと、現在はその血液となっている鋭い眼光に裂けた口、のっぺりした外見と、形状こそ人型だがいかにも異界人と言った風貌の持ち主だった――デルドロ・ブローディが無事、アサイラムからクラウスとエイブラムスによって被害を出さないように保釈された。

 あのままでは、確実に暴走中のモンスタートラックがアサイラムに突っ込んで中にいた凶悪犯罪者たちを解き放ってしまっただろうから。

 

「刑務者入ってたわりには相変わらずだな、お前」

「いやぁ~、かたじけない」

「いや、褒めてねえんだけどね」

 

 ザップとハマーがやり取りをしているとその横では、女性陣が感嘆の声をあげている。

 

「はぁ、やっぱ良いわねえ、ドグ・ハマー」

「マジっすか、姐さん!?」

「外見だけは熱いっすよね」

「犬!? てめえまで!? 虹色頭、てめえは――って? おい、レオ、虹色頭はどうした?」

 

 今更ながら虹色頭がいないことに気が付いたザップ。朝からいないのに気が付かなかったらしい。

 

「いや、知りませんよ。電話したらどうっすか?」

「するが良い庶民よ」

「なんて、唐突な王様キャラ……。いや、ザップさんがしたらどうですか」

「俺が奴の電話番号を知っているわけねえだろ陰毛頭。もう少しものを考えてから言えよバァーカ」

「腹立つ――俺も知りませんよ」

「ハァ!? なんでだよ。てめえら仲良いだろ?」

「いや、そうなんすけど、なんか壊れたらしくて、買い直せばいいと言ったけど、機能が多すぎて目が回るとかで、解約しちゃってまして。家にあるのもなんか黒電話とかいうすっごい古い電話でしたし。だから、今連絡する手段ってないんすよね」

 

 それは良いことを聞いたとばかりにザップの顔が輝きをあげて、レオはしまったと今更ながらに言ったことを後悔する。

 

「婆じゃねえか! あひゃひゃ、スマホつかえねえとか、完全に婆じゃねえか。しかも、黒電話って、あいつ何時代に生きてるんだよ!」

「それ、本人の前で言わない方が良いですよ。たぶん、ザップさんだと殺されちゃいますよ」

「馬鹿野郎、本人がいないから言ってるに決まってるだろ」

 

 どうせ、すぐにそのこと忘れて本人の前で言ってぶっ飛ばされるに違いない。

 

「はいはい、そこの二人、漫才はそこまでにして作戦が決まったから聞いてくれ」

 

 そこにスティーブンが手を叩いて注目を集めて作戦を告げる。作戦は単純。迎撃コースにのせて全員で勢いをそいでハマーの一撃で完全に破壊する。

 

「何か質問は?」

「あのー」

「なんだい少年?」

「いえ、あの、クリスさんは?」

「ああ、彼女ね。彼女付になったメイドに電話して聞いたら、なんでもあのモンスタートラックの中らしい」

「え? なんで、そんなことに」

「僕にもわからん」

 

 スティーブンはわけがわからないとばかりに肩をすくめる。

 

「けど、ローゼンクロイツだからなぁ。そういうこともあるって、思ったら納得できるんだよね」

「ローゼンクロイツって、なんなんすか」

 

 ローゼンクロイツ家が古くからある牙狩りの一族であり、代々当主がクリスチャン・ローゼンクロイツの名を継ぐということ。

 魔術のような血法を使うということ。あとは、彼女の血に施された複雑怪奇な術式の存在を神々の義眼で見えてしまったくらいでしかしらない。

 

 しかし、話を聞く限りでは、このHLにおいてその名はだいぶ有名であるということくらいだ。

 

「何があろうとも捕まっているのなら助けねばならん」

 

 一体何者なのだろう。そんな考えは燃えに燃えているクラウスによって全て吹き飛ばされる。

 

「まあ、クラウスがやる気になっているし、いいんじゃない? 彼女ならぶっ飛ばされても防御できるだろうし。問題ないでしょ」

 

 そういうわけで作戦決行ということで、

 

「良し、行くぜレオ」

「本当にやるんすか?」

「任せろ、俺が一本釣りしてやるぜ」

「それが信用できないんですよおおおおお」

 

 モンスタートラック迎撃作戦開始である。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

「――というわけよぉ」

「はあ、つまり恋愛とは押して、押して、押しまくれば良いと?」

「そういうことよぉ」

「はあ」

 

 何がというわけなのかはまったくもってわからなかったが、恋愛はとりあえず押しまくれば良いらしい。アリギュラ恋愛講座によって、恋愛のレベルが上がったような気がしないでもないが、あまり使うこともない技能なので無駄になるだろうがその思想には大いに共感できた。

 もし恋愛というものをするならば、私も押して押して、押すことにしよう。

 

 今は、そんなことよりも、

 

「どうやらライブラが動き出したようですよ?」

 

 HLに張り巡らせた()に引っかかった情報によって彼らが動き出したことがわかった。その第一段階の作戦の為にレオがザップによって血法によって宙吊りにされているのがわかった。

 どうやら、このモンスタートラックの視界を操作して迎撃コースにのせるつもりらしい。教えなくてもよかったが、教えておく。

 

「あらぁ、そうなの?」

「そうですよー。どうするんです?」

「このまま突っ走るだけよぉ」

 

 作戦に変更はなし。どのような障害があろうとも、どのように高い壁があろうとも、全てぶっ飛ばして目標一直線。なんと一途なことだろうか。

 

「ああ、良いですねえ。協力しましょうか?」

「いらないわぁ。私が、私の力でやらないと、何の意味もないじゃない」

「……そうですね。では、頑張ってください。見てますので」

「見てなさいぃ。これが、恋ってものよぉ」

 

 そうは言うが、ライブラの面々は今も着々と動いている。

 

(ひきつぼし)流血法刃身の弐――空斬糸。おらあぁあ、レオー一本釣りじゃああ」

「普通にやれよおぉおおぉおぉおぉぉおお!!」

 

 暴走するトラック。迎撃第一段階。レオによる視線誘導によってコース変更。旧パークアベニューの直線コースまでひたすら誘導。

 一度クリスの自宅を経由した為、迎撃コースにのせるまで数度の車線変更を要するのだ。そういうわけで、血法で釣竿を作り、それにレオをくくりつけたザップがひたすら走る。

 

 普通にやればいいものをこんなじみぃな役どころにされたザップはふてくされてこんな感じにやっている。真面目にやれと言いたいが本人はいたって真面目である。

 なにせ、金がないのだから、ランブレッタ壊されてはたまらないというわけで、こんな感じに走ってます。

 

「あらー」

「あらら、乗せられちゃいましたね? どうします?」 

「このまま一直線ー」

 

 むしろ、この際にブローディー&ハマーがいるのだから、好都合。このまま一直線に走り抜けてしまえば無問題。

 あとは押し勝つか、押し負けるかの力勝負である。そして、負ける気はさらさらない。いかなる妨害があろうとも、彼の下へ辿り着く。

 

「それが乙女の恋愛道ぉ!」

「その間に色々とされてますけどね」

 

 次いで第二段階。K・Kによるバグの除去。

 

「954血弾格闘技(ブラッドバレットアーツ)――STRAFINGVOLT 2000」

 

 放たれる紫電を纏う弾丸がバグどもを撃ちぬき連鎖的に破壊していく。

 

 続いて、

 

「エスメラルダ式血凍道――絶対零度の地平(アヴィオンデルセロアブソルート)

 

 水のまかれた道路が凍結し、それと同時にモンスタートラックのタイヤまで凍りつく。加速の手段がこれで奪われてしまった。あとは慣性で進むだけ。

 氷によって摩擦はほとんどゼロと言えるが、大気や風がある為速度は徐々に下がって行く。それでも重量があるためかなり早いと言える。

 

「加速手段も奪われましたね。どうします?」

「ゴーゴー!」

 

 押して、押して、押して、押す! その思想に変わりなく、このような状況だろうとも諦めることなし。

 

 そして、作戦第三段階。

 

「ブレングリード流血闘術――」

 

 ハマーの迎撃コースに乗せるべく、クラウスによる車体のトス。

 

絶対不破血十字盾(クロイツシルトウンツェアブレヒリヒ)

 

 半ばジャンプ台が如く、生じた十字架の盾によって、モンスタートラックは宙を舞う。

 

血殖装甲(エグゾクリムゾン)

 

 血を纏うハマー。デルドロが、たぶん吹っ飛ぶだろうからと忠告してきたのでアンカーもセット。踏ん張りが基本のパンチ体勢に移行。

 あとは破壊するだけ。

 

「ただパンチ!」

 

 あとには何もないパンチ。

 

「ああ、駄目ですね。これ」

「あ、だめだ、これ」

 

 内部から見ていたクリスと、ハマーは同時に気が付いた。このままでは打ち負ける。

 

「さて、私も一応、ライブラですし、少しは働きましょう。囚われの御姫様とか、がらでもありませんし。なにより、御姫様よりもなりたいものがありますからね」

 

 宝玉式(クォーツ)紋章(ローゼンクロイツァー)血闘魔術(ブラッドアーツマギア)――

 

「――緑の術法」

 

 血が廻り、それは緑の宝珠によって属性が切り替わる。生じるは、風。

 

緑風(ウィリディスウェントゥス)()大嵐(ニンブステンペスタ)

 

 大気振るわせる圧倒的な暴風がモンスタートラック後部を細切れにして吹き飛ばした。

 

「あ、これならいけるかも」

 

 結果、これによって盛大に重量が落ちたモンスタートラックはハマーのただのパンチによってぶん殴られて吹き飛ばされて木端微塵になった。

 その後、二段階にわけて降り注いだ屑鉄によって死傷者は数十万を越えて出たとか、出なかったとか。途中で、警察が数えるのが面倒くさくなって集計は打ち切られた為正確なことはわからない。

 

 そして、この事件の裏で、アサイラムからとある犯罪者集団が消えたことが発表された。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 暗がりの中で、顔に傷を持つ金髪の男がいた。他にも数人いる。

 

「まだだ。まだ、終わりではない。我らが主が今再びこの地にあるというのであれば、我らは集わん」

 

 創世せよ――我らは、煌めく黄金の薔薇十字。

 

「人類の為、我らは皆、尽く、敵となろう」

 

 今再び、黄金十字が動き出す。

 

 

 




徐々にフラグをちりばめていくスタイル。ハマーさん出番少なくてごめんね。そのうちクリスが遊びに行くのでそれまで待ってて。

やはり、登場人物多いと全員を出すのが難しというのと、クリス視点を中心に持ってきているので、出番減る人たちがいるのがまた悲しい。
群像劇風味だけど、とりあえずわかりやすく、レオとクリスを中心に持ってきてる弊害かなぁ。

まあ、それは置いておいてアニメ血界戦線11話。釘宮劇場でしたね、声優さんって凄い。
残すところ血界戦線アニメもあと一話。ラストどのようになるのか。とても楽しみです。出来ることならば全てが幸せになるハッピーエンドを。

こちらの本編では絶望王は少しばかりお休みしてますがね。その代わりに別の何かが動き出します。
次回は、どうしようかな。四巻の話、あまりクリスが関われそうな話がないんですよね。そろそろやらかしてくれないと困るので、盛大にオリジナルに跳ぶか。ああ、でもレストランの話はやりたいんだよなぁ。
クリスさん、その手の料理食べ慣れてるから、まともだし、暴走する面々の反応を見て楽しむ可愛らしいクリスを書きたい。

うむ、迷う。どの話を書こうか。

黄金薔薇十字騎士団 名詞
 かつて、先代クリスチャン・ローゼンクロイツが率いたとされる超犯罪者集団。かつてHLを壊滅にまで追い込み、うっかり世界を破滅させかけた一団。
 凄まじい化け物集団であるものの全員が人間という噂。
 気合いと根性があればなんでも出来るというのが、この団を言い表す言葉らしいが真偽は不明。

この騎士団の構成員のモデルは一人は決まってるんですよね。気合いと根性で戦う主人公っぽい人たちの集まりがこの団です。
一人は放射線付きのエクスカリバーっぽいこと出来るあの人。相手が覚醒すると自分も覚醒しちゃうあの人がモデルです。

活動報告の方で黄金薔薇十字騎士団の団員を募集してます。

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