ヘルサレムズ・ロットの中心で愛を叫びたい   作:三代目盲打ちテイク

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虹の休日

――虹とバーガー

 

「~♪~♪」

 

 鼻歌交じりに陽気にクリスは紙袋を抱えて街路を歩く。その手の中に宝石でも抱えているかのように見えるが、それは違う。

 その紙袋の中に入っているのは何のことはないハンバーガーなるジャンクフードだった。だというのに、この少女はとても嬉しそうにしているのだ。

 

「苦節、病院食と言うとてもおいしくない、楽譜にかじりついて正確無比に弾いているようなお食事(演奏)とおさらばして、ようやくようやく、至高のごみ料理(ジャンクフード)が食べられる! はあ、生きているって素晴らしい! 私は今、生きている!」

 

 しかも今回は42街区、隔離居住区の貴族(ゲットー・ヘイツ)でわざわざ並んで三十分以上も待って買ったハンバーガーである。

 霧を遮断し、異形を排除した往年のニューヨークの街並みを残した無菌室が如き場所。屋根をはり、青空を照射しているこの地区にあるハンバーガー屋ジャック&ロケッツで買った物ハンバーガー。

 

 かなりの激レアであると聞けばもう食べないといけないだろう。だからこそ、あんなところに行ってまで買ってきたのだ。

 もう我慢できないというのか公園のベンチでクリスはハンバーガーを一口食べる。

 

「はぅうぅ、おいしぃ」

 

 ああ、ジャンクフード、ったらジャンクフード。まさに人生の麻薬。高級料理ばかりで飽き飽きしていたクリスにとってこういう雑な料理ほど心を揺さぶる。

 

「この舌の上で。、大音量の上滅茶苦茶に楽器をかき鳴らされて爆発している感じ、最高。これこそ、私が愛すべき輝きです」

 

 いや、違うだろとかツッコミが来そうなことを言いながら恍惚とした表情でバーガーを食べるクリス。今の今までハンバーガーをこんな風に食べる人がいただろうか。いるわけがない。

 

「さて、もう一個――って」

 

 もう一つを食べようとしていると、突然走って来た異界人が自転車に轢かれて吹き飛んで行った。

 

「…………」

 

 あまりに見事な飛び方だったので、一瞬呆けてしまったが気にせずそのままバーガーに口をつけようとして、

 

「すみません! バーガー下さい!」

「へ?」

 

 キノコのような軟体生物のような異界人がその手を差し出してきている。ふむ、なんといったかバーガー下さいだったか。

 どうやら食いしん坊のようではあるが、どうにもこのバーガーに向ける気迫と言うものが感じられる。

 

「…………そんなにこのバーガーが欲しいですか? これわざわざ42番街まで行って買ってきたんですよ」

「バーガー下さい、下さい」

「ふむ……では、あなたにとってバーガーとはなんですか? これに――」

「人生」

 

 即答というか食い気味で彼はそう言った。人生であると。言葉は不要。これだけで良い。多くを語るなど必要ないと切り捨てる。

 ただ一言あればいい。至高の一つ。この言葉こそ、我がバーガーに対する愛である。それ以外などいらないだろう。そう彼の気迫は言っている。

 

 と少なくともクリスには見えた。実際はバーガー大好きな食いしん坊なだけだ。

 

「なるほど。あなたの意志、確かに理解しました。そのバーガーにかける意志は素晴らしい。あなたほどバーガーに傾倒する者を私は自分以外に知りません。

 あなたのような方を私は愛しています。良いでしょう。あなたほどのこれを愛する者はいない。気に入りました。ならばこそ、どうぞ」

「おお、ありがとうバーガーさん!」

「バーガーさんではありません。クリスチャン・ローゼンクロイツです。クリスで良いですよ、ええと――」

「アマグラナフ・ルォーゾンタム・ウーヴ・リ・ネジ、ネジでいいよ。クリスバーガーさん」

 

 クリスに新しい友人が出来た瞬間であった。何かズレているような気がするが。

 

「では、ネジさん、私、もう十個ほど買ってくるので、待っていてください。一緒に食べましょう」

「いいの! いくら渡せばいい?」

「ふふふ、入りませんよ。これは私の為ですからね。なにより、お友達の為に動く。それに理由などいらないでしょう」

「おお、クリスさん、良い人だね!」

「さあ、目くるめく大音量の味の世界へ行こうではありませんか」

「おー!」

 

 こうして、数日置きにバーガーを馬鹿食いしている異界人と女が目撃されるようになる。完全に太るコースである。

 のちに、ザップから太ったとか言われて彼を半殺しにするクリスの姿が目撃されたとかされなかったとか。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

――偏執王と虹の恋バナ。

 

「ねぇ~、あんたさぁ~、恋したことある?」

「はい?」

 

 はて、なぜ自分の部屋の中に異界のヒマ――ではなく異界の十三王の一人であるゴスロリ服を着た少女偏執王アリギュラがいるのだろう。

 この部屋には一応、悪いものが入らないように結界が張ってあるので、十三王でも早々入ってこれないはずだが、はて。

 

 なぜ、ベッドの上で馬乗りになられて恋したことある? とか聞かれているのだろうか。まったくの謎だ。もしかしたら夢なのかもしれない。

 

「ちょっと~、聞いてるぅ?」

「いひゃ、いひゃい」

 

 しかし、ペチペチと頬を叩かれ、引っ張られる感覚は確かに現実の物。つまり、これは夢ではないということだ。

 

「恋バナしましょぉ」

「なぜに?」

「暇だから?」

 

 十三王はやはり暇人の集まりらしい。

 

「はぁ、ええと恋バナですか? 恋、したことはありません。ほとんど、お爺様としか口を聞いたことありませんし。他の男性の方と会ったのもここに来てからですし」

「ツマンナイわねぇ。何かないのぉ~」

「何か、と言われましても」

 

 さて、自分は恋などという人間らしいことをしているだろうかと、HLに来てからの行動を思い起こすが、さてどうだろう。

 

「ああ、気になる方々ならいますよ」

「あるなら、さっさと話なさいよぉ」

「ライブラの皆さんです。あれほどまでに美しい輝きを持つ方々を私は他には知りません。その輝きが、私は堪らなく愛しい。絶やしたくない、もっと輝かせたいと切に切に願っているのです」

「…………それなんかちがくない?」

 

 本心を語ったはずだが、アリギュラには不評のようだ。

 

「個人的にぃ、気になる個人はいないのぉ?」

「いませんね」

 

 と言いつつなんかレオの顔が思い浮かんだが、顔にも口にも出さない。恋ではないし、何より目の前の女に興味を抱かせるとなにかと危険だ。

 何せ、思考は子供のくせして御技は神の如し。そんな相手にレオのことが知れればどうなるか。と、そこまで思って、

 

(それはそれでレオさんの輝きが見れるかも)

 

 な感じの欲求が鎌首をもたげてきた。しかし、やめておこう、今は。

 

「そもそも、ローゼンクロイツの女としての役割がありますから恋愛なんて出来ませんよ。いえ、ある意味燃えるところではあります。家に逆らうと言う試練、ああ、乗り越えることもまた甘美。ですが、継ぐことを放棄することは出来ませんので恋なんてできま――たぁ!?」

「あんたさぁ、女として終わってるから教えてあげるよ」

 

 ぺちんとビンタ一発。というわけでアリギュラの恋愛講座スタート。

 

「あ、待ってください」

 

 の前に、

 

「紅茶を用意いたしますよ」

 

 こういうことはお茶を用意してやるのが良いだろう。あとは着替えたいのもある。そういうわけで指パッチン一つで早着替え、それから紅茶をいれにキッチンへ向かうためにリビングに行ったのだが、

 

「って、なんでいるんですか?」

「ああ、お邪魔しているよ。いやはや、しっかし、良いねえ。空間接続術式で見た目よりかなり広くしてある。羨ましいねぇ。この豆も良いものだし」

 

 そこにいたのは仮面被った似非紳士のような風貌の堕落王と、

 

「ハッ、何がだよフェムト。このくらい、お前も片手間だろうが」

 

 金髪に青のコートをまとった絶望王。異界のヒマ人代表の十三王がリビングで我が物顔でくつろぎコーヒーを飲んでいる。

 

「…………」

 

 いつからここは十三王の遊び場と化したのだろうか。

 

「あたしが呼んだのよぉ」

「なんで?」

「? ヒマだから?」

「お前らヒマ人か」

「ヒマだよ。本当、ヒマ。だいたい、アニメ版で出番増えたと言っても原作じゃ全然出番ないんだよ僕ら。ヒマに決まっているじゃないか」

「ヒマヒマ~」

 

 いや、何の話だ。アニメって。だからって遊びに来るなよ。

 

「はあ、レーエは何をしていたのかしら」

「お嬢様の命に従い、朝食のご用意をしておりました」

 

 そこに登場したのはメイド服の女性。彼女は人間ではない。人間に見えるがその実、精巧に作られた歯車づくりの機関人形。いわば自動人形だ。

 

「彼らは?」

「敵意はないので放置してあります。というより、あんな暇人共いないものとして扱っております。ジャパンのことわざにもある様に触らぬ神に祟りなしということでございます」

「そう、それより紅茶を煎れてくれる? 一応、人数分」

「畏まりました。それからお嬢様。また、太りましたね」

 

 了承して、キッチンに入ろうとした際に、レーエは爆弾を投下していった。

 

「うわ、ほんとだ、僕と食事した時よりも明らかに太ってるよ。ほら」

「ちょぉ」

「ジャンクフードの食べ過ぎ~」

「おいおい、良いじゃねえの。太るくらい。太ってる方が、潰した時楽しいぜ?」

 

 そんな言いたい放題の堕落王、偏執王、絶望王。クリスがそろそろぶっ飛ばしてやろうかと思う前に、フライパンが飛び、三人の頭に見事なこぶを作って行った。

 誰がやったのか。それはもちろんレーエである。自動人形として、そこにはクリスと同じ血法を再現するだけの機構が組み込まれている。

 

「なにするんだい。もう、こぶになっちゃったじゃないか」

「貴方方こそ我が主を愚弄するのはおやめください。我が主を愚弄して良いのは(わたくし)だけです」

「なんで、お爺様が作った自動人形はこんななのかしら」

「さて、では紅茶のご用意を致します。しばらくお待ちを。お嬢様はくれぐれも淑女らしく。お客様は、御客様らしく、遠慮と節度を忘れないように。忘れたならば、また、フライパンが飛ぶことになるでしょう、今度は、お嬢様に」

「望むところ。やれるものならばやってみると良いです」

 

 それには答えずレーエはキッチンに引っ込んでしまった。

 

「さて、では~、これからクリスに恋愛を教えます」

「ワーワー」

「パチパチパチ~」

「なんでしょう、このやる気のない感じ。というか、なぜこんな状況に。ああ、レオさん(ツッコミ)が欲しい」

 

 そういうわけで本題。アリギュラの恋愛講座。日が暮れるまで続いたとか、続かなかったとか。

 

「良いわ。見せてあげる。恋愛をね」

 

 そう言って彼女は帰って行った。

 




今回は少し短め。時系列的には、ホームパーティー回の時ですね。

クリスの休日。どこかで見たようなキノコ君と遭遇し、徐々に太っているらしい。
それから、いつの間にか十三王に占拠されているリビング。

オチはない。

次回は、偏執王による恋愛とは何かの実技です。なので、クリスは……。

まあ、次回がいつになるかはわからないんですけどね。

しかし、ラン!ランチ!!ラン!!! 良かったですね。あのげてもの料理屋をあそこまでやるとは。しかも、モザイクで見せてくるスタイルとは恐れ入った。
そして、ビビアンさん可愛いな。

オリジナルも佳境だし、次回は総集編。続きが楽しみだ。
更に血界小説も読みました。良い話だった上にだいぶ参考になりました。
みなさんも読んでみよう。

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