ヘルサレムズ・ロットの中心で愛を叫びたい 作:三代目盲打ちテイク
目を覚ますと昼下がりであった。体調が優れない。本来ならば眠って血の術式の調律をやっているはずだが、目が覚めた。彼女に流れる血が異変を感じ取ったのだろう。
ゆえに彼女はふらりと一瞬だけふらつきながらも衣装棚を開く。そこに納められた戦装束へと袖を通すのだ。黒を基調としたドレスのような戦装束を。首には専用の血闘魔術における重要な装備である
「さて、そろそろですかね」
身支度を済ませたその瞬間に鳴り響くスマホ。レオから習ったとおりに操作して出る。
「はい、私です」
『すまないがこちらに来てくれ』
スティーブンからの連絡。
一体であれば4分は保たせられる。だが、二体となれば話は別だ。一体ですらどうにもならないような相手。それが二体。時間稼ぎなど刹那のうちにしかできないだろう。
ゆえに、いかに体調不良だろうと戦力を眠らせておくことはできないのだ。クラウスもザップも今はユグドラシアド中央駅に血界の眷属対策の専門家である豪運のエイブラムスとともに行っているため不在だ。
血界の眷属の全貌解明のため神々の義眼をもつレオを連れて行っているわけだ。そのための護衛であろう。つまり、戻るには時間がかかるのだ。
奴らをどうにかするにはクラウスの力がいる。そのための時間稼ぎをするにはスティーブンとK・Kだったのだが、エルダー級がニ体だ。時間稼ぎどころではない。
『ストムクリードアベニュー駅に今すぐだ。そちらは直接向かった方が早い』
「ええ、わかりました。どのみち行こうと思っておりましたから。では、現場でお会いしましょう」
そう言って電話を切る。
「行きましょう」
そして、彼女は窓から飛び出した。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇
「どうなっているんだ! 通常弾、炸裂弾、爆薬、火炎放射、電磁攻撃、ガス、レーザー照射、尽くが無効か!!」
「第2防衛線突破されました!」
「
「全滅です!」
「気を付けろ!
ストムクリードアベニュー駅は阿鼻叫喚の様相を呈していた。地下鉄駅であるが、その出入口では警官隊が防衛線を敷いているが、突入部隊が全滅して右往左往している。
この異形都市で治安維持しようとしている連中ですらこれなのだ。指一つで機動装甲警官がばらばらになる。それほどの化け物。
しかも、屍喰らいとして、やられた仲間が襲ってくる。まさに地獄だ。そこにクリス、スティーブン、K・Kの三人が到着する。
チェインは先に来ていて状況を把握しカメラの準備をしていた。
「コラコラ、これ以上アッチの兵隊増やすんじゃないわよ。退きなさい」
ついてすぐにK・Kが警部にそう言う。
「君たち、本当に行くのか……そんな軽装で、しかも子供までいるじゃないか」
「まあ、大丈夫だよ。餅は餅屋ってね」
「そうです。子供だろうと専門家ですので、ご心配なく。あのようなものに私は負けませんよ」
そう言ってチェインを含めた四人は地下鉄駅の中へと入って行く。そこはまさに地獄だろう。あちこち崩れているし、血がべったりとくっついている。
さらに言えば血界の眷属の冷気がここまで漂ってくる。
「あー、最悪だわー、腹黒男と一緒とかありえない。体調悪いクリスちゃんまで連れて来るなんて」
階段を降りながら、通路を進みながらK・Kがそんなことを言う。
「まー、そういうなよK・K。エルダー二体に僕ら二人で突っ込むよりいろいろマシだろ? 翁からも使ってくれって言われているからね。合理的に行こうよ」
「そうです。どのみち言われなくても血界の眷属に気が付いたら来ましたのでいらぬ心配ですよ」
「もー、あんたは直ぐそういう。良い、気分悪いなら帰ってもいいのよ?」
「大丈夫ですって。ただ加減が出来ないので、ちょーっと危ないだけですから」
具体的に言えば強くやりすぎて地下鉄駅を全て粉砕するだとか、仲間事粉みじんにしてしまったりとかする可能性があるだけで、それ以外はなんら問題がないのだ。
いや、問題ばかりなのだが、それでもやらなければならないことはある。エルダー二体。そんなもの野放しにしておけば、どうなることか。
「……まあ、そう言うなら良いわ。しかし、待ったわね3年」
「そうかい? 僕はこんな日が来ないでくれたらとずっと思っていたよ」
「駄目な人ですね。嫌いではありませんが」
地下鉄ホーム。そこに降りた三人の前に三体の屍喰らい。三人は構えた。
「954
「エスメラルダ式血凍道」
「
K・Kの銃からバチリと雷が爆ぜ、スティーブンから冷気が生じ、クリスからは莫大な熱が湧き上がる。
「Electrigger1.25GW」
「
「
雷電が煌めき、氷が全てを冷却し、焔が全てを薙ぎ払う。
「来た来た」
血界の眷属の女が三人を見てやっと来たかと言う。
「マスターシニョリータ。あれかい? 倒しておきたい友人っていうのは?」
そう聞くのは年若い眷属の男。
「そうだ。だが、油断するな。あれらの技は対我々に特化している。再生できなくなっても知らぬぞ」
そう言うのは偉丈夫の眷属。
相対する三者。
「4分もたすぞ」
「アタシに命令しないで」
「まあまあ、クラウスさんが来る前に周囲の障害を排除しましょう」
「当たり前でしょ」
「――行くよ」
その一言共に、
「応」
「はい」
彼らは対吸血鬼用の人間兵器と化す。
「行きます」
まず飛び出したのは彼らでも眷属でもなかった。まず飛び出したのは下僕と化した屍共。
「疾く
それに対応して動いたのはクリス、輝く黄金十字の機関。青の輝き。莫大な量の水が生じる。
「
咒と共に結果が生じる。加減を忘れたかのような大瀑布が落ちるが如き水量がさながら竜の進撃の如く前にあるもの全てを薙ぎ払う。
その一撃で全ての屍喰らいが粉々に砕け散った。ダムから生じる大爆流のように全てを押し流し、押し流された瓦礫が全てをひき潰したのだ。
若い眷属の男すら呑み込み粉みじんへと帰す。しかし、
「甘いわ、小童」
偉丈夫が動く。握った拳。ただ、それを爆流へと放った。ただそれだけで凄まじい衝撃が生じ、水流をはじけさせる。
しかもその途端に制御が失われて水流がその場に弾ける。加減が効かない。出力が上がり切らない。
「そっちこそね」
そこに走り込んでいたスティーブン。大量の水によりホームはびしょ濡れ。彼のエスメラルダ式血凍道の効果は倍増している。
「
足元に発生させた氷と共に相手を蹴りつける。しかし、偉丈夫は凍りつきこそすれ砕けることはなく、氷を砕いて自由になる。
「こんなものでアタシらがやられるわけないでしょ?」
女の眷属が技を放ったスティーブンへと指を突きだす。ただ、この程度でお前たちは死ぬのだとでも言わんばかりに。
その頭部に、雷電の弾丸がめり込む。距離を取るスティーブン。
「援護させんじゃないわよ」
「助かったよ」
しかし、女の眷属は死んでいない。即座にその傷を回復して見せる。
「ならば、これはどうでしょう――緑の」
「させんよ」
偉丈夫の眷属が技を放とうとするクリスへと疾走する。ただの一瞬で確かに開いていたはずの距離がゼロになる。
誰一人として反応すらできない。振るわれた拳。その一撃をクリスは避けることができない。万全の状態ならばいざ知れず、今の彼女では躱せぬ。
車なんぞ目ではない衝撃。それが全身を襲った次の瞬間には、地下鉄ホームの壁を数十は突き破り、下水道へと穴を穿ってK・Kたちからかなり遠くへと吹き飛ばされて止まっていた。
何をされたのか認識すらできず、スティーブンたちと分断させられてしまったわけだ。
「カハッ――」
内臓がただの一撃でシェイクされ、血反吐を吐く。骨が粉々に折れているし、損傷がない内臓の方が少ない。治療術式を発動しようとしたが、発動しなかった。ここに来て体調不良が邪魔をしてきた。しかし、そんな状態でもそれでも死んでいなかった。
即死しなかったのは術を発動しようとしていたから。あの瞬間、安定しない出力が一瞬だけ跳ね上がったおかげでインパクトを軽減できたのだ。しかし、急速に低下した出力によってそのまま殴り飛ばされてしまった。
「クリス!」
スティーブンが叫ぶが遅い。既に彼の声は届かない上に、目の前に迫るは女の眷属。助けには行けない。偉丈夫の眷属が追って行くのを見送る以外になかった。
偉丈夫の眷属は未だ息があるクリスを見て感心したように言う。
「ほう、まだ、息があるか。流石は我々に対する兵器であるといいたいが、足りぬな」
血を改造し、吸血鬼の天敵になった。しかし、彼らを滅するには足りない。殺したように見えても粉々になって再生を遅らせているだけなのだ。
ゆえに、お前たちの時間稼ぎなど意味はない。そう断じるが、クリスは笑った。
「ははっ、何を言っているのでしょうか、この人間でいられなかった弱い化け物は。足りない? ええ、そうでしょう。しかし、いつか必ず、
そう、未だ人間が滅んでいないのがその理由。眷属が人間を滅ぼす気がないから? ふざけるなよ、そんなことがあるはずがないだろう。
「たゆまぬ人間の努力に不可能はない。夢は、諦めなければ必ず叶う。お前たちは、人間の可能性に殺されるんですよ」
「それがどうした、お前はここで死ぬのだ。諦めるが良い劣等種族の女よ」
「私を、馬鹿にし過ぎですよ」
人の可能性は無限だ。だからこそ、愛していたい。慈しみ、尊いと思い、育み守りたいと切に願う。いいや、飾らない言葉を言おう。
稚拙だが、
「頑張っている人が私は。大好きです。だから、私も頑張る。ああ、この程度で、何を諦めろというのでしょう。死んでいないのであれば、私は最後まで足掻きましょう。あちらも最後まであきらめてなどいないのですから。私は諦めない」
数十の壁を隔てた向こう側にいるだろうスティーブンやK・Kも諦めてなどいないだろう。肉を貫かれ、満身創痍になりながらも、彼らは戦っている。
聞こえるのだ、声が。諦めない者の声が。1000年かかろうが、お前たちを必ず殺してやるという、不死者を殺すと言う矛盾を御してやるぞと言う声が。
「そうか」
連打を受ける。しかし、それでも彼女は立ち上がる。もはや、虫の息だというのに。クリスは笑っていた。もはや歪んだ視界で、耳で、聞こえたものがある。
「やめろおおお!」
最後の一撃が放たれる瞬間、クリスが吹き飛ばされた際に空いた穴から飛び出したレオが鉄パイプを偉丈夫の眷属へと叩き付ける。
一瞬だが、動きが止まり、その瞬間にザップが焔丸で斬りつける。もはや知覚できぬ速度域で戦闘を繰り広げている。レオはクリスの下へと走った。そして、彼女を助け起こす。
「クリスさん! クリスさん!」
「あぁ」
血を流しながらも彼女が漏らしたのは、感嘆だった。
それがどういうことかあなたはわかっているのだろうか。夢中だったのだろう。恐ろしかったはずだ、今も足が震えている。それでも逃げない。そこにいて、前を見ている。
それにいの一番に助けに入ってくれた。ああ、やはり、貴方の輝きは素晴らしい。
「私、貴方が大好きです」
ゆえに、今一度立ち上がる。
「その輝きを、今も燃やして、輝く貴方に祝福を。貴方に私の全てを見せます――黄金の術法」
偉丈夫の眷属にクリスが満面の笑顔で最終奥義の一つを放つ。これぞ勇気を示した男に捧ぐ人間賛歌。
黄金の一撃を受けろ血界の眷属。これが人間が築き上げてきた光だ。彼の輝きだ。
「神鳴る裁きよ、降れ雷――ロッズ・フロム・ゴッド!!!」
黄金の雷が降り注ぐ。名と共に、神の一撃が降り注ぐ。それはいつか見た輝き。空にて輝く黄金の閃光。加減できずに放たれたそれは、地表で最大威力を発揮し、地下に届くまでに本来の威力から数十倍も下がって発現する。
最寄の地下鉄駅どころか、街の街区一つを破壊し尽くしてから地下の男へまったくみすぼらしい威力で届く。
「ぐぬおおおおおおお!?」
そして、そこにあの男がやってくる。
「――ヴァルドクルエル・アルフエル・ガンズロツァーロ・アル・ガンツ」
名を呼んで、
「貴方を“密封”する」
憎しみ給え、赦し給え、諦め給え、人界を護るために行う我が蛮行を。
「999式
クラウスによって、偉丈夫が十字架へと封ぜられる。そして、全てが終わった。
「しょ、っとと」
「すみま、せん、レオさん」
クリスはレオに背負われてすっかりお空が見えるようになった地下鉄駅を出た。
「…………」
「どう、しま、した?」
「いいや」
誰もが、事実に打ちのめされる。たった二人ですらこの暴威なのだ。そんなものが奈落には千に迫る数潜んでいる。
誰も、諦めていない。そうレオが見たオーラは叫んでいた。
「ふふ、貴方もですよ。ねぇ、レオさん」
貴方の輝きもまた、美しいのです。
そうして、数日後、クリスはちゃんと治った。
血界の眷属が一体増量。
神の杖が降り注ぎ、街のブロックが一つ消滅しました。ただし、クリスが本調子ではなかった為、細かい調節が出来ず、地表で最大威力を発揮し、地下に届くまでに最低威力になってました。
ドジっ娘だなぁクリスは(棒)
とりあえずスランプ気味であまり納得できる出来ではないのでいずれ修正します。息抜きなので大目に見てください。
今回の大技はみなさん大好き神の杖でした。普通に雷落としに改変でしたが、現状使える三つあるクリスの奥義である黄金の術法の一つです。さて、あと二つは、わかるな?
それからアニメ次回はついに師匠の登場ですね。あの上と下が張り出したザップのシーンはやるのかやらないのか。
放送コード的に難しいだろうなぁ。まあ、無理は言わないです。
ふむ、そうだな。師匠登場なら、クリスの先々代も出すか。ザップと二人して逃げ出させようかな。
まあ、そこにいつ行けるかは不明ですが。
では、また次回。いつになるかはわかりませんがゆるゆると行きます。