ヘルサレムズ・ロットの中心で愛を叫びたい   作:三代目盲打ちテイク

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虹と血界の眷属 前編

「~~♪」

「何がそんなに楽しいのよ」

 

 ホワイトの病室にいるお嬢様は実に楽しそうであった。

 

「いえ、女の子の友人は初めてで、とても楽しいのです」

「そうなの。私もよ。もう三年もここに閉じこもってるの」

「勝ちました! 私実家に数か月前まで閉じこもってましたから閉じ込められてたとも言いますけど」

「いや、何の勝負よ」

 

 話せるだけで、いるだけで楽しいとでもいうかのように笑顔のクリス。純粋な子供のような笑顔を向けられてしまえばそれ以上何か言う気もなくなる。

 それは嫌と言うことではなく、まあいいかという風なそんな感じのあれだ。

 

 それに同じくはじめての同年代のお友達だ。話すだけで楽しいのはホワイトも同じである。

 

「さて、では、そろそろ行きますね」

「明日は仕事先の親睦会でパーティーなんだっけ?」

「そうです! ああ、パーティー! 人と何かを祝うということは初めてなのでとても浮かれているのです! 楽しみです」

「そう、楽しんできてね。ちゃんと感想聞かせてよね」

「はーい」

 

 そんな感じにライブラのパーティーを楽しみにしていたクリスだったのだが、

 

「うぅううぅうう、ぐぅうう」

 

 親睦会の当日、彼女は物凄い気分が悪そうであった。いつもの血色の良い顔は冗談のように真っ青だ。

 helpと、死にそうな声で言われたのでなにかあったのではないかと思いザップを伴い駆けつけたらこんな状況だったわけだ。

 

「大丈夫? クリスさん」

「ったく、軟弱じゃねえーのか。虹色頭」

「うぅうううう」

 

 もはや反応できないくらいに気分が悪いらしい。レオが、医者に連れて行くべきかと思っていると、

 

「その必要はないよ」

 

 そこに紙袋を抱えたライブラの番頭役であるスティーブンが部屋に入ってきた。

 

「スティーブンさん、どうして?」

「そろそろ時期だろうって、翁から連絡があってね。なんでも彼女はすぐ忘れるらしい」

 

 翁、つまりクリスの祖父であり先々代のクリスチャン・ローゼンクロイツのことである。

 

「そうなんすか?」

「それで、預かりものを届けにきたんだよ」

 

 そう言って紙袋をスティーブンがベッドわきのテーブルに置く。

 

「なんすか?」

「薬だよ。彼女に一般の薬は使えないし、輸血もできないからね。ローゼンクロイツ秘伝の薬というものがあるらしいよ。

 で、彼女の症状は一ヶ月に一回あるらしいローゼンクロイツの女系特有のアレらしくてね。数日はこの調子だろうってさ。彼女は特別重いらしい」

「へえ」

「おいおい、つまりこれアレじゃね?」

 

 アレだよ、アレってザップが騒ぎ出す。レオはまったくピンと来ない。

 散々アレアレ言いまくったザップは、ついに解答にたどり着いた。

 

「生理じゃ――ぎゃぁあああ!?」

「デリカシー無さすぎよ、クソ猿」

 

 すぅっとザップの頭の上に現れるチェイン。彼女は不可視の人狼であり、自らの存在を自在に希釈することが出来るのだ。

 簡単に言うと外見は普通の人間と全く変わらないが、その名の通り自在に姿を消したり出来る種族である。

 

 姿だけではなく、レーダーなどにも捉えられず壁や障害物を自在に通り抜けることも可能。

 更には、因果律レベルで存在を隠すことまでできる。流石に限度はあるものの諜報員としてはまさに破格の人材だ。

 

 そんなチェインは、ぐりぐりぐりとザップの頭を踏みにじる。

 

「犬てめぇえええ! ぎゃぁぁあああ」

 

 ぐりぐりぐり。ひとしきり頭を踏みにじってからチェインはザップの頭から降りてスティーブンに買い物袋を見せた。

 

「買ってきました」

「助かるよ。こういうのは男にはよくわからないものだからね。すまないね、仕事でもないのに」

「いえ……これも彼女のためですから」

「じゃあ、あとは頼むよ。今、クラウスとギルベルトさんが消化に良いものを作っているから、その間によろしく」

「わかりました」

 

 スティーブンが寝室を出てリビングへ行った。残されたレオ、ザップ、チェイン。

 

「チェインさん、あとを頼むって?」

「おい、犬女、何やる気だよ」

「はいはい、デリカシーのないモテない男ども。あんたらはこっち。こっから先は男子禁制だから。さっさ出て行きなさい」

 

 遅れてやって来た眼帯を着けた長身でスレンダーな女K.Kがとても良い笑顔でそう言ってレオとザップを掴んだ。

 そして、ぽいぽーい、と捨てられるように部屋から出されドアが閉められた。

 

「それじゃあ、見張っておくからやっておいて」

 

 K.Kは外で見張りの為に外へ。

 

 一方放り出されたザップら。

 

「くくくく、これで奴の弱点がわかるぜ」

「いや、辞めた方がいいですってザップさん。流石に不味いですって」

 

 外ではザップがクリスの弱点を知るために無駄な技術力で血の糸電話を作ろうとしていたが、出て来たK.Kに粉砕された。

 残されたチェインとクリス。

 

「大丈夫?」

「うぅぅ、す、すみません、死にそう」

「はい、飲んで」

「うぅ、まず。でも、ふふ」

 

 チェインがスティーブンの持って来た紙袋から錠剤を飲ませる。かなりまずいらしいが、効果は劇的だ。

 

「楽になりました。それに誰かに看病されたのはじめてなので嬉しいです」

「親睦会出れないけどね」

「それを言わないで下さいうぅ」

 

 結局、どんなに頑張っても動けなかったので、この日クリスは親睦会不参加になった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 その日の深夜。クリスの家にレオはやってきていた。親睦会であったことの報告に来たのだ。かなりマズイ事態になる可能性があるらしく伝えておくように言われたのだ。

 

「まったくザップさんは帰っちゃうし」

 

 親睦会終了後にレオが彼女の家に向かわされたのだが、本当はザップも頼まれていたのである。しかし、奴はバックレた。

 

「まあ、いいか。伝えるだけだし。クリスさーん、起きてる? って、開いてる?」

 

 部屋のドアは開いている。入っていいのだろうか? そう思いながらレオはゆっくりと扉を開く。真っ暗な部屋。軋みながら開く扉はどこか古いホラー映画を思わせる。

 先ほど聞いた話が嫌な想像を脳裏に描かせてしまう。大丈夫だろうと部屋の中に入った瞬間、ドアが閉まる。

 

「うえ!?」

 

 そして、背後から何者かに組みつかれた。声を出そうとしたが口をふさがれる。首筋にかかる吐息。背中全体に感じる柔らかな感覚を楽しむなんてできない。

 後ろからほとんど抱きしめられる形で口をふさがれ、開いているもう一方の手がレオの胸をなぞっていく。直前に聞いた吸血鬼にまつわる話が否応なくそれを想起させる。

 

(やばいやばいやばいやばいやばい――!)

「ひっ――」

 

 ぺろり、と首筋が舐められる生温かな感覚。ぞわりと悪寒が全身を駆け巡った。ゆえに、火急速やかにこの状況を逃げ出す必要がある。

 躊躇いなく義眼の力を使う。もうこんな時に使わなくて何の力だ。視界を支配してその滅茶苦茶にしてやる。

 

「うきゃぁ!? ――きゅぅ……」

「うえ!?」

 

 そのせいで組みつかれている自分事後ろに倒れる。

 

「…………」

 

 さて、真っ暗闇である。自分はどんな状態に倒れているのだろう。手を動かしてみる。動く。指を閉じてみる。何か柔らかいものを触る。

 揉み心地が良い。丁度良いハリと弾力がまじりあいこう、なんとも言えない柔らかさが癖になる。手にぴったりおさまるというか、なんというか。それと同時に華のような芳しい匂いもしている。

 

 さて、いい加減レオも自分がどういう状況になっているのかわかってきた。何がどうなってこうなったのかはまったく持ってわからないのだが、不味い。

 そう非常にまずい。それと同時にザップが居なくてよかったとも思う。それから今、おそらく自分が上に乗っている彼女が本調子でなくてよかったとも。

 

 これで彼女が本調子であったならば、まず間違いなく気絶なんてことはしてくれなかっただろうから。

 

「って、いやいやいやいや!?」

 

 音速猿も真っ青な速度でその場から飛び退く。顔が真っ赤だ。落ち着け、レオナルド・ウォッチ。自分にそんな幸運が訪れるわけないだろ。

 そう現実逃避として言い聞かせながら、電気をつける。先ほどまでのアレが、間違いであるようにと祈りながら。

 

「oh……」

 

 そして、そこに倒れているのはバスローブ姿のクリス。しかも、すっかりはだけている。

 

「うぅ、うーん」

 

 しかもお目覚め。この状況どういいわけすればいいのか。

 

「あれ? レオさん? どうしたんですかぁ?」

「え!? あ、え、えっと、そのありがとうございました!」

「?」

 

 とりあえずなぜかお礼を言ってしまった。

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 その後、クリスが何をやったのか覚えていなかったのでなかったことにして、レオは親睦会で発覚した事実について伝える。

 クリスの顔を直視できないので壁の方を向いて。まったくなかったことに出来ていない。

 

「――血界の眷属(ブラッドブリード)? しかも長老級(エルダー)ですか。やはりいたんですねぇ」

 

 血界の眷属。それは所謂吸血鬼と呼ばれるような奴らだ。その実態は異界存在によりDNAに術式を刻み込まれて創りだされた作品である。

 その中でも特に完成度の高い13体の血界の眷属を13人の長老(エルダーズサーティーン)と呼び、1943年10月に人類がその内の1人と対決した時には、戦艦1隻を乗っ取られ343人の乗組員が全滅する大敗北を喫している。

 

 外見は通常の人間と全く変わらないが、鏡や光学機器には映らない。また羽のような緋色の光を纏っているらしく、どうやらレオがそのオーラを見抜いてしまったのである。

 

「ええ、そんな淡白な反応なの?」

「そりゃあ、私ってそういう一族の末裔ですし」

 

 クラウスも含めてライブラの大元は牙狩りと呼ばれる吸血鬼ハンターである。そういうわけで、クラウスたちにとっては専門分野なのである。

 

「まあ、もちろんエルダー級なんて、早々出てきたことはないですし、お爺様くらいにならないと滅殺できませんからとてもヤバイのですけど。というか、なんでこっち向いてくれないんですか?」

「え゛!? え、あ、えっと、その、ごめん」

「謝らないでください。それとも、私は直視できないほど酷い状態ですか?」

 

 そりゃ、シャワー浴びてないですし、寝癖とかありますけど、そこまでですかね? となんか落ち込んでいくクリス。

 

「い、いや、ひ、酷くはないよ。うん、ちょっとこっちの事情で……ごめん」

「そうですか。クスっ、気にしてませんよ、謝らないで。すぐ謝るのはレオさんの悪いところですよ。いいところでもありますけど。

 となると、明日は寝ているわけにはいけませんね」

「それなんだけど、クラウスさんが寝ているようにだって」

 

 体調不良の女性を戦わせられないという彼の配慮であった。

 

「むむ、そうですか。正直助かりますね。実はこうやっているのも辛いですから」

「大丈夫?」

「ええ、お爺様のお薬のおかげで大丈夫です。ちょっとふらふらしますし、少しばかり魔術の加減が効かなくなってますけど」

 

 この状態は血に付与された術式の調整なのだ。クラウスなどとは違ってローゼンクロイツの血においてのみ発現する特殊な血。

 特に血であるため女である彼女はそれが時折乱れる。ぶっちゃけてしまうと女の子の日という奴である。そのおかげでこんなことになっているのだ。

 

「そっか。じゃあ、俺もう帰るね。お大事に」

「はい、レオさんも気を付けてくださいね」

 

 そう言ってレオは部屋を出ていった。

 

「ああ」

 

 そして、もう我慢できないとばかりに彼女は感嘆の息を吐く。

 

「ついに、ああ、ついにまみえるのですね。あなた方はどうするのですかライブラのみなさん。諦めるのですか? いいえ、あなた方は諦めないでしょう?

 ああ、なんたる甘美。楽しいです。私はあなたたちを愛しているのですから、その輝きをどうか劣化させないでください。

 その勇気を絶やすことなく燃やし続けてください。私は、そんなあなた方を愛しているのですから。人間賛歌を謳わせてください。ねえ、レオさん」

 

 窓から見えるレオの背を見ながら彼女はただ笑みを深めていくのであった。

 




前後編にわけます。

レオ君がなんかいい思いしてますけど許してやってください。彼、いいやつなんです。
原作で女っ気なさ過ぎて妹絶対泣くので、このくらいのラッキーくらいはいいんじゃないかな。

というわけで、調子悪いクリス。ふらふらで部屋の中うろついてたらなんかレオに組みついて首舐めたりはむはむしようとしました。
なにしてんだこいつ。あと今現在彼女は、加減ができない状態です。出力が限りなく高くなるか限りなく低くなるかのどちらか。

敵と遭遇中に弱くなるとどうなるか。

さて、バーガー回は良かったですね。ネジの声がちょっと予想外でしたけど聞いてたら慣れました。
とりあえずホワイトとの思い出が消えなくてよかったとだけ。次回はステゴロ回。やらないと思ってたらやるんだ。

とりあえず楽しみです。
次回は、まあいつか。では、また。

あ、ホームパーティー回どうしようかな。あ、そうだエイブラムスと絡ませよう。そうしよう。

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