ヘルサレムズ・ロットの中心で愛を叫びたい   作:三代目盲打ちテイク

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虹と堕落の食事会

「うぬぬぬぬ」

 

 今ザップは色々と困っていることがあった。というのもつい先日までライブラの新入りを守るピザを拝借して愛人宅で生活していたのだが、早晩その問題が片付いたのでそれが使えなくなってしまった。

 ゆえに、これからどうやって何を食って生活して行こうかと考えていた。とその時、

 

「~♪~♪~♪」

 

 鼻歌交じりにジャンクフードショップから出てきた同僚であるクリスを見つけた。さて、ザップとしてはこの少女が苦手である。

 なぜならば自分がどんなに馬鹿にしても馬鹿にされていると思わないからである。まったくもってやりにくい相手。

 

 だから積極的に声なんてかけるつもりがなかったのだが、

 

「あ、ザップさん。どうもこんにちは」

「お、おう」

 

 見つかってしまった。

 

「どうかなさったのですか? あ、何かお仕事ですか?」

「そうじゃねえよ」

「そうですか。では、御暇ですか?」

「お暇だったら、何かしてくれんのかよ」

「はい! 一緒にご飯食べてくれませんか」

 

 ………………さて、この女は何を言ったのだろうか。

 

 ザップがクリスの言葉を理解するまで数秒かかった。うん、まあお誘いである。デートではなく食事の。まさに願ってもないことである。

 ただ飯に勝るものはない。他人の金で食うものほどうまいものはないのだ。なにせ、自分の金ではないのだから。

 

 しかもこいつは旦那(クラウス)と同じく生きる世界の違う貴族である。だから金は持っているだろうし、食事も豪華そうだ。

 そうまさに願ってもなし。食に良いも悪いもなく、あるのは食べられるか食べられないか。食べられればなんでも良いが美味いもの食いたい。

 

 それは万国共通の思考だろう。

 

「マジか!」

「ええ、本当です」

「何食うんだよ」

「これです」

 

 さて、そうやってクリスが見せたのはバーガーである。

 

「…………」

 

 ザップの顔が面白いくらいに変化する。超期待外れ。何言ってんだろこいつってくらい期待外れ。そんな顔だ。顔芸だ。

 目聡くそれに気が付くのがクリスであり、

 

「えっと、気に入りませんよね。ザップさんは食べ慣れていらっしゃいますから。ええ、わかります。同じものを食べ続ければあきますよね。そんなものを食べても楽しくありませんよね。わかりました。ザップさん、食べたいものを言ってください。買って一緒に食べましょう、私がお金を出しますから」

 

 このクズ野郎にこんな提案をしちゃうのも彼女だからである、

 

「マジか!」

 

 さて、どこまでチョロいんだこの女とそろそろザップが思い始めたころである。

 

「あ、ザップさん、とクリスさんも。こんなところでなにしてるんですか」

 

 HL善人代表のレオが登場。さて、ここでザップが後輩の女(クリス)に朝食を奢らせようとしたなどとバレたらどうなるだろうか。まず間違いなくレオは反対する。

 そう言う奴だレオは。それは間違いなく美点だし、ザップもそれは認めている。だが、ここでは邪魔だ。ゆえに、

 

「あー! 見ろ虹色頭、あそこにUFOが飛んでるぞ!」

 

 そんな古典的な手に誰がひっかかるのか。

 

「え、どこですか!?」

 

 ひっかかっちゃう(クリス)

 

「ぜりゃああ!」

「うわああ、ぐはっ!?」

 

 一瞬でレオに蹴りをかまして路地裏に放り捨てる。すまんレオ、俺のただ飯の為なんだ。無駄にキリッとした良い顔で心の中でゲスいことを言うザップ。

 レオはザップの蹴りを受けて頭から血を流して気絶している。大丈夫、奴は丈夫だ。これくらいは大丈夫決まっている。きちんと頭に入れたので記憶も飛んでいるだろう。良し完璧だ。

 

「いませんよー、ザップさんー、どこですか?」

「あーすまねえ、見間違いだったみたいだわー」

 

 超棒読みで言い訳をして、

 

「それよりさっさと行こうぜ。俺も腹減って来たしよ。さっさと本部にもいかなきゃらならねえしな」

「はい、では行きましょう。~~♪」

 

 さっさと先へと促す。ここで時間をかけてレオが起きて来ても問題なのだ。再び鼻歌交じりに歩き出すクリスと、したり顔でついていくザップであった。

 ちょーっと高い料理の店までもうすぐというところの路地を曲がる。その時、

 

「あひひゃ」

 

 どんっ、とクリスにぶつかってきた男がいた。

 

「きゃっ」

 

 ジャンクフードにばかり気を回しているから気が付かなかった。しかし、彼女がこけることはなかった。ザップがその腕を掴んで支えたからだ。

 一応は金ずる候補であり、食事たかりの途中。ここでなにかあってはこまるという百パーセント打算からの行為である。

 

「へっ、何やってやがる虹色頭。お前、そんなんでよくここで生きていけるな」

「はい、私の不徳の致すところです。本当にありがとうございましたザップさん。このお礼は数倍にしてお返しします」

「お、おう……」

 

 だから、期待してるのはそんな反応じゃなくてだな。というか、一々過剰すぎるんだよ。まあ、お礼はきっちりもらうけどな。

 などと思っていると、更に先ほどの男が突っかかって来た。それがあまりに面倒だったので、

 

「おらあ!」

 

 頸動脈をなで斬りにしてやった。しかし、

 

「おい、なんだこいつ!」

 

 頸動脈なで斬りにしても向かってきた。手ごたえと断面は人間だというのにだ。さて、まるまる血を被ってしまったザップ。

 さて、面倒な相手だ。

 

「む、面倒ですね。爆裂させましょう」

 

 はい、どーん。っとクリスが術式を発動させて爆裂させる。しかし、それでもそいつは生きていてそのままどこかへ跳んで行った。

 

「なんだったんでしょうねえ。アレ」

「いや、人間か、あれ」

「そこらへんはザップさんの方が分かるのでは?」

「断面と手ごたえは人間だったな」

「中身も見たところそうでしたね」

 

 はて、ではあの薬中はなんだったのやら。

 

「まあ、そんなことより早く買っていきましょう」

 

 色々と気になるがとりあえずは食事。ひたすら高級食品(ザップ感覚)をクリスに買わせて二人はライブラの本部へ。

 そこであの薬中についてスティーブンから色々と聞けた。どうにも新種の麻薬が出回っているらしい。

 

 エンジェル・スケイル。単純に言えば人体改造を簡単に行ってしまう麻薬である。ザップが頸動脈なで斬りにしたり、クリスが高圧縮爆裂術式で爆散させても動くような化け物を創りだす薬。

 てなわけでお仕事である。今回のライブラの仕事は単純。これの出所の特定と撲滅である。ドラッグダメ絶対。いや、まあ、そんな思想なわけなく。

 

 顔役をスルーしてこれが外にまで流出していることが問題なのだ。だからこそ、ライブラが動く。下手をすれば外と中の均衡が崩れる。

 そうなればどうなるか。ああ、恐ろしい。世界の滅亡である。日刊世界滅亡の街で何を言うのかと言うが規模が一つの都市からガチモンの世界になってみろ。

 

 ライブラだけではどうあがいても鎮圧は不可能。そういうわけで、ザップと楽しく(クリスのみ)食事をしたあと地道に情報収集をメンバー全員で行うのだが、クリスは別の用事が入ったためにクラウスと共にどこかへ出かけて行った。

 

「申し訳ありません、クラウス様。今日は、どうも予定が入ってしまって」

「いえ、こちらこそ」

「その上途中まで送ってもらってしまって」

 

 そう言いつつクリスは停車された車内から出る。

 

「では、ご健勝を祈っておりますわ。どうか、その勇気絶やさないことを」

 

 そう言ってクリスは一つの建物に入って行く。単なるオフィスにも見えるが扉を開けた瞬間別の場所に出る。歩いているのは天井。

 

「天井を歩くなんて初めての経験ですわ」

 

 なんて楽しいのかしら。そうふわふわしながら歩いていく。退屈はしない。ああ、まさにここの主が嫌いそうなこと排している。

 歩きながら最後の扉を越えると、

 

「やあ、初めましてだね今代の黄金王。招くのが遅れて申し訳ない。僕は暇だが忙しくてね」

「はい、お初にお目にかかります。お招きいただき光栄でございますフェムト様。本来であればこちらから参らねばならぬところ。そちらの不手際ではございません。それはこちらの咎。ゆえに、気になさらず。

 それからその(黄金王の)名は返上いたしておりますゆえ、今は、ただのクリスチャン・ローゼンクロイツで御座います」

「先代と寸分たがわぬことを言うね。やっぱり、君らは面白い。またここらで騒ぎを起こすなんてことはしないのかい?」

 

 そこには正装の堕落王がいた。ゆえに、ドレスコードのクリスは招かれるままに長テーブルの対面に座る。人形が椅子をひいてくれるのでそれに合わせて座る。

 内装は落ち着いてはいるが、さてどうだろうか。高度幻覚を見破る目はないのでわからないが、薄皮一枚したは化け物だらけだとかありうるかもしれない。

 

 まあ、そうであってもクリスは眉一つ動かさないだろうが。モダンな内装。白と黒のモノトーンの床。テーブルは長く椅子は二脚のみ。

 食事会でもしよう。そんなお誘いがあったのは先日のこと。それに了承したのは今朝のことだ。どのみち、自分という人間が来たのならばいずれは挨拶に行かねばならなかっただろうからあちらから来たのは好都合ではあったのだ。

 

 言うとおり、本来ならば自分の方から行かねばならないが生憎とHLに来てから日が浅い。どこのレストランに行けばいいかなどわかるわけもなくこうやって相手の行為に甘えているわけだ。

 貸し一つであるが、これは先代の分の借りを向こうが持っているのでそれを消費した形。次はない。それよりも先代だ。そう先代。

 

「さて、どうでしょう。先代が何をしたのか私は聞き及んでいないもので」

 

 クリスは自らの父のことを知らないし聞かされていない。母のこともだ。誰が母親なのかもわからない。抱かれた記憶もないし、会話した記憶もない。

 わかっているのは先代が死去する前にここに来ていたということ。

 

「それは大変だ。ならば今日はその話でもしようかい? アレは最高のショーだったよ。まあ、まずは飲みたまえ、食したまえよ。せっかく君の為に用意した場だ」

 

 どうやら堕落王は知っているようだ。しかし、話をする前にまずはと、給仕が前菜とワインを運んでくる。芳醇な香りのワイン。

 香りは爽やかであるが深みがある。味の方はすっきりしていて飲みやすい。黄金の夜明けと呼ばれる銘柄だった。

 

「美味しゅうございます。それだけですが」

「それは、良かった。先代もそう言っていたよ。君らは良く似ている」

「あら、そうでございますか。では、先代のことについて教えてもらえます?」

「ふむ、一言で言うなら、魔王だったよ彼は。ああ、あれは中々に最高のショーだった。まさか、ただの人間があれだけのことをやらかすなんて僕らは思いもしていなかったよ」

 

 人が堕落するだからこそ試練を与えて尻を蹴っ飛ばしてやろう、と特大の試練をぶっ放した先代クリスチャン・ローゼンクロイツ。

 その結果は、色々と複雑であり一言でいうのは難しいのだが簡単に言ってしまえば、このHLを壊滅寸前にまで追い込みかけた。

 

「しかも、楽しくなりすぎて奴は本来の目的を忘れちゃってねえ。いやはや、あわや世界滅亡寸前、人類滅亡寸前。本末転倒ってやつだよ」

「ふふ、私もそういうところがありますからわかりますわ」

 

 ローゼンクロイツの家系というのは総じてそういうのが多い。行ってしまえば子供であり馬鹿なのだ。例えば人々の輝きを絶やしたくないと言って逆境でこそ輝くから試練を与えよう。

 そういう風にしていて、人がそれを乗り越えてきたらもっと輝きが見たいとエスカレートしていき最終的にテンションがあがりすぎて人類滅亡まで行ってしまうのだ。

 

 愛すべき人類が居なくなってしまっては本末転倒だろうに、そんな単純な事も計算できないのである。基本的にノリとテンションで生きている人種なのだ。

 クリスもそう。箱入りお嬢様のようではあるが、その行動は基本的にノリである。ゆえに、堕落王はこういう。

 

「なら、君にも期待していいわけだ」

「さて、それはどうでしょう。これでも私正義の味方側の人間ですし」

 

 何を言っているのやら。先代も同じようなことを言っていたんだよ。そうフェムトは言外に言いながら、

 

「ライブラ。律儀な連中だよ。まったくこの前もわざわざ出張って来たよ。特にあの少年だ。この僕渾身のギャグシナリオを潰されてしまった」

「ふふ、門と鍵とモンキーをかけていたのでしたっけ」

「他人に説明されると途端に恥ずかしくなるね。……このヘルサレムズ・ロットで殺生を忌避する普通さ。度しがたいよまったく」

「あらあら、私はそうは思いませんよ。むしろ、この異形都市で、見極めようとしたその勇気をこそ称賛すべきでさしょう」

 

 クリスはそういう人類の輝きを愛しているのだから。

 

「君のそう言うところ、僕は好きだね。ああ、これは先代にも言ったんだった」

「あら、私は貴方の堕落を誘うところが嫌いです」

「ハハハ、そりゃどうも。なにせ堕落王だからね。僕は。そんな僕が、人を堕落に誘わなくてどうするんだね。まったく先代と同じこという」

「本当、そこだけは相容れませんね」

「残念、君のことはだいぶ好きになってきたというのに。まあいい。それで、どうだい、ここの味は?」

「普通です」

 

 異形の給仕がいなくなってからクリスはそう言った。普通、良くもなければ悪くもない。普通。評価としては微妙と同義だろう。

 

「まったく、先代と同じことをいうね。君はもっと違うことは言えないのかい」

「あら、それはそれは。なにせ、いつもこの程度のものは口にしています。しいて言えば温かいか冷たいかくらいの違いですが、それくらい。感動するほどではありませんよ」

 

 毒見が入ってない分温かいがそれだけ。この程度の料理は実家で飽きるほど食べている。というか、三食がこの程度の美食だ。

 だからこそ、ジャンクフードに死ぬほど感動する。美食のように理路整然とした味が舌の上でオーケストラを奏でるものならばあれは粗雑な味が舌の上のステージで爆音のロック、あるいはデスメタルを奏でるようなものだ。

 

 凄まじい衝撃と言える。だかこそ、感動と言う心の動きを与えてくれるのだ。確かに普遍的なオーケストラは素晴らしいのだろう。

 しかし、それだけなのだ。如何に優れた味の演奏と言えど食べ慣れてしまえば飽きる。そういうこと。美味しいとは感じれる。だが、心が動かない。

 

 作業で食べる毎日。だが、ジャンクフードというものは雑だ。こういっては悪いが、微妙に味が変動する。均一に作られているように見えて、クリスの舌はその下にあるわずかな違いがわかるのだ。

 このようなレストランは食材にも気を使う為ほとんど違いというものが感じられない。いいや、正確に言えば微妙にはあるが数値にして1以下の違いしかない。

 

 しかし、ジャンクフードは1から2くらいの違いがあるのだ。この違いは大きい。素材に気を使っていないとは言わないが、高級レストランほどではないだろう。

 だからこそ、その違いが日々にうるおいを与えてくれるのである。だからこそ、ジャンクフード最高とクリスは思っていた。

 

 出来るなら毎日食べたいがなぜかレオに止められたので、数日おきに食べることにしている。その時にはレオとかザップを呼んでみんなで食べるのだ。

 一人でしか食事をしたことがないのでみんなで食べるのは楽しい。これもまた大きなスパイスと言える。だから高級レストランでの食事では満足できないのだ。

 

「ふむ、ならば機会があればモルツォグァッツァに共に行こうじゃあないか。このヘルサレムズ・ロット一の美食が味わえるレストランだ。君も気に入るだろう」

「それは楽しみですわ。本当に、私を満足させられるのであればやぶさかではございません。まあ、あとは性欲による快楽くらいですかね。私を満足させられるとしたら」

「本当、君らは同じことを言うね。さて、それじゃあそろそろ時間だし」

「はい、これでお開きと言うことで。では、楽しい食事会でしたよ。有意義なお話も聞けましたし」

 

 では、とスカートの裾をつまみ礼をして来た道をクリスは戻る。先ほどクラウスに送ってもらったビルディングの前に出た。

 そこで、

 

「んお、おい、虹色頭、てめぇこんなクソ忙しい時に何やってやがる」

 

 レオを二ケツしたザップに遭遇した。

 

「お仕事ですか?」

「良いから行くぞ。失敗すると姐さんにぶち殺される」

「ふふ、楽しそうですね。行きます。広域殲滅なら任せてください」

 

 その後、エンジェルスケイルはすっかり撲滅された。

 




第三話。旦那がゲームしている裏でクリスは堕落王とお食事。先代とかのお話が出ました。

レオの為のヒロインを用意してやろうと思ったら、なんかザップと絡んでいるクリス。ホワイトいるから良いか。

しかし、何だろう。ザップとクリス。ザップはクリスが天敵であるはずなのに、なんでこいつら絡んでるんだろう。
てか、クリス、チョロすぎるでしょ。

次回は血界の眷属とエイブラムスが出るのか。さて、どうしようかな。もう一体くらい眷属増やして時間稼ぎさせようかな。
流石に本来のローゼンクロイツなら滅殺出来るんだけど、クリスはまだそこまで至っていないので時間稼ぎかなぁ。

次回は、まあいつかゆるゆるとやります。

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