ヘルサレムズ・ロットの中心で愛を叫びたい   作:三代目盲打ちテイク

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爺と師匠とZ 後編

 ヘルサレムズ・ロットに現れた血界の眷属を封印するためには、別れた上半身が必要になるという。心臓がないために諱名が見えないためだ。

 よって、ライブラは汁外衛の弟子が連れてくるという本体の迎撃に当たることになったのだが――。

 

「なぜ、私は、こんなところに……」

 

 クリスは一人、別行動を取っていた。

 それも、ふりっふりのドレスを着て。全て爺の見立てであるが、どうして彼女がそこにいるのかというと――。

 

「二体がこちらに来ている。どちらも封印をするが、クラウス君は一人だ。ゆえに、片方と戦っている間に片方を足止めする役割がいる」

「しかし、高位の血界の眷属、そう簡単に行くのでしょうか」

「フッ、儂が連れて来た方だが、クリスがいれば完全な足止めが可能なのだよ」

 

 というわけで、その方策としてオシャレして、街角に立っている。ここにいれば来るらしいのだが。

 

「それらしい人がいない……」

 

 またお爺様の気まぐれだったのかと思った時――。

 

「おぉ、街角で可憐に咲く花よ。この邂逅は、きっと運命に定められた前世からの縁に違いない! 今まで見つけられず、本当に申し訳ない。どうか、赦されるのであれば、その美しいおみ足で、どうか罰を与えてほしい、ふみふみと」

 

 あふれ出す変態性。ねっとりと、空気に張り付くのではないかと思うほどのボォイス。

 

「――――」

 

 振り向けば、そこに跪き、クリスに手を伸ばす男が一人。その存在感は、人ではない。レオがいたならば赤く広がる翼を幻視しただろう。

 そう、この男は血界の眷属だった。だが――。

 

「しとどに濡れる青く可憐な一輪の薔薇――おお、それは貴方のこと瑞々しい未熟な果実よ、その白桃が如き美の極限で今日も私を狂わせるのか。幼き魔性の艶を前にこの身はもはや愛の奴隷。

 ゆえに、結婚してください。ぶっちゃけ超好みです!」

 

 なぜか、求婚されたようである。

 

「――え?」

 

 さて、えー、これはどういうことなのだろうか。クリスでも理解が追いつかない。とりあえず、これは変態なのだろうということだけは辛うじてわかったので、こういった場合どうすれば良かったを考え始める。

 その間も目の前の変態は、何やら動き続けていた。

 

「ああ、出来れば、ここを踏んでほしいんだけど」

 

 そう言って指すのは股間である。

 

「今は、ないんだよねぇ。極上のロリを探してヨーロッパ彷徨ってただけなのにさー、変な爺さんに下半身盗まれちゃって」

「えー、あ、はあ」

「そういうわけで、どうか、私にデートという栄誉をお与えくださると絶頂します。たぶん、下半身の方からBB汁ブシャーとかするけど、まあ、そこらへんは今は無いし」

「は、はあ……?」

「ともかく、今日君という美の女神に出会えたのは、まさしく運命! 君が何者であろうとも構わない。貴方に恋をした華よ! どうか、私と共に夜の街に繰り出そう。

 具体的には、歓楽街のホテルとか、ラブゥなホテルとか、アダルティーなお店に行こう。ともに快楽の向こう側へ旅立たん!」

 

 とりあえず、とてつもない変態であることはわかった。

 

「安心すると良い。今は、僕の自慢のマグナムはないが、磨き上げられたテクなら、君を昇天させることは容易いと自負している。毎日練習しているから、大丈夫!」

 

 何が大丈夫なのだろう。とりあえず、まったくわからない。

 遠くで爆音とか鳴っているから、ライブラが戦闘を始めたことはわかるが、クリスはすっかりわけわからない混乱モードで、思考停止中である。

 試練大好きっ娘でも、年頃の娘である。こんな変態の相手などできないし、生娘クリスであるので、耐性などあるはずもない。

 

 そんな惨状を見ているのは、派遣されてきたチェインと先々代である。

 

「うっわー……」

 

 女性から見てもアレは酷いとしか言いようがない。よくもまあ、あんなのの相手に娘を駆り出したなと呆れるチェイン。

 一方、その先々代はというと。

 

「良し、あいつ消そう」

「いやいやいや、自分から足止め提案しておいて、何言ってるんですか」

「さって、儂の可愛い、クリスちゃんに、求婚してるんだもん!」

 

 自分でこうなること予想しているくせに、実際に見たらなくのやめませんかね。

 などとチェインが思うのも仕方のないことである。

 

 そんな感じに見張りの殺気がやばいことになっている間、クリスはというと――。

 

「…………」

 

 とりあえず、時間稼ぎということだけを思い出したので、このままついて行くことになってしまった。これもまた試練。

 ならば乗り越えようという気持ちが働いたのもあった。

 

「よーし、それじゃあ、何処から行こうか、いや、もう我慢できないね。さっそくホテル行こう!」

「…………」

 

 しかし、既に挫けそう。どうにも、これ、いつもの試練と違う。

 

「というか、なんでレオさんが頭に浮かぶんでしょう。悪いことしてるみたいですし、なんででしょう……」

「おいおいおい、今、僕と楽しんでるんだから、他の男の事なんていいだろう? そんなことより、僕と遊ぼう! ほら、ホラ!」

「遊ぶ……何をして遊ぶんですか?」

「そんなこと、もちろん、無論、決まっているじゃあ、ないか! セックスだよ!」

 

 そんな一言が飛び出したので――。

 

「コロス。ワシノクリスト、セックストカ、コロス」

「――あ、もしもし、こっちもう時間稼ぎとかできない感じなんですが、そっちはかかりそうですかー」

『すまない、チェイン。こちらはもう少しかかる。ひとまずレオとドグハマーを送る、なんとか耐えてくれ!』

 

 また、そんな無茶なとは思うものの、このままではヤバイことが起きそうなのは間違いない。先々代ローゼンクロイツ。スティーブンからの命令もあり、チェインとしては彼を動かすわけにはいかないのだ。

 興が乗っただけで、世界を滅ぼしかねない。それがローゼンクロイツ家というもの。その力は紛れもなく善性によって振るわれるものではあるが、どうしようもなく彼らは、やりすぎるのだ。

 

 限度を知らない。限界を知らない。

 自らの好みに対して我慢が出来ない。

 

 それは普段のクリスを見ていればわかるだろう。ジャンクフードまっしぐら。それでぷにぷにになってきても気にせずジャンクフード。毎日ジャンクフード。

 彼女は我慢が出来ない。

 

 この一族は、そうなのだ。

 

「黄金の虚無にて滅びるが良い――乖離法 ローゼン・エクス・マキナ」

 

 先々代の身体の機構が解放される。組み上がり射出される、鋼鉄の槍。

 ヘルサレムズ・ロット全土に薔薇の槍が降り注いだ。

 狙いはすべて一点であるが、単体攻撃のくせしてその規模が対世界であることを鑑みると、どう考えても単体攻撃にならない。

 もちろん、ヘルサレムズ・ロット全土に降り注いだし、こちらに向かっているレオとドグハマーにももちろん降り注いだ。

 

「あはは、なにこれー!」

「ちょおぉおおおお!? なんなんですかこれぇ!?」

「あ、レオさん」

 

 そこに何やらクリスが吹っ飛んできた。

 

「え、クリスさん? なんで、なしてこんなところに!? 足止めは!?」

「いえ、お爺様が本気を出して大人げなく全てを虚無に落とさんとばかりに槍を落としまして」

「え、じゃあ、血界の眷属は?」

「はい、生きてますね」

「なんですと?」

 

 砂煙が晴れると、確かにそこには確かに無傷の眷属がいた。

 

「いやいや、人がプロポーズしているところに無差別攻撃とか、恥ずかしくないのかい」

 

 まるで不自然に、攻撃が彼を避けたようだった。

 薔薇の槍が大輪の花を咲かせるがごとく聳え立っている。

 

「鋼鉄の薔薇槍。いやいや、先々代黄金王か。僕の下半身を奪っただけでは飽き足らず、プロポーズまで邪魔するのかい?」

「おんどらぁ! わしの孫娘になにきゅうこんとか、死ねよ」

「孫娘? 僕はそこの美しい花に求愛しただけなんだが――え、マジで?」

「はい、そこのメカ爺は私の祖父ですね」

「うっそだろ……でも、君可愛いからいいや。そういうわけで、僕と素晴らしい一夜を過ごさないかい! あ、今、BB汁ブシャー、した」

 

 隔離している下半身でBB汁がブシャーしたが、まあ、それはいいだろう。

 

「どうしましょう? レオさん、どうしたらいいと思います」

「うぇ!? ぼ、ぼぼ、僕!?」

「はい、私こういうのってあまり詳しくありませんし、不慣れですし、レオさんに決めていただこうかなって」

 

 レオはその瞬間、全てを悟った!

 もしここで間違った返答などしようものならば、先ほどの槍よりも非常にヤバイものがこちらに跳んでくると! 直感で理解した!

 神々の義眼でとらえるまでもなく! 先々代の視線が何よりも恐ろしいことに赤く輝いているのが見えていた。

 

(ヤバイ、やばいやばいやばいやばい! なんで、いつも僕はこんなことに? あれか、ちょっといつもよりも幸せだったり、二人の女の子と知り合いになったからか?! いや、まずはそんなことよりも考えろ! 考えるんだ、レオナルド!)

 

 どうすれば、この危機を乗り越えられるのか――などと考えたところで、

 

「陰毛頭にわかるはずもなく」

「おい、ザップさん。なに脈絡もなく登場して地の文読んでるんですが、止めてくださいよ」

「あれー、いいのかなー、せっかく旦那連れてきてやったのに」

「マジありがとうございます!」

 

 ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇

 

 今回の顛末を語れば無事に結界の眷属は封印された。

 多大な被害をもたらしたのは、主に先々代であったが、それはそれ。

 ザップの師匠は帰ることになり、先々代も山奥に引きこもるに戻るという。

 その前に。

 

「レオ君、君は、クリスを危ういと思わないかね」

「危うい?」

「ああ、あの子には二つの面がある。天然でとてもプリティな年相応の女の子のような一面と、試練、試練、試練と人の輝きを愛する一面、その二つが危うく両立している。いいや、両立などしていないのかもしれない」

「それは……」

「儂はね、レオ君。クリスが普通の女の子ならばどんなに良かったかと思っているのだよ。黄金王の宿業、光の宿痾など、継承しない方がいいのだから。なにより、ちょっとわしらが本気出すと世界がヤバイになるの面倒だし」

 

 レオにはそれがどういう意味なのか分からなかったけれど。

 それが切実な願いであることはわかった。

 

「えっと――」

「レオ君、あの子を頼んだよ」

「はい!」

「ああ、それから、良いかい。もし、うちのクリスを泣かせるようなことがあったら……わかっているね」

「…………」

 

 とりあえずヤバイということはわかった。

 

 




次回レオ君がいい思いします。

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