ヘルサレムズ・ロットの中心で愛を叫びたい   作:三代目盲打ちテイク

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爺と師匠とZ 前編

 今、クリスの全身に、悪寒が奔った。なんというか、子宮からぞくりと上がってくる悪寒は、マズイ。女としての本能が最大限の警鐘を鳴らしているに他ならない。

 

「あ、まずいかも……」

 

 そう思った瞬間、かかってくる電話。最近ようやくスマホの使い方を覚えたクリスは、それでも四苦八苦しながら電話に出る。

 これもレオの頑張りのおかげだろう。なお、全然使いこなせていないのだが。

 

「えーっと、もしもし?」

「私だ」

「おじい、さま……?」

「今からそっちに血界の眷属(ブラッド・ブリード)と一緒にいくから、よろしく」

 

 何やら戦闘音をさせながら電話が切れた。

 刹那、大量の汗を流し始めるクリス。

 

「ヤバイ……おじいさまが、来ちゃう……レオさん、隠さないと……」

「お嬢様」

「わきゃぁ!?」

「――kawaii――はっ、こほん。お嬢様。ライブラから連絡です。インドとヨーロッパで二つの血脈門の開放を確認とのことです。目標は、おそらく」

「ここですね……」

「お嬢様?」

「絶対、お爺様だ……お爺様が来ちゃう……」

 

 だが、それでも仕事仕事。珍しく迎えに来たザップと二ケツして向かうことに。

 相手はかなりの高位存在らしく、滅殺は諦めてクラウスによる封印を敢行するとのことだが。

 

「しかし、そんな大物、誰が」

「知らねえが、悪寒が止まらねえ」

「私も止まりません。片方はたぶん……」

 

 何やらSS先輩とクリスが悪寒でぶるりと震えているころ、一足先にK・Kとスティーブンは、二体の血界の眷属とそれと戦う存在を確認していた。

 コートに身を包んだ男。

 牛の頭蓋骨をかぶったボロ雑巾のような誰か。

 すっぽりとドラム缶のようなものをかぶった存在。

 全身から異音を発する歪な何者か。

 

「ちょっとー、スティーブン先生? 確か、両方半身欠損してるんじゃなかったっけ?」

「見た目からすると、アッチだが」

 

 見かけで判断していいほどこのHLは甘くない。

 

「鏡だ――」

 

 古来より吸血鬼は鏡には映らないものゆえに、鏡に映らないものが敵である。

 

「「こっち!」」

 

 鏡に映らなかったコートとドラム缶に雷撃を食らわせ、凍らせる。二体がほかに意識を割いているところを強襲できたのが良かったが。

 

「え?」

「は?」

 

 ボロ雑巾のような方と異音を発する何かは、一目散に到着したばかりのザップとクリスに向かっていった。

 

「ぎゃああああああああ!?」

「あぁ……」

 

 叫び声をあげるザップとこの世の終わりのような、普段の彼女からは考えられないような表情を見せるクリス。

 つかみかかられるザップとクリス。

 

「かんべんしてください、師匠おおおおおおお」

「…………」

 

 その瞬間――氷が砕ける音が響いた。

 

 攻撃器官を自切し、互いに空中で再生する――。

 

「――斗流血法《ひきつぼしりゅうけっぽう》・カグツチ

 刃身の百壱 焔丸――三口」

 

 穿ツ牙 七獄五劫――。

 

 すさまじいまでの業火が牛頭蓋骨のボロ雑巾から放たれる。ザップのそれと同じ流派。だが――それだけではない。

 

「斗流血法《ひきつぼしりゅうけっぽう》・シナトベ」

 

 刃身の弐 空斬糸

 龍搦め 天羽鞴

 

 竜巻が生じ、焔とともにあらゆる全てを焼き尽くす。

 火と風、ありえない弐つの属性が此処に共存を果たしていた。

 

 さらにこちらもう一方――。

 クリスを小脇に抱えた、人間大の時計のような異音を放つ何か。

 

宝玉式(クォーツ)紋章(ローゼンクロイツァー)血闘魔術(ブラッドマギア)――黒の術法」

 

 ――狂い哭け(アーテルノクターン)黒の聖者(スフィアセイヴァー)

 

 発生する未源物質。あらゆる物質を対消滅させる反粒子の嵐が血界の眷属を包み込み破砕する。莫大なまでの純エーテルエネルギーが舞い上がる。

 対消滅する際に湧きあがるそれを、無限に取り込み――。

 

「術法組替――白亜の術」

 

 冥府より至れ《アルブムニウェウス》創生の白《アポトーシス》。

 

 まるで何事もなかったかのようあらゆる損害が消え失せて、綺麗さっぱり元通りになったかと思えば、そこにはただ一つだけ血界の眷属が残っていた。

 

 破壊と再生の二重奏。

 生じる反作用が空間断裂を引き起こし、不可視の刃が血界の眷属を引き裂き細切れにした。

 

 二人の滅殺者の技のあとに残ったのは、二つの――。

 

真胎蛋(ツェンタイダン)?」

「いかにも。これが血界の眷属最終自閉形態じゃ。文献でしかみることのないレベルだろう憐れな小童どもは、これを目に焼き付けておくがよいわ」

 

 泣きながらつかまったザップがそんなことを言う。どうやらしゃべらされているらしい。そうでなければ、彼がこんなにも博識なしゃべりなんてするはずがないからだ。

 

「ぬぉおぉおぉぉおっぉお、クリスちゃんかわいいよかわいいよー!」

 

 それと、その隣でひたすらクリスに頬すりしてる誰かもまた、スティーブンは先ほどの技からわかっていた。

 

「――お初にお目にかかります。血闘神、斗流血法創始者、裸獣汁外衛賤厳(らじゅう じゅうげえ しずよし)殿、ローゼンクロイツ家、先々代クリスチャン・ローゼンクロイツ殿」

「世辞は良い。一瞬、どちらを攻撃するか迷う未熟者どもの世辞に価値などない」

「はぁ、かわいいかわいい。ちょっと太ったところもぷにぷにしていて可愛い!」

 

 とりあえず、汁外衛と話することにするスティーブン。正直なところ、先々代の方に関してはまったくもって話しになりそうにないためだ。

 クリスから助けて、お願いします、という視線を笑顔でスルーして、今回の件について話し合う。

 

「汁外衛殿におかれましては、今回の相手は強敵でありますか」

「さあなあ、どうであろう」

 

 そうはぐらかしたのか、それとも本当にそう思っているのか。捉えどころがない。

 なにせ、十年単位の行方不明はザラであり、その間、かなり高位の血界の眷属の滅殺跡が発見され、汁外衛の仕業とも言われているのである。

 身体のほとんどが欠損していて、それを血法で補っているという化け物だ。

 

「おい、そろそろ貴様も話したらどうだ」

「ぬ、おぉぉ、そうであった。我が先々代クリスチャン・ローゼンクロイツである。気軽に先々代と呼ぶが良い」

 

 千年を生きるという生き字引。異界技術にも関わりがあり、最も完成された黄金の王と呼ばれている。本来は山奥の屋敷に引きこもっているらしいが、今日はどうやら外に出てきている。

 彼が滅殺した血界の眷属の数は、汁外衛と比べてもそん色ない。彼もまた、身体のほとんどが血法を扱うための触媒に改造しているという。

 

 まさしく、伝説のそろい踏みだ。

 

「おまえが滅獄の術式を付与されし血か」

「はい」

「良い面構えだ。長としても優秀なのだろうか。この糞蟲が、欠かさず鍛錬をしているらしい」

「いえ、それはザップ個人のこと。私は何もしておりません」

「謙遜なんてすることないぞクラウス君。このクリスちゃんがさらに可愛くなっているのは君のおかげだ」

 

 いや、それはたぶん関係ない。

 

 などとまあ、そんな感じに邂逅は成り、これからの話にうつる。相変わらず、ザップは釣り上げられているが、クリスは何とか抜け出したようだ。

 

「はぁ……お爺様は、いつもこれ……」

「なんというか、大変だね」

「そうなんです、聞いてください、レオさん。初めて一人でお風呂に入れるようになった時なんて、一晩中泣きはらして、最終的に私の入浴シーンを毎日撮影することでなんとかなったんですよ」

 

 いや、それは大丈夫なのか。

 

 と全員が思ったが、心の中に秘めておくことにしておいた。

 なにせ、相手は伝説の中の人だ。へたに機嫌を損ねられれば、かつての聖戦が今ここで起きかねない。

 

「ああ、そうそう。そういうわけだから――」

「へ?」

 

 いきなりクリスが持ち上げられ、真胎蛋の近くまでザップとともに連れていかれる。

 

「え? え?」

「良いか、負けるな、あの糞骸骨には絶対にな!」

「なぜに?」

 

 どうやら、なにやら? 汁外衛の弟子であるザップと先々代から名を受け継いだクリスが、どちらがより優れているのかを、この二個の真胎蛋の攻性解除で競うのだという。

 一歩間違えれば、両腕切断。下手したら足しか残らない。近づくものに超反射で反撃する真胎蛋の攻性解除、それも至近距離で。

 目玉のような器官が6個、同時に射抜けばわけはないと既知外師匠どもが言っている。

 

「え……うそでしょ、これ……」

 

 ご丁寧に逃げられないように血の結界が張られ、二個の真胎蛋が並べて置かれている。両側から同時に、一気に、コンマ数秒のズレすら許さずにやれという。

 

「あ、駄目だ、これ、濡れる……試練過ぎて濡れる……あまりの興奮で身体が熱い……脱いで良いですか……裸になりたいです……」

「虹色頭、気でも狂ったか……おいやめろ、オレがおめえの爺に殺される!」

 

 そこでザップが閃いた。

 

「おい、虹色頭、テメェの血法なら、近づかなくてもやれんだろ」

「いえ、その、それが、あのですね……」

 

 ごにょごにょと言いよどむクリス。

 

「はぁ!? 精密動作ができない!?」

「いえ、その苦手なだけで……だって、ほら、ダムの水を針穴に通すのって無理でしょう?」

 

 力がでかすぎてそんな精密動作なんて無理。それに戦う敵、戦う敵強大な敵ばかりでそこまで精密操作は必要なかった。

 

「やべぇーよ、死んだ、オレ今日ここで死ぬんだぁ」

「大丈夫です。死ぬ気でやればできますから!」

「できねえよ!? あぁ、あの悪寒はやっぱり師匠だったんだぁ」

「それに、この血界の中だと、私の術式ってほとんど使い物にならないというか使うと二人して粉微塵になりかねませんし」

 

 つまり、超精密動作で、本当に六つの眼を射抜かないといけないという。

 

「頑張りましょうね、ザップさん! 諦めなければ夢は叶います。人間に不可能はありません。素晴らしきかな、人類の可能性!」

「いやだー! 死にたくねぇよー!」

「人間、本気になれば何でもできますって。ザップさんが本気になればきっと。ああ、それとこの前言っていた、あの女の人のメアドですけど、お友達なのでお教えしますよ? なんでも? 誰でもいいから食いたいとか?」

 

 一瞬でキリっとしたザップ。

 

「良し虹色頭、行くぞ。必ず生還するんだ」

「はい! 生還したら一緒にご飯に行きましょう」

 

 メアドと財布をゲットする予定になったザップは、過去最高に集中していた。クリスはクリスでこの特大試練によって超ノリノリの連続覚醒中。

 ピンチの中ほど強くなる阿呆は、今もなお、この最大試練を乗り切るべく進化の真っ最中であった。

 

「大丈夫なんでしょうか、二人は……」

「儂の孫娘があんな下品な銀の猿に負けるはずがない! それよりもだ――君がレオナルド君だね?」

「はい、そうですけど……」

「話はレーエから聞いているよ。とても、孫娘が、世話(・・)になっているそうだね」

「いえ、こちらの――」

 

 そこでレオは気が付いた。

 これは返答を間違えた瞬間にやられると。

 顔がないため声からしか判断できないが、先々代は紛れもなく、笑っていない。笑っているように見えて、まったく笑っていないのだとレオは察した。

 何より思い返される、クリスとのアレやコレや(ラッキースケベ)の数々。

 

 レオにあるまじき幸運の数々を思い出して、これが伝えられると非常にまずいのではいかという、先々代の溺愛を見て判断。

 そう、危機は、あちらではなくこちらなのだ。

 

「おやぁ、どうしたのかね。そんなに汗をかいて、緊張しているのかい? 緊張せずとも良いよい、孫娘のお友達に、儂が何かするはずないじゃないか」

 

 ――いやいやいや、まったく、そんな風には思えないオーラなんですけどぉおお!?

 ――やばい、やばいやばい。

 ――考えろ、レオナルド・ウォッチ。

 ――ここで死ぬわけにはいかないんだぞ。

 

「――レオ、来てくれ、諱名を見てほしい」

「はい、わかりました!」

 

 助かった―!

 

 どうやら無事にザップとクリスは真胎蛋を無力化したらしい。

 ただ、何故かフル勃起してるのと全裸なのだが。

 




翁は、自重どしないヨ。

槍以上のなにかが振るよ


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