リリカル・ストラトス 元織斑家の魔導師 作:妖精絶対許さんマン
ハワイ沖に建てられている米軍基地。そこではアメリカ・イスラエル両国共同開発の軍用IS
『お疲れ様です、ファイルス中尉。午前の試験運用はこれで終了です。次の試験運用は一三〇〇時からです』
「分かったわ。この子はメンテナンスに回したら良いのかしら?」
『はい。待機状態のまま整備士に渡してください。午後の試験運用までにはメンテナンスが終了しますので』
「分かったわ。それじゃあ、お疲れ様」
『お疲れ様です』
銀の福音の操縦者、ナターシャ・ファイルスは待機状態の銀の福音を首からかけて、基地内部に入ろうとする。ーーーーー背後に迫るモノに気づかずに。
「しゃぁ!!」
「えっ!?」
背後から黒い蛇が襲い掛かる。だが、ナターシャはとっさに回避した。だが、待機状態の銀の福音は蛇に食われた。すると、蛇の体が光だした。
「な、なに!?」
強烈な光にナターシャは思わず目を瞑る。光が治まったのを感じると、ナターシャは目を開いた。そして、目の前の存在に驚愕した。
「aaaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!」
銀色だった装甲は闇のごとき黒に染まり、銀翼は神話に紡がれる堕天使のように黒に染まっていた。福音は黒翼を羽ばたかせ、基地を飛び出した。向かう先は日本ーーーーー己の本体を消滅させた者を殺すために。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「では、現状を説明する」
旅館に戻った俺たちは旅館の一番奥にある大座敷・風花の間で専用機持ちとスコールたち教師陣が集められている。篠ノ之を拾ってきた凰もいる。
「二時間前、ハワイ沖で試験稼働にあったアメリカ・イスラエル共同開発の第三世代型の軍用IS銀の福音が制御下を離れて暴走。監視空域より離脱したとの連絡があった」
軍用ISの暴走だと?そもそも、ISの暴走なんてあり得るのか?ISがいくら機械だと言っても、外部からのウイルスに感染するとは思えない。それこそメンテナンスをする時に使う機械にウイルスを仕込まない限り不可能だ。
「その後、衛星による追跡の結果、福音はここから二キロ先の空域を通過することがわかった。時間にして五十分後。学園上層部からの通達により、我々がこの事態に対処することとなった」
・・・・・上層部は馬鹿か?学園長は兎も角、他の上層部は無能すぎだろ。軍用IS相手に専用機持ち七人にスコールとオータムの教師陣で専用機を持っている二人、量産機が数機。足止めしか出来ないだろ。
「教員は学園の訓練機を使用して空域及び海域の封鎖を行う。よって、本作戦の要は専用機持ちに担当してもらう」
はっ?専用機持ちだけで止めろってか?無理だろ。
「それでは作戦会議をはじめる。意見があるものは挙手するように」
「はい」
オルコットが手をあげた。
「目標ISの詳細なスペックデータを要求します」
「わかった。ただし、これらは二カ国の最重要軍事機密だ。けして口外するな。情報が漏洩した場合、諸君には査問委員会による裁判と最低でも二年の監視がつけられる」
「了解しました」
混乱している織斑を他所に、他の専用機持ちと教師陣がデータを元に相談し始める。だがまあ、今回は織斑に同情する。元々、一般人だった織斑がこんな異常事態にまともに動ける筈も無いな。
「広域殲滅を目的とした特殊射撃型・・・・・わたくしのISと同じく、オールレンジ攻撃を行えるようですわね」
「攻撃と機動の両方に特化した機体ね。厄介だわ。しかも、スペック上ではあたしの甲龍を上回ってるから、向こうの方が有利・・・・・」
「この特殊武装が曲者って感じはするね。ちょうど本国からリヴィヴ用の防御パッケージが来てるけど、連続しての防御は難しい気がするよ」
「しかも、このデータでは格闘能力が未知数だ。持っているスキルもわからん。偵察は行えないのですか?」
「無理だな。この機体は現在も超音速飛行を続けている。最高速度は二四五〇キロを越えるとある。アプローチは一回が限界だろう」
「一回きりのチャンス・・・・・ということはやはり、一撃必殺の攻撃力を持った機体で当たるしかありませんね」
山田先生の言葉に俺たち兄妹と簪、教師陣ではスコールとオータム以外が織斑を見た。
「ねぇ、貴女たち?一つ肝心なことを忘れていないかしら?織斑君は今、専用機を学園側が管理しているのよ?どうするつもり?」
「問題ない。すでに学園長に連絡して特例として今回だけ使用する許可は貰ってある」
はい、職権乱用でましたー。
「・・・・・そう。それなら私は何も言わないわ」
スコールはそう言っているが、険しい顔をしている。
「織斑、これは訓練ではない。実戦だ。もし覚悟がないなら、無理強いはしない」
・・・・・本気で織斑を出すつもりか?正気の沙汰じゃないぞ?素人の上に一ヶ月近くISを触れていない奴にやらせるか?
「やります。俺が、やってみせます」
織斑は何かを覚悟した顔をでそう言った。俺はそれを冷めた目で見ていた。だって、そうだろ?このまま話が進んで、織斑のことを誰も指名しなかったらアイツは自分から進んで志願しようとしなかっただろうからな。自分から進んで志願したと思ってるんだろうが、それは違う。アイツは織斑先生に言われたから志願したんだ。そんな奴にどう期待しろっていうんだ?
「・・・・・束。そこにいるんだろ?」
織斑先生は苦々しそうな顔をしながら、襖の向こうに声をかけた。
「あちゃー、やっぱりちーちゃんにはバレちゃうかー」
すると、襖を開けて束が入ってきた。手にはかき氷を持っている。
「何かなちーちゃん?束さんの力が必要なことかな?」
束はかき氷を一口食べながら聞き返す。
「お前が作った紅椿なら福音に追い付けるか?」
「織斑先生っ!?」
織斑先生の気持ちもわからんでもない。正直、地球で束以上の科学者は存在しない。そんな人間が自ら作った機体の性能に期待しないはずがない。
「もちのろんだよ!束さんは完璧にして十全!なら、束さんが作った機体も完璧なんだよ!・・・・・乗り手は別だけどね」
束は最後に小さく何かを呟いていた。
「何分あれば紅椿の調整を出来る?」
「紅椿の調整時間?七分あれば余裕だよ♪」
「よし。では本作戦では織斑・篠ノ之の両名による目標の追跡及び撃墜を目的をする。作戦開始は三十分後。各員、ただちに準備にかかれ」
このままだとダメだ。スコール達は何も言わないつもりみたいだけど、この作戦は失敗する。
「異議あり」
「お兄ちゃん?」
俺は挙手する。
「何だ、高町兄」
「本気でこの作戦で行くんですか?失敗しますよ?」
「貴様、私と一夏とでは成功できないというつもりか!?」
バカが何か言っているが無視する。
「何も素人二人だけで出撃させる必要はないでしょ?」
「・・・・・何が言いたい?ハッキリと言え」
織斑先生はイラついたように聞いてくる。
「なら、ハッキリと言わせてもらいます。ーーーーーこの作戦は穴だらけだって言ってるんだ。素人二人ーーーーーそれも、専用機を貰ってすぐの人間を使うか、普通?アンタは馬鹿か?」
敬語を止めて、素の状態で話す。
「機体の性能に頼っているだけの素人二人に任せて、もし福音を撃墜することを出来なかったらどうなるのか、アンタはわかっているのか?死ぬんだよ、人が。何の関係もない一般人が。アンタはそうなった時は責任を取れるのか?」
「その時のための残りの専用機持ちだ。織斑と篠ノ之が失敗したら旅館に残っている専用機持ちで福音を迎撃する」
どうやらこの教師は自分の弟と幼馴染みの妹に花を持たせたいらしい。俺は山田先生に断りを入れて投影ディスプレイの前に立つ。
「それなら最初から専用機持ち全員で迎撃すればいい。旅館の護衛はスコール・・・・・先生とオータム先生に任せればいい」
俺はディスプレイを操作して予測される戦闘空域の地図を表示する。そして、後衛にマドカ、簪、オルコットを配置。中衛にデュノア、ボーデヴィッヒ、凰を。前衛に俺を配置する。そして、少し離れた場所に篠ノ之と織斑を配置する。
「まず、篠ノ之と織斑以外の専用機持ちで福音の牽制。篠ノ之は織斑を流れ弾から護る。そして、隙を見て織斑が福音を撃墜する。まだ、こっちの作戦の方が勝率はある」
「移動はどうするつもりだ?」
「スコール先生。船舶免許持ってませんでした?」
「ええ、持っているわ」
「なら、スコール先生の操縦で予想戦闘空域ギリギリまで船で接近、そこから福音を迎撃すればいい。違うか?」
もしかしたら、この作戦も失敗するかもしれない。それでも、素人二人だけを行かせるよりはマシだと思う。
「却下だ。織斑・篠ノ之両名による
最初から通るとは思ってなかったが、速攻で却下するか。織斑と篠ノ之が死のうがどうなろうが興味ない。でも、二人のせいで海中の生徒が・・・・・自由が怪我しようものなら俺は、織斑先生と織斑、篠ノ之を絶対に許さない。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「織斑君、篠ノ之さん、三十秒後に福音との予想戦闘空域に入ります!」
「よし、山田先生はそのままモニターしておくように」
三十分が過ぎ、作戦が決行された。織斑と篠ノ之は既に花月荘から飛び立っている。
「白式、紅椿、福音と交戦開始!映像を回します!」
投影ディスプレイに衛星からリアルタイムに送られてくる映像が映し出された。
「そんな・・・・・」
俺は映し出された映像を見て愕然とした。事前に開示された情報とは違い、装甲と翼が黒い福音。だが、装甲の隙間から俺には見えた。人の肌ではなく、黒く蠢く無数の蛇が。
「・・・・・・・・・・けるな」
「お兄ちゃん?どうしたの?」
あれは・・・・・アイツは彼女が・・・・・リインフォースが命をかけて消した筈だ。
「・・・・・・・・・・ふざけるな!」
許せるはずがない。許容できるはずがない。ナハトヴァールが生きているなら、リインフォースが消えたのが無意味じゃないか・・・・・!
「ふざけるなっ!!!!!」
突然大声を出した俺に、周りが俺を見てくる。
「山田先生!今すぐ二人を撤退させてください!」
俺はそれだけ言って大部屋を飛び出した。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「秋!」
お兄ちゃんを追い掛けてオータムも大部屋から出ていった。
「お兄ちゃん・・・・・」
福音を見てからお兄ちゃんの雰囲気が変わった。多分、魔法関係だと思う。お兄ちゃんは私たち家族に魔法のことを余り話そうとしない。
「白式、零落白夜発動!福音に命中しました!!」
零落白夜。織斑先生が現役時代に使っていた単一使用能力。触れれば絶対防御を強制的に発動させて、SEを大幅に減らすことが出来る。
「福音のシールドエネルギー激減!そんな!?」
「どうした、山田先生!」
「ふ、福音のシールドエネルギーが回復していきます!白式、紅椿両機ともにシールドエネルギーの残量三十パーセントをきりました!織斑君!篠ノ之さん!作戦失敗です!今すぐ撤退してください!!」
『大丈夫です!私と一夏なら、福音に勝てます!!』
篠ノ之はそれだけ言って通信を切った。
「篠ノ之さん!?篠ノ之さん!?応答してください!!篠ノ之さん!?」
山田先生は何度も篠ノ之に呼び掛けるが、篠ノ之の方は通信を切っているみたい。
「・・・・・・・・・・えっ?」
「そ、そんな・・・・・」
「い、一夏・・・・・?」
投影ディスプレイに衛星から送られてきた映像には、あり得ない物が映っていた。
『げほっ・・・・・!』
『い、一夏あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!」
ーーーーー福音の右腕が白式の絶対防御を貫通して、