リリカル・ストラトス 元織斑家の魔導師   作:妖精絶対許さんマン

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なんとか今月中に投稿することが出来ました!

私が最近聞いている曲は水樹奈々さんのアンティフォーナと恋相花火です。


君の部屋は私とオータムと同室よ。 by スコール・ミューゼル

「海っ!見えたぁっ!」

 

臨海学校当日。俺達は各クラスに別れてバスで移動している。簪とはクラスが別なため、一組のバスには乗っていない。

 

「ロイヤルストレートフラッシュ」

 

俺は隣のマドカと前の席の本音、本音の隣に座っている鷹月さんとでポーカーをしている。

 

「ま、また負けた・・・・・」

 

「アッキー強すぎだよぉ~」

 

「お兄ちゃん強運過ぎ・・・・・」

 

俺はロイヤルストレートフラッシュ、マドカはツーペアー、本音はワンペアー、鷹月さんはフラッシュだ。

 

「ま、運も実力の内ってことだ」

 

十回やって全勝という結果だ。自分でも驚きだ。

 

「そろそろ目的地に着く。全員ちゃんと席に座れ」

 

織斑先生の言葉で全員が席に座る。窓の外にはどこまでも続く海が広がっている。やがて、バスはIS学園一年生が三日間宿泊する宿、花月荘に到着した。

 

「それでは、ここが今日から3日間お世話になる花月荘だ。全員、従業員の仕事を増やさないように注意しろ」

 

「「「よろしくおねがいしまーす!!」」」

 

織斑先生の言葉の後、全員で挨拶をする。着物姿の女将さんがお辞儀した。

 

「はい、こちらこそ。今年の1年生も元気があってよろしいですね」

 

今時にしては珍しい女性だな。女尊男卑の風潮に染まりきった奴らとは違って、しっかりとした個を持っているな。

 

「あら、こちらが噂の・・・・・」

 

女将さんは俺と織斑と目があうと、織斑先生に尋ねた。

 

「ええ、まあ。今年は二人男子がいるせいで浴場分けが難しくなってしまって申し訳ありません」

 

「いえいえ、そんな。それに、二人ともいい男の子じゃありませんか。しっかりしてそうな感じを受けますよ」

 

「感じがするだけですよ。二人とも挨拶をしろ」

 

他人の織斑先生にそんなことを言われる理由はないと思うけどな・・・・・。

 

「お、織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

「高町秋です。三日間よろしくお願いします」

 

「うふふ、ご丁寧どうも。清洲景子です」

 

女将さんはそういってまたお辞儀をした。

 

「それじゃあみなさん、お部屋の方にどうぞ。海に行かれる方は別館の方で着替えられるようになっていますから、そちらをご利用なさってください。場所がわからなければいつでも従業員に訊いてくださいまし」

 

女子達は一斉に返事をした。

 

「ねえ、お兄ちゃん。お兄ちゃんの部屋ってどこなの?」

 

「一覧に書いてなかったよね?まさか・・・・・野宿?」

 

いつのまにか隣に来ていたマドカと簪が俺の部屋を聞いてきた。そして、簪。さすがに野宿はないだろ。

 

「高町君。君の部屋はこっちよ」

 

荷物をもったスコールが俺を呼びに来た。生徒達の手前、俺のことを名字で呼んだ。

 

「君の部屋は私とオータムと同室よ」

 

「ちょっと待ってよ、スコール・・・・・先生!お兄ちゃんが先生たちと一緒の部屋ってどういうことですか!?」

 

スコールは俺たちに顔を近づけて、小声で話始めた。

 

「護衛の都合上仕方がなかったのよ。最初は織斑先生が秋と織斑君の同室を願い出たんだけど、無理矢理私たちと同じ部屋にしてもらったのよ。一時期秋の家で居候してた私とオータムの方が秋も変に気にしなくていいでしょ?」

 

「確かにな・・・・・ありがとう、スコール」

 

「ふふっ、どういたしまして」

 

あの二人と同室なんてお断りだ。やれ、お前は俺達の弟だという奴がいるから、イライラして壁を殴って穴を開けてしまうところだ。

 

「それじゃあ、高町君。行きましょうか」

 

「わかりました。マドカ、簪。また後でな」

 

「うん、また後でね」

 

「うぅ~、納得できないよぉ~」

 

「もう、行くよマドカ」

 

簪はマドカの襟を引っ張って旅館に入っていった。・・・・・簪ってあんな性格だったっけ?

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

「おぉー!」

 

部屋に一番に入ったオータムは荷物を放り投げて、海が一望できるベランダに出ていった。

 

「秋もこっち来て見てみろよ!」

 

「わかったから、引っ張るなって!」

 

オータムに引っ張られる形でベランダに出た。ベランダからは海鳴市とはまた違った海の景色が見える。

 

「・・・・・綺麗だな」

 

「だろ?」

 

「ああ・・・・・とても綺麗だ」

 

見る場所一つ変わるだけで海の景色が変わるんだな。海鳴市から見える海は安心感をくれて、この旅館から見える海は高揚感・・・・・とはまた違った感情が溢れてくる。

 

「・・・・・・・・・・」

 

「どうかしたか?」

 

「な、何でねぇよ!」

 

(は、反則だろあんな顔!あ、あんな風に笑われたら・・・・・もっと好きになっちゃうじゃねえかよ!)

 

何故か頬を赤くしているオータムに目を逸らされた。何かしたか、俺?

 

「あー、こほん!そろそろ良いかしら?」

 

俺とオータムはこの部屋にもう一人いることをすっかり忘れていた。スコールの方を恐る恐る振り向くと、スコールがジト目で見てきた。

 

「これからの予定だけど、オータムは私と一緒に職員会議ね。五分ぐらいで終わるからそんな顔しないの」

 

オータムの方を見ると顔を逸らされた。

 

「秋は海で遊んできなさい。私達も会議が終わったら行くから。楽しみにしてなさい、貴方に見せるために特別な水着を用意してきたから」

 

スコール、若干痴女っぽいところがあるからな・・・・・紐とかじゃないよな?

 

「しゅ、秋・・・・・」

 

スコールが用意したという水着のことを考えていると、隣のオータムに制服の裾を引っ張られた。オータムの方を見ると顔を赤くしながら俯いていた。

 

「その・・・・・ア、アタシも新しい水着を買ったんだ。た、楽しみにしてろよな!」

 

オータムはそれだけいうと走り去っていった。

 

「もう・・・・・オータムの照れ屋さん♪私も会議に行くわね」

 

「部屋の鍵はどうしたら良い?」

 

「そうね・・・・・秋が持っておいて。心配ならフロントに預けておいてくれて良いわよ」

 

「わかった」

 

フロントに預けておけば良いか。持っておくのも面倒だし。

 

「それじゃあ、秋。また、後でね」

 

「あぁ」

 

スコールは荷物を持って部屋から出た。俺も水着と着替えを持って部屋から出る。着替えは別館ですればいいんだったよな。

 

 

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

 

 

水着に着替え、砂浜に出る。水着はハーフパンツのような水着に長袖のフード付きのジャケットを着ている。海鳴市なら気にしないんだが、学校行事ってことで体の傷を隠すために着ている。

 

「あ、高町君だ!」

 

「本当だ!変なところないよね!?」

 

砂浜には既に学園の生徒達がいた。それぞれが派手な水着を着ている。

 

「お兄ちゃん!」

 

「秋」

 

後ろから名前を呼ばれ、振り返ると俺が選んだ水着を着たマドカと水色のフリルがついたビキニを着ている簪が小走りで近づいてきた。

 

「マドカ、簪」

 

「ほら、簪!」

 

「は、恥ずかしいよマドカ・・・・・ッ!」

 

マドカが恥ずかしがっている簪を前に引っ張る。

 

「ど、どうかな・・・・・秋?」

 

簪は胸の前で手を組ながら上目使いで見てきた。簪の水着は水色のフリルがついたビキニに胸の真ん中にリボンがついている。

 

「あぁ、似合ってるよ」

 

それに、簪がビキニっていうのが意外だ。簪って少しだけ内向的なところがあるからこういった場所なら露出が少ない水着を選ぶと思ってた。

 

「あ、ありがとう・・・・・」

 

簪に顔を赤くしながらお礼を言われた。

 

「あ、簪!向こうに海の家があるよ!行こう!!」

 

「えっ!?ちょっ、私は行かなーーーーー!!」

 

行かないと言おうとした簪はマドカに引っ張られながら海の家に突撃していった。その際、簪の悲鳴じみた声が聞こえた気がした。

 

「・・・・・俺も見て回るか」

 

一人で見て回るなんて滅多に無いからな。少しだけ楽しみだ。

 

「まずは・・・・・」

 

適当に見て回ろうと思った矢先、鷹月さんと同じクラスの相川さんがナンパされていた。

 

「どうなってんだよ・・・・・この学園の警備は?」

 

事前に聞かされていた話だと花月荘はIS学園の貸し切りで他に客はいない筈だぞ?

 

「鷹月さん、相川さん」

 

俺はナンパされている鷹月さんと相川さんに近寄り、声をかける。

 

「あ、高町君!」

 

「よ、良かったぁ・・・・・」

 

二人は安堵したように胸を撫で下ろしながら俺の後ろに隠れるように移動した。

 

「「た、高町生徒会長!?」」

 

「ん?榊と青原か?久しぶりだな」

 

鷹月さんと相川さんをナンパしていたのは海中時代の後輩の榊と青原だった。あぁ・・・・・海中は今の時期、臨海学校か。だから、二人ともここにいるんだな。

 

「高町君の知り合い?」

 

「知り合いっていうか・・・・・中学の後輩だな」

 

二人は陸上部所属で去年は惜しくもレギュラー入りを逃していた。

 

「榊と青原。陸上部の方はどうだ?今年はレギュラーに入れそうか?」

 

「はい!今年は俺も青原もレギュラー入りできそうです!」

 

「僕たちも二年生になって後輩を指導する立場になりました!」

 

そうか・・・・・二人ともレギュラー入り出来そうなんだな。まあ、それとこれとは話が違うけどな。

 

「それで?どうしてお前たち二人は貸し切りの筈のここにいるだ?事と次第によっては引率の教師に引き渡すぞ?」

 

「か、貸し切り!?そ、そんな話は俺達聞いてないですよ!?」

 

「ぼ、僕たちは他の客に迷惑を掛けないようにって言われて行動してました!!」

 

貸し切りの話を聞いていない?普通はあらかじめ通達するはずなんだけどな。

 

「榊と青原。二人とも同じクラスか?」

 

「は、はい!俺と青原は同じクラスです!」

 

「担任は?」

 

轟鬼(とどろき)先生です!!」

 

「あの人か・・・・・」

 

轟鬼朱音先生。体育教師で名前の通り鬼のような人だ。素行不良の生徒がいれば生徒指導室に連れ込み、三時間ほど“お話”をする。すると、あら不思議。素行不良の生徒はまるで嘘のように人が変わる。憧れの人は二宮金次郎、好きな物はテストと答える最早人格矯正どころか洗脳に近い行いだ。そんな先生も連絡忘れなどしょっちゅうする。恐らく、今回もそれが原因だろう。

 

「はぁ・・・・・今回は見なかったことにしとくから早く集合場所に戻れ。じゃないと、轟鬼先生に“お話”されるぞ?」

 

「「は、はい!!失礼します、高町生徒会長!!」」

 

二人は綺麗な敬礼をすると走り去っていった。さすが陸上部。速いな。それと、もう生徒会長じゃないんだけどな。

 

「ごめんな、鷹月さん、相川さん。あの二人も悪い奴らじゃないんだ。許してやってくれ」

 

俺は二人に向かって頭を下げる。二人が女尊男卑思考の人間じゃないことは分かっているけど、筋は通さないとな。

 

「あ、頭をあげてよ高町君!私たちも気にしてないから!」

 

「そ、そうだよ!そ、それに、ナンパされて嫌じゃなかったし・・・・・」

 

相川さん・・・・・ナンパされて嬉しかったのか?まあ、こんな御時世だからナンパするような男は滅多にいないしな。

 

「ありがとう」

 

俺は頭をあげる。ふぅ・・・・・二人が許してくれて良かった。

 

「でも、驚いたよ。高町君って中学生の時って生徒会長してたんだ」

 

「昔の話だよ。今じゃ副会長さ」

 

生徒会長の頃に比べればだいぶ仕事量は減った気がする。それでも、扱う案件がIS学園の方が重い。

 

「それじゃあ、鷹月さん、相川さん。俺はこの辺で失礼するよ。二人とも海を楽しんでな」

 

俺はそれだけいって二人から離れる。さて、最初の目的通り適当に見て回ろう。辺りを見回すと、マドカ達が突撃した海の家とは違う店があった。

 

「寂れてるな・・・・・」

 

店に入ると、そこには何も無かった。いや、少しだけ語弊があるな。長机や椅子、かき氷器が置いてある。だけど、生活感を一切感じない。長い時間、人が入った形跡がない。

 

「ーーーーーおやおや、この店に客とは珍しいねぇ」

 

「ッ!?」

 

店の奥から杖を突きながら店主とおぼしきお婆さんが出てきた。店の雰囲気と合間ってただならぬオーラを感じる。

 

「生憎と、この店は何年も前に閉めたんだよ」

 

「そうなんですか。勝手に入ってしまい申し訳ありません。すぐに出ていきます」

 

俺はお婆さんに背を向けて店から出ようとする。

 

「待ちな」

 

「・・・・・何ですか?」

 

お婆さんに呼び止められた。

 

「そう急いで出なくても良いよ。久しぶりの客人だ。何にも出すもんは無いけど、アンタを占ってやるよ」

 

お婆さんは地面を杖で叩く。

 

「ふぅむ・・・・・アンタ、女難の相が出てるねぇ。それも、近いうちに大勢の女から告白されね」

 

女難の相って・・・・・しかも、大勢の女性から告白される。勘弁してくれ。今はオータムにする返事でいっぱいいっぱいなんだよ。

 

「それと、近いうちにアンタに大きな災いが降りかかるよ。今のうちに逃げることをオススメするさね」

 

「災い・・・・・」

 

災い・・・・・ね。今さらどんな災いが来ようが怖くなんて無い。

 

「お婆さん。一つ訂正してください」

 

「何をだい?」

 

「俺はどんな災いが来ようが逃げない。逃げたら俺は俺じゃなくなるからな」

 

そう、どんなことがあっても俺は逃げない。確かに逃げれば楽だろう。辛いことから逃げて、現実から逃げて、色々なことから逃げれば安心できるだろう。だけど、それは偽者の安寧だ。本当に安寧が欲しいなら、どんな辛さも踏み越え、どんな苦しみも踏破する。一人が無理なら仲間に頼ればいい。そうすることで本当の安寧を得ることが出来る、と俺は思っている。

 

「失礼します」

 

俺は海の家から出る。

 

「秋。ここにいたのね」

 

海の家から出ると、赤色の水着を着て、パレオを腰に巻いているスコールと会った。

 

「こんな、何もない場所でなにしてたの?」

 

「何もないって・・・・・そこに海の家が」

 

後ろを振り向くと、そこには海の家ではなく、廃虚があった。椅子は倒れ、机の足も折れていて使い物にならない。

 

「あの建物?あそこは何年も前に潰れた海の家よ。何でも店主のお婆さんは占いが得意で、お婆さんの占いは必ず当たってたそうよ。でも、去年には亡くなったそうよ」

 

なら、俺が出会ったお婆さんは・・・・・幽霊?

 

「秋?顔色が悪いわよ?日陰で休む」

 

「だ、大丈夫だ・・・・・」

 

あのお婆さんのことは忘れよう。その方が良さそうだ。

 

「そう?なら、行きましょう。オータムが待ってるわ」

 

「あぁ」

 

俺とスコールは他の生徒達が集まっている所に向かった。内心でオータムの水着を楽しみにしながら。


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