リリカル・ストラトス 元織斑家の魔導師 作:妖精絶対許さんマン
それと、今回は作者なりの解釈ぽい物があります。
賛否両論あるだろうー
「一夏・・・・・どうしてあんなことをしたんだ?」
「・・・・・・・・・・」
IS学園取調室。そこには1年1組担任にして
「黙ってないで何か言ったらどうだ?」
「・・・・・・・・・俺は悪くない」
虚空を見つめながら一夏は言う。その目には光が宿っておらず、虚ろだった。
「失礼するわよ」
「・・・・・・・・・・」
取調室に入ってきたのは、スーツ姿のスコールとオータムだった。スコールは普段通りだが、オータムは一夏のことを睨んでいる。
「・・・・・何をしに来た?」
千冬は取調室に入ってきたスコールとオータム、厳密にはスコールを睨んでいる。
「織斑一夏君の事情聴取だけど?何か問題あるかしら?」
「大有りだ!生徒に暴力を振るっておいて、どの面下げて来た!?」
「あら?生徒に暴力なら貴女の方が酷いじゃない。出席簿で生徒叩く貴女より、まだ私の方がマシじゃないかしら?」
スコールと千冬は睨み合う。片や弟を攻撃された姉。片や想い人を間接的に傷つけられた女。お互いに譲れないモノがある。
「それとも、私達が居たら不都合なことでもあるのかしら?例えば・・・・・織斑君の都合がいいように報告書を捏造する、とか」
「そんなことするわけ無いだろ!!!!!」
「なら、問題ないじゃない」
スコールは近くに置いてあった椅子に座る。オータムは一夏の後ろの壁にもたれ掛かる。取調室に静寂が満ちる。
「・・・・・ねえ、織斑君。どうして秋が貴方を庇ったかわかる?」
静寂を壊すように、スコールがいまだに虚ろな目をしている一夏に問う。
「それは・・・・・秋が俺のことを家族だと思っているから・・・・・」
「違うわ」
スコールは一夏の答えを分かっていたのか、すぐに切り捨てる。
「貴方は勘違いしているわ。秋は貴方のことを家族だなんて微塵も思っていない」
「違う!!秋は俺が兄弟だから助けてくれたんだ!!」
一夏は怒鳴りながら立ち上がる。
「座れ」
一夏の後ろに控えていたオータムは一夏の両肩を押さえ、無理矢理座らせた。
「貴方は増やさなくて良い被害を増やしたのよ。分かってる?」
スコールは立ち上り、一夏の前に行く。
「貴方は秋が弟と言ったわね。秋の兄は高町恭也、ただ一人。秋は恭也君を慕っている、なついている、尊敬している」
スコールは一夏と千冬の周りを歩く。
「貴方は秋からその幸せを奪うの?どんな理由で?貴方にどんな権利があって?」
「俺と秋は家族だ!!兄弟だ!!家族が一緒に暮らすことは間違ってるのかよ!!」
「いいえ、間違ってないわ」
「なら!!」
「だから、秋は家族と暮らしてるじゃない。血は繋がってなくても、実の子供のように接している両親。実の弟のように可愛がってくれる兄姉。兄と慕ってくれる妹2人。ほら、上げただけでも秋には6人の家族が居るじゃない」
スコールは机の縁に腰掛ける。
「違う!!そいつら全員偽者だ!!俺と千冬姉だけが秋の家族なんだ!!」
「・・・・・はぁ」
スコールは溜め息を吐く。
「・・・・・今からは“教師のスコール・ミューゼル”としてじゃなく、“スコール・ミューゼル個人”として話させてもらうわ」
スコールは金糸のような髪をかき上げる。
「どうも、私は貴方のことを過大評価してたみたいだわ。私は秋のことしか知らないから、秋基準で貴方を見てたわ」
スコールは立ち上がる。
「貴方は試合の時、秋に聞いてたわね。『兄弟でどうして差があるのか』って。当たり前じゃない。貴方と秋は別人。まったく同じに成長する訳ないじゃない。貴方と秋の違いは『力の使い方』をハッキリわかっているか」
「力の・・・・・使い方?」
「貴方はどう考えてるの?自分に与えられた
スコールは一夏に問う。目の前で自身の力で苦しむ少年を見てきた。なら、目の前でその少年の兄だと名乗る彼は、一体、自分に与えられた力が何か理解しているのか?スコールはそれが気になった。
「俺の力は誰かを守る為の力だ!」
「誰を守るの?」
「千冬姉を、箒を、セシリアを、鈴を、シャルルを、俺に関わる全ての人だ!!」
「何から守るの?」
「決まってるだろ!理不尽な暴力や理由のない暴力からだ!」
一夏は叫ぶ。自分の考えが正しいと信じて。だが、気づいていない。自分が挙げた名前全員が自分より強いことに。
「貴方は・・・・・現実から目を背けているのね」
スコールは可哀想なモノを見るような目で一夏を見る。
「貴方は人の悪意を知らないのね。理不尽な暴力や理由のない暴力から誰かを守る?無理ね、そんなの」
一夏は悪意を知らない。いや、正確には大きすぎる悪意を知らない。織斑千冬という女尊男卑の世の中で、不動の地位を築き上げた人物の弟という肩書きに、人は恐れた。何より、一夏の周りには優しい人間で溢れていた。
「貴方のその考えは素敵だわ。感動するわ。だけど、無意味よ。その考えを持つには、貴方は余りにも未熟すぎる」
スコールは薄々感じていた。一夏の歪さを。
「貴方の『自分に関わる全ての人を守る』ってことは不特定多数の人を守ることになるのよ?」
「それの何がいけないんだ!」
「不特定多数の人を守り続ければ、貴方は本当に守りたかった人を失うかも知れない。不特定多数の人を守ることが出来るのは、創作物の中だけよ」
不特定多数の人ーーーーー例えばコンビニで店員と話をするとしよう。それは一夏に関わったことに成らないだろうか?そうすると、一夏の中でその店員も守る対象になる。やがて、親しくもない人間がネズミ算式で守る対象になっていく。そして、最後は一夏が本当の意味で守りたかった人達を失う。
「秋は貴方の考え方とは真逆。秋は自分の力で守れる人だけを守る。言い方は悪いけど、取捨選択が出来るのよ。優柔不断な貴方と違ってね」
秋は自分の力でどれだけの人間が守れるのかを理解している。身内と他人なら秋は迷わず身内を取る。
「貴方は出来る、取捨選択を?そうね・・・・・篠ノ乃さんと凰さんが人質に取られているとして、どちらかしか助けられない状況、貴方はどっちを助ける?」
「両方助ける!!俺にはそれが出来るだけの力があるんだ!!」
「・・・・・質問が悪かったのかしら?織斑先生と篠ノ乃さんが人質になっている。一人しか助けられなくて、どっちを助ける?」
スコールは千冬と箒を例えにして質問する。
「千冬姉が人質なんかになるわけないだろ!!」
一夏は無意識の内に千冬を絶対視していた。千冬姉は誰にも負けない、千冬姉を越える人間は居ない。そう思い込んでいた。
「あら?織斑先生も人間よ。油断もすれば慢心もする。それに・・・・・織斑先生より強い人間は居るわよ?少なくとも秋の友人に居るわ」
確かに千冬は強い。ISでも、生身でも。だが、IS業界で最強でも、生身で最強とは限らない。
「例えばーーーーー」
スコールは振り向きざまに千冬の喉元にボールペンを突き付ける。
「ーーーーー私とか、かしら?」
千冬はとっさのことで反応できず、一夏は口をパクパクしながら固まっている。スコールはボールペンをしまい、扉の方に歩いていく。
「それにね、貴方の自信の根源にある白式だけど。学園の方で没収される可能性があるかもね」
「なっ!?なんでだよ!!」
「許可無しでのIS使用に無断出撃、間接的な被害の拡大。遡れば、アリーナの遮断シールドの破壊による一般生徒の命を脅かした。管理される理由としては充分だと思うわよ?まあ、まだ正式に決まった訳ではないけど」
実際、一夏の専用機“白式”は無理な出撃と秋とマドカの蹴り、刀奈のバッティング、簪の連撃によりダメージレベルD。オーバーホールして壊れた部品を交換、修復が必要なレベルだ。
「おめでとう織斑一夏君。これで貴方は再び守られる側の人間に逆戻りよ」
(ま、貴方は誰一人も守れていないけどね)
スコールは微笑みを浮かべて出ていった。
「・・・・・・・・・」
オータムは一言も発せずに、取調室から出ていった。
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「・・・・・後のことは任せたわよ」
「おう・・・・・」
スコールとオータムは二人だけの廊下を歩いて行く。
「処分はどうなると思う?」
「そうね・・・・・良くて減給か停職、悪くて退職ってところかしら?」
スコールがしたことは教師として許されない行動だ。だが、彼女には後悔は無い。別に教職に未練は無い。強いてあげるなら、生徒会の面々の卒業式に立ち会えないことぐらいだ。
「それじゃあ、私は学園長に呼ばれてるから」
「ああ・・・・・四組のことは任せろ」
スコールは学園長室に続く右の廊下を、オータムはICUに続く右の廊下を歩いていった。交わす言葉は無い。二人とも長い付き合いだ。言葉は無くとも考えていることはわかるからだ。
次回で原作2巻終了です。