リリカル・ストラトス 元織斑家の魔導師 作:妖精絶対許さんマン
「秋。起きて、秋」
「んぅ・・・・・」
誰かに呼ばれてる気がする。でも、この気持ち良さを手離したくない。
「もお・・・・・仕方ないわね」
誰かが呆れたような、だけどどこか楽しそうな声が聞こえる。
「ん・・・・・」
そして、頬に柔らかくて暖かい何かが触れた。
「!?!?!?!?!?!?!?!?!?」
驚きの余り、転げ落ちてしまった。
「痛っ!?」
転げ落ちてしまった結果、尻を地面で打ってしまった。
「起きた、秋?」
「スコール・・・・・」
そっか、スコールに膝枕されたまま寝てたんだ。
「もうすぐ2回戦の対戦表が発表されるわ。さ、行きましょう」
「あ、ああ・・・・・。なあ、スコール。俺に何かしたか?」
「いえ?何もしてないわよ?」
なら、あの感触はなんだったんだ?
「あ、これはボーデヴィッヒさんの専用機の資料よ。ごめんなさいね、遅くなって」
「ありがとう」
「あ、簪にも同じ資料は渡してあるわよ」
ボーデヴィッヒと当たるかは分からないが、用心に越したことは無いだろう。
(ごちそうさま、秋♪)
それと、なんか口の回りが濡れてるんだよな。
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スコールと別れた俺は自販機で買った珈琲を飲みながら、ボーデヴィッヒの専用機“シュヴァルツェア・レーゲン”の資料を読んでいる。関係ないが父さんの珈琲の方が旨いな。インスタントじゃしょうがないか。
「戦ったことが無いタイプの相手だな・・・・・」
主武装が肩の大型レールガンに6機のワイヤーブレード、プラズマ手刀か。
「厄介なのがAICってやつか」
相手を任意で停止させる。1対1なら反則的な能力だな。ドイツはよくこんなのを思い付いたな。
「だけど・・・・・勝てない相手じゃない」
1対1なら反則的な能力だろうが、2対2だ。ボーデヴィッヒのパートナーが誰か分からないが、専用機持ちでは無いだろう。凰とオルコットは棄権、織斑とデュノアは敗退、マドカは本音と組んでいる。ボーデヴィッヒが組むとしたら一般生徒だ。実質、2対1の戦いになる。
「・・・・・と。そろそろ時間だな」
自販機の近くにあるモニターを見る。2回戦の対戦表が発表されていく。
「呪われてるんじゃないか、俺・・・・・?」
対戦相手はボーデヴィッヒと篠ノ之だった。
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「簪!」
「あ、秋・・・・・」
ビットにはすでに打鉄弐式を装着した簪が居た。
「・・・・・大丈夫?」
「ああ。ごめん、心配かけて」
「うん、心配かけられた」
「うっ・・・・・」
やっぱり心配かけたよな。
「くすっ・・・・・。嘘だよ。秋なら大丈夫だって信じてたから」
簪は小さく笑った。簪は少しSっけがあると思う。
「・・・・・対戦表見た?」
「ああ。でも、勝てない相手じゃない。そうだろ?」
「うん。目指すは優勝、だよね」
簪とは長い付き合いだ。お互い言わなくても何となく考えていることが分かる。
「さて、行きますか」
「うん」
俺はウィザードを装着して、右手を軽く振る。そして、俺たちはアリーナに飛び出した。
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「ふん・・・・・。あの男は負けたか」
「ああ。俺が倒させてもらった」
アリーナにはすでに専用機“シュヴァルツェア・レーゲン”を装着したボーデヴィッヒと、打鉄を装着した篠ノ之がいた。
「・・・・・お前となら楽しい戦いができそうだな」
「ふっ・・・・・同意見だ」
(あ、彼女も秋と同類なんだ・・・・・)
簪が悟ったような顔してるんだけど?
『簪・・・・・』
『もぉ・・・・・秋の悪い癖だよ、それ』
『ごめん。でも、止められないんだよ。強い人間と戦うことが』
『はぁ・・・・・。篠ノ之さんを倒したら援護するからね。約束だよ』
『ああ。それで十分だ』
長く戦うのは馬鹿がやることだ。その一瞬、その刹那でお互いの全力をぶつけ合い、勝利を掴む。それが本当の闘いだと思う。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
観客の歓声なんて聞こえない。
『試合ーーーーーーーーーー開始!!!!!』
「「はあっ!!」」
ボーデヴィッヒは瞬時加速で、俺はウィザードの素のスペックで一瞬で接近する。そして、プラズマ手刀と紅蓮がぶつかり合う。
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「ゼラァ!」
「ふんっ!」
プラズマ手刀と紅蓮がぶつかり合い、火花を散らす。
「喰らえ!!」
ラウラは肩の大型レールガンから弾丸が放たれる。
「っ!」
秋はすぐにその場から離れる。ラウラは秋めがけてレールガンを連射する。
「ちっ・・・・・!」
秋は飛来する弾丸を切り裂く。
「かかったな・・・・・!!」
ラウラは左右のリアアーマーからワイヤーブレードを2機射出する。だが、ワイヤーブレードは秋の真横を通りすぎた。
「・・・・・?」
秋はラウラの行動を不思議に思いながらも、ラウラに向かって走り出す。ラウラはワイヤーブレードをすぐさま巻き戻す。その先に箒を引きずって。
「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!?」
「しまっ!?」
秋はとっさのことで反応できず、箒に巻き込まれる形でラウラの前まで来てしまった。
「捕らえた!」
巻き込まれた秋は突然空中で停止した。
(これがAIC・・・・・中々面倒だな)
「何か言い残すことはあるか?」
「ああ。簪!」
秋の合図に簪は天穹の弓から矢を放つ。
「そんな攻撃、私には効かん!」
レールガンの砲弾が矢に命中した。
「ふっ・・・・・。策が尽きたようだな」
「俺の幼馴染みを甘く見ないことだ。そうだろーーーーーーーーーー簪!!」
矢を放った簪は空中で
「角度設定・・・・・OK。ターゲットロック!山嵐一斉発射!!」
簪は最後にENTERキーを押す。打鉄弐式の最大武装“山嵐”のミサイルポッドから48のミサイルが秋とラウラ、箒目掛けて飛んでいく。
「仲間も攻撃するだと!?」
「生憎だが、喰らうのはお前と篠ノ之だけだ。カートリッジ!!」
〈Exceed Charge〉
紅蓮のシリンダーが回転、紅蓮の刀身に切れ目が現れ、切れ目から赤色のエネルギーが漏れ出す。
「AICは複数相手やエネルギー兵器には効果が薄いんだろ?なら、これならどうだ!!」
カートリッジに内包されていたエネルギーがAICと反発しあい、拘束力が弱まる。
「何っ!?」
ラウラはAICの拘束力を上げるが、秋はAICの不可視の網を切り裂いた。AICから脱出した秋はすぐにラウラの元から離れて、簪の横に並ぶ。
「ナイス、簪」
「うん」
秋と簪はハイタッチする。2人がそんなことをしている間に48のミサイルはラウラと箒に着弾した。
『篠ノ之箒!打鉄!戦闘不能!!』
「あれ?篠ノ之さんだけ?」
「みたいだな」
砂煙が晴れると、気絶している箒と肩で息をしているラウラが立っていた。
「はぁ・・・・・はぁ・・・・・」
ラウラは自分に飛んでくるミサイルだけワイヤーブレード6機とレールガンで打ち落とした。だが、防げないミサイルは転がっている箒を楯にして防いだ。
「やってくれたな・・・・・!!」
ラウラは秋と簪を睨みながら、気絶している箒を投げ捨てた。
「しぶといな」
「あれだけのミサイルも防ぐんだ・・・・・。ちょっと自信無くす」
秋は48のミサイルを防いだラウラを感心し、簪は山嵐を防がれたことにショックを受けている。
「簪。一気に決める。援護頼んだ」
「うん。わかった」
秋は紅蓮を平晴眼の構えにする。そして、秋の雰囲気が一変する。研ぎ澄まされた刃のような雰囲気を纏った。
「一歩音越え・・・・・」
ダンッ!という音とともに秋は消えた。
「なっ!?何処に行った!?」
ラウラは辺りを見回す。
「二歩無間・・・・・」
ラウラの10m手前で秋が姿を現す。
「そこか!!」
レールガンの砲口から砲弾が発射される。秋が居た所に着弾するが、秋の姿は無かった。
「くそっ!」
ラウラはすぐに空中に浮かび上がる。
「三歩絶刀・・・・・!」
秋はラウラが立っていた場所に現れた。ラウラはすぐにワイヤーブレード6機とレールガンを一斉に放った。
「やったか・・・・・?」
(あ、それフラグだ)
矢を番ながら簪はそんなことを思ってしまった。
「無明ーーーーー」
土煙から秋が飛び出してきた。狙うは敵の眉間、喉、心臓。放つはほぼ同時の突き。
「馬鹿め!!正面から来るのは愚策だ!!」
ラウラは右手を突き出す。
「私の存在忘れてない?」
簪はシュヴァルツェア・レーゲンのレールガンに向かって矢を射る。レールガンは爆発し、ラウラの視界を塞ぐ。
「しまっ!?」
レールガンが爆発したことに気をとられ、AICの操作を疎かにしてしまった。
「ーーーーー三段突き!!」
土煙を切り抜け、刀身に手を添えた秋がラウラの目の前まで来ていた。そして、
「がぁ!?」
眉間を狙う突きをラウラは防げたが、喉と心臓に命中した。シュヴァルツェア・レーゲンの絶対防御が発動し、SEを削った。
「おまけだ!受けとれ!!」
〈Exceed Charge〉
秋はすれ違いざまにラウラの背中を叩きつけるように斬った。ラウラは地面に向かって落下した。
『ラウラ・ボーデヴィッヒ!篠ノ之箒!戦闘不能!!高町秋、更識簪の勝利!!』
アナウンスが流れ、観客席から歓声が響く。
「やったね、秋」
「ああ。お疲れ、簪」
2人はビットに戻ろうとする。
「あああああああああああああああああああああああああ!!!!!!」
ラウラが絶叫する。シュヴァルツェア・レーゲンが放電し、装甲が泥々に溶けていき、ラウラ飲み込んでいく。
「・・・・・簪。篠ノ之を拾ってピットに戻れ」
「え?」
「いいから行け!!」
「う、うん!!」
簪はすぐに箒を回収し、ピットに戻っていた。
(マスター・・・・・)
(ああ・・・・・。久しぶりにヤバい予感がする。サポート頼む)
(ラジャー)
秋は紅蓮を構える。シュヴァルツェア・レーゲンだった物は形を再形成していく。少女の体に腕と脚に必要最低限のアーマーをつけ、頭はフルフェイスのアーマーで覆われている。そして、手には雪片弐型が握られていた。
「白式・・・・・?」
(違いますマスター。あれは恐らく“暮桜”。織斑先生が現役時代に使っていた専用機です)
「過去の亡霊かよ・・・・・」
(亡霊とはまた違うと思いますけどね)
秋は暮桜擬きの様子を窺う。
『秋。増援は必要?』
「ああ。あれが暮桜だと仮定したら俺1人じゃ捌ききれない。マドカに頼んでくれ」
『わかったわ。それまでピットのゲートは閉めるわ。だから、何とか持ちこたえて』
「ああ。でも、出来るだけ早くしてくれ」
秋はプライベート・チャンネルでスコールにマドカの増援を頼んだ。そして、ゲートが完全に閉まる直前、ピットから一夏が飛び出してきた。白式は今にも崩れ落ちそうになっている
「おおおおおおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!!!!」
「はぁっ!?」
一夏は暮桜擬きに殴り掛かろうとする。秋はすぐに一夏の前に移動し、一夏を押さえる。
「お前どういうつもりだ!?」
「離せよ!!あれは・・・・・雪片は千冬姉のなんだ!ぜってぇ許さねぇ!!」
(この・・・・・シスコンが!!)
秋は一夏を気絶させるために紅蓮を一夏の頭頂部目掛けて降り下ろそうとする。
(マスター!!後ろです!!)
「っ!?」
秋はすぐに振り向く。そこには、雪片を今にも降り下ろそうとした暮桜擬きが立っていた。
「クソッ!!下がってろ!!」
「ぐっ!?」
秋は一夏を蹴り飛ばし、紅蓮で防ごうとする。だが、暮桜擬きの雪片が先に降り下ろされた。
「がっ!?」
ーーーーーそして、秋の体から鮮血が舞った。