リリカル・ストラトス 元織斑家の魔導師 作:妖精絶対許さんマン
あの話し合いから時間が過ぎ、六月になった。織斑姉弟はあの話し合い以降、ギクシャクしているようだ。
「やっぱりハヅキ社製のがいいなぁ」
「え?そう?ハヅキのってデザインだけって感じしない?」
「そのデザインがいいの!」
「あー、あれねー。モノがいいけど、高いじゃん」
今週からISの本格的な操縦訓練が始まるからクラス中の女子が騒いでいる。
「そういえば織斑君と高町君達のISスーツってどこのやつなの?見たことない型だけど」
「あー。特注品だって。男のISスーツがないから、どっかのラボが作ったらしいよ。えーと、もとはイングリッド社のストレートモデルって聞いてる」
そのラボって倉持技研だろうな。
「私はバニングス社で作ってもらったオーダーメイドだよ」
「俺の場合、そもそもISスーツは要らないからな。強いて言えばこの制服がISスーツ代わりだな」
おかげでエネルギーの節約にもなっている。
「ISスーツは肌表面の微弱な電位差を検知することによって、操縦者の動きをダイレクトに各部位へと伝達、ISはそこで必要な動きを行います。また、このスーツは耐久性にも優れ、一般的な小口径拳銃なら完全に受け止めることができます。あ、衝撃は消えませんのであしからず」
さすが山田先生。説明が上手い。
「山ちゃん詳しい!」
「一応先生ですから。・・・・・って、や、山ちゃん?」
「山ぴー見直した!」
「今日が皆さんのスーツ申し込み開始日ですからね。ちゃんと予習してきてあるんです。えへん。・・・・・って、や、山ぴー?」
山田先生は親しみやすいからな。愛称がたくさんついている。
「あのー、教師をあだ名で呼ぶのはちょっと・・・・・」
「えー、いいじゃんいいじゃん」
「まーやんは真面目っ子だなぁ」
「ま、まーやんって・・・・・」
「あれ?マヤマヤの方が良かった?マヤマヤ」
「そ、それはちょっと・・・・・」
「もー、じゃあ前のヤマヤに戻す?」
「あ、あれはやめてください!」
山田先生と女子達が漫才?を繰り広げている。
「と、とにかくですね。ちゃんと先生とつけてください。わかりましたか?わかりましたね?」
親しみやすいからこれからもあだ名が増えるな。
「諸君、おはよう」
「お、おはようございます!」
元姉(らしい)織斑先生が教室に入ってきた。クラスの生徒達は素早く自分の席に座った。
「今日から本格的な実戦訓練を開始する。訓練機ではあるがISを使用しての授業になるので各人気を引き締めるように。各人のISスーツが届くまでは学校指定のものを使うので忘れないようにな。忘れたものは代わりに学校指定の水着で訓練を受けてもらう。それもないものは、まあ下着で構わんだろう」
いや、構えよ。そんなことになったら教育委員会に通報するぞ。
「では山田先生、ホームルームを」
「は、はいっ」
織斑先生は連絡事項を言うと山田先生にバトンタッチした。
「ええとですね、今日はなんと転校生を紹介します!しかも二人です!」
「え・・・・・」
「「「えええぇぇぇぇぇっ!?」」」
先月中国から一人来たよな?名前は・・・・・凰鈴音だったな。転入してくるには早すぎないか?
「失礼します」
「・・・・・」
教室のドアが開き、始めに入ってきたのは銀髪に眼帯の少女。此方はまだ良い。クーちゃんに似てる気がするけど良いだろう。問題は・・・・・。
「シャルル・デュノアです。フランスから来ました。この国では不慣れなことも多いかと思いますが、みなさんよろしくお願いします」
金髪を後で括り、俺と織斑が着ている男子用の制服を着た、
「お、男・・・・・?」
「はい。こちらに僕と同じ境遇の方がいると聞いて本国より転入をーーーーー」
あ、不味い。俺は素早くポケットから耳栓二人分を取り出す。耳栓で俺とマドカの耳を塞ぎ、その上からマドカの耳を手で塞ぐ。
「(ブレッシングハート!結界頼む!二人分だ!)」
〈(イ、イエス!結界展開します!)〉
ブレッシングハートがすぐに結界を展開してくれた。
「きゃ・・・・・」
「はい?」
「きゃあああああーーーーーーーーーーっ!」
ぎ、ぎりぎり間に合った・・・・・。もう少し遅れていたら俺の鼓膜は兎も角、マドカの鼓膜が傷つくところだった。
「男子!三人目の男子!」
「しかもうちのクラス!」
「美形!守ってあげたくなる系の!」
「地球に生まれて良かった~~~~~!」
男子・・・・・で、良いんだよな?なんか線が細くないか?フランス人ってあんなものか?
「あー、騒ぐな。静かにしろ」
「み、皆さんお静かに。まだ自己紹介が終わってませんから~~~~~!」
もう一人の転校生は目を閉じて佇んでいる。
「・・・・・・・・・・」
「・・・・・挨拶しろ、ラウラ」
「はい、教官」
教官って織斑先生の事か?まあ、織斑先生は教師っていうより教官向きだけど。
「ここではそう呼ぶな。もう私は教官ではないし、ここではお前も一般生徒だ。私のことは織斑先生と呼べ」
「了解しました」
眼帯って・・・・・風槍かよ。
「ラウラ・ボーデヴィッヒだ」
「・・・・・・・・・・」
まだ、風槍の方がましか。社交的・・・・・とは言い難いが。風槍の場合、中二病が酷いだけで普段は良い子なんだよな。一度、出会い頭に”
「あ、あの、以上・・・・・ですか?」
「以上だ」
山田先生が涙目になってるぞ。ボーデヴィッヒは教室を見渡すと織斑の方を見た。
「!貴様がーーーーー」
ボーデヴィッヒは織斑に近づいていく。
バシンッ!
「・・・・・・・・・」
「う?」
織斑を叩いた。中々、良い音がしたな。
「私は認めない。貴様があの人の弟であるなど、認めるものか」
また、面倒そうな奴が転入してきたな。
「いきなり何しやがる!」
「ふん・・・・・」
織斑は立ち上がって抗議するが、ボーデヴィッヒは無視して自分の席に座った。
「あー・・・・・ゴホンゴホン!ではHRを終わる。各人はすぐに着替えて第二グラウンドに集合。今日は二組と合同でIS模擬戦闘を行う。解散!」
着替える必要がないから楽なんだよな。
「おい織斑、高町兄。デュノアの面倒を見てやれ。同じ男子だろ」
よし・・・・・押し付けよう。
「(ブレッシングハート。認識阻害発動)」
〈(ラジャーです)〉
認識阻害はかなり便利だから重宝している。織斑が俺を探しているのを尻目に教室を後にした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
「では、本日から格闘訓練及び射撃を含む実戦訓練を開始する」
「はい!」
俺以外の生徒は全員ISスーツを着ている。俺の専用機“ウィザード”はバリアジャケットを模した物だからISスーツは必要ない。
「今日は戦闘を実演してもらう。ちょうど活力が溢れんばかりの十代女子もいることだしな。ーーーーー凰!オルコット!」
「な、なぜわたくしまで!?」
「専用機持ちはすぐにはじめられるからだ。いいから前に出ろ」
「だからってどうしてわたくしが・・・・・」
「一夏のせいなのになんでアタシが・・・・・」
「お前ら少しはやる気を出せ。ーーーーーアイツにいいところを見せられるぞ?」
織斑先生が二人に向かって小声で何かを言った。
「やはりイギリス代表候補生、わたくしセシリア・オルコットの出番ですわね!」
「まあ、実力の違いを見せるいい機会よね!専用機持ちの!」
いきなりやる気出したな。
「現金だね」
隣のマドカも呆れている。
「それで、相手はどちらに?わたくしは鈴さんとの勝負でも構いませんが」
「ふふん。こっちの台詞。返り討ちよ」
「慌てるなバカども。対戦相手はーーーーー」
キィィィン・・・・・。
「ああああーっ!ど、どいてください~っ!」
エンジン音と悲鳴が聞こえた方を見ると、ラファールを装着している山田先生が織斑に突進した。
「事故ったな」
「事故ったね」
俺とマドカは織斑に向かって合掌する。
「アッキ~、マドマド~、おりむ~死んでないよ~?」
あ、ホントだ。織斑はISを展開して山田先生を受け止めていた。ただし、山田先生の豊満な胸を揉みながら。
「胸なんて飾り胸なんて飾り胸なんて飾り胸なんて飾り胸なんて飾り胸なんて飾り・・・・・・・・・・」
マドカの目から光が消えて、山田先生の身体の一部、具体的には女性の母性を象徴する箇所を見ながら呪詛を唱えていた。一度、姉さんとマドカが一緒に風呂に入ってすぐにバスタオル一枚の状態で半泣きに為りながら俺に泣き付いてきた事がある。
「はいはい、落ち着こうな」
俺はマドカの頭を撫でる。
「胸なんて・・・・・胸なんて・・・・・」
一応の落ち着きを取り戻した。織斑の方はオルコットが狙撃して、凰が武装を投擲していた。それを山田先生がアサルトライフルで撃ち落とした。
「さすが元とは言え代表候補生。迷いがない射撃だね」
マドカがキリッとした顔で言った。ただし、俺に頭を撫でられながら。
「山田先生はああ見えて元代表候補生だからな。今くらいの射撃は造作もない」
「む、昔のことですよ。それに候補生止まりでしたし・・・・・」
山田先生は織斑先生の言葉に照れながら、眼鏡の位置を直している。
「さて小娘どもいつまで惚けている。さっさとはじめるぞ」
「え?あの、二対一で・・・・・」
「いや、さすがにそれは・・・・・」
「安心しろ。今のお前たちならすぐに負ける」
あ、それ思った。いくらなんでも自分の実力を過信しすぎだと思う。特にオルコット。凰は一人ならいい線行けるかもな。
「では、はじめ!」
「手加減はしませんわ!」
「さっきのは本気じゃなかったしね!」
「い、行きます!」
むしろオルコットと凰が手加減される方だと思う。いくら専用機を持ってるとは言え、相手との練度と経験の差が大分ある。二、三年ISの訓練しただけの生徒にISを教えて、乗り続けている教師だと圧倒的な差があるだろ。
「さて、今の間に・・・・・そうだな。ちょうどいい。デュノア、山田先生が使っているISの解説をしてみせろ」
「あっ、はい」
デュノアがラファールの説明を聞き流しながら、戦闘を見る。山田先生はビットの攻撃を交わしながら、射撃をする。凰は背後から襲いかかるが、難なく交わされて、いつの間にか展開していたショットガンをもろにくらった。
「ああ、いったんそこまででいい。・・・・・終わるぞ」
山田先生は射撃でオルコットを凰まで誘導しつつ、二人がぶつかったところにグレネードを投擲、爆発した。
「くっ、うう・・・・・。まさかこのわたくしが・・・・・」
「あ、アンタねぇ・・・・・何面白いように回避先読まれてるのよ・・・・・!」
「り、鈴さんこそ!無駄にばかすかと衝撃砲を撃つからいけないのですわ!」
「こっちの台詞よ!なんですぐにビットを出すのよ!しかもエネルギー切れるの早いし!」
「ぐぐぐぐっ・・・・・!」
「ぎぎぎぎっ・・・・・!」
オルコットと凰が醜い言い争いをしながら落下してきた。
「さて、これで諸君にはIS学園教員の実力は理解できただろう。以後は敬意を持って接するように」
俺の入学試験の時は緊張してたのか?・・・・・一度模擬戦を申し込んでみるか。
「専用機持ちは織斑、オルコット、デュノア、ボーデヴイッヒ、凰、高町兄妹だな。では六人グループになって実習を行う。各グループリーダーは専用機持ちがやること。いいな?ではわかれろ」
織斑先生がそう言うと女子達が俺と織斑、デュノアに詰め寄ってくる。
「織斑君、一緒に頑張ろ!」
「わからないところ教えて~」
「デュノア君の操縦技術見たいなぁ」
「ね、ね、私もいいよね?同じグループにいれて!」
「私も努力すれば代表候補生になれるかな?」
集まるなぁー。あと、最後の娘。俺は努力家は好きだぞ。
「この馬鹿者どもが・・・・・。出席番号順に一人づつ各グループに入れ!順番はさっき言った通り。次にもたつくようなら今日はISを背負ってグラウンド百周させるからな!」
鬼かアンタ。IS一機が何キロすると思ってるんだ?人外の織斑先生なら片手で持ち上げられそうだけど。
「最初からそうしろ。馬鹿者どもが」
鶴の一声ならぬ鬼の一声ってやつか?
「ええと、いいですかーみなさん。これから訓練機を一班一体取りに来てください。数は“打鉄”が4機、“リヴァイブ”が3機です。好きな方を班で決めてくださいね。あ、早い者勝ちですよー」
打鉄は純日本産のIS。性能が安定していて初心者にも扱いやすい仕様になっている。リヴァイブはフランス産のIS。拡張領域が多く、武装を他のISより多く積める。性能が安定している打鉄にしておくか。
「今回は打鉄を使う。今日の目標は五十mを補助なしで歩行してもらう」
「五十mを補助なし!?む、無理だよ!」
無理と言い出したのは二組のティナ・ハミルトン。
「難しく考えなくて良い。ハミルトンはハイヒールを履いたことはあるか?」
「ハイヒール?しょっちゅう履くけど・・・・・」
「それと一緒だ。最初は難しくても慣れれば簡単だ。ISを自分の体の延長線だと思えば良いさ」
俺がそう言うとグループのメンバーは納得できたのか頷いている。
「それじゃあ、ハミルトン。お前からな」
「初っ端!?」
ハミルトンはぐちぐち文句を言いながら打鉄を装着、起動した。
「ISをハイヒールだと思え!」
「む、無理だよぉ~!!」
「無理じゃない!」
ハミルトンは泣き言を言いながら足を動かしていく。
「お・・・・・?おお!?」
「そうだ!その調子だ!そのまま五十m歩いて戻ってこい!」
「う、うん!!」
ハミルトンはぎこちない動きだが、五十mを歩ききった。
「それじゃあ次の人、準備しておいてくれ」
歩行訓練中に織斑班の方から歓声が聞こえてきたが無視。
「では午前の実習はここまでだ。午後は今日使った訓練機の整備を行うので、各人格納庫で班別に集合すること。専用機持ちは訓練機と自機の両方を見るように。では解散!」
刀奈から呼び出しがかかっているから生徒会室に行かないとな。
「なあ、しゅーーーーー」
「お兄ちゃん!」
織斑が何か言おうとしたが遮るようにマドカが抱き付いてきた。
「生徒会室に行かないといけないんだよね?」
「ああ。待ってるから着替えてこい」
「はーい!」
マドカは一度織斑の方を見て、更衣室に走っていった。
「そうだ。ジュース買っていくか」
スコールとオータムも居るのか?まあ、全員分のお茶買っていけば良いか。