リリカル・ストラトス 元織斑家の魔導師 作:妖精絶対許さんマン
早朝6時。水平線から太陽が登り、IS学園の校舎を照らしている。
「ふっ!」
俺は剣道部が普段使っている道場で木刀を振っている。
「しっ!」
クラス対抗戦に乱入してきた無人機。束に問い詰めたら、破棄した無人機とコアが勝手に再起動、IS学園を標的にして襲撃したらしい。
「ふぅ・・・・・」
木刀を壁に立て掛けて、持ってきていたタオルで汗を拭く。最近は色々あって素振りをする時間が無かったから新鮮な感じがする。
「ほぉ・・・・・中々の腕前だな」
声が聞こえた方を見ると、ジャージ姿の織斑先生が立っていた。
「おはようございます、織斑先生」
「ああ、おはよう」
よし・・・・・逃げるか。
「それじゃあ、失礼します」
織斑先生の隣を通りすぎようとして、
「まあ、待て。逃げることもないだろ」
肩を掴まれて止められた。
「少し付き合え。何、一本だけだ」
「拒否しまーーーーー」
「拒否権は無い。付き合え」
言い終わる前に命令したよ、この教師。
「はぁ・・・・・一本だけなら」
諦めるか。適当に立ち合って適当に負けよう。そっちの方が手っ取り早い。俺は木刀を持って、織斑先生と向き合う。
「始めようか」
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「・・・・・・・・・・」
「・・・・・・・・・・」
お互いに向き合ったまま、動かない。いや、動けない。
「(さすがは元
「(隙がない。下手に攻めたら私が負ける)」
秋は千冬から放たれる威圧感に攻めあぐね、千冬は秋の隙のない構えに攻める事が出来ない。
「(でも、攻めないと負けれないし・・・・・)」
秋は大きく前に踏み出し、木刀を振りかぶる。
「っ!」
千冬はとっさに木刀で防ごうとする。
「(掛かった・・・・・!)」
秋はそのまま木刀を降り下ろす。降り下ろす際にわざと力を抜いた。木刀と木刀がぶつかり、秋が持っていた木刀は後方に跳んでいった。
「お見事です、織斑先生」
秋は跳んでいった木刀を拾い、壁に立て掛ける。
「お前・・・・・手を抜いたな?」
「何の事ですか?それじゃあ、今度こそ失礼します」
秋はタオルを持って道場から出ていった。
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放課後。今日は生徒会が休みだ。俺はマドカと簪と一組の教室で談笑している。
「ねぇ、お兄ちゃん。朝から不機嫌だよ?何かあったの?」
「うん。いつもの倍以上目付きが悪い」
「あ~まあ、なんだ。気にしないでくれ。あと、簪。目付きが悪いのは元からだ」
まったく・・・・・俺が気にしてることを。
ピンポンパンポーン!
『一年一組、高町秋、織斑一夏、担任の織斑先生。今すぐ生徒指導室に来てください』
呼び出しが掛かった。しかも、織斑と一緒にだ。
「今の声・・・・・オータムだよね?」
「ああ、そうだな」
行きたくないけど行かないと後々オータムが五月蝿いし・・・・・。仕方ない、行くか。
「行くの?」
「ああ。非常にめんどいが行ってくる」
面倒事はごめんなんだけどな。俺が立ち上がるとマドカと簪も立ち上がった。
「私達もついていく」
・・・・・一人で来いとは言われてないし良いよな。
「なら、一緒に行くか」
「「うん」」
生徒指導室は職員室の隣だったな。俺とマドカ、簪は生徒指導室に向かった。
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「失礼します」
生徒指導室の扉をノックして開ける。すでに、織斑と織斑先生、オータムとスコール、その他三人が居た。
「お、来たな。とりあえず座れ」
オータムに言われた通り椅子に座る。
「さて、秋・・・・・もとい、高町と織斑、織斑先生を呼んだのは生徒からの苦情が数件来たからだ」
「“高町君と織斑君の間の空気が悪い”ってね。さすがに生徒指導としてはそろそろ見過ごせない段階になってきたのよ」
やっぱりそう言う苦情は来るだろうな。
「空気を悪くしてるのはソイツです!一夏は関係ありません!」
「はぁ?なに言ってんの?ことの発端はソイツがお兄ちゃんの事を“自分の弟”なんて言う妄言からだよ?耳垢詰まってるんじゃない?それに、何でアンタ達が居るわけ?」
「それを言うならお前達もだろ!」
「そうですわ!わたくし達は一夏さんが心配で居ますのよ!」
「あ、アタシの事は気にしないで。いまいち事情が分かってないから」
ポニテに金髪、ツインテールが各々言ってきた。
「私はお兄ちゃんの妹だから一緒に来たの。アンタ達みたいに幼なじみだからとかじゃないよ。“家族”だから一緒に来たの」
「私は・・・・・」
簪は顎に手を当てて何か考え始めた。しばらくすると、何か閃いたのか手を叩いた。
「私は秋の“婚約者”だから」
ピシッ!
・・・・・今の簪の発言で室内の温度が三度ぐらい下がった気がする。
「ま、待て簪。誰が誰の婚約者だって?」
「私が秋の“婚約者”って言った」
聞き間違えじゃなかった!
バキッ!!
何かが砕ける音が聞こえた。破砕音が聞こえた方を見ると、オータムが机にヒビを入れていた。隣のスコールはニコニコ笑っているが何故か恐怖を感じる。
「・・・・・その話は後で聞くとして。オータム、苦情が来たのは分かったけど、だからどうしたの?」
「・・・・・和解するしないにかかわらず、一度ハッキリと話をした方が良いと思ったんだよ」
オータムが俺を睨みながら言ってきた。おい、机のヒビが広がってるぞ。
「そう言う事か・・・・・。俺はお前の弟じゃない、以上。帰って良いか?」
簡潔に、分かりやすく言う。
「違う!お前は俺と千冬姉の弟だ!!」
「なら、証拠はあるのか?俺がお前と織斑先生の弟だっていう確固とした証拠が?」
有るなら見てみたいものだ。
「・・・・・証拠なら、ある」
今まで喋らなかった織斑先生が口を開いた。
「その前に一つ聞きたい。高町・・・・・いや、秋。本当に私達の事を覚えていないのか?」
「しつこいですね。織斑先生のことも、織斑のことも、一切覚えていませんし、知りません」
「そうか・・・・・」
織斑先生はそう呟くと、懐から一枚の写真を机に置いた。俺はその写真を手に取る。マドカと簪が覗き込んできた。写真には中学か高校の制服を着た織斑先生と織斑先生の隣で笑っている織斑、少しだけ距離をあけて無表情な子供が立っていた。
「この子って・・・・・秋?」
簪が無表情な子供を指差した。
「そうだ。・・・・・恥ずかしい話、私は秋が笑っているところを一度も見たことがない。その写真もそうだ。家にある写真の中で一番マシな物を持ってきただけだ」
「なるほど・・・・・。桃子が引き取った時から感情の起伏がなかったって言ってたわね」
あ~、だから引き取られ頃の記憶が曖昧なのか。
「ちょ、ちょっと待ってくれよ!秋を引き取った?どういうことだよ、千冬姉!!」
ん?話が噛み合ってないよな?
「・・・・・・・・・・」
織斑先生は何も答えない。
「なあ、千冬姉!!」
なおも食い付く織斑。
「・・・・・可哀想だね、お前」
マドカは織斑を見ながら呟いた。その顔にはどこか、愉悦を孕んだような笑顔を浮かべている。
「お兄ちゃんはね、その女の不徳のせいで大怪我をしたんだよ。何なら話してあげようか?」
マドカは織斑先生を睨む。
「今から七年前。ISが発表されてすぐの頃にお兄ちゃんは
初めて聞いたんだけど。
「織斑千冬の事が気に入らない人間が複数で逆恨みの仕返しをしようと考えたらしいよ。でも、化け物みたいに強い織斑千冬に何人で挑んでも勝てない。なら、弟を誘拐して憂さ晴らししよう。そのターゲットがお兄ちゃんだったんだよ」
記憶喪失になる前の俺、ドンマイ。他人事みたいに言ってるけど俺の事なんだよな。
「誘拐されたお兄ちゃんは廃工場で暴行された。そんなお兄ちゃんを助けたのは私達の義父と義兄。お兄ちゃんを助けた二人は急いで病院に連れていって一命をとりとめた。織斑先生も見たでしょ?全身包帯で巻かれたお兄ちゃんを」
やっべ・・・・・自分の事なのに何にも覚えてない。てか、マドカ詳しすぎないか?後で聞いてみよ。
「お兄ちゃんを誘拐した奴らは警察に連れていかれて、証拠もあるからその場で逮捕。少年刑務所に入れられた。気づいてた?同じクラスの生徒が何人か来てないことに?」
俺としては誘拐犯に感謝だな。誘拐してくれたおかげで父さん達に会えたわけだし。
「そして今に至るわけ。お兄ちゃんの名前は“織斑”から“高町”に変わった。これが織斑先生がひた隠しにしていた話だよ」
マドカが話終わると、生徒指導室には冷たい空気に包まれていた。
「どうして・・・・・どうして、そんな大事な事を黙ってたんだよ千冬姉!!」
織斑は織斑先生に詰め寄る。
「・・・・・すまない」
織斑先生は俯きながら謝った。
「そんなこと聞きたいんじゃない!!」
どんどんヒートアップしていくな。こんな状況で火に油を注ぐような事を言うのは気が引けるけど、言うか。
「織斑先生」
俺は俯いている織斑先生を呼ぶ。
「俺は織斑先生に感謝してますよ?聞いた感じだと織斑先生のおかげで、俺は最高の家族に出会えたわけですから。だから、お礼を言わせてください。
「・・・・・・・・・・えっ?」
俺がそう言うと、織斑先生と織斑が驚いたような顔をした。
「織斑先生のおかげで今の俺が居ます。それに」
「にゃ!?」
「きゃ!」
俺は両隣に座っているマドカと簪を抱き寄せる。
「大切な幼馴染みと大切な妹が出来たんですから」
マドカの話を聞いて思うことが無い訳じゃない。それでも、今の俺にとっては所詮他人事だ。だから、この場で“織斑秋”という存在を終わらせる。
「だから、“織斑秋”のことは綺麗に忘れて、
俺は笑顔で止めを刺す。
「じゃあ、スコール。俺達は帰らせてもらうな」
俺はそう言って生徒指導室から出ていく。
「失礼しました」
「失礼しました~」
マドカと簪も俺についてきた。
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秋達が出ていくと、すぐにオータムとスコールも出ていった。生徒指導室には一夏と箒、セシリア、鈴、千冬だけが残された。
「千冬姉のせいだ・・・・・」
「一夏?」
一夏は小さく呟いた。
「全部千冬姉のせいじゃねえか!!」
「い、一夏・・・・・?」
一夏は怒りの形相で千冬を睨む。千冬は一夏に睨まれた事で戸惑う。
「何なんだよ!せっかく秋に会えてまた、姉弟三人で暮らせると思ったのに!!記憶喪失!?引き取られた!?それも、千冬姉と同じクラスの人のせいで!」
四人、とくに姉の千冬と幼馴染みの箒と鈴は、ここまで怒り狂う一夏を初めて見た。
「IS学園で教師してる事も話してくれない!!秋の事も話してくれない!!千冬姉は俺の事を本当に家族と思ってるのか!?」
「ちょっと一夏!いくらなんでも言い過ぎよ!」
鈴が止めるように制止するが一夏は止まらない。
「もう、千冬姉のことが信用できねえよ!!」
一夏は走って生徒指導室から出ていった。
「一夏!」
「お待ちになって、一夏さん!」
箒とセシリアは一夏の後を追って出ていった。
「・・・・・織斑先生。一夏も本気で言ってる訳じゃないと思うんで、そんなに重く受け止めないでください」
鈴はそれだけ言って生徒指導室から出ていった。残された千冬は俯き、頬には涙が伝っていた。
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「ねえ、お兄ちゃん」
腕に引っ付いているマドカが俺の事を呼んできた。
「ん?どうした?」
「簪が婚約者って・・・・・ホント?」
抱き付いている俺の腕を関節を決めてきた。しかも、マドカの目から光が消えている。
「ま、待ってくれマドカ・・・・・!関節!関節が決まってる!!」
「そんなことどうでも良いから。ねえ、答えて?」
外れる!関節が外れる!
「私が秋の婚約者って嘘だよ?」
「・・・・・・・・・・ふぇ?」
簪がそう言うと関節を決める力が弱くなった。
「あの場で咄嗟に思い付いた嘘。さすがに私も幼馴染みって言うとあの二人と被るから。だから、婚約者にしてみた」
してみたって・・・・・おかげで関節が外れるかと思ったぞ。
「秋。ごめんね?」
簪が上目使いで謝ってきた。じゃかん瞳が潤んでいる。
「別に良いよ。終わったことだした」
上目使いは反則だと思う。特に簪みたいな美少女だと。
「むっ・・・・・」
腕に引っ付いているマドカが不満そうな声を出して、よりいっそう強く抱きついてきた。
「・・・・・・・・・・」
そして、何故か簪も俺の腕に抱き付いてきた。
「なあ、抱き付くのやめてくれないか?」
「「いや」」
即答かよ・・・・・。結局、俺は二人に抱き付かれたまま、部屋に帰った。
オマケ
「・・・・・・・・・・」
刀奈は普段、秋が使っているベッドを見つめている。刀奈はベッドに座り、毛布を手に取り、顔を近づける。
「くんくん・・・・・ふわぁ」
毛布の匂いを嗅いだ刀奈は幸せそうな顔をしていた。
「す、少しだけ・・・・・少しだけ良いわよね」
刀奈は毛布にくるまり、そのまま深呼吸をする。しばらくすると、刀奈の目蓋は落ちて行く。
「すぅ・・・・・すぅ・・・・・」
規則的な寝息を立てて、眠りについた。数十分後、秋達が帰ってきて、マドカと簪が刀奈を簀巻きにしたのは言うまでもない。
遅れてすいません。スランプに陥ってグリモアのイベント、FGOをやってて執筆が進みませんでした。
次回からは予定を変更して2巻に入っていきます。