井の中にて空へ発つ   作:中棚彼方

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広き愛世に祝福を

 

 

 

 

  悩み多し異才を持つ少年少女に告げる

 

  その才能(ギフト)を試すことを望むのならば、

 

    己の家族を、友人を、財産を

 

世界の全てを捨て、我らの《箱庭》に来られたし

 

 

 

「────ふむむ?」

 

 

 新手の宗教勧誘かと態々二回読み返した男がここにいる。

 どーも、俺です。

 

 まさか空からピンポイントに自分の足元に落ちてくるとは。いやはや、斬新な郵便配達な事で。

 

 バイクに跨がり各々の元へ間配る形態は最早時代錯誤なのだと見事に固定概念を吹き飛ばしてくれるような世の中なのが今日(こんにち)ではあるが、だからって名無しの権兵衛且つ送付手段が空から飛ばされてくるとは。一周廻って寧ろ原始的だ。

 ────んで?

 

 

「こっからどうすりゃいい───────」

 

 

 言い終える刹那も待ってやくれなかった。

 

 唐突に。簡潔に。端的に。

 

 パッと。サッと。フッと。 

 

 そして、フワリと世界に浮遊感が踊り出た。

 

 よし、今一度解りやすく言にしよう。

 

 

 降り掛かる底の無い浮遊感。

 世界が一転し、幻想的に彩られ。

 色彩は空色に、空白は満たされるように。

 地平線まで果てしなく続く断崖絶壁に、眼下を見れば──視界を覆うほどに巨大な天幕が四方に伝播する都市。

 あっこれ、て気づいた時には既に遅く────

 

 

「───────────の?」

 

 

 ────上空四〇〇〇メートルの異世界は、俺達四人と一匹を盛大に迎えてくれましたと言う訳だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 もうちょい間の置き方を配慮してくれたってバチは当たんないと思うんですけどぉ!!!?

 

 

 

 

  ###

 

 

 

 

 弱い衝撃が久遠 飛鳥、春日部 耀、逆廻 十六夜を幾度も打ち付ける。

 

 小規模な水飛沫が()()程上がった。

 どうやら自分達は緩衝材のような何かにぶつかり続けていたというのは分かった。本来受けていた痛みはそれによって緩和されたらしい。水面とは言え高度から落ちればそれなりに痛い筈である。

 

 罵詈雑言を口々に漏らしながら、二人は水辺から抜け出す。びしょ濡れの髪を(くしけず)りながら、飛鳥は一際大きな声で苛立ちを露にした。

 

「し、信じられない! まさか問答無用に引き摺りこんだ挙げ句、空に放り出すなんて!」

 

「右に同じだクソッタレ。場合によっちゃその場でゲームオーバーだぜこれ? まだ石の中に呼び出された方がマシだ」

 

「…………。いえ、石の中じゃ動けないでしょう?」

 

「俺は問題ない」

 

「そう、身勝手ね」

 

 鼻を鳴らして二人は各々の服の裾を絞っていく。肌に纏わり付く感触が気持ち悪い。両人思わず顔を(しか)めた。

 ──と、そこで飛鳥は残ったもう一人の少女が水辺から上がってこない事に首を傾げた。

 

「……あら、そういえばもう一人いた女の子は?」

 

「あん? もう()()の間違いだろ?」

 

「え?」

 

「おら、そこ」

 

 

 十六夜が指を指し示したその先。

 そこには一人の少女がいる。必死に何かを叫びながら探す素振りを見せている様だが何かあったのだろうか?

 いや、それはいい。実際あんな切迫した表情を見せられたら良くはないのだが今はまだいい。

 

「──どこ……、さっきまで、一緒にいたのに……ッ!」

 

 いや、やはり今も良くない。

 

「何かあったのかしら──って、彼女がどうしたのよ。私が言っているのはまさしく貴方が指差したあの子の事なんだけれど? ……と言うかあの子が心配ね。ねえ! そこの貴女! 何か大事な物でも落としたの!」

 

 飛鳥が声を張り上げる。

 声を掛けられたスリーブレスのジャケットを羽織る少女──耀は、その返答に(かぶり)を振ることで応答した。

 

「物じゃない! 大切な、友達……っ」

 

「あー…………。おい、そこで似非水掻きやってるお前。そうだお前だよ。もしもお前の言う友達ってのが猫科に属するんだったらそこにはいねぇぞ多分。いるとしたらそれは────」

 

 ──と、耀の言葉を顰めっ面を隠そうともせず十六夜は切る。面倒は嫌いだし複雑化も嫌い。ややこしくしないでほしいと顔が物語っている。

 

 そう告げた十六夜は、ある一点に顔を向けた。ついでとばかりに指も『突き上げて』

 

 辺りを躍起になって手探っていた耀も、彼女を訝しんでいた飛鳥も、釣られてその一点を『見上げる』

 

 そこに────いた。

 自分達が理不尽に放り出されたとされる場所よりも降りた位置に。

 

 

 一人と一匹は、空に滞空していた──いや、立っていた。

 

 十六夜はポツリと告げる。さぞ愉快気に。

 

 

「────彼処にいるんだろうよ。……やべ、超絶面白えじゃねえか、なんだこれ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『じ、寿命が縮まる思いやったわ……。助かったで兄ちゃん』

 

「はは、もしかしてお礼言ってんのかお前。俺ってば猫派なんだぜ? 可愛いなおい」

 

『何()うとんねん。こちとらそないな可愛いなんちゅうお褒めを預かるような体裁しとらんがな。嘗めたらあかんで!』

 

 何だかニャゴニャゴ鳴いてるんだけども俺の抱擁はお気に召さないのだろうか? 可愛いなおい。

 

 だがどうやらこいつが居なくて困ってる子がいるようだ。もうちょいモフモフしていたいんだけどな。

 

 しゃあない。猫と女とその他諸々には優しく、だ。

 

「彼処の嬢ちゃん、お前が居なくて探してるみたいだぞ? 愛されてんなニャンコ」

 

『──はっ! あかん、ワシとした事がお嬢の元を離れてしもうた!』

 

「ほれ、主人の元にお帰り」

 

『こないな所にいる場合じゃ──』

 

 音は無い。

 第三者の観測があったとすれば、恐らく視認は出来ずに目を皿にしただろう。

 手元には、猫は跡形も無く姿を消していた。

 

 下を見れば、短髪の少女の頭にさっきの猫が大の字になって張り付いていた。よし、何ら問題無し。目を丸くした少女の顔に向けてしてやったりと笑みを向けてやる。

 

 此方を興味深く見つめる女の子と口角釣り上げて煌めく眼光向けちゃってくれてる肉食系男子(仮定)には取り敢えず手を振っておく。あ、男子の顔が凄い事になってる。ちょっと怖いから視界から外そう。うん。

 

 目線の先、そこは広がる幻想世界。

 全てが目眩くファンタジーの投影で、空から降りる陽射しが照らす壮大なジオラマはなんと美しい事か。

 

 何てことだ、こんな心惹かれるような光景がこの時世に存在するなんて! パトスが大いに刺激されるではありませんか、今すぐにでも世界中をこの目で網羅したくてWAKU☆WAKUが振り切れるではありまっせんか!

 

「ビバ! 異世界(仮)!」

 

 てかこれ下降りて皆と合流しないと駄目なの? ねぇ駄目なの? こういう状況って同じ境遇であろう彼らと行動を共にするのがセオリーなのそこんとこどうなの自分の体積履き違えて隠れきれてないそこの擬人化青ウサギ!

 

「(……って、下見たついでにチラッと異彩放ってたからなんだと思ったら──バニーよりもエロい……だと……ッ!? 属性で言ったら()ストライクじゃないかビバ異世界! あんな末世に産まれた己の天命に大穴穿ってやりたいと思っていた俺のハートに大穴穿ってくれちゃって全くもう気が削がれちゃったよどうしようhyaaan!)」

 

 救いはあったようだ。これは降りずには居られない。

 今行くよバニー!

 

 

 

   ###

 

 

 

「──という訳で。ドウモ、御三方。(たから) 満月(みつき)デス」

 

「何がという訳で、なのかは分からないけど初めまして、久遠 飛鳥よ。そこの貴女は?」

 

「春日部 耀……あの、この子、助けてくれてありがとう」

 

「あ、うん。どういたしまして」

 

「よろしく春日部さん。で、そこの野蛮で凶暴そうな貴方は?」

 

「は、高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻 十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子揃ったダメ人間なので、用法と用量を守って適切な態度で接してくれよお嬢様」

 

「そう、取扱説明書を持ってきたら考えてやっても良いわよ、十六夜君」

 

「マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけよお嬢様」

 

 

 ネタに堂々と返された挙げ句にそのまま放置……だと……ッ!?

 俺のライフをこんな手段で削ってくるなんて……ッ、お礼言われるのが今はこんなに辛苦を伴うなんて……ッ。

 取り敢えず傍らに立つ──耀ちゃんだっけ? その子が抱いていた三毛猫の頬をツンツンして落ち着くことにする。いて、引っ掻かれた。怒んなよ可愛いなおい。

 

 とか何とかワナワナしたりツンツンしてたらいつの間にか自己紹介は終わったらしい。ハハッ、皆一癖も二癖もあって個性的だなあ(真顔)。

 というか俺はそこら辺でナンチャッテかくれんぼ勃発してるバニーちゃんを視姦したくて気が気じゃ無いわけでして。

 

「つーかお前、空に浮けるんなら俺らだって空中に留めるなり何なり出来たんじゃねぇのか? だったらこんな全身水浴びコースなんざ受けずに済んだだろうによ」

 

「あら、それは彼に対して暴論じゃないのかしら? どんな力かは知らないけれど、自分自身と手で持てる程度の範疇でしか機能しない能力だったりするかもしれないじゃ────」

 

「いやほら、俺猫派だからさ」

 

「────出来ないとは言わないのね」

「……どゆこと?」

「ヤハハ、お前やっぱ面白ぇな」

 

 一人からは笑われて二人からは三白眼で見られてる。おう、何だここは苛めの現場か。お兄さんそう言うのおこだよ?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「(うわあ……)」

 

 草木に身を潜めていた少女の表情筋がアワアワと強張っていく。

 丈の短い扇情的なスカートにガーターソックスという際どい身繕い。頭上には自身の薄青い髪と同じ色の兎の耳が生えている。

 黒ウサギだ。

 何処が黒いのかは不明だが彼女はそう自称他称で通っている。

 

 普段ピンとした抑揚の激しい耳は若干撓垂(しなだ)れている。悲しいかな、ただの重みでこうなってる訳ではない。

 今視線に納めている数人が呼び出した当人である彼女の想定に違っていた為、認識を改めなければならなくなった。主に上方修正で。

 そう──、言ってしまえば。

 

「(皆さん、如何にも問題児って感じですねぇ……)」

 

 しかし、いくら彼の者達が接点を拒みたくなるような問題児だろうと、黒ウサギにはそんな彼等を必要とすべき使命がある。

 

 即ち、コミュニティの再興。

 そして、この箱庭に召喚されし人類最高峰の才能(ギフト)を有する彼等は、この悲願に必要不可欠の逸材達。

 "主催者(ホスト)"からの太鼓判を押された四人への期待は大きい。今の末期間近──崖っぷちという事態を打開してくれるかもしれない一筋の光芒、それが彼等だ。

 

「(……とは言っても、ただギフトが優秀ってだけでは此処では埋没してしまう可能性だってあります。知識、度胸、それと個性──は問題ないですね。有りすぎて困ります。……というか────)」

 

 

 

 さっきから地に足着けずに()()()()()()()()()()()()()が一人いるのだが、彼は一体何がしたいのだろうか。

 

 

 

「(……ギフトを使役する際の発動キーや儀礼的意味合いがあるのでしょうか? それとも足に何らかの障害が? ……まさかあれが平常運転? …………って、何で周りの御三方も涼しい顔して普通に話を進めているのですか! あれを見て何かしら不可解な印象を持たないとは可笑しくは無いんでしょうか! くっ、やはり皆さん凄まじいモノをお持ちのようで──」

 

「さて何故でしょーな。てかやべ、これ本物か? めっちゃスベスベしてんじゃんか気持ちいいなおい」

 

「フフン、もちろんです! マイチャームポイントである黒ウサギ自慢の素敵耳は他の追随を許さない抜群の触り心地を有しているのです! あっ、でも黒ウサギの承諾無しで触るのはNG──アッ、ダメ、ヒャンッ! ちょ、やめ、何か触り方イヤラシ、何でそんな上手、ウニャ─────」

 

 イヤンイヤンんもーッ! と案外満更でも無いような顔で何者かと戯れる黒ウサギ。どういう仕組みか、青かった髪に少し赤みが差してきている。

 

 が、そこで気付いた。

 

 

 何者かとって、何者だ?

 

 

 シュバッ! と、風だって切れるんじゃないかと錯覚する程に俊敏な挙動で顔を持ち上げた。大量の冷や汗が溢れ出る。

 そこで。

 

 

「…………」

 

「…………(やっぱ近くで見てもエロ……よく見なくても弩エロいな)」

 

「…………」

 

「…………ニギニギ」

 

 

 ()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()()

 

 ()()()()()()()()()()()()()()

 

 吃驚なんてもんじゃない。外界と時間軸が分断されたんじゃないかと黒ウサギは錯覚した。

 相対性理論大活躍の瞬間だ。思考は吹き飛んで戻ってきやしない。

 

 錆びたブリキ人形のようにゆっくりと彼──満月(みつき)が先程までいた場所を見ると、十六夜も飛鳥も耀も此方の位置を確りとその目で捉えているが、確かに満月の姿はそこにはない。

 

 だがそれは可笑しい。何せ、『違和感に気づいて目線を上に向けるその瞬間まで、彼はずっと四人で会話していた筈なのだ』

 だからこそ、今も頭上で耳を弄んでくれちゃってるこの男の存在が信じられない。

 

 無意識に、黒ウサギは叫んでいた。

 

 

 

「何で!?」

 

「いやお前途中から声駄々漏れだったし」

 

「何と!?」

 

 

 

 多種多様な感情で彩られた絶叫が箱庭に迸った。

 

 

 

 戦慄する黒ウサギ。

 我等も混じらんと歩み寄る春日部 耀、久遠 飛鳥。

 現在進行形で黒ウサギの耳を手玉にとる宝 満月。

 それらを見ながら内心でほくそ笑む逆廻 十六夜。

 

 

 

 ここに、史実に沿わない一つの道程が綴られる。

 一石を投じ、波紋は今浮かび上がり。

 語るべくして、騙れはしない。

 

 これもまた、真実足り得る唯一無二なのである。

 

 

 

 

 

 

 因みにその後、残る問題児に(ぼう)(くろ)(なにがし)が揉みくちゃにされるのは言うまでもない。

 

 

 

   ###

 

 

 

 黒ウサギの説明や質問の応答を掻い摘まんで要約するとこうだ。

 まず、箱庭。

 

 (いわ)く、世界軸というぶっとい柱を中心に支えられた、恒星に匹敵する規模を誇る馬鹿でかい面積があるらしい。

 曰く、森羅万象有りとあらゆる修羅神仏が(あまね)く居座っている。精霊、悪魔、ファンタジーが余す事なくここには集約されているようだ。今すぐ飛び出したくなる気分請け負いである。

 んでもって尚且つ、もて余した欲をギフトゲームと呼ばれる素敵手段を用いる為に用意された舞台としての役割もあるらしい。

 何とも血気盛んな世界だ。まさかそこらじゅうで血湧き肉躍ってんじゃないだろうな。それなんてdeathパレードだよ。

 が、そこら辺はちゃんと区別してあるらしい。ちゃんと居住区画や舞台区画等、専用の施設が設けられているようだ。良かった、娯楽無いと駄目よ死んじゃう。

 だかまあこの世界独自の娯楽もあるようだ。

 

 それが、さっきも述べたギフトゲームってやつ。

 

 "主催者(ホスト)"側と" 参加者(ゲスト)"側の二つの位階が存在し、その二間で執り行われるゲームや試練の総称がこれだ。

 主催者が参加者に対して何かしらの"恩恵(ギフト)"を提示する代わりに、参加者が主催者から『これを乗り越えてみせよ』と下されたゲームをクリアする。この一連の流れがギフトゲームの基本らしい。

 

 そして、ただ目の前に恩恵をぶら下げるなんて上手い話では無いようだ。

 厄介な事に、この一連の流れから逸脱した場合──つまり、参加者が何らかの形でゲームの続行が不能になり失敗してしまった場合などの敗北要因が発生してしまうと、主催者に相応の対価を支払わなければいけない。

 

 何せ、主催者が提示するゲームが勝利条件や参加人数を含めた様々な条件を一つ一つ変動する事によって、そのゲームメイクの種類を限り無く多岐に渡らせるのと同じように、恩恵の数もまた限り無く千差万別だ。

 金銭、土地、権利、人材……、挙げられるモノならキリがない。才能だって──、命すらもその範疇に当て嵌められてしまうのだ。

 ならば当然、敗北の際にはそれらに見合うモノを此方も差し出さなければならない。

 予想していたよりもシビアな世界。そして、命の価値が殊更に軽い。

 ここはそういう世界のようだ。

 ──命の価値が軽い……ねぇ。

 

「言えた柄じゃ、ないかなぁ……」

 

「……どうしたの?」

 

「ん、何でもないよ耀ちゃん」

 

 此方を見上げる耀ちゃんに会釈する。いかんいかん、感傷に浸っちまった。

 馬鹿だなぁ、俺。

 

「俺聞いたぜ? 澄ました顔で『言えた柄じゃ、ないかなぁ……』なんて言っちゃってんのこいつ。ご丁寧に三点リーダー( … ←コレ)二つもつけて"俺、深い闇抱えてます"アピールとかしちゃってんのコイツ。ブハッ」

 

「んー? 何吹き出しちゃってんのかな喧嘩売ってんのかなーこの子ー? ムッ殺す!」

 

「ヤハハ、出直せ出直せ」

 

 でかい岩の上で両手の鍔迫り合いが始まる。なんじゃこの野郎、中々やるでねぇの。

 だが貴様は絶対許さん。俺のシリアル返せフンヌーッッ!!

 

「ちょっと! 競り合うなら他でやってくれないかしら!」

 

「というか説明がまだ途中なんですがーッ!? ああ、岩が、岩が砕けて──って、地面にまで亀裂が!?」

 

「あっはい、すんません」

 

「あん? 何だよ折角の面白おかしい一時だったってのに」

 

 怒られたんでパッと手を引いたらこやつ、黒ウサギや飛鳥ちゃんじゃなくて俺に文句言ってきおった。ぼこ? ぼこなのこの子? いや凹じゃなくてボコボコの方よ?

 

「と、取り敢えず十六夜さんは座って、満月さんはそのまま浮いてて構わないので落ち着いて──ああ駄目ですまたおっ始めようとしないでください!? 何で十六夜さんはそんな嬉しそうな顔をするんですかもう! はい座って座って────ふう。……えーと、それで何の話をしていましたっけ? ──あ、そうですコミュニティです! コミュニティとは────」

 

 

 

 

 

 

 …………とまあ、高等学校の遠足並のグダグダ感が拭えないながらも何だかんだ向こうの言いたい事は理解できた。

 

 要するにあれだろ? この箱庭っていう世界で黒ウサギの所属するコミュニティに自分達を入れたいって事だろ? ちょいちょい挑発ともとれる言動が垣間見えたけど 。

 

 ええよええよ子猫ちゃん(※ウサギです)

 

 別に『そんなにまで必死になって俺らを入れようと』せずとも、少なくとも俺は入る気しかないし、抜ける気もこれっぽっちもありゃしないよ」

 

「え──?」

 

「──ん?」

 

 何かえらいびっくりした顔を此方に向けてるウサギさんがいる。なんだ、ただの天使か。

 

「どしたの? 黒ウサギ」

 

「──へ? あ、いえ……」

 

 ほんとどうしたんだこの子。ああ駄目だよそんなあざと耳荒ぶったら取れちゃう取れちゃう。てかお前は盛りのついた犬か……………………何でそこで睨めるんすか、心読めるんかアナタ。

 

「で、お前さんのその意味深な笑みは何なのかをここに問い質そう」

 

「別にー、笑いが止まんねぇだけだ」

 

「だからその理由を──「俺からも一ついいか黒ウサギ」おい」

 

「あ、はい。黒ウサギには質問を全て答える義務がありますので──」

 

 華麗にスルーしおってからに。

 メトロノームの重りを根元にもってった時よりも激しい動きを見せていた耳をピタッと止めて、黒ウサギは十六夜と向き合う。

 それを合図と受け取ったのか、ニヒルに笑んだ十六夜が告げる。

 

 さぞ、愉快気に。

 

 

「なら、聞かせてもらおうか。俺が聞きたい事はただ一つだ。……本当なら分かりきってる事なんだけどよ。だが、これはあくまでも俺の主観がそうだと言ってるだけ。 ──黒ウサギ、お前の客観的な意見も聞きたいと思ってるんだよ」

 

 

 前口上を連ね。

 

 世界を見据えるような瞳には光が見える。こっちをチラリと見たその瞳には、大きな『耀き』が確かにある。

 

 ──ふむ。

 

 

「この世界は────、面白いか?」

 

 

 

 

 

 これは。

 

 

 

 

 

「……YES。ギフトゲームは人を超えた者たちだけが参加できる、まさに神魔の遊戯。箱庭の世界は外界の世界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 

 

 

 

 

 

 その事実は。

 

 耀ちゃんも。

 

 飛鳥ちゃんも。

 

 十六夜も。

 

 斯く言う私もどうて──嘘です。

 

 

 まあ、なんだ。俺も。

 

 

 只官(ひたすら)に、心が奮えた。

 

 

 

 

 これは────とても、とっても面白いな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ヒャハ♪ 




一昨日だったかにグリフォンと目の中に椎茸入ってるどっかの都市の第五位さんが空を全力疾走してる夢を見てピンときました。

やだ、疲れてんのかな……?

とにもかくにも、これからよろしくお願いします。

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