ZIPANG 艦娘「みらい」かく戦えり   作:まるりょう

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二章は長いので前後に分けました。書いている人が適当人間なので、章ごとに字数差がかなりあるのは仕方ないことです。
轟沈表現ありです。


第二話 リンガ泊地での決意 後編

「こんにちは~」

 妖精と話を続けていると、後ろから声がかかった。みらいが振り向くと、そこに2人の少女が立っていた。1人は茶髪で白の制服に緑のスカート姿、もう1人は紫髪に紫の制服だ。2人とも三日月の髪飾りを付けていて、年齢は響達と同じか少し年下ぐらいか。

「おょ?妖精さんと居るって事は、あなたも艦娘さんですかぁ?」

「ええ、こんにちは。あなた達も?」

「はい!第三十駆逐隊、リンガ泊地所属の睦月です~!」

「同じく、第三十駆、弥生です……初めまして。さっき、遠征の輸送任務から帰ってきた所です……」

「あぁ、天龍……が言ってたここの駆逐隊ね」

「天龍さんの知り合いなんですか? 初めましてだけど、何ていう艦娘さん?」

 さて、どう答えたものか。リンガの駆逐隊とはいえ、私の正体をあまり不用意に言いふらすのも不味いだろう。

「余り見ない顔……内地からやってきた新型艦?」

「んー、まぁそんな所ね。艦名は『みらい』。横須賀生まれの護衛艦よ」

「『みらい』ですかぁ。何だかとっても爽やかでかっこいい名前なのです」

「護衛任務の艦……?海防艦や特設巡洋艦にしても、大きいですね……」

「いえ、護衛艦という艦種なの。実質は巡洋艦といったところかしらね」

「ふぅん、それは初耳です。後で提督に聞いてみよっと」

 私についての説明はここの提督に任せとこう。

「弥生も横須賀の浦賀です……宜しく。」

「ここの基地を出るときには居なかったけどぉ、みらいさんはここに来たばっかりですか?」そう言って睦月がみらいの右隣に座ると、弥生も左側に座った。

「そうよ。色々あって、ここの基地に来たのが三日前ね」

 みらいは大きく伸びをして、あくび声で続けた。

「一通りここで試験が終わったから待機状態みたいなものなんだけど、全く暇で。海くらいしか見るもの無くて」

「リンガ泊地は、何も無い……防諜には都合いいけど、待機中は本当やることが無い、です」弥生が答えた。

「人里離れた元無人島で今は後方基地だから、雑談するか椰子の実を採るぐらいしか暇つぶしが無かった、と聞きました」ヤナギが補足する。

「おぉ、よく知ってるね~。ま、私達駆逐艦はよく遠征に出されるだけマシだけどにゃ~」

 ここで終戦まで居るつもりだったみらいは、やっぱりシンガポール基地とかの方が退屈せずに良かったかしら、と思いだした。

(お前は明日死ぬはずの艦娘が居ても、見殺しにするってのか!?)

 私の歴史では、睦月型駆逐艦は全滅する運命にあるという。今私の左右で笑っている彼女たちも、あと2、3年の人生だ。今の私の年まで生き残ることはできるのだろうか。

「およ? ど、どうしたんですか?そんな怖い顔して」

 睦月を見つめていたみらいは我に帰った。「え? そ、そうかしら。いえ、なんかごめんなさいね」

「ところでリンガで星を見たことあります?」

「そう言えば……此処では見てないわね。昨日まで忙しかったから。」1日目は提督と話してる途中で眠ってそのまま朝を迎えたし、一昨日も昨日も夜に外出はしていない。

「人が居ない分、リンガの夜空は、すごくきれい。赤道だから、南十字とかも、見えます」

「あぁ、なるほど」

 

 

 数時間後、夕食を終えたみらいは同じ椰子の木にもたれ掛かっていた。

「確かに、駆逐艦の子達が言ってたように凄く星空が綺麗です!」

 みらいの周りで妖精達がはしゃいでいる。

「本当ね。これまで南半球に来た事無かったから、南天の星座は初めてだわ。さそり座があんなに高いところにあるなんて」

 艦娘として海を航海していると、夜間に空を見上げて星を見ることもある。遠洋航海で真っ暗な海上を滑りながら星空を見上げると、たった1人宇宙空間を旅しているような錯覚に陥る。

 みらいは水平線ぎりぎりに淡く浮かぶ雲のような天体に手を伸ばした。

「あれがマゼラン星雲……16万光年彼方からやって来たあの光は、16万年前の物。その光が放たれた銀河の星は、今この瞬間には存在するかどうかも分からない……私と似たような物ね。」そう言ってみらいはため息を漏らした。

「日本列島から南の島リンガまで4000キロ。でも私の故郷とは何百万光年より遥かに遠いのかも知れないわ……」

 

「何してるんだと思ったら、星を見てたのか?まぁ確かに綺麗だからな、ここに着任した時は俺だって感動したぜ」

 みらいが横を向くと、砂浜に誰か立っていた。星の明かりしか無い海岸だが、声で誰かは分かった。

「天龍さん……何?」

「あぁ、いや、じゃなかったな……ええと、その……お、お前に謝りに、来たんだ」

 言葉に詰まりながら、天龍はみらいの方にゆっくり近づいて来て、あと2、3歩のところで立ち止まる。

「い、いきなり怒鳴ったりして済まなかった。ごめん!」

 そう言って頭を下げた。

「ふぅ……良いわよ。この時代で戦うあなた達の気持ちもよく分かった。それに、私も色々思うところはあるわ」

 そしてみらいは再び星空を眺める。

 こういう事に慣れていないらしく、どうすれば良いか解らない天龍はその場に立ち尽くした。気まずい時間が流れる。

 みらいがもう一度天龍の方を向き、地面に手を遣って話しかけた。

「……あなた。まだ居るなら、隣座る?」

「お……俺も居ていいのか? 泣かせちまったんだけど……」

「もう良いわよ。別に」

 数十センチほど距離を置いて、天龍はみらいの隣に座った。おずおずと天龍が口を開く。

「……なぁ、マゼラン星雲ってそんなに離れてんのか?」

「ええ。人間には想像も付かないほど、宇宙は果てしなく広い。だから私は好きよ。21世紀でも、人類は月までしか到達出来てないわよ」

「うぉ! あのお月様に人間が立ったのか?すっげぇな。やっぱ月に兎は居たのか?」

 目を丸くして言った天龍の言葉にみらいの頬が緩んだ。

「お月様とか、兎って……あなた、意外と可愛いわね」

「うるせぇ。可愛い言うな! 駆逐艦のガキどもの言葉が移っただけだ!」

 暫くの沈黙。

 天龍は背中を倒して寝転んだ。

「今日俺の指揮下の第三十駆逐隊がパレンバンから帰ってきたんだ」

「らしいわね。睦月と弥生って子には今日の昼会ってちょっと話をしたわ」

「そうか。今第三十駆の構成艦は、睦月、弥生、卯月、望月の4人だが……卯月は暫く前に別の駆逐隊からやって来たんだ。その前、もう1人如月って奴がいた。 艦娘による深海棲艦との戦いが開始されたすぐ後、あいつらとウェーク島攻略作戦に参加してな。その島を守っていたのはたった4機の戦闘機だけだった。こっちは巡洋艦と駆逐艦合わせて9隻…余裕だと思うだろ?俺も実戦訓練のつもりで奴らを指揮してたんだ。でも守備隊の戦闘機がなかなかのやり手でな。機銃掃射が如月の魚雷に誘爆、爆沈しちまったんだ」

 みらいは驚いて天龍の方を向いた。

「その後、一時撤退した時の艦隊は、そりゃ酷かったね。何たって如月は、睦月の妹だったからな。目の前で爆発して沈んでいったんだ。ショックで皆ろくに口も聞けなかったな」

「……!」

 昼間会った睦月の印象は天真爛漫で、とても目前で妹を失ったとは思えない。

「その後しばらく経って、あいつなりに割り切ったんじゃねぇかな。少なくとも表面上は、元通りだが……兎に角、俺達は俺達の信念と覚悟を持って戦っているんだ。だからお前が良く分からない理由で戦わないって言ったとき、俺は頭に来て怒鳴っちまった。でも、お前にもお前の世界があって、それを守る為に辛い決断をしてきたんだよな。だから仕方ないってのは分かった。ただ、お前にとって何十年も前の教科書の中の世界でもこうやって戦っている色々な奴がいて、1人1人立派に生きていたと言うことは知ってて欲しいな。俺達はその内沈むかも知れねぇし、お前もいずれ元の時代に帰るかも知れねぇが……この時代に、何かを守る為に命懸けで戦った奴が居たことを、どうか忘れないでくれ」

 天龍は星空を見ていた。みらいは拳を握る。

「……嫌よ。」

 みらいは立ち上がって天龍に向かった。

 天龍や妖精達は驚いてみらいを見る。

「決めた。私はまだ自分の航海を終わらせない。私はあなた達が死ぬかも知れない同じ時代で、見て見ぬ振りをするなんてできない。そんな絶望的な運命なんて、私がこの力で変えてやる!」

 

 

 リンガ基地司令部・執務室

「では、始めます。」

 翌日、みらいは執務室にリンガ司令部要因を集め、今後の作戦計画の説明をする事にした。

 作戦机にソロモン南部海域の地図を広げて、みらいは話を始める。

「この後、我が艦は準備が出来次第、ソロモン海域に進出します……それに先立ち、皆さんに今後の私の予定を説明します」

 みらいは室内の皆を見渡す。

「私の目的はガダルカナル島の飛行場姫を巡る戦いにおける艦娘の多大な犠牲を抑えること、これだけです。戦闘の始点はソロモン海域に深海棲艦が大規模な泊地を造成していると言う豪軍の報告に因るものです。数日後にはトラック基地所属の偵察艦隊により、ガダルカナル島北部の、ここ」みらいは机の上の地図を指差す。

「この場所に、飛行場姫指揮下の大艦隊及び航空部隊の存在を確認。ミッドウェーの敗退で米国との交流が途絶えた上、豪州との連絡まで分断されることを恐れた日本海軍はガダルカナル島を絶対に奪還する事を決定します。現在では軍令部内でガ島作戦が練られているところ、ですね?」

 みらいは佐倉提督に尋ねた。

「みたいですねぇ」佐倉提督は頷いた。「田舎の指揮官でも、ガ島奪還作戦の噂くらいは聞いています」

 みらいは続ける。

「ですが、泊地攻略戦は、ハワイ島の深海棲艦基地に対する空爆やミッドウェーの揚陸作戦とは訳が違います。ガ島基地の防衛戦力を撃破し、最終的には陸兵で占領しなければなりませんが……深海棲艦も全力で防衛戦闘に当たってきます。重厚な防御網を持ったガ島泊地に対する反復攻撃で主力艦隊の被害は増大、艦隊決戦の為の戦力を基地攻略にすり減らす事を恐れた軍令部は、練度の低い中小艦による損失前提の囮を使った作戦に出ます」

「な……そんな作戦が!?」

 提督だけではなく、執務室にいた全員が驚いてみらいの方を向いた。

「喪失艦は、戦艦2隻、空母1隻含む24隻。この、後世の学者が俗に名付けた『捨て艦戦法』は非人道的なだけでなく、その結果として汎用性の高い駆逐艦や巡洋艦を多数失い、ソロモンを巡る戦いにより深海棲艦に対し劣勢に陥った日本海軍は、最終的に日本近海までその版図を失います」

 提督は唇を噛む。天龍は天井にガンを飛ばしている。皆険しい表情だ。

「深海棲艦のガ島基地が制圧出来なかった理由として、物量による基地施設の維持があります。常に数10隻の輸送艦、仮に海軍がワ級と名付けた深海棲艦のトランスポーターですが、これが飛行場姫等に物資をピストン輸送し損害を受ける度高速で復旧させていた事があります」

 秘書艦の龍田が発言した。

「要するに~、幾ら叩いてもすぐに直しちゃうから、キリがなかったってことねぇ」

「その通りです。逆に言えばこの輸送艦隊を殲滅する事が出来れば、数度の攻撃で飛行場姫を制圧する事ができるはずです。しかし、現時点で日本海軍は輸送艦隊の存在に気付いて居ませんでした。また、例え気付いて居たとしても輸送艦隊は島の反対側に停泊していて、トラック基地からの出撃ではここに到るまでに捕捉・撃破されてしまうでしょう。事実、輸送艦に対する攻撃は潜水艦による僅かな物以外は一度も成功していません」

「……」

「私の目的は、ここの輸送艦を撃破する事。戦後の研究により、私の元には輸送艦のかなり正確な行動データがあります。ワ級が集結するタイミングを見計らって物資揚陸地に襲撃、これを殲滅します。私の能力なら、哨戒線上の潜水艦は全て探知・回避可能であり、索敵機も視界に入る前に長射程の対空誘導弾で確実に撃墜可能、敵の電探に関しても電子妨害で無力化します。事前に発見されず完全な奇襲攻撃をする事が出来ます。さらにこれと呼応して、深海棲艦が私に気を取られている内に連合艦隊を飛行場姫の元に突入させれば、損害を出さずにこれを撃滅、ガ島作戦を一気に成功に導く事ができます」

 みらいはここで一旦話を切った。天龍が呟く。

「何ていうか……すげぇな。ワ級にも誘導弾……ミサイルとやらをぶち込むのか?」

「いえ……対艦ミサイルは高火力だけど弾数が少ない、この時代でいえば魚雷みたいなものよ。軽装甲の輸送艦に対しては、主砲砲撃と機銃掃射で十分よ」

 提督が口を開いた。

「問題は、君がトラック基地の艦隊とどうやって連絡を取るか。連合艦隊指揮下に入るつもりですか?」

「いえ、私はあくまでも海上自衛隊の護衛艦……同じ国とは言え、違う時代、違う組織に所属する意思は有りません」

「でしょうね。武力を持つ者が忘れてはならないのが指揮系統です。

ですが、その場合連合艦隊と共同作戦を展開する事はまず不可能です。自分達と違う、独自行動を取る艦の話を聞いて艦隊を動かすほど、日本海軍は器が大きくない」

「そういや、不明艦の情報は上にどう伝えたんだ?」と天龍。

「あー……現在調査中って言ったままほったらかしだったわ。」佐倉提督は明後日のほうをむいて気まずそうに答えた。

「おい働けよ!このアホ提督!」

「……! いえ、丁度いいわ。提督さんが協力してくれればの話だけれど。提督さん、先にトラック基地に行って私の事を話していただけないですか?勿論、私の作戦の事もです。未来の資料と合わせて持って行けば、提督さん次第ですが信用して貰えるかも、知れません」

「お、おぅ。成る程、直接合って話すなら……って、僕が説得するのか、苦手なんだがな……」提督は頭をボリボリ掻きながら机から予定表を出し、それに目を通した。

「……うん。こんな田舎基地に録な予定も入ってないし。仕方ない。分かりました。私が行って、トラック司令部にあなたの存在を認めさせて来ます。連合艦隊との調整は、私が責任持ってやってみます」

「お願いできますか、ありがとうございます!」

「大量の支援艦艇も失うんだ、捨て艦戦法も絶対に止めさせてやる。大体な……かわゆい駆逐艦の子を沢山沈めるぐらいなら1人ぐらいうちの子にさせろって話しだ」

そう言うやいなや、提督は龍田に足を踏み抜かれた。

 

 

 前日・海岸

「この作戦は間違いなく、この時代に楔を打ち込む事になるでしょうね」みらいは言った。

「……良いのか?歴史が変わるってあれほど言ってたのに」と天龍は遠慮がちに言った。

「既に少しずつ歴史は変わり始めている…でも、私の持つ資料には何も変化は無いの。多分、私が来た世界と、この世界は違う流れなんだと思う。勿論、いつかは元の世界に戻るつもりだけど……最悪の戦闘を知っている私がこの世界に居るなら、やるべき事は一つよ!」と、みらいは断言した。

 

「皆に、これだけは言っておきたい事があります。私は、この世界の戦争に参加する事が目的では有りません。これは戦闘行為ではない、海上自衛隊護衛艦としての救命活動です。以上!」

 

 

 翌日・リンガ基地艦娘ドック内

 

 艤装に配管を繋ぎ、妖精達が補給作業を行っていた。

「軽油燃料3000トン、レーション1ヶ月分、航空機燃料その他消耗品……この時代の艦の燃料は重油でしょ?よくこれだけ軽油の備蓄があったわねぇ」

 みらいは作業を見守っていた提督をの方を向く。

「君の試験運転と演習でかなり残りの燃料を消耗したでしょう?ここの基地に居続けるとしても、君がいる限り軽油燃料の備蓄はあった方が良いと思ってね」

「提督から遠征途中に頼まれて、私達がパレンバンから輸送してきたんですよぉ」

「ドラム缶に入れて、引っ張ってきました……」

 隣で睦月と弥生が補足する。

「まさか、この基地に未来のスーパー巡洋艦が来るとは思わなかったぴょん!」

「だからって、なんで私達まで出撃作業に駆り出されんだよ~はぁ、面倒くさい」

 感想を漏らしたのは姉妹艦の卯月と望月だ。

「ごめんなさいね。でも、助かったわ。まずパレンバンへ補給に向かわなくちゃって思ってたから。おかげで予定が数日早められるわ。すでに囮を使った作戦は始まってる頃だから、一刻も早くソロモン海域に向かわないといけないもの」

 基地職員がリヤカーを引いて一月分の戦闘糧食をドックに持ってきた。みらいの妖精達はそれを受け取って、艤装の扉から、艦内に投げ込んでいった。

「俺達はみんなそうなんだけど、よく艤装内にこんだけ荷物が入るもんだ……魔法で空間を弄ってる、って言われてるがよく分かんないぜ」と、その様子を眺めていた天龍が言った。

「未来の世界の四次元ポケットよ」みらいはそう言ってくすりと笑った。

「はぁ……? ポケットじゃなくて収納庫じゃねーのか」

「あと30年ぐらいしたら意味が解るようになるわよ……」

 みらいはそこまで言ってから、ちょっとまずかったかと思った。天龍は終戦を無事に迎えられないのだ。

 それを察した天龍は、みらいの心配を鼻で笑った。

「あん? なに不味そうな顔してんだ。お前が歴史を変えるんだろ? なら大丈夫だよ。何たって世界水準越えの巡洋艦、天龍様だ。龍田ともども絶対に戦争に生き残ってやるに決まってんだろ」

「あなただけじゃないわ。第30駆逐隊の皆も頼むわよ」みらいはそう言って、天龍に微笑みかける。

「はん! 当然だ、任せろ」天龍も、笑みを浮かべた。

 

「抜錨作業完了! みらい、発進します!」

 錨を収納したみらいは、ドック内で甲高いタービン音を響かせて、少しずつ動き出した。

「相変わらずすげぇ機関音だな」

「見ろよ。煙突から黒煙が出てないぞ。どうなってんだ……」

「すごい未来の船だぴょん!」

「頑張れよ! お前こそ沈むんじゃねぇぞ、気が済んだらまた帰って来いよ!」

 みらいの補給作業を手伝っていた作業員や艦娘達は口々に感想を漏らしながら、みらいに手を振ったり、敬礼をした。みらいも敬礼を返す。

「では私は、空路で一足先にトラック基地に向かいます。みらいさん、武運を祈ります!」

 エンジン音に負けないように大声でそう叫んだ提督に対しても、みらいは敬礼する。妖精達も背後の艤装の上に立って、帽を振っていた。

 みらいは薄暗いドックから赤道直下の陽光の下に躍り出ると、蒼い泊地内海で速度を上げた。

 振り返ってもう一度リンガ基地を見ると、もう施設庁舎も小さくなっていた。

「佐倉提督、天龍、龍田、響、30駆逐隊の皆、整備員や基地の皆さん……どうか、終戦まで無事でいて下さい」

 みらいは進路を東に取った。

「これより深海棲艦との戦闘海域を突破し、戦場に侵入するわ!総員、対空・対潜警戒を厳として!」

 

「じゃ、そう言うことで。僕もトラックに行ってくるわ。みらい次第になるけど、1ヶ月も開けないと思う。その間、龍田天龍、基地は任せた」

荷造りを終えた佐倉提督は二人に言った。彼もこれから連絡船でシンガポールへ向かい、航空機に乗り換え台湾・パラオを経由、トラック基地司令部に向かうのだ。

「おぅ、任された」

「提督こそ、ここより色んな艦が居るからってぇ、トラック基地でもおさわりしてたらその内海に沈められますよ~」

「ああ、肝に銘じておく」そう言って苦笑した。

 

 2人がリンガ島を離れる連絡船を見つめていると、1人の少女が基地庁舎から出てやって来た。

「響ちゃんじゃない。どぉかしましたか~?」それに気づいた龍田は振り返って尋ねた。

「みらいさんも提督も、行ったようだね。龍田さんたちは、このままにしておく気かい?」

「どっちを、だ?」天龍も振り返る。

「勿論みらいさんの方さ。佐倉提督が報告をしていないから、公式には彼女は現在でもアナンバスに現れた不明艦のまま。私はみらいさんを監視する為にここの基地に派遣されたんだ」

「信用してねぇってのか?」

「いや。私もみらいさんは私達の敵ではないと思っている。だが、帰還命令も出ていないのに、このままにしておく訳にはいかないだろう?」響は龍田を見つめた。

「提督代理、出撃許可を」

 

 

「先ほどリンガ基地から出航した艦は、速度を上げて本艦に接近して来ます」

 みらいの艤装内の妖精から報告が入る。みらい自身も端末機を取り出してレーダー画面を表示した。

「駆逐艦サイズってとこね……単艦ってことは、哨戒任務とかじゃない?」

 背後からヤナギがひょこっと顔を出して答えた。

「どうでしょう? 海上護衛を軽視していたこの時代の日本海軍が、こんな後方で哨戒活動をする事は少なかったと思われます。単艦なら遠征や演習と言うのも、考えにくいですが……」

 別の航海科の妖精も顔を出した。

「目標は我が艦の可能性が高いです。あらかじめリンガ基地に報告しておいた私の航路を辿って来ているようです。航路を外れて回避しますか?」

 みらいはうーん、と上を向いて考えて答えた。

「ま、脅威にはならないでしょう。何か連絡があるとか。まあ良いわ、私の近くまで来たら話してみます」

 

 果たして水平線から姿を現した艦は銀髪の駆逐艦、私が最初に出会った彼女だった。

「あら、何だ。響さんじゃない。何かご用?」

 

「……私に気付いていたのかい?」

「ええ。レーダーでバッチリよ。基地を出た時から捕捉していたわ。私の航路を追いかけて来たって事は、私に何か用があるんでしょ? ひょっとして、私基地に何か忘れ物したとか。」みらいはそう言うと軽く笑った。

「さすがだね。忘れ物を届けに来たんじゃ無い。その……」

 響は視線を少し横に逸らしてから、正面からみらいを見据えて言った。

「私は君について行く事にした」

「……へ?」予想外の返事にみらいは素っ頓狂な声を上げた。

「私がみらいさんの監視の為にリンガ基地に残っている事は話しただろう。その命令がまだ残っているから」

「ち、ちょっと待って!そんなにいきなり付いて来るとか言われても……勝手に、良いの?」

「大丈夫だよ。秘書艦の許可は貰ってきた。最悪、基地を出た不明艦の捜索と追跡とでも言っておけば脱柵にも問われないと思う。それに、みらいさんにとっても、日本海軍の駆逐艦が1隻付いていた方が誤解で連合艦隊と戦闘、と言うような事態も避けられるさ」

「そ、それはそうね……でも佐倉提督が上層部に私の事を伝えに言ったんだし、あなたが私と行動を共にする必要性は無いと思うのだけど」

「……本音は私個人の興味、かな。命令も受けて無いのに何十隻の艦が沈むような激戦地に行って、しかもそれを救命活動と表現した君の、未来の戦いを見てみたいと思ったのさ」響は 電に話してみたいな、と呟いた。

「良いわよ……と、言いたいところだけれど」みらいは響に向かう。

「私はこの時代の駆逐艦と行動を共にするような設計ではないの。最高速度はともかく、機動性や加減速性能は大きな違いが有るわ。それに、あなたステルス性もないから」

「す、すてるす……?」

「えぇ、ステルス。私の艤装は電探に捕捉されにくいように電波の反射を抑える設計なの。それがない駆逐艦が居れば、深海棲艦に見つかりやすくなる。私は敵根拠地の後方に急襲を掛けるのよ。こんな言い方して悪いけど、旧式艦のあなたは足手まといになだけだし危険だわ。悪いことは言わないから、基地に帰りなさい」

 響は視線を足元に遣り、スカートを握った。

「でも、私が君に興味が有るだけじゃない、不明艦を監視しろという命令も有るんだ……危険なのは承知の上だ。私は死ぬつもりは無いけれど、大破しても構わないから行かせてほしい。」そう言って響はみらいの目を見つめる。

「……そんなの許せるわけ無いでしょ。あなたが言ったとおり、これは救命活動なの。一番近くにいる艦を危険な目に合わせる事は許せないわ」

「……」

 響はしゅんとして立ち止まった。

 みらいは考えた。日本海軍の上層部に私が未来から来たとはっきり認識してもらうためには、この時代の艦に私の戦い方を見せて報告させる方が良いかも知れない。みらいは溜め息を吐いた。

「どうしても、と言うならこれ持って行きなさい。」そう言ってみらいは響に筒のような物を渡した。

「な、何だいこれは……?」

「歩兵携行式の91式地対空誘導弾、通称ハンドアローよ。私の僚艦を努めるなら、ミサイルぐらい撃てるようになっておきなさい。こうなったら、私に協力して貰うわ」




今回の春イベのおかげで、このシリーズでのインド洋作戦が充実しそうです。……エタらないよう頑張ります。
比較的史実重視なので、早くに沈んだ艦娘は出てこなかったりするのは仕方ないことですが、別にそのキャラが嫌いというわけではありません。余裕があれば、また誰かの回想という形で登場させたいと思います。

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