ZIPANG 艦娘「みらい」かく戦えり   作:まるりょう

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3か月以内に投稿しますと言っておきながら、5月からかなり間が空いてしまったことをお詫び申し上げます。4か月以上休載しておりましたが、これからもぼちぼち書いていこうと思いますので、よろしければ今後もみらいの航海にお付き合いくさい。


第十四話 祖国の地にて

「あら、”ここに”いらしたのね」

 午前零時過ぎ。疲労を引きずって自分の宿舎に戻って来ると、大和が宿舎入り口の電灯をわずかに浴びていることに、みらいは気づいた。深夜だというのに、大和は月光から表情を隠すかのように特徴的な日傘を掲げている。

「みらいさん。作戦、お疲れ様でした。大まかな報告は聞きましたが……お怪我が無くて、何よりです」

「ええ。ありがとう」みらいは宿舎の戸の前で立ち止まり、影になっている大和の目をよく見つめた。「最近見ないから、てっきりトラックから離れていたのかと思いましたよ」

「まぁ。色々と、ね。ともかくこれで、ガタルカナル島からの撤退は円滑に進みそうです。本当に、ご協力ありがとうございました」

 大和は日傘をたたんで深々とお辞儀をする。

「いえ、こちらこそ。度重なる介入と兵站支援をしていただいて、あなた方には深く感謝しています」

「当然のことをしたまでです。たとえ21世紀の人間だとしても、同じ日本人ですからね」大和は頭を上げ、みらいをじっと見つめた。その美麗な顔が、月影にはっきりと照らし出される。

「そう、あなたは日本人。なのに何か月も、この南洋諸島に釘付けになっていて元の世界にも帰ることがかなわず……これからもこの海で、生きていくしかない」

「……何が言いたいんでしょうか?」

「みらいさん。横須賀に、帰りませんか?」

「……!」

「実は、『出雲』が定期整備のために横須賀に帰還することになりまして。トラックの別の施設にあなたをとどめておく必要が出てきました。私達連合艦隊はそれならばと、海軍省と軍令部に立ち入って、みらいさんの横須賀入港と日本本土での生活の保障を取り付けたんですよ」

大和はみらいを笑顔で見つめたまま、話を続ける。

「当然、あなたが生きていた時代とは何もかも違う、昭和17年の日本です。トラックに留まるというのなら、それはそれで手配を行いますよ」

「わ、私は……」

 みらいは答えを急ぐ前に、考えを巡らせた。このままここにいても、多くの人目に触れ、関係者の間で必要のない噂を生んだり疑いの目を向けられる。戦略面では? ソロモン方面での撤退戦が始まり、しばらく対潜哨戒ぐらいしかやることは無くなるだろう。日本本土に帰ってもそれは同じだ。それに……

「……私は、本土に帰りたいです。しばらく南太平洋での戦闘も落ち着くでしょうし……各方面の深海棲艦の動きに中央から機動防御するという面でも、私が日本にとどまるというのは、合理的な判断だと考えます」

 建前として戦略を並べたが、本心では日本へ帰国したいという思いが強かった。半年以上前に21世紀の横須賀を出港してから、みらいの神経は張りつめっぱなしだ。みらいの精神は限界に近かった。自分が見知った地で、少しでも休養を取りたい。たとえそれが70年前の世界だったとしても、少しでも自身が生まれ育った世界とのつながりがあるのであれば。

 みらいの答えを聞いた大和はふふっと微笑んだ。

「そうですね。確かに。では、帰国の準備を……といっても、特に荷物はありませんか。一週間後に連絡の輸送機がトラックを発ちます。祖国とはいえ慣れない時代。水先案内人を用意してあげますよ」

「いえ、おかまいなく。佐倉提督がいれば大丈夫ですから」みらいは心の中で、監視は結構だと付け加えた。だが大和は。

「なにか勘違いされているのではないでしょうか? あなたが気に掛けていた人たちを、配置換えついでにあなたの案内という名目で本土へ一時帰還させようという計らいなのですよ」

「暁、さんと……」

「あなたは指揮系統を失って、ひとりですべての責任を負い、この世界で平和を求めて、行動してゆかなければならなくなった。実を言うと。私達も……同じなのです」

大和は真摯なまなざしでみらいを見つめる。みらいも同じ瞳を見つめ返した。ふたりの少女の背後には、巨大な影が揺らいでいるようだった。それは歴史という、あまりにも膨大な怪物だ。

「深海棲艦との戦いに打ち勝つ未来のために。そこで、日本の地で。是非とも会っていただきたい方がいらっしゃるのです」

 

 

 

3日後 南太平洋上空 零式輸送機内

 

「ほらあれ見て! 島の上に雲が!」

「本当だ。島の上にだけ、傘のように雲がかかっている」

みらいは声のする方をちらっと見た。みらいにとってはおなじみの、駆逐艦娘響と暁が目を輝かせて窓の光景に見入っていた。空のてっぺんから低く下り始めた太陽の光を浴びて、ざらざらと波立つ海面は虹色に染まっている。前方には、大きな陸地が雲を被っているのが見える。はしゃぐふたりの様子を、みらいは横目で眺めていた。

「あれはグアム島ね……あなた達、飛行機に乗るのは初めて?」

「ううん、でも前には本土で一度乗っただけ。南方にはいつも海の上から行ってたから」

「そう」

「みらいさんはよく乗ってたの?」

「ん、まぁたまには」

「それにしても不思議ねー。なんでこんな、綺麗に島の上だけ雲がかかってるのかしら?」

「あぁそれは多分、海の空気が島にぶつかって、上昇気流になったからね。湿った空気が上に上がると、冷やされて雲になる」

みらいも頬杖をついて、ぼやっと眼下の景色に目をやりながら答えた。ふたりはそれを聞いて、なお興味深そうに雲の形を指でなぞっている。こうしてみると彼女らも年相応の少女で、かわいらしいものだ。

 

トラックから本土へ向かうみらいだが、暁と響も本土でしばらく調整と訓練を行うとのことである。確かなことは言えないが、史実での響の運用を考えると、南方から北方へと配置換えされることになるのかもしれない、とみらいは考えている。結局第三次ソロモン海戦は生起せず、そこで失われるはずだった暁は紆余曲折がありつつも今だこうして生きている。彼女らの次の配備先が……みらいの今後の指針を左右する。

 機体が少し揺れ、機内後部に格納してある3人分の艤装がかたかたと音を鳴らす。艦娘は軍艦と違って空輸ができるから、数日で南太平洋からアリューシャンへ展開できたりして便利なものよね、と考えているうちに徐々に高度が下がっていった。

「たしか、大宮島(だいきゅうとう)に降りるんだっけ?」

「航続距離が足りないから、途中グアム島と父島に着陸して、燃料補給する予定って言ってたわ。()()()?」

「我々は()()島を占領して、大宮島って呼ぶことにしたんだ」

みらいは、響のその注釈を1秒吟味し、意味を理解した。

 

日本からチューク諸島まで3000キロ。現在、航空便ではグアムで乗り継いで6時間だ。しかしみらいらが搭乗する零式輸送機は遥かに遅い。途中グアム島・父島での休憩を含み、丸2日。早朝グアムを発ち、昼過ぎに父島で補給を行い、日本上空に差し掛かったのは深夜遅くを回っていた。

「みらいさん、あれが……昭和17年の、日本の灯だよ」

響は、椅子に横になっている暁に配慮して小声で言った。

 

 

 

追浜飛行場に降り立った3人を出迎えたのは、先に横須賀に戻っていた佐倉提督だった。みらいは彼とともに基地司令部で簡単な挨拶を済ましたのち、基地付属の施設で夜が明けるまで宿泊する許可をもらった。みらいが艤装の管理について問いただしたところ、佐倉提督の返事はこうだった。

「あなたの存在はいまだに非公式なもの。横鎮の施設に堂々と艤装を安置することはできません。とりあえず、ここの航空機倉庫内に置いておくことにしました。……これからのことは、明日考えましょう。どこへ行こうが慣れない世界だろうから、休めるときにお友達と休んでおきなさい」

 

 

「ふぁ……やっと日本に帰ってきたんだな。前線で戦ってるみんなには悪いけど、やはり安心できる」

軍施設内の一室、響がベットの上で、眠そうにまぶたをこすりながらひとりごちた。

「そんなおっきく口を開けてあくびなんてして。はしたないわよぉ……」

「かまやしないさ。気にするような人は誰も……」

響も暁も、言葉の終わりが曖昧だ。

「ふたりとも、ちゃんと布団を被って寝なさいね。トラックは暑かったけど、もうすぐ12月なんだから」

もぞり、とふたりはベットにもぐりこんだ。響はすぐ布団の反対側から頭を出して、机に向かっているみらいに声をかけた。

「みらいさんこそ機械いじって、寝ないのかい?」

「ん、ちょっとこれまでの記録を、ね。これからどうするにしろ、行動記録をしっかり取っておかないと」

「日記かい、殊勝なことだ。でも早く寝た方が良いよ……おやすみ」

端末機とリンクさせた小型のノートPCから目を離すと、すでにふたりとも寝息を立てていた。ふたりを見ながら、みらいは考える。佐倉提督はお友達って言っていたけど……みらいは自問自答した。

暁と響は私の友達? 特殊部隊たる艦娘といえど、年齢的には女子高生だ。姉妹艦以外の護衛艦娘とも親密な関係だったし、横須賀を出るときRIMPAC演習で海外の艦娘と仲良くなれたら連絡先を交換するぐらいしたいな、とは思っていた。では、この時代の彼女らも同じなのか? 根本的に世界観が違う彼女らと、外国人と同じ意識で仲良くなっていいのだろうか。

何かと一緒に活動していたこのふたりは、良くも悪くも私に好感を持っているだろう。私自身はどの艦娘に対しても、年代の違いから一定の距離から踏みこもうとはしなかった。

 

私は元の時代に帰りたいし、何としてでも帰らなければならない。それは常に変わっていない。だが、今この瞬間、私が元の世界に帰ったら、私は響たちとの別れを悲しむだろうか?

 

 

 

翌朝 追浜飛行場敷地内宿泊所

 

「さて、しばらくぶりですね。あなたが横須賀の土地を踏むために、やっぱり色々と事務関係の用事がありまして」

部屋で待機していたみらいの元に、佐倉提督が訪ねた。すでに響と暁は配置換えの辞令を受けて、横鎮のドックへと向かった後だ。晩秋の寒気が沈殿する部屋の中に、佐倉提督とみらいだけが呼吸していた。みらいはベッドの上に座り、窓際で立つ佐倉提督の話に耳を傾けた。

「横鎮でたびたび会議もやりましたよ。やっぱり紛糾しましたね。……連合艦隊であなたの立場を認めても、軍令部ではあなたを懐疑的に見ている人がやはり多い。どこまで本気か、事故に見せかけて暗殺しちまえとまでおっしゃる方もいた」

「そういう会議内容、私にばらしてもいいんですかね?」

「あんま良くないね」佐倉提督はいたずらをした子供のように苦笑し、口に指を当てた。「ともかく、穏便なものにはまとまったよ。まぁ結論は連合艦隊の方針に沿うものだが。『こちらの作戦への貢献度合を勘案して、立場を保障する』と」

「これまでと同じね。ブレなくて助かるわ」

「注意していただきたいのは、あなたの存在を認め、積極的に利用するつもりなのは連合艦隊だけだということです。軍令部はもちろん、海軍省もあまりあなたに動いてほしくないと思っている。陸軍に対しては、我々はあなたの存在を完全に隠しています」

 

ここで日本海軍の指導組織について説明しておこう。連合艦隊は海軍の大半の艦隊戦力を保有していて、その運用や戦術面での作戦指揮も担っている。しかし、連合艦隊は所詮艦隊、海軍内のいち組織に過ぎない。天皇に直属しており、その統帥を補佐する立場として海軍全体の戦略を考えるのが、軍令部である。一方、内閣閣僚で構成され軍の予算や人事、軍政を担うのが海軍省であり、現代の防衛庁にあたる組織だ。ちなみに艦娘であるが、42年段階ではごく一部が鎮守府や要港部の警備部隊にいた以外はほぼすべてが連合艦隊に所属している。みらいの存在は、前線の艦娘運用組織である連合艦隊には認められたのだが、軍政や戦略を担う組織にはいずれも『聞いていない』であり『われ関せず』なのであった。

 

「あなたは連合艦隊に外部から支援するという難しい立場なのですか、連合艦隊の手引きで、あなたの艤装は横須賀の艦娘関連施設で預かってもらえることになりました」

「わかりました。艤装は私が私である生命線ですから、確実な警備をお願いします。どのように収容されているかこの目で確認しに行く許可をください」

佐倉提督はそこで一息ついて、窓の外に目をやった。

「もちろん大丈夫ですよ。呉での大和並の警備にしてありますから。じゃ、ちょっと艤装収容ドックまで。出歩きますか」

そういって佐倉提督は部屋の扉を開いた。みらいも後に続く。

「そうそう、みらいさんの外出についてですが。どこに行くか、目的と時間を事前申告してもらえば許可出せますよ。もちろん監視付きですがね。気晴らしに昭和17年の日本を歩いてきたらどうですか?」

「この時代の市街地かぁ……正直、私は横須賀に帰って来たら何かが変わると思ってた。空も海も平成と同じ」

みらいは手を後ろで組み、ふっと空を見上げた。

「でも、横須賀への帰還はあまりにもあっけなかった。帰ってみても、すべてが変わったままだった。それでも、ここは私の故郷の場なのよ」

「……生まれはどちらで?」

「生まれも育ちも横浜よ。祖父の代からね」

「お祖父さんに、会おうと思えば会えるかもしれませんね。住所をこちらで調べることまではできませんが」

「どうしよう。なんとなく会うのが怖いわ」

 

11月半ばの横須賀基地内を、ふたりは歩く。みらいは、昭和17年の横須賀基地の風景を歩き、記憶に新しい海自艦隊司令部のある横須賀とを頭の中で見比べる。沖合には護衛艦や米軍艦、巡視船などの類は1隻もなく、旧態依然とした日本海軍の艦船が停泊し、あるいは出入りしていた。庁舎の間を吹きこんだ海風が、みらいの肌を刺す。 みらいは長袖の袖口を握るように両手を前で合わせている。

「明らかに薄手ですけど、大丈夫ですか?」

「うう、流石にちょっと寒いかな……」

「夏服ですよね」

「ええ、第二種夏服です。横須賀出たのが6月で、演習でハワイに滞在して9月の頭に帰投予定だったから、持ってる制服も私服も全部ですね。こんな寒いのは想定外よ……」

佐倉提督は仕方あるまい、というように苦笑した。

「制服はうちの艦娘用の冬服を支給できますよ。まぁ色々ありますが、私服まではちょっと……町に行ってもみんな女性標準服だし、色気がないったらありゃしない」

佐倉提督はそう愚痴って声を出して笑った。みらいは鼻で笑おうとしたら、くしゃみが出た。

 

 

「さて、ここにあなたの艤装が。私の配下の部隊で常時封鎖された第三艦娘艤装工場です」

艦娘の艤装は小さいためその工場も簡素なものかと思いきや、当時も今も精密機械の塊であり、さらに内部には膨大な機械部品が内蔵されているので、規模的には飛行機工場と変わらない。艤装ひとつ当たり大広間ほどの面積を割り当てられ、何人ものエンジニアや魔法使いの工員が作業して新型駆逐艦とみられる艤装を複数製造していた。艤装は工業製品だ。素体となる人間の訓練だけでなく、艤装の製造自体もこの時代の工業力では何か月もかかるものである。

「この……中に私の艤装は見当たらないのだけど」

「みらいさんのものは、こっちです」

佐倉提督が紹介した方をよく見ると、明らかに壁の色が違っているところがある。そこの部分だけ、工場が建設されてからずっと後につけたされた壁だということにみらいはすぐ気が付いた。その壁の端にある扉の前を警備している兵士は佐倉提督に敬礼し、カギを出して扉を開けた。その部屋には誰もおらず、左右の壁に並んだ棚には工作道具が所狭しと置かれていた。入り口がひとつに、艦娘ドックの特徴である海に面した開口部から日光が差し込んでいる。機会は油臭くこの時代としても手狭なドックで、蛍光灯の光量は日光に負けている。しかし、部屋の中央にはみらいが見慣れたものが確かに固定されていた。みらいがポケットに入れていた予備の端末機を操作すると、艤装の電源スイッチが光り電子音を鳴らした。

「うん、私の。間違いないわ。割と厳重な警備でよかったわ。そこの警備員は信用できる?」

「もちろん。24時間警備ですし、工場内にはほかの民間人作業員もいますから」

「海側からの侵入に関しては大丈夫?」

「外から見る限りはごく普通の艦娘施設ですし、そもそも横須賀港は何重もの警備を敷いています。外国や陸軍の工作員が入ってくる心配はありません。港内の艦娘の行動もすべて把握されていますし、入り口は複数の監視員が遠距離から常時監視しています。自分以外のドックに入ってくる艦娘はいませんから、大丈夫でしょう」

みらいはため息をついて、日差しに目をしかめながらドック開口部から見える横須賀港を一瞥した。

「ひとつ注意していただきたいのは、持ち主といえどもあなたひとりではこの部屋を開けられないことです。事前に私を通してください。まぁ、必ず許可を出しますよ」

「それも私に不信を抱く上層部を納得させるための必要な過程、ですか。できればいつでも目の届くところにおいてほしいけど、仕方がないわ。うん、これで納得しました。ご配慮ありがとうございます」

「いやいや。……さて、もういい時間ですし、食堂でお昼でも食べに行きましょうか」

 

 

 

正午 横須賀海軍施設内 艦娘関係者用食堂

 

「あっ、佐倉提督とみらいさんだ。やっほー!」

みらいと佐倉提督がカレー皿を持って長机に座ろうとすると、机の端から声がかかった。

「暁さん、響さん」

「しばらくぶりだね」

「君らは所属する部隊の編成の事務処理とか、してたんじゃないのか?」

佐倉提督の質問に暁が答えた。

「まぁ、お昼は食べるわよ。佐倉提督は佐官なのにこんなところで食べていいんですか?」

「なぁにおっさん連中と一緒より可愛い君らと食べる方がよっぽどいいさ」

「相変わらずね。もう慣れたわ。……金曜日は海軍カレーね。今も、昔も」

みらいはこってりとしたカレールーを見つめて郷愁を含んだ口調で呟いた。

「21世紀の食事というものは、ちょっと興味があるな」

「いつか機会があったら、作ってみてもいいかな。艤装の中には救難糧食ぐらいしかないから……」

それを聞いて響がふと思い出したように言った。

「そう言えばみらいさんは、艤装の中にいろいろ入れてるよね。私達も見習うべきかもしれない」

「たしかにリンガを出るときも、色々載せて行ってましたね」

「懐かしい。あの時にもらったみらいさんの砲弾、まだ艤装に括り付けたままだよ」

半年ほど前リンガを出た時、響に渡した2発の91式地対空誘導弾だ。みらいもそのことを思い出して頬が緩む。

「別に返せって言わないわ、危なくなった時に使って」

「そう。じゃあ片方は暁にあげようかな」

「ふぇ!?」

「今の話、すっごくうらやましそうな目で聞いてたからさ」

「うらやましそうになんて……してないわよ!」

話は弾む。

「……それでね、今度私たち、瀬戸内海に配属になったのよ」

「横鎮に転籍かしら?」

「訓練部隊だ。こう見えてもある程度の戦闘経験はある。新造の駆逐艦相手に標的でもしろってことだろう」

「ああ、アグレッサーね」

彼女たちもしばらくは後方で静かな航海ができるかな、とみらいはこの決定に奔走したであろう連合艦隊上層部の働きに感謝することにした。

 

 

「ヘイ彼女、後ろの車に乗って」

一通りの事務作業が終わり施設を後にしたみらいと暁、響は、自動車から顔を出す佐倉提督に声をかけられた。後ろにもう一台、続いている。

「これからどこへ?」

「あなた達の仮の住まいとなるところへご案内です。すこし離れてるとはいえ海軍の施設内ですが。どうぞ」

後ろを見ると、レトロな黒い乗用車がもう一台に続く。みらい達3人は自動車の運転手に会釈をして乗りこむ。すぐに車は走りだし、横須賀鎮守府の門を抜ける。窓に映ったのは昭和17年の日本の市街地、人々、そして社会だった。

 

「何もかも懐かしいわ……」

みらいは助手席の窓から髪を触ろうとする隙間風を鼻で捉え、澄み切った秋の寒気を味わおうとした。後席から響が話す。

「場所は同じだが、時間は違っている……ここはあなたが知らない祖国だろう?」

「たとえ時代が違っても、やっぱり()()は同じなのよ。元居た世界とね……」

「……あ、そうだ」同じく後席の暁が手のひらをぽん、と合わせて提案する。「鎮守府で外出許可をもらったら、私達の町を案内してあげる。外食券もらってきてどこかいいところでお昼食べに行きましょう!」

みらいは軽く微笑んだ。

「楽しみだわ。でも」

……外出できるにしても、尾行付きかな。

 

 

「今日はお疲れ様でした。最後に連絡ですが、今度会っていただかないといけない方がいるのです。あなたの処遇に関わってくる」

そう佐倉提督が言ったのは、あてがわれた自室前にたどり着いたときだった。

「処遇……軍政関係の人間ですかね」

「軍政というか、もっと上位の方だ。連合艦隊が手配した。この戦争のゆくえを決定できるお方……」

みらいはそれを聞いて息を飲む。これは横須賀での会議で決まったものではなく、連合艦隊、つまり大和が噛んでいる決定だ。そう、戦後の歴史を知った大和が。

「まさか……陛下……!」

「……に、助言が出来るお方です」

 

 

 


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