「うわ、そんなに甘くすんの?」
「甘党なんだよ」
俺はコーヒーに砂糖を大量投入していた。
ほんとならば、練乳が欲しいところだ。それなら、MAXコーヒーに近づく。
「そう言えば、MAXコーヒー飲んでたもんねー」
「悪いかよ」
MAXコーヒーは俺の血と言っても過言ではない。俺の命の源だ。
「私もー、甘党なんですよねー」
「そうなのか?」
「はい、ケーキとかパフェとかも好きですし、MAXコーヒーも美味しいですよ~」
「一色……」
MAXコーヒー好きを俺以外で始めて見たかもしれない……。
中学時代の俺なら告白して振られてるところだった。振られちゃうのかよ俺。
「いろはでいいですよー」
「一色、今度MAXコーヒー奢ってやる」
「わあ、ありがとうございます」
「……」
一色とすっかり意気投合しているなか、折本が不機嫌そうな顔をしてこちらを見ている。
「なんだ?」
「べっつにー」
急に不機嫌になりやがって、俺が何かしたか?
「ちょっと、ジュース入れてくる」
「おう……」
席には俺と一色だけになった。
「あ、先輩、アドレス交換しませんか?」
「なん……だと……」
「どうかしたんですか?」
「アドレスを聞かれる日が来るなんてな……」
「え、聞かれたことなかったんですか?」
「ああ、いつもは──────」
俺は聞かれるとしてもお情けみたいなものだった。みんなが交換しているなか、俺はケータイを持ちながら、キョロキョロしていたら、「……交換する?」って、とても嫌そうな顔をしながら言ってきたんだ。
あれなら聞かれない方がまだましだったかもしれない。今ではそのアドレスも消している。
「ふふっ、先輩って面白い人ですね」
「まあな」
一色は少し驚いたような顔をした。
「肯定するんですね。やっぱり、面白い人です」
一色は仮面を被っている。みんなから愛されてる自分という仮面を。たまに現れる素が仮面の薄っぺらさを現している。
「お前のあざとさは相当なもんだな」
「は?」
急に素に戻らないでくれませんかね。声音の違いでちょっとびっくりするんですけど。
「もぉー、あざとくなんかありませんよー」
うわっ、めっちゃあざとい。あざとさMAXだ。
「なんか、楽しそうだね」
「そうか?」
「……」
不機嫌そうな折本が戻ってきた。
「なるほど……」
「何がなるほどなんだ?」
「いいですから」
一色は折本の耳の近くに近づける。
「▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒▒……」
一色が何かを囁くと、折本は顔を赤くした。
「べ、別にそんなんじゃ」
「じゃあ、私が貰っちゃってもいいですか?」
「そ、それは駄目!」
何が起きているかは分からないが一色が折本をからかっていると言うことだけは分かる。
「わ、私、もう帰る!」
「おい、折本!?」
折本は急いで帰っていった。
「何したんだ?」
「なーんにもしてませんよ?」
「嘘だろ、それ……」
「えへへ」
可愛ければなんでも許されるって訳じゃないから、許されるのは小町だけだ。
「あいつ、代金のこと忘れてるだろ……」
「いいじゃないですか、先輩の奢りで。あ、私の分もお願いします」
「なんで、お前の分まで」
「お願いしますよー、可愛い後輩のために」
素がバレてるって分かってから、あざとさのレベルが上がったな。
このままだとめんどくさそうなので、払うことにした。
「ありがとうございますね」
「うぜぇ……」
さっきまでの意気投合ぶりは何だったのかというぐらい、うざい。あざとすぎて、逆に可愛くない。
「酷いですよー」
「うるせぇ……」
店の外に出る。
「じゃあ、私はここで」
「いいのか? 送って行かなくて」
「大丈夫ですよ」
「なんかあったら電話しろよ」
「……先輩もそうゆうところあざとくないですか?」
「俺があざといとか誰得だよ」
一色のあざとさは男共大喜びだろうが、俺のあざとさなんか、ひかれるわ。
「じゃあ、さようなら」
「またな」
俺は自分の乗る電車の駅まで急ぐ。
折本に電話しておいた方がいいかな……。
俺はケータイの画面をつける。
「……そういえば、折本の連絡先も消してた……」
今、このケータイに入っているアドレスは家族以外では一色だけだ。
「まあ、大丈夫だろ」
折本の家も、そう遠くないはずだ。俺と同じ中学なのだから家も近いはずだ。
小町にケータイを見られたらまた、お義姉ちゃん候補とか言い出すんだろうな……。