いつより、長いはずです。
今日は、12月23日、明日はクリスマスイブだ。
イブの日は総武高とのクリスマス会。
会議は何事もなく進み、明日を待つだけである。
総武高とうちの学校以外だと、近所のお年寄りや子供達が来るようである。あとは知り合いとか。
俺は小町を呼ぶ。受験生だが、たまには息抜きぐらい必要だろう。材木座? 誰それ、知らない。
一色は葉山達を呼ぶと言っていたが、正直来て欲しくない。特に、あの騒がしい奴。葉山が来るのであれば付いてくるだろう。
葉山はまた何か喋りかけて来るのだろう。あいつにはステルスヒッキーは通じないみたいだからな。
今は生徒会の仕事をしている。
仕事と言ってもそんなに大変でもなく、ほとんどプリントの整理とか予算の確認とかそのレベルだ。ほかは教師がやっているのだろう。
忙しくなるのはイベントの時だけのようだ。
体育祭、文化祭、修学旅行などの時には生徒会と風紀委員が忙しくなる。
もうそろそろ、修学旅行の準備に入らないといけない。
働くの嫌だな……。
だけど、今はほとんど暇だ。
逆に少し仕事が欲しいぐらいだ。
「会長、予算の確認の方できました」
「え、あ、うん」
会計の……確か……小泉君? 確かそんな名前の子だ。生徒会で一番働いているのはこの人だろう。
折本は文句言いながらも仕事はするが、ペースは早くない。まあ、間に合っているからいいんだけど。
折本は今日いないけど……。サボリ? 昼休みは普通にいたんだけどな。副会長がサボリとか駄目だろ。会計と変われ。
こうして、折本がいないと俺が他のメンバーといかに話していなかったかが分かる。
生徒会では、ほぼ折本としか話していない。
名前でもうろ覚えだし……。えっと、会計の小泉君と書記の……照橋さん? 庶務の白……神君? だったはずだ。白神ってかっこいいな。神ってつく名前いいよな。
ドアがノックされ、扉が開けられる。
「失礼する」
入って来たのは、風紀委員長の玉縄だ。こいつの名前は覚えている。
なかなかに濃いキャラだったからな……。それに、たまに話しかけてくるし……。
「比企谷君、来週、生徒会と風紀委で会議を開こうと思うんだけどいいかな?」
「急にか? 何かあったのか?」
「風紀が乱れていてね。生徒会ももっとアグレッシブに行くべきだよ。この会議にはプライオリティしてもらってさ」
「分かった。来週だな」
「ああ、これはオポチュニティだと思っている。頑張ってイノベーションを起こしていこう」
「そうだな、またな」
「では、失礼した」
ほんとに失礼してきたよ。意識高すぎるんだよ。
玉縄と話すときには極力早く終わらせるに限る。意識高い系の言葉は良く分からんからな。
いい奴ではあるんだが、めんどくさい。
最近はまだ、少しは分かるようになったが、まだ良く分からん。
折本なら、それある! とかで切り抜けられるんだけどな……。ぼっちに意識高い系の相手は厳しい。
「会長、そろそろ、下校時間ですが」
「もう、そんな時間か……」
「帰っていいぞ、戸締まりはやっておくから」
「ありがとうございます」
会計の子はしっかりしている。会長にはこちらの方が向いている。
会計、書記、庶務の三人が帰っていく。
戸締まりを自分から引き受けるとか俺、優し!
「そう言えば、折本来なかったな……」
ああ、見えてサボるようなやつではないんだけどな……。
メールでも……って知らないんだった。
鍵を渡しに行くついでに平塚先生にでも聞くか。
「折本が来ていない? なんだ、サボリか?」
「いや、知らないから聞きに来たんですけど……」
「折本が……」
平塚先生は少し考えている。
平塚先生も知らないか……。俺の連絡先だけは知っているはずなんだけどな……。まさか、あいつも消したのか? 心に少しくるな……。
「サボるようなやつではないと思っていたんだがね……」
「そうすっね……」
「君は連絡先を知らないのか?」
「知らないですよ」
「交換ぐらいしときたまえ」
「はあ……」
昔にしたんですけどね。お互い、消しちゃってるみたいなんですよ。消しといて良かった。今、あったら送って届かなくて、このアドレスはありませんみたいなメールが届いて、変更のメール送ってないと言う事実に全俺が悲しむ。
「仕方ない、私がかけてみよう」
「持ってるんですか?」
「まあね」
生徒の連絡先を知っているのってどうなんだろう。俺のも知られているが。たまにメールが来て無視すると怖い。
「もしもし、折本か」
「ごほ、ごほ……先生ですか?」
「なんだ、風邪か?」
「はい、急に熱が出ちゃって……ごほ、ごほ」
「大丈夫か?」
「明日は無理そうです……」
「そうか……」
折本は風邪を引いていたのか……。そう言えば、少し咳をしていたな……。
明日が無理となると、副会長なしでの参加になるのか……。 折本の仕事は俺と会計の子でなんとかするしかないか……。
「親御さんはいるのかね?」
「明後日まで帰って来なくて……」
「困ったな……」
親がいないとなれば、看病する人はいないのだろう。風邪ならば、出来ることは限られてくる。飯なんかも作るのは難しそうだ。
「私が行ってもいいのだが、まだ仕事が残っていてね……」
「気にしなくていいですよ……ごほ、ごほ」
「しかしな……」
咳を聞く限り、重症だな。平塚先生が心配するのも分かる。
平塚先生も仕事があるから行けないとなるとどうしようもないな。
一人で病院にも行けるか分からんしな……。帰る時どうしたのか不安だ。
「そうだ! 比企谷、折本の家に行ってきたまえ」
「はあ!?」
「ひ、比企谷が来るんですか!?」
「比企谷ならぴったりだろう。専業主婦を志望しているだけあって、それなりにはできるぞ」
「で、でも……」
「それでは今から向かわせよう」
「ちょ……」
「では、行ってきたまえ」
話も聞かずに切りやがった……。
俺の意思は? 風邪移されたくないんですけど……。
とはいえ、平塚先生に命令されれば断ることは出来ない……。
「風邪移されたくないなーなんて……」
「あ?」
睨まないで下さい。怖いから。美人がやると更に怖い。平塚先生がやるともっと、怖い。
口ごたえしたところでやはり無駄だった。
「心配はしているのだろう?」
「ま、まあ、してなくはないですね……」
「なら、行ってきたまえ」
「……はい」
無理矢理、折本の家に行くことになってしまった。
心配していなくはない。同じ生徒会のメンバーだし……え、えっと、お弁当の恩もあるしな……。
少し、俺は考える。
折本かおりは俺に看病してもらうのを嫌がるのではないのだろうか。大概の女子は嫌がるだろう。
でも、折本かおりは自分に対して少しは好意的に思ってくれているのではないのだろうか。最近はそう思う。思ってしまう。
でも、果たしてどうなのだろうか。折本かおりは中学時代、俺に対しても、誰に対しても、同じように、好意的に接していた。だから、勘違いをした。
今はどうなのだろうか。俺に対する態度と他に対する態度。同じなのだろうか。それとも、また、勘違いしているのだろうか。
最近は距離が近い。だから、分からなくなる。折本かおりにとって、比企谷八幡とは? 比企谷八幡にとって、折本かおりとは? 分からない。自分のことも分からないのに相手のことが分かるはずもない。
俺は最近、モヤモヤした気持ちを感じている。
何なのだろうか。こればっかりは全知全能のグーグル先生に聞いても分からないだろう。
俺は折本かおりの家に向かった。