それでは7話です。
現在、あんていくの二階には董香以外のメンバー全員、従業員ではない四方まで集まっていた。
すると、部屋のドアがノックされ、董香が入って来る。
「え・・・・・四方さんまで。あの・・・何かあったんですか?」
部屋の空気は重苦しい。
「リョーコさんが・・・・喰種捜査官と交戦し、行方不明になった。」
「な!?行方不明?何それ・・・・どういうことですか!」
「金木くんの話では傷を負ったリョーコさんを、『蜘蛛』が連れ去ったらしい。」
そう、金木は蜘蛛が乱入し、リョーコを連れ去ったところまでを見ていた。
「はあ!?蜘蛛がリョーコさんを?何のために!」
「そこまでは分からない。しかし蜘蛛につれていかれる前に、白鳩にかなりやられていたそうだ。生死は不明だ。」
「雛実は?雛実は無事なんですか?」
「今は奥で休ませている。」
「顔は?顔は見られたんですか?」
芳村の無言を、董香は肯定と判断する。
「何それ・・・・・最悪じゃないですか・・・・」
董香はその場に座りこむ。
「リョーコさんが戻らなければ・・・・・雛実ちゃんは時期が来たら24区に移そうと思っている。」
「冗談でしょ、あんな糞溜めに・・・・雛実一人で生きてけるわけないじゃん!」
24区は正式な区別ではなく、東京の地下に喰種が作った大迷宮の最深部にある。追われている喰種にはうってつけの場所だが、環境が過酷であるため、雛実が一人で生きていける可能性はかなり低い。
「白鳩を殺せばいいじゃないですか!一人残らず!それから蜘蛛を探せば・・・・・四方さんだっているんだし、皆で協力すれば・・・・・・」
「ダメだ。20区の白鳩が命を落とせば、20区に凶悪な喰種がいると思われ、連中は新たな白鳩を次々と送り込んで来るだろう・・・・・・・俺たちを狩り尽くすまで。それにSSレートの蜘蛛に手を出すのは危険だ。」
「でも!」
「董香。」
董香の反論を四方が遮る。
「四方君のいう通り、彼らにてを出してはいけない。それにまだリョーコさんが亡くなったかは分からない。皆の安全のためにはそれが最善なんだよ。」
「仲間傷つけられて、その上拐われたってのに・・・・・黙って見てるのが最善!?・・・・・・・ヒナミは今独りぼっちなんですよ?早くリョーコさんを探さないと!それに白鳩にやられてたんでしょ!仇を討ってあげなきゃ可哀想じゃない!」
「仇を討てないことが可哀想なんじゃない・・・・本当に可哀想なのは、復讐に囚われて自分の人生を生きられないことだ。」
「・・・・・・私のことを言ってんですか?」
そう言うと、董香は部屋を飛び出して行った。
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あの一件から数日、智樹は母親の喰種の娘を探していた。
が、全く手掛かりがなかった。
鼻のいい喰種なら臭いで探せるのだが、残念ながら智樹の鼻は喰種の中ではあまり良くない方である。
(クソ、手配書が張り出されてたからまだ捜査官には見つかってないはずだけど・・・・・一人で逃げてるんなら、俺か捜査官にとっくに見つかってるはずだ。もしかして協力者でもいるのか?)
そう考えたとき、ふと、あんていくが頭によぎる。
(・・・・・可能性としてはなくはない。でもどうやって探りを入れる。)
そう智樹が考えていたとき、微かに人の血の臭いがしてきた。
(!?まだ明るいのに・・・・・近いな、こっちか!)
智樹は臭いのする方向へ走っていく。
すると、戦闘音が聞こえ、智樹はマスクを着け、足を速める。
そして、少し走った所に、先日の一件の時にいた眼鏡の喰種捜査官の死体が転がっていた。
さらに、兎の面を着けたら喰種が、今まさに捜査官を殺そうとしている。
智樹は兎の喰種に向かって赫子を突き出す。
「!?チッ!」
兎はそれをギリギリで避ける。
そして智樹は兎と捜査官の間に立つ。
「な!?こいつは!」
「蜘蛛!?・・・・・やっと見つけた!」
捜査官と兎が突然の乱入者に驚く。
(!?この声・・・・)
そして、智樹は兎の声に聞き覚えがあった。
マスクをしているため、かなり声が隠っているが、その声は智樹がよく知る少女のものに酷く似ていた。
(董香?・・・・・・いや、そんなわけない!・・・・・・でも今の声は・・・・・)
しかし、兎が董香だったとすると、全ての辻褄が合う気がした。
「おい、蜘蛛!そこどきな。その捜査官をぶち殺す!そんでてめえにも聞かなきゃならないことがある!」
兎、董香は手配書を見て、リョーコが死んだことを知り、捜査官への復讐と、蜘蛛の真意を計るため、両方を探していた。
(・・・・・・やっぱり、どう考えても董香の声だ。どうする、マスク取って確認するか?・・・・・いや、捜査官がいる場でそれはまずい。・・・・・・・・・そうだ!少し気は引けるけど・・・)
智樹は兎目掛けて突撃する。
「!?チッ!ハアアア!」
兎は羽赫を展開し、智樹に放つ。
しかし、全て黒い蜘蛛の脚に防がれる。
そして、智樹は兎に肉薄し、接近戦を行う。
「ッ!クソが!離れろお!」
兎は智樹に蹴りを放つが、あっさりと避けらる。
さらにカウンターで蜘蛛の脚を一本突きだし、兎の腕を抉り、傷をつける。
「ツッ!この野郎!」
兎はもう一度羽赫を放ち智樹から距離をとるが、既に体力的に限界のようだ。
兎の赫子は消えてしまった。
すると突然、智樹の背後から何かが迫る。
智樹はそれを赫子で軽く防ぎ、後ろを振り返る。
「フム、少し状況を整理したいものだな。」
ギョロ目の捜査官、真戸がクインケを携え現れた。
「真戸さん・・・・・」
「亜門君、強敵を前にしても逃げ出さない心意気は非常に良いがね、クインケを忘れてはいけないな。」
真戸は亜門の前に進み出る。
「で、亜門君、この状況は一体なんだね?」
「兎の面の喰種との交戦中に蜘蛛が乱入してきたのですが・・・・・・・俺にもよく分かりません。」
成る程、と真戸はとりあえず納得し、兎と智樹を見る。
「まあ何にせよ、両方狩れば問題有るまい!」
真戸はクインケを振るう。
が、智樹は蜘蛛の脚で完全にガードする。
「フム、さすがはSSレート。一筋縄ではいかんな。」
見ると、いつの間にか兎がいなくなっていた。
「逃げたか・・・・・まあ蜘蛛を仕留めれば問題ない。」
間戸はもう一度クインケを振るうが、
それよりも速く、蜘蛛はその場から去っていった。
(逃げたのか・・・・・しかし、蜘蛛はまるで俺を守るかのように戦っていた。・・・・ヤツは何なんだ。)
亜門は蜘蛛の行動が理解できなかった。