それでは6話です。
智樹はアオギリの樹との一戦のあと、自宅に帰っていた。
智樹は小さなアパートの一室で独り暮らしをしており、一応風呂、トイレ、キッチンはあるが、ヘッドはなく畳に布団を敷いて寝ている。
テレビは前の住人が置いていったらしく、最初からあった。
智樹は敷きっぱなしの布団に寝転がり、先程の一件について考える。
(ジェイソンはともかくあの羽赫のやつもS レート級だった・・・・・・・・赫者になってなかったらヤバかったな。・・・・・アオギリの樹にあのレベルの喰種がまだ複数いるんだとしたら、とんでもない組織になってるな。
・・・・・・いや、最後に現れた口元マスクは確実にアイツらより格上だった。オカマの方はよく分からんが・・・あれを束ねてるリーダーってのは相当ヤバイやつだろうな。)
そして智樹はある考えにたどり着く。
(あれだけの猛者達を束ねてるってことは、リーダーはもっと強いはずだ。複数のS レートを従えることができるってことは、それより上位の・・・・今のところ唯一のS S S レート、『梟』の可能性が高いな。)
まだ仮説であるが集めるべき情報は決まった。
(雑魚を狩りつつ梟の情報を集めるか。)
そう決め、智樹は眠りに落ちた。
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翌日、智樹は梟の情報を集めようと、雨の中ある人間達を探していた。
智樹が探しているのはCCG の人間である。
本来なら11区に行き、アオギリの樹と当たるのを待ちたいのだが、昨夜の一件で警戒されていると思われる。
よって、次に情報を持っているであろうCCG の捜査官を探していた。
(流石にそう都合よく見つかんないか。)
智樹は最近20区でもよく捜査官らしき人間を見かけるため、直ぐに見つかると思っていた。
が・・・・実際にはそんな頻度で出会うはずもない。
智樹は数時間20区を歩き回っていた。
(クッソ、何でこんな雨の中歩き回ってんだ俺は。・・・・あんていくで一休みしようかな。)
と、考えていると、正面からある二人組が歩いてくる。
一人は大柄な若者。そしてもう一人は長めの白髪に目がギョロリと見開かれている年配の男性。
そして両者の手にはアタッシュケースが握られていた。
CCG の捜査官は『クインケ』という赫子を加工した武器を、アタッシュケースに入れて持ち歩いている。
智樹はその二人とすれ違う。その際、ギョロ目の男性と少し目が合ったが、そのまま歩いていく。
そして智樹は、思わず笑みを浮かべる。
(やっと見つけた!間違いねえ!)
智樹は雨の中頑張った自分を誉めたくなった。
「真戸さん、どうかしましたか?」
亜門は突然立ち止まった真戸に話しかける。
「ああ、すまない亜門君。なんでもないよ。」
そう言い真戸は歩き始めるが、先程目が合ったが少年のことが少し気になった。
(まあこの風貌だ、驚かれることはよくある。)
とりあえずあの少年のことは後回しにした。
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現在智樹はマスクを着けて先程の二人組を尾行していた。
尾行と言っても、智樹は建物の屋上を飛び移りつつ、上からつけていた。
すると、二人組は裏通りに入って行く。
そしてそこにいたのは、先日あんていくに来ていた親子だった。
さらにもう二人が合流し、親子を挟む形になる。
(まさかあの親子、喰種だったのか!?クソ、この距離じゃ会話までは聞こえねえな。)
屋上から智樹が観察していると、母親が赫子を展開し、自分と娘を包み込んだ。
(・・・・・マジで喰種だったのか。董香や金木さんも危なかったんじゃねえか?)
そして、母親の赫子がいきなり開き、そこから子供だけが飛び出し、母親の援護を受けながらギョロ目の捜査官たちとは逆の方から逃げ出した。
母親は必死に子供を追わせまいと捜査官たちを足止めしている。
そう、あくまで足止めだ。
赫子で牽制したり、押し退けたりするだけで、本格的な攻撃を行わない。
(あの喰種、戦闘慣れはしてないみたいだけど・・・・・それにしたって攻撃が甘過ぎる。
まさか・・・・あの喰種は殺しをしないのか?)
そして徐々に母親の喰種の動きが鈍くなっていき、ついに地面に膝をつく。
よく見ると彼女の体は傷だらけであり、出血もひどい。
どうやら限界のようだ。
母親の喰種はギョロ目の捜査官と何かを話していたように見えたが、突如ギョロ目の捜査官がクインケを振りかぶり、彼女の首目掛けて振り抜かれる。
しかし、その一撃は突如上から現れた黒い虫の脚に阻まれた。
そして八本の黒い赫子を生やした喰種がリョーコの隣に降り立つ。
「!・・・・・ほう、こいつは驚いた。とんだ大物のお出ましだ。」
「こいつは・・・・まさか『蜘蛛』!」
真戸と亜門は思いもよらぬ乱入者の登場に驚く。
「貴方は・・・・」
リョーコも突然の出来事に唖然とする。
「すみませんね、CCG の皆さん。基本貴方達の邪魔はしないんですが・・・・・この人を殺されるのは納得がいきません。この人は連れて行かせていただきます。」
「ああ、二人で一緒に行くといい・・・・・地獄にだがな!」
そう叫び真戸はクインケを降り下ろすが、智樹はリョーコを抱え、赫子で防御しながら撤退する。
「逃がすか!」
亜門もクインケで攻撃するが、智樹は難なく弾き、赫子を使い建物の壁面を走って登る。
そしてそのまま屋上に上がりもうスピードでその場を離れる。
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現在智樹は近くにあった廃ビルの中にいた。
ここでとりあえずリョーコの応急処置をしようとしたのだが・・・・・・
(ダメだ!出血がひどすぎる!このままじゃ・・・)
リョーコの傷は想像以上に酷かった。
智樹は頭をフル回転させ、どうすべきかを検討する。
自分に治療することなどできないが、医者に見せることもできない。
人間の肉を食わせるのが現実的だが、そこら辺にいる人を食べさせる訳にもいかない。
つまり、
智樹にできることは何もなかった。
智樹は震える声でリョーコに話しかける。
「ごめんなさい・・・・でしゃばって乱入したくせに、結局、俺には・・・・貴方を助けることができません。」
智樹は唇を強く噛みしめ、血がにじむほどに拳を強く握る。
(何でもっと早く止めなかった!そうすれば助けられたのに!)
智樹は、しばらく傍観していた自分を殴りたくなった。
すると、リョーコが口を開いた。
「ありがとう。」
「え?」
智樹は礼を言われる筋合いはないと思った。
「貴方が来てくれなかったら首を跳ねられてた・・・・・そしたらそこで死んでいたわ。」
「でも、」
「娘に、伝えて欲しいことがあるの。」
もうしゃべることすら限界ののはずの彼女はそれでも最後に娘に残したい言葉があった。
「寂しい思いをさせてごめんね、て・・・・・でも、いつまでもお父さんと一緒に見守ってるからね・・・・・て、あの子に伝えてくれないかしら?」
智樹は確信した。この人は誰よりも強く優しい母親なんだ、と。
「分かりました。その言葉、必ず伝えます。」
智樹が約束したとき、廃ビルの外が騒がしくなってきた。
恐らくさっきの捜査官達が、血痕を追ってたどり着いたのだろう。
智樹がリョーコを再び担ごうとするが、
「私は・・・・置いていって。これ以上・・・・・貴方に・・・・迷惑をかけられない・・・・」
リョーコはそれを拒否する。
「でも、それじゃあ貴方の死体は回収されてしまいます。」
恐らく、クインケにされてしまうだろう。
智樹はそれだけは避けたかった。
こんなにも優しい人が殺しの道具にされるのは、絶対に嫌だった。
しかし、
「いいから・・・・・早く、行きなさい・・・・。」
死にゆく人の最後の気遣いを無下にするわけにもいかず、智樹は彼女に背を向け、廃ビルを立ち去る。
去り際にもう一度だけ、「ありがとう」、と、微かに聞こえた気がした。
リョーコさん生存ルートも考えたんですが、その後の話的に無理でした。
もしかしたら多少原作をブレイクするかもしれません。
では、次回もよろしくお願いします。