では、12話です。
CCG 本部、その会議室では現在CCGの幹部が集まっている。
「さて、では今回の『ホーネット』討伐作戦の報告を有馬から直接してもらう。」
和修に名を呼ばれた有馬は、立ち上がり説明を開始する。
「まず、今回の『ホーネット』討伐作戦ですが、結果としては失敗に終わりました。」
その瞬間、会議室にいた全員が目を見開いた。
「オイオイオイオイ・・・・・・冗談よせよ・・・・」
丸手は顔が引きつっていた。
「有馬が討ち損じたと・・・・・」
篠原も驚きを隠せない。
「ですが新しい情報がいくつかあります。まず、『ホーネット』のリーダー『女王蜂』は現在まで羽赫のS~レートとされていましたが、新たに甲赫も持っていることが判明、二種持ちということが明らかになりました。また、戦闘力も我々の認識よりも高く、レートの引き上げが必要となると思われます。」
有馬の報告に、丸手は溜め息をついた。
「二種持ち・・・・『ホーネット』を率いてる上にやつ本体も想像以上に強えって訳だ・・・・・」
「SSレートは確定でしょうね。」
丸手の言葉に篠原が答えた。
「ンン・・・頭の痛い話だねぇ。・・・・・しかし有馬ボーイ、その程度の喰種なら集団を率いていたとしても君が逃がすかね?」
癖のある話し方をするインパクト絶大な男、田中丸は有馬に疑問を投げ掛けた。
彼の言う通り、SSレート程度なら有馬であれば容易く仕留められるはずなのだ。
「はい、最大の要因は・・・・・蜘蛛がその場に居合わせたことです。」
『ハア!?』
一同が有馬の報告に思わず声をあげた。
「蜘蛛は我々よりも先に女王蜂と交戦していました。」
有馬は一同のリアクションを完全にスルーして報告を続ける。
「マジで動きが読めねえ野郎だ・・・・・・」
丸手は溜め息混じりに呟いた。
「そして、今回の作戦を最も狂わせたのは蜘蛛です。ヤツは心臓にクインケを突き刺しても再生するという甲赫では考えられない再生力、そして何よりも、蜘蛛は赫者でした。」
有馬あっさりと報告してしまったが、和修以外の面子は絶句している。
「・・・・・・・・元々SSレートだった蜘蛛が赫者だったとなると・・・・・・」
篠原は冷や汗を流して言葉を濁す。
「はい、SSSレートへの引き上げが必要だと思います。」
篠原が濁した言葉をハッキリと有馬が口にした。
「頭が痛くなってきたぜ・・・・・」
「ンン、丸手ボーイ・・・・・私もだよ。」
丸手と田中丸だけでなく、他の面々も頭を抱えていた。
「報告を続けます。最終的に致命傷を負わせた女王蜂を赫者になった蜘蛛が助け、共に逃走。辺りを捜索しましたが発見には至りませんでした。」
「何故、蜘蛛は女王蜂を連れて行ったのでしよう・・・・・」
「ただ食うつもりなら態々助ける必要はねえ。決まってんだろ・・・・・やつら組むつもりだ。」
篠原の疑問に、丸手はハッキリと言いきった。
「ンン、丸手ボーイ、なら何故有馬が来る前に争っていたんだい?」
「恐らくは組む相手の実力を把握しようとしてた、そんなとこだろ。」
丸手は普段人を馬鹿にするような態度をとることがあるが、頭が回るのは確かなようだ。
「フム、その可能性は高そうだな。」
和修は立ち上がり、目の前の幹部達に指示を飛ばす。
「蜘蛛はこれよりSSSレートにレートを引き上げる。戦闘の際は準特等以上の捜査官三名以上で仕掛けろ。また、蜘蛛と女王蜂、つまり『ホーネット』が行動を共にしている可能性が高い。ホーネット捜索部隊と蜘蛛捜索部隊を統合し、16区を中心に捜索をしてくれ。有馬、お前はホーネット捜索を終了、中断していた『梟』の捜索を再開しろ。では、全員指示通りに動け。」
和修の指示を受け、突如全員が慌ただしく動きだし、会議室から出ていった。
会議室に一人残ったままの和修はケータイを取りだし、ある人物に電話を掛けた。
『会議はどうなりました?』
声からして電話相手は若い男だ。
「蜘蛛はSSSレートに格上げ、さらにホーネットと行動を共にしているとして捜索をすることになった。」
『うわ~、ついにSSSまで来ちゃったか~・・・・・』
「まあ16区を中心に捜索させることにしたし、有馬もホーネット捜索は打ち切らせた。辿り着くにしても時間はかかるだろう。」
『お手数おかけします・・・・・』
「なあに、こっちも君のお陰で助かってるんだ。気にすることはないさ、“ 智樹 ” 君。」
そう、和修の電話の相手は・・・・あろうことか件の『蜘蛛』、智樹であった。
「それで?ホーネットは協力者足り得るのか?」
『はい、元々彼女たちは一般人を襲わない喰種集団です。CCGの人間を殺さないように説得するのに時間がかかると思ったんですが・・・・・有馬さんから女王蜂を助けたのが幸いしたみたいで、今では “ 兄さん ”って呼ばれてます。』
「有馬の件についてはすまなかった。こちらもまさか君がホーネットに接触しているとは思わなくてね。」
『こちらこそ報告なしに勝手に動いてすいません。』
「いや、とにかく無事でよかった。今は20区だね?また犯罪者の捜査資料を送る。」
『助かります。では、また。』
「ああ。」
そうして、通話は終えられた。
「取り合えず20区には捜査はまだ来ないし有馬さんも俺らの捜索打ち切ったって。」
ここは智樹の自宅。
通話を終えた智樹は、目の前で布団に寝ている金髪の少女に内容を伝えた。
しかし、彼女は唖然として智樹を見つめて返事をしてこない。
「おい、聞いてんのかよ愛妃。」
愛妃と呼ばれたこの少女、小坂愛妃《こさか あいひ》こそ、ホーネットのリーダー『女王蜂』である。
「イヤイヤイヤイヤ、え、何?君・・・・・・今の通話さらっと流すつもり!?」
「ん?ああ、今のは喰種対策局局長の和修吉時さん。俺の恩人で「そこじゃない!!」
愛妃は起き上がり大声で智樹に突っ込む。
「何で喰種対策局局長と親しげに電話してんの!?何で捜査情報駄々漏れなアアアアアアア痛い痛い痛い痛い!!」
「アホかお前は!!傷口開いてんじゃねえか!!」
さて、話を有馬から逃走した直後まで遡ろう。
赫者のまま猛スピードで目的の廃ビルに迫っていき・・・・・既に窓のない二階の窓枠からビルに飛び込んだ。
地面を削るようにブレーキをかけ、ようやく勢いがなくなった。
「はっや・・・・もう着いた・・・・・」
抱き抱えられている愛妃は思わずそう漏らした。
その直後、
「何の音!?」
「まさか白鳩が!?」
ドカドカと階段を上がってくる足音がし、ホーネット達が二階に上がってきた。
「な!?蜘蛛・・・・・なのか?」
赫者状態の智樹を初めて見たホーネット達は驚きを露にしていた。
しかし、もっと驚いたのは、
「ね、姐さん!!」
智樹に抱き抱えられている愛妃の姿だ。
彼女は仲間達を目にすると、弱々しく手を振って見せた。
その直後、智樹は膝をつい崩れ落ちた。
何とか愛妃が落ちないようにそっと下ろした後、赫者の鎧が消失し、そのまま意識を手放した。
「姐さん!!」
「良かった・・・・・」
「もう・・・・・会えないかと思いました。」
どんどんと愛妃の回りにホーネットのメンバーが目に涙を浮かべて集まってきた。
「ゴメン皆・・・・・・・心配かけたね・・・・・」
愛妃はボロボロの体で仲間達に笑いかけた。
「無理に喋らないでください!保存用の食料を持ってきます。」
そう言い、数人のメンバーが下の階へと降りていった。
「それで・・・・・蜘蛛はどうしますか?」
それは、暗に智樹を殺すかどうかということを意味していた。
それに対して・・・・・愛妃は「決まってるじゃん」と呟いた。
「私が今息をしてるのは・・・・この人のお陰・・・・・私たちは恩人を見捨てるような・・・・腐った喰種じゃ・・・・・ないでしょ?」
深手を負い、息をするのも苦しそうな愛妃だが、彼女はホーネットのメンバーに笑顔で答えた。
「・・・・・勿論です。蜘蛛の分の食料を持ってきます。」
そう言いまた何人か下に降りていった。
その直後、
「ッ・・・・・・・・あ~クソ、俺どのくらい寝てた?」
「ふえあ!?」
突然聞こえた智樹の声に、愛妃は思わず変な声を出してしまった。
「ほんの数分です。直ぐに食料を持ってきますのでしばらく休んでいてください。」
ホーネットのうちの一人が智樹にそう言うが、智樹は首を横に振った。
「そうもいかない・・・・・・・捜査官のクインケは壊したけど、有馬は無傷だ・・・・・今も逃げた俺らを探してるはず・・・・・あんまり長居はできないよ・・・・・・・・・」
意識が朦朧としているのか、かなりしゃべり方がおぼつかない。
「でも、逃げるってどこに?」
「20区。元々お前らと組めたら拠点を移してもらおうと思ってた・・・・・」
智樹の言葉にホーネットのメンバーは複雑な表情をしていた。
別にこの町が故郷であるわけではない。しかし、今まで住んでいた町だ。例えただの狩場であったとしても多少の愛着はある。
そして皆が返答に困っていたその時、
「皆・・・・聞いて。」
愛妃が口を開いた。
「私は・・・・・・・・もうこれ以上仲間を失う訳にはいかない・・・・・そんなことしたら・・・・・綾香と月穂に顔向け出来ないからね・・・・・・・・・・・・だから、この町を捨てる。今は・・・・・・彼を信じよう。」
愛妃の言葉に、ホーネット全員が大きく頷いた。
「とにかく、お二人ともこれを。」
先程下に降りていったホーネットの一人が、愛妃と智樹にラップで包まれた肉塊を手渡した。
「昨日殺した捜査官の肉です。」
それを聞き智樹は一瞬躊躇ったが、背に腹は代えられぬと思い、肉に一礼してからそれを頬張った。
「よし!俺がいつも使ってるルートで行く。下水道とか通るから覚悟しとけよ!」
そう言い、智樹は愛妃を抱き抱える。
「ええ!?ちょ、ちょっと!?」
「ん?流石にまだ動けねえだろ?大人しくしてろ。」
頬を赤らめる愛妃に気付かず、智樹はホーネット達に向き直る。
「よし!んじゃあ着いてこい!」
『了解!』
そう言い、智樹は窓から飛び出し、ホーネット達もそれに続いて飛び降りていった。
「・・・・・・・・そういえば・・・・」
出発してすぐ、愛妃が口を開いた。
「私達、まだ名前も知らないよね?」
愛妃の言葉に智樹は思わず吹き出した。
「ク、ハハハハ!お前、この状態で自己紹介ってか?」
「いや!ふと思っただけで!「智樹」・・・・・へ?」
「工藤智樹だ。よろしく。」
「・・・・・・・・・・智樹君、か。・・・・私は小阪愛妃。よろしくね、智樹君。」
かくして、『蜘蛛』と『ホーネット』は行動を共にすることとなったのであった。
何か中途半端なところで終わりました( ̄▽ ̄;)
取りあえずは分かりにくいかも知れないところを補足しておきます。
・智樹は和修吉時と色々あってコネがあります。民間人でありながら犯罪者を発見できているのはここから捜索情報が漏れてるからです。
・ホーネットのアジトには自家発電気と小型の冷蔵庫が隠してあり、ある程度肉を保存出来ますが、あんていくと違って加工がされていないので保存期間は短いです。
・智樹は拠点を特定されないように各地区で喰種や犯罪者を狩っているため、裏道などをよく知っています。
こんな感じです。他に何か分かりにくいことがあればドンドンご質問ください。