はたして蜘蛛と蜂は生き残れるのか!?
では11話です。
女王蜂は有馬と対峙し下手に動けない状況にあった。何せ相手はあの蜘蛛を瞬殺するほどの男、一瞬でも隙を見せれば直ぐに狩られてしまうだろう。
すると、
「姐さん!!」
茂みから十数人の蜂のマスクをつけた喰種達が現れる。
どうやら最初から念のために待機させていたようだ。
「バカ!何で出てきたの!?」
「相手はあの有馬ですよ!姐さんだけではいくらなんでも危険です!」
「私たちも戦います!」
女王蜂の加勢に出てきたホーネット達は、各々の赫子を展開していく。
「有馬さん。」
そして、有馬の方にも平子を筆頭に十人程度の捜査官が集まった。
「タケ、お前達は逃げるやつらを頼む。」
それだけ言い、有馬はホーネットに歩み寄る。
「姐さんに近寄らせるな!」
「私たちで仕留める!」
ホーネットの内の二人が、尾赫と鱗赫を発現したまま、有馬に突っ込んでいく。
「ダメッ!!下がりなさい!!」
しかし、女王蜂が叫んだ時には、二人は胸から血飛沫を上げていた。
「絢香!月穂!」
女王蜂は悲痛な声で二人の名を叫んだ。
そして、有馬は無表情のままホーネットに近づいていく。
「姐さん、下がってください!私たちが時間を「逃げなさい。」・・・・え?」
「逃げなさいって言ったの!!聞こえなかったの!?」
女王蜂はホーネット達の前に歩み出た。
「私が有馬を引き付ける!その内に全力で逃げなさい!!」
「しかし、姐さんを置いて行くなんて・・・・!」
ホーネット達は全員躊躇っている。
しかし、マスクの中で女王蜂は優しく笑った。
「大丈夫、私も後からちゃんと合流するから。」
嘘だ。そんなことはホーネット全員が分かっていた。彼女はここで死ぬ気なのだと。
だが、
「・・・・・わかりました・・・・絶対に、合流してくださいね。」
「撤退よ!」
女王蜂は自分達だけでも逃がそうとしている。
・・・・・自分の命を懸けてでも。
そんな気持ちを無下にできるはずがない。
ホーネット達は撤退を開始する。
「タケ、追え。」
有馬も平子に追撃の命令をだす。
しかし、
「させるかああああッ!!」
「ッ!!」
女王蜂による全力の羽赫の射撃で、平子達は思うように動けない。
だが、有馬だけはその羽赫の弾幕を、掠りもせずに走り抜けていく。
「クッ!オオオオオ!!」
目の前まで接近してきた有馬を、右腕の槍で迎え撃つ。
そして、有馬が女王蜂の横を通り過ぎた瞬間、彼女のマスクが砕け、血まみれで倒れ付した。
しかし、女王蜂の奮闘の甲斐あり、ホーネット達は全員公園から姿を消していた。
(良かった、皆逃げれたんだ。)
女王蜂はホーネットのメンバーが全員逃げ切れたことに安堵する。
「ホーネット達は逃がしたか・・・・・」
そう呟いた有馬は、女王蜂に止めを刺そうと、クインケを振りかざす。
(・・・・・ここで終わりかぁ・・・・・・・絢香、月穂・・・・・ゴメンね、守ってあげられなくって・・・・。皆・・・・・・こんな私に着いて来てくれて、ありがとう・・・)
俯せになった女王蜂の顔を見た者はいないが、彼女目には涙が滲んでいた。
そして、有馬クインケを振り下ろした・・・・・
背後から迫っていた智樹目掛けて。
智樹はそれを蜘蛛の脚で防御する。
「クッソ!不意討ちも効かねえのかよ!」
智樹は女王蜂を抱き抱え、有馬から距離をとる。
「な・・・・何で生きてんのよ・・・・・」
「勝手に殺すな。再生力には自信があんだよ。」
そう言いながら、智樹は自分のマスクを女王蜂にの顔に被せた。
「ちょ・・・・・何してんの・・・・?」
「マスク壊れたんだろ?使えよ。」
「いや・・・・・君はどうすんの・・・・・?」
女王蜂の質問に、智樹は優しげに笑いかける。
「俺は大丈夫だ・・・・・・本気でやるから。」
そう言いながら智樹は女王蜂をそっと地面に下ろした。
そして、智樹の背中から無数の赫子が発現し、その体を包み込んでいく。
「なッ!?」
「!!」
女王蜂は目を見開く。
異変に気づいた有馬は一瞬で智樹に肉薄し、クインケを振るう。
しかし、智樹の体を切り裂くはずのその一撃は、黒い鎧に弾かれた。
「これは・・・・・・」
有馬は一度智樹から距離をとる。
智樹の姿は、黒い赫子の鎧を纏い、その顔は先程のマスクよりも凶悪な形になっていた。そして、その背中には蜘蛛の代名詞である八本の脚がより攻撃的な形状に変化している。
まるで、蜘蛛を模した化け物のようだ。
「・・・・・・そうか、赫者だったのか。」
有馬は特別驚いたような素振りは見せず、クインケを構える。
そして、目にも止まらぬ速さで智樹なに肉薄し、クインケを突き出す。
しかし、智樹はそれを右腕の鎧をで弾き返した。
「・・・・・・『IXA』を弾いたか。やるな。」
そう言いながらも、今度は装甲の薄い関節部を的確に突きに行く。
だが、智樹も紙一重で関節を避けながら赫子で『IXA』の破壊を狙う。
二人の攻防は、最早介入の余地がないレベルであった。
しかし、
「有馬さんが蜘蛛を押さえている間に女王蜂に止めを刺すぞ。」
介入出来ないのであれば、有馬が手が回らないところを補えば良い。
平子達は有馬達の横を大きく迂回して、女王蜂に接近を試みる。
「ッ!!」
傷が癒えず、身体が動かない女王蜂に成す術はない。
そして、平子のクインケが女王蜂を切り裂かんとしたその時、
平子の目の前に智樹が現れた。
「なッ!?」
目を見開いた平子を余所に、智樹は一瞬で捜査官達のクインケを破壊し、全員を軽く赫子で吹き飛ばして無力化した。
「君・・・・・まさかあの有馬を・・・・・・」
そう女王蜂が言いかけたとき、有馬が智樹の右肘を突き刺した。
「ッ!!・・・・・・いってえなこの!!」
智樹は赫子で有馬を攻撃するが、クインケでガードされた。
「倒せるわけねえだろッ!無理矢理離れたんだよッ!!」
そう怒鳴りながら、智樹の肘は既に再生を終えていた。
(クッソ、当たる気がしねえ。・・・・・女王蜂もかなり傷が深いみたいだし・・・・・よし!)
智樹は女王蜂を抱き抱え、有馬に背を向けて全力で逃走を謀る。
「・・・・・・」
有馬は無言で後退し、置いてあったもう一つのアタッシュケースを手に取り、クインケを展開する。
その形は、剣とも槍とも言えない妙な形状だ。
名は『ナルカミ』
有馬は『ナルカミ』を智樹に向け、引き金を引く。
そして、クインケから雷のようなものが放たれた。
「ウオオオオオ!?なんだあれ!?」
規格外の攻撃に焦る智樹だったが、喰種の身体能力をフル活用し、『ナルカミ』の雷を回避しながら、遂に公園から脱出した。
「このまま『ホーネット』のメンバーと合流する。集合場所は?」
智樹はスピードを弛めないまま、抱き抱えている女王蜂に尋ねる。
「・・・・・緊急用のアジトは・・・・あっちの方にある廃ビル・・・・」
「よっしゃあ!全速力で行くぜ!」
智樹はさらに加速し、廃ビルを目指して去っていった。
「すいません、有馬さん。」
唯一立ち上がれた平子が、有馬に謝罪をする。
「別に謝ることはないだろ。最初の一撃で仕留めたと思ってしまったこっちのミスだ。」
それに、と有馬は付け足す。
「まさか『ホーネット』の討伐に来たら『蜘蛛』がいて、さらに赫者だったんだ。想定外にも程がある。」
「はい、ですがこれは・・・・・・」
「犠牲者どころか目立った怪我人もなしか・・・・・」
そう、今回の戦闘でのCCG側の被害はクインケの破壊程度だ。怪我人は精々打撲程度しかいない。
「戦っているときも急所を狙って来なかった・・・・・・明らかに加減してたな。」
「・・・・・・」
蜘蛛の意図が分からず、平子は黙っている。
「それと、見ろ。」
有馬は右手に持っている『IXA 』を平子に見せた。
その刀身には、一ヶ所だけ傷がついていた。
「!?」
その『IXA 』についた傷を見て、平子は絶句する。
今まで、このクインケに傷をつけた喰種を見たことがなかったからだ。
「『蜘蛛』のレートは上がるだろう・・・・・・恐らく、二体目のSSSレートの誕生だろうな。」
有馬の言葉通り、これから数日後に『蜘蛛』は最強の喰種の一角、SSSレート喰種とされるのであった。
というわけで智樹は何の迷いもなく逃げました!
互角に戦っても良かったんですが・・・・流石にチートが過ぎると思ったんで止めました( ̄▽ ̄;)
次回で少し智樹の身の上話が出てきます。
お楽しみに!