噛ませ転生者のかまさない日々   作:変わり身

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八年目

☆月 ☆日

 

 

中学二年生。世間やネットを始めとした様々な場所で「人生で一番香ばしい時期」と表現される学年である。

 

当然俺の教室内にもそりゃあもう香ばしい空気が蔓延している。少し右に視線をやれば「俺って異端? 俺って異端?」少し左に視線をやれば「女って面倒くせぇわー」うるせぇ面倒なのはお前だボケオリ主気取ってんじゃねぇよこのタコ。

他にもタバコも吸わないくせにライター(オイル切れ)をこっそり隠し持ってるようなタイプから、さよならを「バイにゃら」とか挨拶を変な風にアレンジしたりしてるタイプまで実に幅広い。

 

クラス殆どの連中が何かしら浮ついた言動をしており、そうでないのは俺とオリ主とついでに無口ゴリラだけだよ。俺らこそがクラス内の清涼剤だな!

……そう言ったら二人から何とも言えない表情を向けられたのだが、そりゃあ一体どういう意味だ。まるで俺が香ばしい奴みたいじゃないか、失礼にも程がある。

 

良いか、よく聞けな? だって俺格好いいんだぞ? 思い込みとか勘違いとかじゃなくて、実際に純然たる事実且つ世界の法則に基づいて運命的に美しいと決定付けられてるんだぞ。そんな俺が香ばしく在る筈がなかろう。な?

仕方なく俺自ら懇切丁寧に教えを説いてやったのだが、奴らは更に表現しがたい顔をして黙り込み終ぞ納得を示してくれる事は無かった。全く理解力低いアホはこれだからイカン。

 

 

まぁそれはともかくとして、最近俺の周りに人が寄ってくるようになった。どうも俺の格好良さに気付いた連中が現れ始めたようだ。これまでの話から言うと喧嘩を売られてるようにしか感じられんなハハハハ。

 

俺としては尊敬の目を向けてくる奴をわざわざ遠ざける必要性も感じられないので放置しているのだが……その中には「どこで染めてるの?」とか「どこのカラコン使ってんの?」とか「本名は?」とか罰当たりな事を聞いてくる輩もいて困った物だ。

これは神より直々に与えられし唯一無二の天然物であるわ! と叫んで病院からの証明書と保険証を見せれば大抵は分かってくれるのだが、その後の態度が生暖かくなるのはどうにかならんモンかね。

本当に生暖かい目で見られるのはお前らだろうに。「なぁ?」とオリ主とゴリラに同意を求めれば返ってくるのは当然生暖かい視線だし、ええい俺の味方は居ないのか味方は!

 

……俺、格好いいよなぁ? ちょっと不安に思った時もあるが、鏡を見たらイケメンが映っていたので、多分みんな嫉妬してるんだろうな。いやはや二・五次元は辛いね本当、ハハハハ。

 

 

☆月 ☆日

 

 

何だろうな、どうも最近物足りなさというか、焦燥感というか。そんな物を感じる。

 

いつも通りゲームとアニメにどっぷり浸かり充実した日々を過ごしている筈なのに、足元からジリジリと何かが迫っている感じがしてしょうがない。視線を下に向けても長い脚が映るだけだし、何だろうねこの気持ち。

スズネノセブンっぽい何かをプレイしながら片手間に心当たりを探ったが、すみれちゃんに萌えている内に薄れてきたのでまぁ大した事じゃないだろう、きっと。

 

 

それよりもコーヒーメーカーが壊れてしまった事の方がよっぽど重大事だ。「ごぽ……ごぼぁっ」とか妙ちきりんな音を立ててるんだけど、お前どうした今にも死にそうだぞ。

かれこれ5年ほど愛用している代物であるが、ご臨終にはちょっと早いきがするぞぅ? 慌てて取説を引っ張り出して点検してみれば、どうも様々な部分のフィルターが目詰まりし切っていたらしい。そういや最近深いとこまで掃除してなかったもんなぁ。

 

調べてみた限りでは業者に依頼せずとも自力で何とかできる範囲っぽかったので、洗浄用クエン酸やら専用の器具を購入し整備してみる。

そうして中身を開いてみたのだが……まぁ結構凄い事になってたね。外見だけでは分からなかったが、フィルターの入れ替えや容器の水洗いだけでは落ちなかった湯垢やら何やらが色々と。掃除サボり過ぎてたなこりゃ。

まぁこれはこれでいい機会かもしれん。せっかくなので侘びと感謝の気持ちを込め、パーツの一個一個まで念を入れていい感じにして労ってやろう。俺って優しいな本当。

 

細かい部分の湯垢までキチンと落とし、溶けかけていた耐熱チューブを入れ替えて。そうして全行程が終了する頃には、少し古びた感のあったコーヒーメーカーは内外共に新品と変わらぬ状態にまでメタモルフォーゼ。

「やだ、これが私……!?」裏声でメーカーの気持ちを代弁しつつ、問題ないかどうかを実際に稼働させてチェックする。うむ、心なしか以前よりも美味いコーヒーになっている気がするな。

 

ただの気のせいかもしれんが、実際に良い香りがするのは確かなのだからまぁ良いじゃないか。大変満足した俺は上機嫌にメーカーの頭を撫でつける。

すると俺の手の動きに反応したように一際大きく蒸気を噴き出したりして、それがもう可愛くって可愛くって仕方ない。やっぱ手をかけた分愛着も深まるモンだよなぁ、と一人得心。

 

 

どうしよ、何か名前でも付けてやった方が良いだろうかね。中々良さげな女の子の名前を幾つか頭に浮かべつつ、コーヒーカップを傾ける俺だった。

 

 

☆月 ☆日

 

 

休日。

のたのた気ままに街中を歩いていたら、デート中のすずかとアリサに出くわした。

 

デートと言ってもフローラルな物ではなく友達同士の遊び回りのようなものっぽいが、最近あれなんだろ? そういうのって友デートとかデー友とか言うんだろ? じゃあデートでも良いよな。いやどうでもいいか。

ともあれ俺としては散歩の途中だったし特に用もなかったので、挨拶もそこそこに通りすがろうとしたのだが……気づけばアリサに引きずられ二人に同行する事となっていた。何で? いやマジで意味分からん。

 

いつの間にお前らにフラグ立てたっけ、と問えば絶望的に酸っぱい顔をされたのでピンク色の用事ではないようだが、はてさて。まぁこれから当てもなくブラブラするつもりだった訳だし、付き合ってやってもよかろう。

仲良くくっちゃべりながら歩いている二人の背を見ながら、ゆっくりとくっついていく。何となく修学旅行のことを思い出してしんみりするな、これ。

 

そうして何だかんだ言い合いつつ、三人してあっちへフラフラこっちへフラフラ、公園からデパートまで海鳴の様々な場所を歩き回った。どうやら具体的な目的等は無いようで、本当に単なる遊びに出かけているだけらしい。なら何で俺を誘ったよ。

疑問には思ったが、俺も俺で結構楽しんだので文句はない。デパートでは新しいバスタオルとかプラモデルとか買えたしね、むしろ普通に散歩するより良かったかもしれん。ウフフ。

 

そんなこんなで12時も過ぎ、デパートの7階だか8階だかにあるフードコーナーで昼食を摂る事に。金持ちだからこんな所には来ないと思っていたが、良くなのは達と訪れるらしく随分とこなれた様子である。変に庶民的だなこいつら。

 

ともかく件の昼食メニューなのだが、アリサは寿司、すずかはうどん、俺はラーメンと見事に別れた。種類としては俺とすずかが似通っていたので、折衷案としてそばの店に入る事にする。

大丈夫だってネギとろ丼とかあるって、な? ブチブチ言ってるアリサを宥めつつ店内に入り、四人がけのテーブル席に座りそれぞれのメニューを頼んでほっと一息。ここまで歩きっぱなしだったせいか、二人共少し疲れが見えていた。チート持ってない奴は大変ですなぁハハハ。

 

そのまま軽く雑談を交わしつつ暇を潰していたのだが――――ふと、アリサが「アンタって何時も気持ち悪い嫌いな奴のまま変わらなくて、何か安心するわ」と宣いやがって下さった。すずかもそれに同意しているし、これは喧嘩を売られていると見てよござんす?

良いだろうならばダンスで勝負よ! とポーズをビシ決め迫れば、彼女達は吐き気を抑えるような仕草をしつつ一応の謝罪をしてくれた。全く誠意は感じられなかったが勘弁してやろう、俺は優しいから。優しいからな。そう、優しくて、美しいのだから。フフ。

 

でもまぁ、この俺嫌い筆頭のアリサが俺の顔を見て「安心する」なんて異常事態も良いとこだ。とりあえずそのまま詳しい事を聞いてやる事にする。

不満げな顔で訥々と語るアリサ曰く、何でも最近オリ主やなのは達と距離を感じる事があるそうな。ハーレムカーストから転落したのかとも思ったが、そういう事でもないご様子。

 

彼らが賑やかに話す話題に入れなかったり、みんな集まっての外出を断られたり、すずか宅でのお茶会をドタキャンされたり。魔法組との間で度々すれ違いが起きているのだとか。

今日も本当はアリサの家でお茶会をやる筈だったそうだが、急な任務が入ったとかで突然断られダメになったらしい。後でフォローはしてくれるそうだが。

 

成程お前らのデートは振られた者同士の傷心デートだったのねと頷けば、アリサからはキンキン声を、すずかからは紅い視線を送られた。いやすまんて冗談ですって。

 

……にしても、オリ主達ねぇ。まぁアイツ等も任務やらで忙しいらしいしなぁ……そう呟けば、二人から驚いた顔をされた。おや、そういえば俺が魔法関係を知ってる事になってるって言ってなかったっけ。まぁいいか。

ともあれそうして管理局の仕事が大変なんだろうと言ってみたが、アリサとすずかもそれは分かっているようである。しかし感情面では納得していないようで、どこか寂しそうな表情を浮かべていた。

 

……まぁ、それも仕方なし。こいつらは魔法が使える訳でもない正真正銘の一般人(なのか? まぁ魔力持ちでは無い)だ。これからミッドチルダに活躍の場所を移すオリ主達とは、どうしたって接点が薄くなってしまう。

話題の事も、予定の事も。ドタキャンの事だってこれから先どんどん増えていくだろう。何せアイツ等は既にStrikerSの門戸を叩いてしまったのだ。平和な地球よりも、大小様々な伏線が張られ始めた向こう側の世界に比重が寄っていくのは必定である。

 

サブキャラとメインキャラの間には、俺達如きにはどうにもできん壁が構築され始めている。もう数年もしない内に、アイツ等は完全に――――……そこまで考えて、気づく。

 

 

「…………あぁ、『俺達』ね。ふぅん……」

 

 

……足元から何かが迫り寄ってくるような、決して小さくはない焦燥感。

 

成程成程。これがお前らが感じている事ね。こりゃ確かに変わらない物を見て安心したくもなりますわな、ハハハ。

何も言わないままそう明るく笑い飛ばしたが――何となく俺が自分達と同じ感覚を共有したと分かったのだろう、彼女達は複雑な表情で黙り込む。そうして料理が届くまでの間、俺達は特に会話する事無く沈黙し続けたのだった。

 

 

……で、その後。昼食を食べて腹が膨れた俺達は、気を取り直して近所のゲーセンやアミューズメントパークで遊び倒した。

アイドルマスターっぽい何かでアリサとくぎゅったり、ギルティギアっぽい何かで地団駄勢に遭遇したり、すずかと超次元卓球で盛り上がったり。何かを忘れるように騒がしく、楽しく。力の限り、全力で。

そういや二人と言い合うのは何回もあったが、遊ぶのは初めてな気がするな。まぁ割かし悪くない感覚だ。クレーンゲームの戦利品であるシンケンジャーっぽいキーホルダーを三人で山分けしつつ、そんな事を思った。

 

そうして慌ただしく一日が過ぎ、「またね」という挨拶と共に解散。それぞれの家へと帰宅した。

夕日の中をゆっくりと歩く俺の鞄には、SDのシンケンブルー(またはヒタチ・イズル)がゆらゆらと揺れている。今頃は他の二人の鞄でもピンクとイエローが揺れている事だろう。

 

「…………」そうして何となくしんみりした気分のまま、じりじりと歩く。

いや、まぁ。凄く楽しくはあったよな。殆どが悪態での会話だったとは言え、それはそれで遠慮なんて欠片もなくて楽だった。機会があればまた顔を突き合わせてやっても良いかもしれん。

 

 

……もしかしたらあと1年ちょいもすれば自然とそうなるかもな――何て、考えすぎかしらん。

 

俺は前方に伸びる影を眺め、ため息を一つ。購入したハンブラビを振り回しつつ、マンションへの道を辿っていったのだったとさ。あー、何ともかんともうっつっつ。

 

 

☆月 ☆日

 

 

以前から制作を進めていた改良版棒人間格闘ゲームだが、先日ついに完成した。

 

元の4キャラから更に4キャラ+隠しキャラ一体を追加し、技もそれぞれ平均して7~8つに増強。ユーノの手も借りて軽いストーリーモードも導入し、メガネっ娘の描いた一枚絵も随所に散りばめられている。

ホームページも立ち上げたし、少なくとも同人作品としてはどこに出しても恥ずかしくない出来にはなっている筈だ、多分。いや頑張った頑張った。

 

そうして完成祝いに俺の部屋に入り浸っている連中で遊んでいたのだが――――どうにも一味足りない気がする。例えるならば俺の肉じゃがに入れ忘れた醤油一差し、みたいな。

 

まぁ言ってしまえば声が足りないのである。どれだけグリグリ動いてバシンバシン技を出したとしても、ずっと無言のままだから味気なく感じてしまうのだ。

そういう物だと割り切れば気にならないのだろうけども、数多のギャルゲでのフルボイスに慣れきってしまった俺(とオリ主とユーノ)の耳にはどうにも物足りない。ディズィー然りザッパ然り、エロさや基地外さ……というかキャラの個性を出すのにやっぱ声って重要だと思うんですよ、うん。

 

この際声の依頼を出そうか、という案も出たには出たのだが……何だか気が進まない。せっかくここまで自分達だけで作ってきたのだから、最後の仕上げまで自分達で仕上げたいと思ったのだ。

とりあえず自分達で4キャラ分声を当ててみたのだが、残り5キャラをどうするかが問題だ。演技力なんてある筈も無い俺らには声の使い分けなんて出来ないし、メガネなんて恥ずか死にそうになりながらやっとの思いで1キャラ分だ。他のキャラを任せられる余裕もなし。

 

さて、ならばどうするか……そう思いつつユーノの被ダメ喘ぎ声をリピート再生していると――――ピン! と頭の上でドムが拡散ビーム砲を放った。そうだ、俺達の周りにはプロの声優とそっくりそのままの声域を持つ原作メンバーが居るじゃないか! 

 

しかも人数は丁度5人だ、人数的にもぴったしである。思い立った俺はすかさずオリ主に指示を出し、奴のハーレムメンバーをここに呼び寄せる事にした。

……のだが、何も知らずにノコノコとやって来た彼女達はまず俺の部屋の内装にドン引き、更に俺達が頼んだ声当ての内容に逃げ出そうとしやがった。しょうがないのでチートを使って「オリ主を一日好きにできる券」を一瞬で制作し譲渡する事によって協力を得る事に成功。直後にガチパンチが俺の頬に炸裂したが、まぁそれで済むなら善かろうもーん。

 

ともあれそうして近所のカラオケ屋に直行し声を収録する事になったのだが――いやはや。なのは、フェイト、はやての超必持ち三人娘はそりゃもう上手かった。

流石は何時も戦場に出て技名を叫んでいるだけの事はあるのだろう。掛け声もやられ声もいやに臨場感があり、目を瞑れば不覚にも欲情しそうになっちまったい。アリサとすずかも中の人がルイズとロードなだけあって大変によろしい感じで、俺的に超満足である。ウフフ。

 

いやぁこっそりメガネを唆して殆ど女キャラにした甲斐があったな!

テンションの上がった俺達は真・完成祝いとしてそのままカラオケパーティに雪崩込み、声が枯れるまで騒いだのであったとさ。もう俺の美声がガラガラだわ、ハハハ。

 

 

で、そうして完成したゲームなのだが、これまで通りフリーでのDLとなった。評判としては前作までの棒人間の物とは違い相当に上々で、俺の鼻もクリエイティブに高々である。

 

オリ主は「ちょっとくらいは金とっても良いんじゃね」と言っていたが、完成度が違うとは言え今までフリーで通してきたしね。メガネっ娘もユーノも原作メンバーも納得済みだし、まぁこれで良いんじゃない?

まぁそれはそれとして後で皆にそれぞれ何か報酬でも用意せねばイカンとは思うけども。さて何をプレゼントするべがな――――そう呟きつつ、俺はフィギュアのカタログを迷いなく開いたのだった。

 

……当然の如く後に盛大なブーイングを浴びたのだが、良いじゃねぇか美少女フィギュア。くそぅ。

 

 

☆月 ☆日

 

 

ゲームショップを徘徊していたら、ABE99っぽい何かが定価で売られているのを見つけ、思わず衝動買いしてしまった。

 

内容としては、人とカエルが混じったような種族の主人公エイブが、とある工場で奴隷とされている仲間達を助けるために奔走する、という横スクロールアクションゲームだ。

SFとファンタジーが混じったダークな世界観と、妙にエグみの強いストーリーと設定。そして高難易度のパズル的要素と当時にしては頭一つ飛び出たCG技術と、一部の界隈では根強い人気を誇る洋ゲーである。あくまで一部だが。

 

特にこのABE99は前作であるエイブ・ア・ゴーゴーと比べ希少価値が高く、新品で4万円前後。中古でも1万円前後は下らないという価格高騰っぷり。

「グロすぎるコクとキレ」なんてアレな宣伝文句が付いてるゲームにも関わらず何故そんなに値段がつり上がっているのか、まぁその辺は推して知るべし。いや察せ。

 

ともあれ、そんなゲームソフトが定価で販売されていたら、如何に金銭に余裕があろうともそりゃ買うしかないでしょうよ。そうしてウキウキ気分でマンションに持ち帰りプレイし始めたのは良いのだが――いややっぱり難しいな。全然クリアできる気がしない。

 

まず主人公のエイブ君がとにかくよく死ぬ。耐久力としては他のアクションゲームの主人公と同じくらいなのだが、周囲のトラップや敵が強すぎて一発で吹き飛ぶのだ。

高所からの落下や爆発に巻き込まれるのは勿論、撃たれたり丸呑みにされたり刺殺されたり感電死したりミンチになったり、死亡の種類に暇がない。しかもそんな即死だらけの状況で、エイブ君と同じように死ぬ仲間達を300人殺さずに助け出さなきゃいけないのが更にキツイ。

 

全クリを目指さなければ何とかクリアできる難易度ではあるのだが……まぁそこはゲーマーの性ですよね。グロイ死に様に後ろでひゃあひゃあ悲鳴が上がるのを無視して、セーブとロードを繰り返してのゾンビプレイである。

 

エイブ君に俺みたいなチートがあれば楽勝なのになぁと思わずにはいられないが、それだと多分ゲームとして面白くならないよな。やっぱチートは転生した上で神に貰ってこそだよなと一人納得。

 

 

「…………」

 

 

……チートか。そういや身体能力に関する物はそれこそ日常レベルで多用しているけど、魔力関係の方は脳みそしか使ってないよな。

はやて達の話では、リンカーコア自体が結構ダメダメになっているという話だが、実際どんな感じになっているのだろう。唐突にそんな事を疑問に思い、ほんのちょこっとだけ魔力行使を行ってみる事にした。

 

 

試してみるのは、原作でも何人かが使っていたデバイス無しでのアクセルシューターである。最後に魔法を使用したのが……何年前だ? 思い出せん。

まぁとにかく相当感覚が相当鈍っているのは確かだろうが、動かす動かさないは別として俺のチートなら魔力球一個を浮かせる事くらいなら可能な筈だろう、きっと。

 

軽い気持ちでそう判断した俺は、ゲームの片手間に記憶の片隅に残る魔力の流れを掘り起こし、再現。そうしてパパッと魔法陣を構築し――――「あァづぁだだだだだァーーッハハハァー!?」突如胸の中心からこみ上げる激痛に堪らずPSコントローラーを放り投げた。

 

痛い痛い、いや熱い。リンカーコアのあると思しき場所から、身体の全神経が焼け付くような激しい痛みが迸る。こりゃちょっとアカンて、洒落になりまへんて兄さん。「ほぉぉ゛っぉぅぉ……!」畳に這いつくばりながら、意味もない呻き声を漏らす。

そんな俺の様子にメガネが慌てて心配そうに駆け寄ってきたが、やめてあんま揺らさないで。ちょっと吐きそうなんです僕。

 

そのまま縋り付いてじっとしていると徐々に痛みは収まってきたが……いやこれは酷いな、何か変な笑いが出てきた。何年か前のはやてが悲痛な表情を浮かべていたのも頷ける。

「……はぁ」痛みが完全に引いた後、大きく溜息を吐きながら固まってるメガネに礼を言いつつ離れ、大きく深呼吸。そうして特に身体に問題がない事を確認しつつテレビ画面に目を向ければ――まぁ、当然ながらエイブ君は仲間を巻き込みご臨終。ああもうグチャグチャ。

 

これ、セーブしてなかったから結構前まで戻されるよなぁ。俺は訪れた苦難にゾクゾクしながら、再びクッションに身を沈め。震える肺を無理やり動かし、細長く息を吐き出したのだった。

 

……後でこれをネタに八神一家にコーヒーでもタカりに行こうかね、胸に過ぎる色々な何かを無視しつつ、そんな事を考えた俺である。

 

 

☆月 ☆日

 

 

――俺はまだ、俺の格好良さを伝える事を諦めていない。

 

踊り続けているのだ、俺は。例え誰に笑われようとも、理解力の無いアホンダラに天狗と呼称されようとも。このチート頭脳で導き出された超格好いい俺ダンスを日々踊り、収録し、動画として発信し続けている。

コメントは見ない。評価も見ない。最初の頃はワクワクしながら反応を待った物だが、どれだけ待っても「人間の動きじゃねぇwww」と草を生やすタコしか現れなかったからだ。しかも最近では投稿する動画の全てに「天狗の人」というタグまで必ず付けられるようになり、俺は海よりも深い悲しみにブクブクと包まれた。

 

どうして、何故俺の美しさが理解されないのだろう。これが二次元だったら原作キャラ・モブ問わず魅了する超オリ主人が誕生しているというのに、本当に三次元は度し難い。幾ら俺の対象外とは言えもうちょっと美しがれよお前ら。

一向に良くならん状況に半ば辟易してきたが、まぁしょうがないかと無理やり流す。俺の美しさが常軌を逸しているのが悪いんだ、そう思わんとやってられんわ全く。

 

そうして今日も今日とて屋上の床が削れる程の勢いで踊り狂い、軽く編集して動画を投稿していたのだが――――ふと、ユーザー登録してあるアドレスにメールが届いているのが目に付いた。しかもその送り主はニカニカ動画の運営側だ、思わず驚天ババッと二度見。

何かまずい事やったかなと不安になりつつ目を通してみれば、どうも今度行われる運営主催の生放送イベントへのお誘いのようだった。踊り手枠の一人として出演してみないか、との事らしい。

 

……さて、どうするべきか。俺としては別にお呼ばれしてやっても構わんのであるが、今の状況を鑑みるにどうせ「天狗の人」としてなんだろ? 分かってんだよそんな事。今しがた投稿した動画に即効で草生やし怪人と妖怪タグ付け屋が現れているのを見ながら、渋い顔してヒヒヒと笑う。

まぁ今回はお断りだな、もうちょっと世間の認識が正されたら受けてやるよ。そう返答のメールを送ろうとした俺だったが――「待てよ?」今まさに送信ボタンを押しかけていた指が止まる。

 

目に映ったのは、俺の動画に付けられた「どうせ合成とかCGだろ」という失礼極まりないコメントの内の一つだ。

そうだ、そういえば俺はまだその可能性について考えていなかった。即ち――――俺のダンスが凄まじすぎてインチキだと思われている、という可能性だ。

 

確かに俺の動きはチートにより人類には到底到達できない物に昇華されているし、基本的に見る目のない愚民のコメントには返さない主義なので疑問への返答も解説も行っていない。これでは「ご想像におまかせします(笑)」なんて真っ黒な返答をしているようなもんだ。

成程成程、今見れば草生やし怪人のコメントもちょっとそういう雰囲気があるし、これは盲点だった。堕天使反省。

 

それを考えると、映像に小細工の入る余地が無いリアルタイム配信が行われる今回の申し出は願ってもない事なんじゃないのか? 自分で生放送しても良いんだが、規模的にこっちの方が良いだろうし。多分。

 

よっしじゃあそうすんべ! 思い立ったらすぐ行動。俺はたった今まで書いていたお断りメールを消し、出演OKの旨を運営側に伝えたのだったとさ。

 

 

 

そうして迎えたイベント当日。

保護者同伴が条件の一つだったので、八神一家に「あー胸が痛いなぁーリンちゃんとカー君がコアっちゃう所がマジ痛ってぇなぁー」と丁寧に頼み込みシャマルを借り出し、電車を乗り継ぎ会場へ。

 

この日のために特性ラメ入り黒ジャージと俺が一番格好いいと思っているナイトサバイブのライダーお面も用意したし、ああ、今日こそ俺の格好良さが正しく世に知らしめられるのか。そう思うと半笑いが止まらないね!

待っていろ三次元の愚民共! 今すぐに俺の美しさを刻みつけてやる!! 俺は会場を前に大声でそう叫び、意気揚々と自動ドアをくぐり抜けた――――!!

 

 

 

……え? 結果? 特に語らないよ。

まぁイベント直後に「鞍馬天狗の人」という項目が大百科に生まれた事から大体は察せるんでないの? ハハハ。

 

……帰りがけに寄ったメロン何たらっぽい書店。そこで顔を真っ赤にして嫌がるシャマルに金を握らせ頼み込みレジに持って行かせた18禁同人誌が唯一の戦利品だったな。今後呼ばれる事があっても二度と行かんぞ、ぐっすん。

 

 

☆月 ☆日

 

 

ユーノが無限書庫司書長になるらしい。

 

……年の瀬に行われたゲーム合宿。式神の城Ⅲっぽい何かをオリ主と2Pプレイしている最中に背後からそう伝えられたのだが、どう考えてもタイミングがおかしくねぇか。

画面を埋め尽くす程の弾幕を必死になってくぐり抜けていたというのに、何でそう唐突に集中を乱すような事を言うのか。ホレ見ろせっかくボス用に残しておいた最後のボムを使っちまったじゃねぇか。

 

自由なるおばさんに辿り着き会話デモに入った事を確認し、オリ主と二人で「おめでとさん」と祝福と抗議の意を乗せた視線を背後にくれてやれば――――何故かユーノはショボくれたおセンチな表情をしていた。何だよ嬉しそうじゃないな、どうした。

 

疑問に思い詳しい話を聞いてみると、何でも司書長になればこれまで通りゲーム合宿に参加できなくなるそうな。まぁ一般司書と司書長なら仕事量も違うだろうし、当然といえば当然だが。

流石に今日明日で任命されはしないようだが、それでも一年以内に辞令を出される事はほぼ確実であるらしい。15歳で司書長とかマジ有能だなぁ、さっすがユーノだけはあるよな。なんつってな、プププ。

 

……にしても、そうか。これからなかなか集まれんようになるのか。このゲーム合宿を始めるようになって早……4年くらいかね、まぁ結構長く続いたもんだ。

思い起こせばアホな事ばっかりしていたような気がするけど、そのアホ仲間の一人との縁が近い内に薄くなるのかと思うと――何だ、ちょっぴり寂しくなる気がせんでもない。心に去来する何かを誤魔化すように、うむうむと一人で首肯。

 

ふとオリ主の方を見れば、奴も同じ気持ちらしく何時もの面倒そうな表情の中にちょっとした寂寥感を湛えていた。……しかしよくよく見れば、まるで仲間を得たかの如き微かな安堵感も浮かんでいるようにも見えて。

……ああ、確かにお前にとっても他人事じゃない話だもんな。自分だけじゃない事にそりゃ安心もするだろう。何となくしんみりした雰囲気が部屋の中に広がった。

 

 

「……ハイハイハイハイやめやめやめやめやめだやめ! 飯行くぞ飯! 奢ってやっから!」

 

 

その慣れない沈黙に耐え切れなくなった俺達は、合宿を早めに切り上げ行きつけのラーメン屋に三人して向かう事にした。みみっちくはあるが、ユーノの昇進祝いのつもりである。

いや、その気になれば高級レストランだ何だで優雅な一時を過ごせなくもないんだが、俺一人ならまだしもこいつらにそんな上等な場所に馴染めるような雰囲気は無いだろう? だからこれで良いんだ、全く貧乏人は仕方ねぇよなぁ。そう言ったら両側からパンチサンドでボコられた。いくら図星を突いたからってひっでぇ事する奴らだよ、ぷんすか。

 

そうしてクソ寒い街中をグダグダ駄弁り歩きつつ、駅前のラーメン屋に入店。一応はチェーン展開してるっぽい店なのだが、ここ以外に店舗を見た事が無いのはどういう事なんだろうな。味は美味いからもっと流行っても良いと思うんだが、不思議だ。

まぁそれはさて置いて。何時もなら三人並んでカウンター席に腰掛けるんだが、今日はちょっと奮発してテーブル席だ。値段的には変わらんのだが、ちょっと優越感があるよな。フフフ。

 

濃厚白湯とんこつ、とろこくチャーシューメン、熟味噌うまラーメン、そしてサイドに砂肝揚げ二つとフライドポテトとそれぞれ食いたい物を頼み、一段落。店内を巡る暖房に体を解されホッと一息を付いた。あー、あったかい。

そしてラーメンを待ってる間の暇潰しとして、ポケモンBWっぽい何かをプレイ。やっぱギギギアルは格好良いよなぁ、このメカメカしいっつーか人工物っぽい感じは他のポケモンには無い、コイル的な独特の良さがある――そう自分の子供自慢をしていると、オリ主とユーノもそれぞれクチートとコジョンドを見せつけ自慢してきた。

オリ主の方はともかくとして、ユーノがコジョンドってお前。そのまんまじゃねぇか。もうちょっと捻れよ。だいたいお前ら俺のギギギに対してなんで♀ポケ出してくんだよ、それなら俺だってグレイシアたんという嫁がだな――――

 

そんな感じで飯が来るまでギャースカギャースカ騒いでいると、いつの間にやら部屋に居た時のしんみり気分は跡形もなく消えていた。

こんな雰囲気を引きずったまま何時までも暮らせたら良いんだけど、そうもいかないのがにんともかんとも。心中で溜息を吐き、届いたラーメンをズルズル啜る俺だったとさ。

 

 

……もうすぐ中学三年生、色んな事が終わる年。あーやだやだ、ポーズの効かない三次元はこれだからクソなんだ。とんこつ美味いなぁ、畜生。


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