恋姫†袁紹♂伝   作:masa兄

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~前回までのあらすじ~

孫策「(手柄)とった? もしかして」

張勲「何の問題ですか?(レ」



周瑜「妖術書使って、独立、しよう!」

孫策「……あっ(察し)」

大体あってる


第26話

 ―南皮、袁家の屋敷―

 

「色々あったがようやく顔を合わせることが出来たな、我が袁家現当主、袁本初である」

 

 広宗での一件により十五万の人員を受け入れた袁紹は、余りの多忙に張三姉妹との面会が叶わなかった。そこでこうして南皮で改めて話を聞く事にしたのだ。

 

「まずは私達を助けてくれてありがとう。私が長女の天和だよ! よろしくね♪」

 

 張三姉妹の長女天和が、ウィンクをしながら元気良く礼を兼ねた自己紹介をしてくる。

 黄巾の中にあって張角として祭り上げられてきただけに、今まで感じてきた重圧は並みの物ではあるまい――と、袁紹はどのように接するべきか悩んでいたが、どうやら杞憂のようだ。

 長く美しい桃色の髪を揺らしながら軽く跳び、左手を上に掲げている姿には憂いを感じない。

 知らない陣中にあって無警戒もいい所だが、これも彼女の個性なのだろう。

 

 彼女のフランクな口調に眼鏡の娘が慌てているが、袁紹には特に気にしている様子は無い。

 彼の周りに居る者達は、言葉遣いが独特な者が沢山いる。丁寧な者から男口調の者まで十人十色だ。故に咎めることはない。袁紹とその縁にある者達を軽んじたりしなければだが……

 

「次女、地和よ……」

 

 続いてポニーテールの娘が前に出た。その目からは警戒の色が浮かんでおり、最低限な挨拶からも、どれだけ此方を怪しんでいるかがわかる。

 無理も無い。彼女達の処遇など袁紹の采配一つでどうにでもなるのだ。

 本来であれば媚を売ることで心象を良くしておこうと思うはずだが、地和にはそれが袁紹に通用しないことを本能的に感じ取っているのか、姉妹達の前に立ちふさがるように前に出た。

 

 不快に感じられるかもしれない動き、だが袁紹には先程と同様負の感情は沸いてこない。

 彼女の強気なソレを良く理解できたからだ。天然な長女、内気な三女の中にあって次女である地和は二人を守るべく、事の起こりには姉妹の前に出る役割を担ってきたのだろう。

 それに、こうして姉妹達の前で袁紹を睨む彼女の瞳には、少なからず恐怖が浮かんでいる。

 なるべく早く、彼女の不安を取り除いた方が良かろう――と、袁紹は三女に目配せをして続きを促した。

 

「三女、人和と申します。助けて頂き有難う御座いました」

 

 最後に挨拶をしたのは三女、姉に比べ地味な見た目だが、その瞳には姉達には無い知性の高さを感じさせる。恐らく彼女が姉妹の財布を握り、行動の方針を決めたりしているのであろう。

 

「黄巾内部にあっても、袁紹様のご高名は良く存じております。特に――「もう良い」え?」

 

「自分達に対する心象を良くしたいのはわかる。だが――見え透いた世辞ほど不快なものはない」

 

「っ!? し、失礼致しました!!」

 

「かまわぬ、悪気が無い事は承知している」

 

「は、はい……ですが――」

 

 人和は明らかに怯えている。大陸屈指の名族と相対しているのもそうだが、何よりその袁紹に世辞を見抜かれたのが大きかった。自分達姉妹の処遇は、言ってしまえば彼の気分次第で決まるようなものだ。ならば、少しでも心象を良くしたいと思うのは当然である。

 

 袁本初を良く知らない人和は、彼を褒め称える事で気を良くさせようとした。

 彼女の人生観において、上に立つ人間と言うのは総じて世辞に弱いものだ。立場が上であればあるほどその傾向が強いため、袁紹も例に漏れず好意的に世辞を受けるものだと思っていた。

 

「安心するが良い、このくらいの事で腹を立てていては名族など務まらぬ故な、フハハハハ!!」

 

「……」

 

 二度も許すと言葉にし豪快に笑い声を上げる袁紹。それを見て、人和はようやく安心したように溜息を吐いた。

 

 重ねて言うが袁紹と三姉妹は初対面である。しかし袁紹の纏う空気、言動には他者を理屈抜きに安心させる何かがあった。

 

「さっそくで悪いが、お主達と黄巾の実情を聞かせてくれるか?」

 

「では、私が――」

 

 姉妹の中で最も知と学に優れた人和が今までの経緯を語りだす。

 

 ――旅芸人としての出発地点

 ――歌と踊りによる芸で、一世を風靡(ふうび)するという目標

 ――伸び悩んだ自分達の下に届いた『太平要術の書』

 ――大陸の疲弊、痩せ衰えていく観客達……

 ――そして黄巾の乱

 

 彼女達の救出を願った男よりも正確に、しかし概ね聞いたとおりの答えが帰って来た。

 

「ふむ、太平要術の書……か、今は何処に?」

 

「それなら、天和姉さんが」

 

「え? ちぃちゃんじゃ……」

 

「私は持っていないわよ、最後に見ていたのは姉さんじゃない!」

 

「あ、あれれ~?」

 

 妹二人に白い目で見られ、天和は慌ててぺたぺたと自分の体を触る。何かを探している人間がとる古典的な行動だが、彼女の衣服には荷物を保管しておける場所など――

 

「ここかな~?」

 

「……む」

 

 あった。衣服にではなく身体にだが――、襟を前に引くようにして天和は胸の谷間を確認する。位置的に袁紹からも丸見えだ。妹達とは比べ物にならない豊かな果実が映り、まさに眼福眼ぷ――「麗覇様?」 

 

「時に桂花、受け入れた十五万の『難民』はどのような様子だ?」

 

「え? えっと、流石に人数が人数でしたので当初は各地で混乱が起きました。ですが兼ねてから受け入れられる体勢を取っていたため、それも小規模なものに。現在は安定して作業に合流できております」

 

「うむ! 引き続き彼等の監督を頼む。異変があったら直ちに知らせよ」

 

「承知致しました」

 

 瞳から光が消えかけていた桂花。彼女はある日を境に、袁紹が他者に抱く劣情に敏感に反応するようになっていた。人前では名族然とした態度を崩さない袁紹だが、桂花の女としての勘は容易くそれを看破していた。

 

 始めこそは彼女に翻弄された袁紹だが、良くも悪くも彼は学習能力が高い。

 すぐさま対策を考え付き、桂花の意識を逸らすことに成功していた。

 

 基本的に生真面目な桂花は、公私混同しない文官の鑑である。私事と仕事で自分を使い分けるのが巧く、切り替えが早い。袁紹はそれを巧みに利用。嫉妬の矛先が向く前に彼女の思考を切り替えさせたのだ。

 

 もっとも、世の中というものは不思議なもので

 

「麗覇様、桂花さんは誤魔化せても――」

 

「アタイ達までは誤魔化せないぜ」

 

 邪な考えを持つものには、相応の報いを与えるように出来ている。

 袁紹の両隣に控えていた斗詩と猪々子。彼女達は袁紹の肩に手を置き、何ともいえない威圧感を発していた。

 

「麗覇様、後でお話が」

 

「もちろん空けといてくれるよな?」

 

 そして硬直した袁紹に語りかける。彼は思わず助けを乞うように周りを見渡したが、桂花は先程の案件を思案しており、風は寝息を立てている。

 恋は音々音を可愛がり、星にいたっては事の成り行きを面白そうに静観していた。

 

「……ハイ」

 

 やがて蚊の鳴くような声で返事をする。その時、彼の顔から光る何かが零れ落ちたが、きっと気のせいだろう。

 名族は人前で泣いたりはしない。泣いたりはしないのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、お主等姉妹は真名で活動しているのか?」

 

「はい、私達は観客との距離を少しでも縮めるべく、皆に真名を許しています」

 

「真名で呼ばれたほうが嬉しいよね♪」

 

「……張宝って呼ばれても反応出来ない自信があるわ」

 

 この世界において真名とは神聖なるもの、しかし扱い自体は当人の自由だ。

 彼女達のような使い方は異質だが、特に問題は無いのだろう。

 

「さて、お主達の今後についてだが……」

 

「ちぃ達をどうするつもり!?」

 

 何気なく袁紹が呟いた一言で、再び地和が警戒心を露にし、姉妹の前に出る。

 

「ちぃ姉さん待って! 最後まで話を聞いてからでも遅くはないわ」

 

「……人和がそう言うのなら」

 

 妹に(たしな)められ、不満そうな顔をしながらも地和が下がる。彼女の警戒心は過剰にも思えるが、無理も無い。袁紹の周りには多種多様の美女が居るのだ。一騎当千の猛将から、戦場を思い通りに操作する軍師まで、一人ひとりが英傑であったが、そんな事情を知らないものから見れば、袁紹が美女を侍らせているだけのようなものだ。

 

 旅芸人として、自分達の容姿にある程度自信のある地和からすれば、ある種の疑惑を持っても不思議ではない。

 

「まず、お主達はこれからどうしたいのだ?」

 

「それは勿論、今まで通り歌と踊りで観客達を盛り上げるよ~」

 

「旅を続けながら、か」

 

「当然でしょ!」

 

「それは無理だ」

 

「な!?」

 

「え……」

 

「……」

 

 天和と地和の二人は絶句する。聡い人和は理解しているらしく、黙って袁紹の言葉に耳を傾けた。

 

 此度の乱において彼女達は、正体が露見しないのが奇跡なほどに有名になりすぎた。

 娯楽の少ないこの大陸において、彼女達の芸は民衆の心を再び掴むだろう。そしてそうなれば、黄巾から離脱している者達の耳にも入ることになる。そこから正体が知れ渡ってしまうのは時間の問題だ。

 

「そして正体が諸侯に知られれば――……」

 

「ど、どうなるって言うのよ」

 

「……良くない事になる。それは確かだ」

 

「っ!?」

 

 立てられる仮説は沢山ある。どれも若く麗しい女子に聞かせるには酷な内容で、袁紹は思わず言葉を濁してしまったが、それが返って彼女等の不安を誘うものになってしまった。

 

「そこでだ、我から提案がある」

 

「…………聞かせて下さい」

 

「お主等の問題は後ろ盾が無い事である。この大陸において『張角』とはすでに討たれた存在。疑いをかけられたところで、それを弁解できる保護下にあれば問題はないのだ」

 

「それが、此処ってわけ?」

 

「然り、我が陣営なら噛み付く者も少なかろう。お主達の安全を保障できる」

 

「……私達の待遇、役目は何ですか?」

 

「無論、至れり尽くせりという訳にはいかぬ。御主達には常に監視の者達をつけ、ここ南皮において慰問活動をしてもらう」

 

「ちぃ達を扱き使うつもり!?」

 

「待って、ちぃ姉さん」

 

 袁紹に喰いかかろうとする姉を止めて人和は思案する。先程の袁紹の提案、一見自分達を利用することしか考えていないように聞こえるが、果たしてそうなのだろうか。

 常に監視がつくとの話だが、此方が害を成したりしなければ唯の護衛になるだろう。慰問活動と言っていたが、彼等の指揮下になるだけで歌と踊りが出来るのは変わらない。そもそも、この提案は自分達からお願いしたいほどのものだ。

 

「お姉ちゃんは良いと思うな~」

 

「天姉さん……正気?」

 

「あ、ひっど~い!」

 

「ちなみに、私も賛成よ」

 

「人和まで……大陸中で活動出来なくなるのよ!?」

 

「む、我がいつお主達を南皮だけに留めると言ったのだ」

 

「「「え?」」」

 

 三姉妹が間の抜けた声を上げ、口を半開きにする。容姿は違えどやはり姉妹なのだと実感しながら、袁紹は苦笑交じりに口を開いた。

 

「少し早いが聞かせよう。我が理想そして、その中においてお主達が行き着く先を――」

 

 大陸を満たし、民衆に生を謳歌させる世を作るという袁紹の理想。まるで夢物語のようなそれに、始めは難しい顔をしていた三姉妹。

 しかし、袁紹の余りにも堂々とした言葉を聞き、彼は本気なのだと悟ると。地和は少し渋っていたが最終的に三姉妹は袁紹の提案を了承した。

 

 満たされた世の中において、歌と踊りで一世を風靡している自分達に夢想しながら――

 

 こうして袁紹は、兵達の士気を爆発的に上げ、さらに多数の志願兵を募る事の出来る張三姉妹を。陣営に迎え入れることに成功した。

 

 

 

 

 

 

 

 

「正直、私達を閨に入れるかもと思っていたわ」

 

「お姉ちゃんはそれでも良かったけど?」

 

「な!? 天姉さん!!」

 

「……据え膳食わぬは男の――」

 

「「麗覇様!!」」

 

「じょ、冗談だ! 名族冗談!!」

 

 

 

 

 

 

 




NEW!天然長女 張角

好感度 30%

猫度 にゃ~ん

状態 普通

備考 長女だけあって人を見る目に長けている
   袁紹から邪気を感じていたら話しが拗れていた



NEW!小悪魔次女 張宝

好感度 5%

猫度 冗談じゃないわ!

状態 警戒

備考 三姉妹の中で最も袁紹を警戒している
   しかしそれは姉妹達を守りたいという思いの表れである



NEW!原石三女 張梁

好感度 50%

猫度 ニャ……ニャン

状態 尊敬

備考 袁紹の提案が自分達の為の物だと一番理解している
   その理想、目標を通して彼を知りたいと思っている

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