今回は特にストーリー進行はありません。
では、どうぞ。
Side Out
森の中に展開された結界内部。
そこでは現在、巨鳥の姿をした暴走体となのは、ユーノの2人が空中を飛び回りながら戦闘を行っていた。
桜色の誘導弾、ディバインシューターがあらゆる角度から暴走体に襲い掛かって翼を撃ち抜き、飛行バランスが崩れたところへユーノの飛ばしたチェーンバインドが巻き付く。
「なのは!」
「うん!」
ユーノの声に答え、レイジングハートがシーリングモードに変形する。
桜色の光が巨鳥を貫き、巨鳥の顎下にⅧの文字が現れる。
「リリカル・マジカル。ジュエルシード シリアルⅧ、封印!」
巨鳥が桜色の光に包まれ、ジュエルシードが封印される。
ゆっくりと地上に降下してきたジュエルシードはレイジングハートのコアに吸い込まれ、なのは達は息を吐いて力を抜く。
『状況終了です。ジュエルシード NoⅧ、無事確保。お疲れ様、なのはちゃん、ユーノ君。転送ゲートを作るから、そこで待ってて』
アースラのオペレーターの声を聞き、なのは達は笑顔で答えた。
「う~ん。2人ともなかなか優秀ね。このままうちに欲しいくらいかも」
艦長席に座るリンディは笑顔でそう言いながら別室で調べ物をしているクロノとエイミィに通信を繋ぐ。
「クロノ、こっちはシリアルⅧが封印完了したわ。エイミィ、そっちはどう? フェイトさんの場所は追えそう?」
『ダメですぅ~……フェイトちゃん、かなり高性能なジャマー結界を使ってる上に、使い魔のサポートも加わって見つかりません』
通信先でデスクの上にくたびれた様子で倒れるエイミィ。
だが、通信ウインドを見ながらクロノが右手でエイミィの襟を掴み、倒れるのは許さんと言うように椅子へ戻す。エイミィは半分涙目である。
『すでに先回りされて、こっちが発見したジュエルシードをすでに2つ奪われています。急いで何か対策を打たないと……』
「そうね~。その点も何か考えないと…………ところでクロノ、シノン君は、もしかしてまだ続けてるの?」
『そのまさかです。エイミィ、訓練室の映像を……』
ハイハ~イ、と答えたエイミィが素早くキーボードを叩くと、画面の端に訓練室の内部映像が映し出される。
そこでは、バリアジャケットを展開したシノンが大太刀を振り回していた。ただ上半身はコートを脱ぎ捨て、黒いインナーだけになっているが。
一定の範囲内から移動せず、動きを止めずに大太刀を振り回しているが、まったくブレない重心制御はリンディから見ても見事だ。
しかし、シノンの顔は大量に大粒の汗を流している。動きを止めれば即座に呼吸が乱れ、肩を激しく上下させることだろう。
体力が尽きそうなのは目に見えて明らかだが、シノンは止まらずにその瞳に移す仮想の敵を斬り裂き、蹴り砕き、殺し続けている。
「……恐ろしいわね。私の覚えてる限り、訓練室に入ったのは4時間程前だけど、それからずっとこの調子なの?」
『はい。休憩らしい休憩は一度も取っていません……ですが、これでハッキリしました。僕は今まで、自分が負けたのは彼が近接戦闘の天才だからと心の何処かで思っていましたけど、違いました。
彼の強さは、凄まじい努力と経験が積み重なったものです』
『そうだよね~。実際、魔法面の才能は魔力量と全然釣り合ってなかったし。魔法使用の適正も随分偏ってたね』
若干苦笑いを浮かべるエイミィの言葉にクロノとリンディは心中で同意する。
クロノとの模擬戦後、報酬として要求した資料を受け取ったシノンはアースラで魔導師としての適正検査を受けた。
そして、装置から叩き出された結果は、色んな意味で見る者を驚かせた。
まず保有魔力量、こちらのランクはなんとSS。なのはやフェイトを上回るほどの膨大な魔力を有していた。
続いて使用出来る魔法の適正だが、こちらは随分と変わったものだった。
1つ目、射撃魔法は適正が無いわけではなかった。しかし、“誘導弾が撃てない”という重大な欠点があった。つまり、直射弾しか撃てないのである。
2つ目、砲撃魔法の適正はまったく標準レベル。優れている点も、劣っている点も特に無い。
3つ目、バインドによる拘束魔法。これの適正はまったく無かった。
武器や体に魔力を纏わせる武器・身体強化、防御面などの練度は標準以上。魔法適正の大半は此処に集中していた。どうやら、近接系の戦闘スタイルなのは確実なようだ。
最後に飛行魔法だが、こちらが一番異質な結果を出した。
確かに空に浮くことは出来た。だが、上下前後左右、全方向において真っ直ぐにしか飛べない……つまりは“一度進んだら曲がれない”という暴走列車のような特性があったのだ。
おかげでシノンは勢い良く顔面から壁に激突。体が壁にめり込むという姿を実現させた。あの時の沈黙した空気の重さを、クロノは今でも忘れられない。
結果、出されたシノンの評価は、保有魔力は膨大だが使用魔法の適正は標準ギリギリのアンバランサー、というものだった。
「正直、意外だったわね。アレだけ強いんだから、てっきり魔力量に見合った広域型か、遠近両方高水準の万能型かと思ってたわ」
『でも、シノン君の魔法適正って、下手したら並みの武装局員より低いですよね』
『そうだな。でも、“彼個人の強さ”は多分オーバーSランクの魔導師に届く』
魔法にろくに頼らず、Sランクオーバーに匹敵する戦闘技能。
それはある意味、リンディ達にどうしようもない恐怖を感じさせた。
* * * * * * * * * *
Side シノン
休むことなく大太刀を振り回し、瞳に映す仮想の敵を斬り伏せていく。
無数の敵に囲まれている状況を想定し、あらゆる方向から迫る攻撃を全て見切る。少しでも足を止めれば串刺しにされるので、回避も休み無しだ。
「はっ!……っ!」
だが、今まで続けてきた回避の動きが突然乱れた。
見ると、床に落ちて溜まった汗を踏んだ足がプルプルと震えながら姿勢を維持していた。どうやら、踏ん張りが利かなくなる程まで足が疲れたらしい。
「死亡確定……原因は自分の汗と足腰の限界、か」
『ですが、現実的に考えれば敵は戦意を損失してとっくに撤退していますよ? というか、流石にもうお休みください。これ以上の鍛錬は何の意味もありません』
「だな……今の自分の体力限界は大体分かったし、今日はこの位にしとくか」
大太刀を鞘に収め、訓練室の壁に背中を預けるように座る。
乱れる呼吸を整えながら、体内で上昇する熱を確かに感じる。
顔面はともかく、体から流れる汗はバリアジャケットが完全に除去してくれるのでべっとりとした不快感は時間と共に徐々に消えていく。
「あ、あの……」
ふと控えめな様子の声が聞こえ、俯き気味だった視線を持ち上げて正面を見る。
すると、そこには緊張したような様子でオレを見る金髪の少年と栗色髪の女の子がいた。
「ああ、確かユーノ・スクライアと高町なのは、だったか? さっきまでジュエルシードの封印に向かってたんだろ。お疲れ様」
「あ、ありがとうございます!……あの、よかったらこれ……」
高町なのはがおそるおそる差し出してきたのは、白いタオルとドリンクだった。
「おお、ありがとう」
受け取ったタオルで顔を拭いてドリンクを飲んでいると、こちらをじっと見詰める2人の視線に気付く。どうやら、差し入れだけが用件じゃないらしい。
「……それで? 他にも用があるんじゃないのか?」
「え!? あの……その……」
オレの言葉に高町なのはは激しく動揺するが、隣にいたユーノ・スクライアが肩に手を置いてそれを落ち着ける。
そして、深呼吸を数回した高町なのはは何かを決意したような表情でオレを見る。
「あの……お願いします! 私を、鍛えてください!」
そう言った高町なのはに続き、ユーノ・スクライアも深く頭を下げた。
「鍛えてほしい、ね……理由を訊いてもいいか? というか、そもそも何でオレに頼む。クロノの方が教えるには適任だろ」
模擬戦の後に行ったオレの適正検査の悲惨な結果はこの2人も知ってるはずだ。
魔導師としてオレがこの子に勝っている点といえば、保有魔力だけだ。
「……私、フェイトちゃんとお話がしたいんです。どうしてジュエルシードを集めているのか、他にもいっぱい。でも、今の私の強さじゃ話を聞くことも出来ないんです」
話がしたい、か。
ぶちのめしたいとかいう理由だったら拳骨叩き込んで追い返してたところだが、どうにもそれだけには見えないな。彼女本人、それに気付いてるか分からんが。
「クロノ君にはもう相談しました。そうしたら、シノン君の方が絶対に向いてるって。理由はフェイトちゃんとの戦闘記録を見せてみればわかるそうです」
丁寧に教えてくれてありがたいが……アイツ、結局はオレに半分丸投げしただけだろ。
理由をあえて教えず、この子をオレの所に直接向かわせた時点で策略を感じる。
おのれクロノ、今度エイミィさんと協力して恥かかせてやる。
「……事情はわかった。とりあえず、その記録を見せてくれ」
そう言うと、高町なのはは元気に頷いてオレの隣に膝を付き、自分のデバイスからウインドを眼前に表示してフェイトとの戦闘映像を映す。
(近いんだが……)
すぐ真横にある高町なのはの顔に少し気が引けたが、すぐに関心を捨てて映像に視線を戻す。そこに見えるフェイトの動き、攻撃、使用される魔法。動作の1つ1つを細かく情報として理解する。
映像の中に見えるフェイトの魔導師の技量はオレの目から見ても明らかに高い。
何より、一番秀でているのは重力を無視するような高速機動だろう。
一瞬で消えるような高速移動と共に魔力刃によって形状を大鎌に変えたデバイスが振るわれ、時には槍のような形をした魔力弾と雷を纏う大威力の砲撃を放つ。
(まるで死神だな……)
大鎌の形状のデバイスと黒衣のバリアジャケットを見て自然とそう思った。
続いて高町なのはの戦い方を見てみると、こちらはフェイトと対を成すような戦い方をメインとしていた。フェイトを接近戦型とするならこっちは遠距離型だろう。
高速移動するフェイトにも追い着く速度で数発の誘導弾が迫り、敵の動きが止まった所を狙って高威力の砲撃が一直線に突き抜ける。
時折フェイトの放つ射撃魔法が当たりそうになるが、展開された強固な防御障壁によってダメージを軽減するどころか体勢を微塵も崩さない。
しかもフェイトの消えるような高速移動ほどではないが、空中を駆ける飛行速度は決して遅くない。むしろかなり速い方だろうし、旋回性能も高い。
(こっちは、さながら移動砲台か……?)
心中で呟きながら2人の総合情報を比較。高町なのはがフェイトに勝っている要素、劣っている要素を見つけ出し、勝つ為に必要な鍛練内容を組み上げる。
……にしても、こうして見ると2人の持つ異常な才能がよく分かる。9歳でこの強さだ。このまま魔導師として鍛練と経験を積めば、その強さは群を抜いた最高クラスに届くだろう。
「……プランだけは頭の中に出来た。オレ自身、鍛えることは別に構わない。一応言っておくが、やるからには厳しいぞ? 覚悟はあるか?」
引き受ける以上、この子を鍛えることに手を抜くつもりは無い。フェイトに勝てる、少なくとも互角の立場に立てるよう強くしてみせる。
だから厳しく教える。子供だからと甘やかしていたら絶対に無理な目標だ。
「……はい。大丈夫です」
オレの質問の意味をちゃんと理解してくれたようで、高町なのはは数秒の間を置き、力強い瞳でオレを見てハッキリと頷いた。そして返答を貰った以上、オレのやることは決まった。
「んじゃあ、決まりだな。いつ始める? お前の好きな時でいいぞ」
この子はさっきまでジュエルシードの暴走体を相手にしてたし、疲労もまだ残ってるだろう。鍛練に支障が出るか出ないかで言えば特に無いが、今はこの子に任せよう。
「はい! それじゃあ……」
笑顔で頷く高町なのは。
すぐさま立ち上がり、バリアジャケットを纏い、その手に杖の形状となったデバイスを持つ。
「…………今から?」
「はい!」
……どうやら、若さというものを甘く見ていたらしい。
心の中で感心しながら、オレはゆっくりと立ち上がった。
ご覧いただきありがとうございます。
シノンの魔法面での才能はかなり偏ったものでした。管理局で魔導師として働いたら色々と絶望的なステータスです。まあ、術技と身体能力で何とかしますが。
次回はストーリーが進みます。
では、また次回。