白銀の来訪者   作:月光花

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お久しぶりです。

最近忙しくて執筆の時間取れませんわww

今回はアースラの黒ショタとの戦いです。

では、どうぞ。


第6話 VSアースラの切り札

  Side Out

 

 クロノ・ハラオウンは弱冠14歳でアースラスタッフを含めた多くの人間からその実力を認められている。

 

管理局内でエリートという言葉を現す執務官の役職に付き、AAA+の魔導師ランクを習得している。

 

その場所に至るまで多くの努力を積み重ねてきたが、努力が報い、その年齢で今の地位に至ったのは立派な才能である。

 

そして、当の本人は現在自身のデバイス、S2Uを持って前方に立つ自分の敵と向き合っていた。

 

背中まで届く銀髪に視線を引き寄せる蒼色の瞳、今現在の表情からは特に感情は見当たらず、ただ静かに腰に差した大太刀に左手を添えている。

 

その少年、シノン・ガラードが相手になるのだが、その実力を知り、理解することが今回の模擬戦の目的である。

 

対戦者両名とアースラスタッフの了承を得ての模擬戦であり、リンディとエイミィ、なのはとユーノはその様子をモニターで見ている。

 

「それにしても意外でしたね。クロノ君がこんな案を出したのもですけど、シノン君は断ると思ったんですけど」

 

「心配ないわ。ちゃんと今回の模擬戦の報酬を要求してるから。

クロノが言うには、勝ったら魔法技術とデバイスに関しての詳しい資料を貰いたいそうよ」

 

「あはは、抜け目無いですね。でも、いいんですか? いくら模擬戦でも、まだジュエルシードは残ってるのに……」

 

「確かにそうだけど……シノン君の力は少しでも見ておきたいわ。条件を了承はしたけど、彼の実力は分からないことが多過ぎるもの」

 

本人にその詳細を聞けずとも、今は少しでも情報が欲しい。

 

だからこそ、リンディにとってこの模擬戦はある意味でありがたかった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「え~っと、んじゃあ今回の模擬戦のルール説明をするね。

 どっちかが降参するか戦闘不能になるかで勝敗を決定。攻撃方法は基本的に制限無し。ただし、シノン君のデバイスの刀身には魔力ダメージに変換する刃潰しの保護シールドが働いてるからね。」

 

エイミィの説明にシノンとクロノは無言で頷き、互いのデバイスを構える。

 

開始の合図は無いので、どちらかが動けばすぐにでも戦闘が開始される。

 

『Stinger Ray.』

 

シノンに向けたS2Uの先端に青い光が集り、魔力弾が発射体勢になる。

 

対してシノンは大太刀を握る右手をダラリと下げるだけで動かず、僅かに細められた視線はS2Uの先端を捉えている。

 

「最初に言っておく…………やるからには、勝たせてもらう」

 

発射。放たれた青白い閃光の速度はまさに高速。その閃光はシノンの頭部に向かって真っ直ぐ迫る。

 

だが、シノンはそれを大太刀の一振りで斬り裂き、空中に霧散化させる。

 

そして、霧散化した魔力の中を地面を蹴ったシノンが通過し、凄まじい速度で突っ込んでくる。

 

滑空するような連続跳躍で地面を蹴り、確実にクロノとの距離を縮める。それを許さんとさらに数発の魔力弾が放たれるが、シノンはその全てを斬り裂いて突き進む。

 

「速度と貫通力に秀でたスティンガーレイを全て叩き落すか。とんでもない動体視力だな。だったら、こっちも戦い方を変えよう……」

 

『Stinger Snipe.』

 

新たに生み出された青色の魔力弾。その数は5発。

 

先程と同じとは思えなかったが、シノンは変わらず正面から突撃する。

 

そして、思った通り青い魔力弾は突然コースを変え、シノンを囲むように様々な方向を飛び回る。

 

そのまま進むと蜂の巣にされると感じたシノンは足を止める。しかし右手の大太刀は未だに構えず、周囲に視線を巡らせるのみ。

 

前方から2発の誘導弾が間近に迫り、シノンは左足で地面を軽く蹴って重心を右側に大きく傾ける。その様子から右に回避すると判断したのか誘導弾も右に傾く。

 

 

だが、誘導弾が“右に傾いた瞬間”にシノンは弾かれたように左側へと急加速し、誘導弾の隣を通り抜けた。

 

 

「なっ……!」

 

驚愕で目を見開くクロノ。

 

だが、即座にマルチタスクによって他の魔力弾2発を操作し、今度はシノンの両側面から挟撃を狙う。

 

魔力弾を視界に捉えたシノンは両足で地面を強く踏んで急停止。そこからすぐに後方へとバックステップする。

 

その動きを追って左右の魔力弾も軌道を変える。

 

だが、魔力弾が“軌道を変えた瞬間”にシノンは再び弾かれたように前方へと急加速。またも魔力弾2発の間を通り抜けた。

 

(まただ……! 単純な速さだけじゃない。これは……!)

 

経験上、クロノは誘導弾を無効化する方法を大きく2つ知っている。

 

障壁で受け止める、同じ誘導弾で撃ち落とす……異例として誘導弾を叩き落すなどがあるが、殆どは前半の2つだ。

 

シノンのやっていることはそのどれにも当て嵌まらないが、単純に考えれば納得の出来る避け方だった。

 

ただ、魔力弾の“軌道が変わった瞬間に”正反対の方向に走り、その隣を通過しているだけだ。

 

 

“動き出した直後に正反対の方向へ移動することは出来ない”

 

 

人間の首が右と左を同時に見れないのと同じことだ。

 

しかし、それを実現出来るかどうかとなればまったくの別問題になる。普通に考えれば避けるタイミングを合わせるだけでも至難の技だ。

 

だが、誘導弾の弾道が思念操作によるものだと見抜いたシノンは鍛え抜いた動体視力で弾道と着弾までの時間を完全に読み取り、迎撃・回避の第一条件をクリア。

 

続いて実戦の中で理解した肉体の動かし方……具体的に言うなら一気に最高速に乗る急加速、一気に速度をゼロにする急停止……衰えた肉体でも速度を得る敏捷性が回避を可能にしていた。

 

加えて、こんな教本に喧嘩を売るような回避法はクロノの思考に僅かな動揺によるノイズ効果をもたらしていた。

 

「くっ………! 魔力を一切使わずにこの動き……なるほど、堂々と金を報酬に自分の実力を売るのも納得だ」

 

「鍛えてんだよ。それに、魔力以前の話で何より信用出来る能力ってのは自分の体だろ」

 

至極当然という様子でそう答えたシノンが走りながら大太刀を構えてクロノに急接近する。

 

右袈裟に放たれた斬撃が狙うのはクロノの左胸。

 

だが、思わぬやり方で誘導弾を避けられたクロノはシノンにかなりの距離の接近を許してしまい、回避の選択肢は無かった。

 

『Round Shield.』

 

突き出した左手から円形魔法陣の障壁が展開され、大太刀の進行が阻まれる。

 

だが、シノンは防御されるのを初めから予想していたように大太刀から右手を離し、入れ替えるように右足の踏み込みと共に掌底を打ち込んだ。

 

「掌底破!」

 

障壁と打撃がぶつかった瞬間にはっきりと大きな衝突音が響き、周囲に拡散した衝撃波と共に障壁が粉々に砕け散る。

 

そのまま掌底はクロノの腹部に打ち込まれ、後方に吹き飛ばす。

 

数回地面を転がってようやく勢いが止まるが、そこへ大太刀を構え直したシノンが地面を蹴って再び距離を詰める。

 

クロノが追い詰められている。

 

そう思われた状況の中、優位に立つシノンの周囲に変化が起こった。

 

突然シノンの足元が発光し、展開された魔法陣から魔力で作られた青色の鎖が飛び出し、即座にシノンの体を拘束した。拘束に使われる魔法、バインドだ。

 

クロノは吹き飛ばされながらもシノンが通過すると思われた場所にこのディレイドバインドを設置し、見事罠にはめたわけだ。

 

そして、咳き込みながら立ち上がったクロノは左手で腹部を押さえながらもS2Uの先端をシノンに向ける。

 

「くらえっ!!」

 

『Blaze Cannon.』

 

先程の誘導弾とは比べ物にならないレベルで青い魔力が集まり、身動きを封じられたシノン目掛けて真っ直ぐ放たれる。

 

だが、素直に直撃を許すシノンではない。

 

バキン! と金属を力尽くで引き千切ったような音が響き、バインドによる拘束の中からシノンが右足だけを自由にする。そのまま足を振り上げると、突然に発生した炎が靴底から足首までを包み込んだ。

 

「紅蓮……襲撃ッ!」

 

踵落としのような形で振り下ろされた右足がシノンの足元を踏み砕き、その場所から巻き起こった爆発の衝撃と炎がバインドを砕いた。

 

全員がその行動を自爆に思ったが、炎の中から飛び出したシノンは無傷。そのまま眼前に迫る青色の砲撃を睨み付け、ゆっくり大太刀を正眼に構える。

 

その様子はまるで、何かを斬ろうと精神を集中させているように見える。

 

 

しかし、シノンの相手もそれを素直に許すことはしなかった。

 

 

ヒュンッ! と小さな風切り音が響いた直後に大太刀を構えていたシノンの後頭部に1発の魔力弾が直撃し、視界が大きく揺らいだ。

 

(さっきの、誘導弾…………最後の5発目か……!)

 

さっきシノンが避けた魔力弾は4発。クロノが撃った誘導弾の数は5発。今シノンの後頭部を直撃したのは“今まで待機させていた”5発目だ。

 

体勢が崩れたシノンは構えも崩れて前のめりに倒れそうになるが、途切れそうな意識を気合で強引に引き上げ、その瞬間に発揮出来る限りの力で大太刀を唐竹に振り下ろす。

 

苦し紛れに思われた斬撃。

 

だが、ここで再びクロノの積み重ねてきた経験が根底から揺らいだ。

 

 

なんと、クロノの放った砲撃が半分程まで“斬れた”。

 

 

それは間違い無くシノンの斬撃によるものだが、大太刀が斬り裂いたのは半分まで。結局シノンは青色の砲撃をくらい、爆発に呑み込まれた。

 

しかし、何処からか集まった風が吹き荒れ、すぐに爆煙を吹き飛ばす。

 

そこから歩いてきたシノンは砲撃をくらってバリアジャケットの一部が破けていたが、本人は特に大きなダメージも無いらしく、左手で煙を払っている。

 

「ふぅ~……やれやれ、ちっと読み違ったな。心のどっかでお前らの『魔法』を軽く見てたらしい。誘導弾ってのは避けずに潰すべきだな。うん」

 

1人で頷きながら自分の反省点を挙げるシノン。

 

だが、そんなシノンに対し、クロノは心の中でこれまで以上の危機感を抱いていた。本音を言うなら、今の砲撃で倒れてくれるのを願っていた。

 

目の錯覚でなければ、先程シノンは確かに砲撃を斬った。それも後頭部に魔力弾の直撃を受けて気絶しそうだった状態の斬撃で。

 

まだわからないが、あの時構えを崩していなければ、本当に砲撃を真っ二つに斬り裂かれていたかもしれない。そう思うと冷や汗が流れてくる。

 

「さて、続きといこうか……」

 

大太刀を構え直したシノンの発言に我に返り、クロノは再び集中する。

 

互いに動き出し、シノンは再び自分の脚力で距離を詰め、クロノは接近を阻む為に再び誘導弾を発射。同時にマルチタスクによって幾つかのバインドを準備する。

 

シノンの進行を阻止しようと誘導弾が正面と両側面から2発同時に襲い掛かってくる。よく見ると時間差で側面からも残りの誘導弾が来るようにしている。

 

シノンは足を止めずに大太刀を右薙ぎに一閃、魔力弾二発を切り裂く。そのまま右腕を振り抜き体を一回転させながら跳躍。頭を地面に向けた体勢で回転斬りを放つ。それによって側面から来た残りの誘導弾を切り裂く。

 

空中で体を捻って地面に着地。そして再び走り出す。

 

数秒で全ての誘導弾を無力化されるが、クロノも心の何処かでその展開を予想していた。あんな避け方が出来るなら叩き落すのも難しくない。

 

クロノはシノンの移動ルートを予測して各所にバインドを準備する。しかし、シノンは斬撃の射程外で大太刀を逆右袈裟に振るった。

 

「蒼破刃ッ!」

 

大太刀のコースに沿って放たれた蒼色の斬撃が空中を走り、予想していなかった攻撃にクロノは障壁を展開して受け止める。

 

しかし、防御で足が止まってしまい、それがシノンの接近を許した。

 

左側面に回り込んでの右薙ぎの斬撃が放たれる。咄嗟に反応したクロノは体勢を変えてデバイスをぶつける。

 

腕力の優劣ですぐに押し負けるが、クロノの狙いは別にあった。

 

後ろに弾かれたデバイスを手首のスナップで回転させ、突き立てる。S2Uの先端から強力な振動エネルギーが放たれる。

 

「ブレイクインパルス!」

 

「甘い」

 

しかし、この選択はクロノにとって失敗でしかなかった。

 

シノンは右薙ぎに振るった大太刀の刀身を返して左逆袈裟に振るい、S2Uの持ち手部分を的確に弾いて上に打ち上げる。

 

クロノの腕が跳ね上がり、無防備な胴体部がシノンの眼前に広がった。

 

(まずい……!?)

 

クロノは今までの中で最大の悪寒を感じ、シノンは追撃の体勢を取る。

 

再び大太刀の刃が返され、クロノの目がゆっくりと胴を真っ二つにするような斬撃を映す。

 

防御が間に合わないと判断し、クロノは出来れば使いたくなかった手札を切る。

 

瞬時に発動した飛行魔法によって両足が地面から離れ、上空への加速で大太刀の間合いからギリギリ逃れる。

 

「なるほど飛行魔法か……けど、そこも安全じゃねぇぞ」

 

改めて近接戦闘に圧倒的な差を感じる中、シノンは頭上に浮かぶクロノを見上げながら呟いた。

 

「荒れ狂う流れよ……」

 

詠唱に入るシノン。

 

その力の正体を知らないが、良い予感がしなかったクロノはデバイスを構えて魔力弾を生成する。しかし、シノンが指を鳴らすよりは遅かった。

 

「スプラッシュ」

 

すると、空中に浮くクロノの頭上から突然大量の水が降り注いだ。

 

ただ降り注ぐだけでなく、消火ホースを使われたような水圧を全身に感じたクロノは息苦しさを堪えながら混乱する思考を落ち着ける。

 

しかし、思考が復帰するよりも先にクロノのコートの襟元をシノンの左手が掴み、物凄い力で引き寄せた。

 

「なっ……! どうして、ここは空中……!」

 

「この程度の高さならジャンプで届く」

 

そう答えたシノンは体を横に捻りながら左手に掴んだクロノを空中でぶん回し、真下の地面目掛けて全力で投擲する。

 

「な、なにぃぃぃぃぃぃ!?」

 

叫びながら真っ直ぐ地面へと落下し、クロノは派手に激突した。

 

バリアジャケットのおかげで肉体がひどいことにはならなかったが、それでも落下時の衝撃でクロノは目を回した。

 

そこへ………

 

「チェックメイトだ」

 

左手で頭を抑えながら立ち上がろうとしたクロノの首元に大太刀の刀身が添えられる。

 

ゆっくり顔を持ち上げると、特に感情の色を映していないシノンがいる。

 

「……続けるか?」

 

今首元に添えられている刀身には保護シールドが張られている。よってダメージを受けても即死することにはならない。

 

そのことを含めての今の短い問いなのだろう。

 

しかし、そう思って模擬戦を続行するほど、クロノは子供ではなかった。

 

「……僕の負けだ」

 

その言葉を合図に、模擬戦の結果はシノンの勝利で終了した。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

とりあえず、今回の戦闘でシノンの強さは最低でもAAAランクに届く位に証明されました。

次回くらいからシノンにも魔法を絡ませていきます。

では、また次回。

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