しっかし、なんか執筆進まねぇな。
では、どうぞ。
Side Out
「……これより、ロストロギア、ジュエルシードの回収は時空管理局が全権を持ちます」
リンディの言葉になのはとユーノは目を見開き、シノンはまぁ当然か、と心の中で呟く。まあ、納得するかは別問題だが。
この中で精神年齢が第二位のシノンはともかく、なのははフェイトとコンタクトを取る手段が封じられたのだ、驚きも当然だろう。
「事は重大なことだ。民間人が関与するレベルの話じゃない」
「でも・・・・でも、私・・・・」
「と言っても、いきなりじゃあなた達も混乱するでしょう。だから、今日一日じっくり考えてそれから改めて話をしましょう」
なのはは何とか必死に言葉を探そうとする。
そこへリンディが微笑みながらフォローを入れるが、なのはとユーノの視線は俯いたまま。
そしてシノンだが、こちらは表情に変化も無く、リンディの言葉を聞いて、先程感じた引っ掛かりの正体を理解した。
(そういうことか………何だかんだ言って、この女も策士だな。さて、オレとしては管理局もこの2人も無視すれば問題無いが……)
ちらりと目を向けると、目に見えて落ち込んでいるなのはとユーノがいる。シノンの予想が正しければ、結果的にはこの2人の望む形にはなるだろう。
しかし…………
(少し気に入らんな……手伝うのは決まりのようだが、無自覚に利用されるのは良くないだろう。仕方ない……)
「全権を持つのは了解しました。けど、幾つか確認したいことがあります」
「ええ、構わないわよ。何かしら?」
「さっきあなたは全権を持つと言って、そちらの執務官は民間人が関与するレベルの話じゃないと言った。それなら、何故1日じっくり考える必要があるんですか?」
それは、普通に聞いていれば気付きもしない矛盾点だ。
シノンの質問を聞き、その場の全員の表情がそれぞれ変化した。
なのはとユーノは俯き気味だった視線を持ち上げて首を傾げ、シノンの質問の意味に気付いたクロノとエイミィはハッとなり、リンディは一瞬目を見開いて僅かに汗を流す。
そして、その動揺はシノンの予想が正解だという確信を与えた。
「ついでに言えば、関わらせないなら余計な情報は一切与えないはずです。なのに、聞いてもいないのに過去にあった災害のことを教えて無用な不安を与える理由も教えて欲しいですね」
そこまで聞いて、クロノとエイミィはシノンが何を言いたいか、リンディの言葉の裏に隠された目的に気付いた。
「ハッキリ言おう。あなたはオレ達にロストロギアの危険性を教えながらもあえて放置し、自分から協力を申し込ませようと促したんでしょう」
そう。考えてみればおかしい。
関わらせないなら余計な情報は一切与えないはず。なのに過去にあった災害の情報を聞けば、当然不安になる。自分の世界がそんな風に消えるのではないかと。
そして、魔導の力と素質を持つなのは達にはそれを防ぐ力がある。シノンはともかく、なのはとユーノは迷わずその災厄を防ぐことに力を使うだろう。
リンディの言葉の中には、短い時間の中でその優しい人柄を理解したからこその策略が隠れていたのだった。
全員の視線がリンディに集まる。リンディは固く目を閉じて黙っていたが目を開き、なのはとユーノ、シノンに頭を下げた。
「ごめんなさい………白状します。シノン君が言ったように、あなた達の決断を誘導したことは事実です。ですが、あなた達へ失礼を働いたことを承知でお願いします。ジュエルシードの回収に力を貸してくれませんか」
全員からの視線を向けられている中、リンディは3人に頭を下げて頼んだ。しばらくの間、沈黙がその場に落ちた。
「私は……手伝いたい。ジュエルシード探しは全力でやるって決めたから」
「僕も手伝います……元々僕はそのために来たんだし」
決意を固めて顔を上げたなのはとユーノは迷い無く頷く。
そして残る1人、シノンは頷かず、静かに目を閉じて言葉を続けた。
「………協力は構いません。ですが、幾つか条件があります」
全員の視線が向く中で、シノンは突き出した右手の指を3本立てた。
「1つ、オレの素性や能力などについては一切の詮索をしない。情報公開も同じく無しです」
シノンの使う術技は、管理局の知る魔法とは技術的な形が大きく違う。
精霊や闘気などの詳細がばれたら、どれだけこの連中が騒いで追求し、面倒なことになるかわからない。故にこれは絶対条件だ。
「2つ、ある程度はこちらの判断で行動する権利を貰いたい。確かにロストロギアにはそちらの方が詳しいかもしれませんが、こっちにも都合がある」
なにより、誰かの言いなりというのは性に合わないしなと心中で付け足す。
基本的には指示に従うつもりだが、何もかも言われるままでは多分まずい。十数年以上の傭兵としての経験が、シノンにそう告げている。
「最後に………今回の事件解決の際に報酬をいただきたい。詳しい金額は後ほど決めますが、こっちの世界の金でお願いします。
別に不謹慎だの最低だの思ってくれて構いませんが、こっちは懐どころか身寄りにも当てが無いもので。命がけで働いた分は貰っても良いでしょう」
それが最後の条件だった。
実質、シノンに明らかなメリットを与えるのは最後の条件だけ。
「………つまりあなたは、ただの協力者ではなく、報酬を対価に働く傭兵として自分を雇え、と言いたいのかしら?」
「そう理解してくれて構いません。さっきの条件を承諾してくれるなら、オレはジュエルシードの回収と事件解決への尽力を約束しましょう。
ただ、もしオレを上手いこと騙して消そうなんて行動を起こせば―――殺すぞ」
その瞬間に出せる限りの殺意と殺気を込めてシノンは言葉を紡ぎ、睨み付ける。
ちなみにこれはブラフではない。相手が条件を破ればシノンは何が何でもリンディを殺すつもりだ。大きな声で言えないが、今までも何度かそうしたことがある。
不意打ちで加減抜きのシノンの殺気を受け、リンディを含め全員が息を呑んだ。
どうやら効果があったらしく、シノンの本気も充分伝わっただろう。
「………わかりました。では、シノン君の条件承諾を含めてあなた達3人にジュエルシード回収の協力を依頼します。じゃあ、報酬について詳しい話をしましょうか」
そう言ったリンディの言葉に頷き、エイミィとクロノが立ち上がってなのは、ユーノの2人と一緒に部屋を出た。
そして、部屋に残された2人は、すぐに報酬についての話を始めた。
* * * * * * * * * * * * *
「いやぁ~……にしても、なのはちゃんとあの黒い子、2人共スゴイねぇ」
「そ、そうですか?」
エイミィの突然の褒め言葉に、褒められたなのはは戸惑いながらも嬉しそうに笑顔を浮かべる。
シノンとリンディを残して部屋を出た全員は、現在アースラのブリッジで巨大モニターを見ていた。
そこには、先程のなのはとフェイトの戦闘時の映像が映されている。
「すごいよ。だって、管理局でも5%いるかいないかの魔力量だもん。なのはちゃんの総合魔力量は127万……んで、こっちの黒い子……」
「あ、フェイトちゃんです。フェイト・テスタロッサ」
「そうそう。フェイトちゃんは143万。最大発揮時はその3倍以上。魔力量だけなら、クロノくんよりも強いよねぇ」
「魔法は魔力だけで決まるものじゃない。状況に応じた応用力と使用できる判断力だろ」
クロノが憮然とした表情で答え、エイミィはそれを笑いながらあやす。
「でもさ……そう考えるとやっぱり、シノン君って強いのかな?」
エイミィの質問にクロノは腕を組んで目を伏せ、深く考える。
「……具体的な強さはわからない。少なくとも、近接戦闘じゃ僕に勝ち目は無いと思う。さっきも艦長が介入しなければ危なかった」
「あの人が強いのは間違いないと思います。ジュエルシードの暴走体を無傷で倒したくらいですから」
クロノの予想にユーノが事実を付け足す。
強いのは間違いない……だが、どのように強いのかわからない。
ある意味では一番怖いのかもしれない。
実際、シノンの強さについて分かっているのは……大太刀を使う、かなり鍛え抜かれた近接戦闘スキルと身体能力を持っている、何も無い空間から風、炎、岩を生み出す……これくらいだ。
「………やはり、直接確かめるしかないか」
クロノが小さく呟くが、その呟きは入口の開閉音に上書きされた。
全員の視線が入口に向くと、リンディに続いてシノンが部屋に入る。
「なのはさん、ユーノ君も今日はひとまず帰宅してちょうだい。明日ご家族とお話をして、それから手伝ってもらうわ」
「あ、はい。わかりました………あの、彼は……」
承諾したユーノの視線の先には、ぼんやりと巨大モニターを見るシノン。
「ああ、シノン君はしばらくアースラに泊まってもらうことにしたわ。彼も艦の訓練施設を使いたいそうだし、すぐに動けて都合がいいでしょ?」
「艦長、彼に1つお願いしたいんですが……」
突然クロノが発言し、彼、と呼んだ存在はシノンを差している。
シノンもそれに気付いたのか視線を下げてクロノの方を向く。
「艦長が了承した以上、僕も先程の条件に異論は無い。だが、せめてキミが条件に見合う程の実力を有しているか知りたい」
「ほう…………それで? 具体的にはどうする」
「現状が現状だ。一番手っ取り早い方法でいこう。模擬戦だ」
瞳の奥で闘志を燃やしたクロノの提案に、シノンはただニヤリと笑った。
ご覧いただきありがとうございます。
主人公は頭の中は大人なので、基本的に管理局という組織を信用してません。だから保身と報酬の条件を忘れません。
実際、今の主人公は天涯孤独の上に無一文ですからね。
では、また次回。