では、どうぞ。
Side シノン
「まずは2人とも武器を引くんだ」
突然現れて2人の少女を止めた少年がそう言って、空にいた3人はゆっくりと地面に降りてきた。
「このまま戦闘行為を続けるなら・・・・」
そう言いかけたところで、急に空から数発の光球が迫ってきた。その狙いは2人の少女の間に立つ少年に向いている。
だが、素早く反応した少年は突き出した左手で障壁を張って攻撃を防いだ。
弾道を辿って発射された方向を見ると、そこにはオレンジ色の毛並みをして額に宝石が埋め込まれた狼がいた。
「フェイト! 撤退するよ! 離れて!」
人語を口にした狼はそう言って再び光球を生成する。
フェイトと呼ばれた黒い少女は一瞬戸惑ったが、狼の光球が発射されると共にジュエルシードに目掛けて飛んだ。
フェイトが飛び立った瞬間、光球が地面に着弾して爆煙が巻き上がる。
オレは離れていたので爆煙の被害は無いが、着弾地点にいた少年と白い少女は飛行してすぐにその場から離脱する。
だが、爆煙が巻き起こる中で少年はデバイスを構え、フェイト目掛けて数発の光球を発射した。目くらましをもろともしない的確な射撃であり、弾道から見た着弾点はフェイトの後頭部。
(……って、おいおい。あの高さから地面に落ちたらタダじゃ済まんぞ)
そう思い、オレが抜刀術の構えを取ると、大太刀の鍔本に周りの風が集る。
右足を一歩前に強く踏み出すと共に大太刀を抜き放つと、無色の風の刃が空中を直進し、強風を起こしながら全ての光球を真っ二つに斬り裂いた。
吹き荒れる風にツインテールの金色の髪を揺らしながら、フェイトはジュエルシードを掴んでこちらを見ていた。
「逃げるなら早くしろ」
「え………?」
「今のは気まぐれみたいなものだ。次は無い」
そう聞いて、フェイトはオレンジの狼と一緒にすぐさま離脱する。
少年は再びフェイト達にデバイスを向けて、杖の先端にさっきよりもデカイ光球を生成する。大出力の攻撃でもぶっ放す気だろうか。
だが、少年の目の前に白い少女が立ち、両手を広げて立ちはだかる。
「ダメ! フェイトちゃんに攻撃しないで!」
白い少女の介入でついにフェイト達は遠くへ飛翔し、姿を消した。
少年は軽く息を吐いて魔法陣を消し、デバイスを下げる。
だが、どうやらオレに用があるらしく、こちらを睨みながらやって来た。
「どうして邪魔をしたんだ」
「あのまま攻撃が当たって落ちたらタダじゃ済まないと思ったからだ」
「キミは自分が何をしたかわかってるのか!? あの少女はロストロギアを狙う犯罪者なんだぞ!」
「すまんが、詳しい事情を知らんオレから見ればあの少女もお前も同じくらいに信用ならんぞ………」
そんな会話をしながらオレは右手に持ったままの大太刀を僅かに持ち上げ、少年もそれを察してデバイスを構える。
この距離なら、魔法の発動前に斬り伏せられるか?
互いに無言で警戒しながら沈黙を保っていると、突然空中に表示された魔法陣が一触即発の空気を断ち切った。
その場にいた全員の視線がそちらに向くと、その魔法陣には緑色の髪と目を持つ1人の女性が映し出されていた。
『クロノ、お疲れ様』
「艦長………すみません。もう一組の方は取り逃がしてしまいました」
『そうねぇ~……まあ、遭遇する機会は他にもあるわ。それより、詳しい事情を聞きたいから、そっちの子達をアースラに連れてきてちょうだい』
「………わかりました」
クロノと呼ばれた少年は応答と共にデバイスを降ろし、オレも数歩下がって右手に持つ大太刀をゆっくりと鞘に納めた。
だが、まだ安心するには早いので左手は鞘を握ったままだ。
(マスター、ここは従っておきましょう。少なくとも無傷で帰ることは保証されますし、現状についての情報も得られます)
耳を通してではなく、頭の中にヴェルフグリントの声が直接聞こえてきた。恐らく、思念通話と言うやつだろう。
「では、移動するのでそのままにしていてくれ」
クロノがそう言うと、オレ達の足元に巨大な魔法陣が発生し、そこから溢れ出た光に包まれた。
* * * * * * * * * * * * *
やがて光が晴れると、視界の先に見えたのは機械仕掛けの通路。ちらりと隣にいる少女に目を向けると、いきなり知らない場所に移動したからか慌てている。
だが、肩に乗っているフェレットと無言で視線を交わしているのを見ると、恐らく念話で話をしているのだろう。
(ここは………)
(時空管理局の次元潜航艦の中です。簡単に言えば、時空管理局が世界間の移動に使っている船のようなものです)
「ああ。何時までもその格好というのは窮屈だろう。バリアジャケットとデバイスは、解除してもらって平気だよ」
「あ、はい………」
クロノの言葉に頷いて少女は発光と共にバリアジャケットを解除し、デバイスを赤い球体宝石の待機状態にする。
それに続いてオレも無言でセットアップを解除し、銀色カードの待機状態に戻ったヴェルフグリントを空中でキャッチする。
「キミも元の姿に戻っていいんじゃないか?」
「あ、そうですね・・・」
そう言ったクロノの言葉に頷いたのは、少女の肩の上に乗っているフェレット。さっきの狼、アルフである程度予想はしていたが、やはり喋るのか。
少女の肩から飛び降りたフェレットが光に包まれ、数秒で光が消える。そして、そこにいたのはフェレットではなく、少女と同年代くらいの金髪の少年だった。
「ふぅ、なのはにこの格好を見せるのはずいぶん久しぶりだね」
少年がそう言うが、なのはと呼ばれた少女は指を差したまま固まっている。
「ゆ、ユーノ君? そ、その姿は……?」
「え? これが僕の本来の姿だけど?」
「え、えぇぇぇぇーーー!!!」
驚きの声が廊下に反響してさらに大きくなる。正直、かなりうるさい。
「キミ達の間には見解の相違でも有るのか? すまないが艦長を待たせてるので急ぎたいんだが………」
クロノの言葉でなのはとユーノは落ち着きを取り戻し、再び進みだした。
* * * * * * * * * * * * *
クロノに連れられてやって来たのは戦艦という搭乗物にまったく馴染まない和風の部屋だった。
簡単に見渡しただけでも盆栽に鹿威しが見えるが、この部屋のデザインが個人的な趣味によるものなら職権乱用以外の何者でもないな。
そして、部屋の中には二人の女性が待っていた。
1人は先程も見た長い緑髪の女性、もう一人は短い茶色の髪をした女性。こうして見ると、どちらとも美人に入る女性だ。
「ようこそ、アースラへ。艦長のリンディ・ハラオウンです」
「あ、高町なのはです。なのはでいいですよ」
「ユーノ・スクライアです。僕もユーノでいいですよ」
「………シノン・ガラードです。シノンで結構です」
緑髪の女性、リンディさんからなのは達へと続き、オレも簡単な自己紹介を返す。無愛想に見えるかもしれないが、勘弁してほしい。恐らく、この中で現状に一番理解が無いのはオレだ。
「あ、私はエイミィ・リミエッタ。エイミィでいいよ」
茶色の髪の女性が陽気に自己紹介すると、なのはが控え目に手を上げる。
「あの、リンディさんってクロノ君のお姉さんですか? 顔も似てる気がするし・・・」
なのはの質問を聞いてリンディさんは嬉しそうに微笑み、エイミィさんは微笑を浮かべながら答えた。
「ふふ………違う違う。艦長はクロノ君の母親だよ」
「えぇぇーー!? お母さんですか!?」
再び驚きの声を上げるなのは。
確かに、リンディさんの見た目は軽く見ても20代くらいだ。普通に見たら子持ちの母親の若さじゃない。
まあ、オレはそれに近い異常な若作りをグラニデで見たけどな。髪の長さと身長以外は全然変わらん鬼畜眼鏡とか。
「ふふ……さて、本題に入りましょうか。今回あなた達に来てもらったのは状況と事情の確認のためです。まず、あなたたちの今までのことを聞かせてくれる?」
リンディの質問を承諾し、なのはとユーノはまず自分達がジュエルシードに関わることになった経緯を話した。
まず、ジュエルシードを発掘したのは、ユーノの暮らすスクライア一族と言う遺跡発掘集団が見つけたらしい。
そして、発掘したジュエルシードを船で移送中に何者かの襲撃を受け、この世界に21個のジュエルシードがばら撒かれた。
ユーノはその危険物を回収する為に単身乗り込んできて返り討ちにあい、負傷していた時に魔導師としてとんでもない才能を秘めたなのはと出会い、協力してもらっていたというわけだ。
「そう、あのロストロギア、ジュエルシードはあなたが発掘したの・・・」
「はい、だから僕がちゃんと回収しなくちゃと思って・・・」
「その心意気はとても立派だわ・・・・」
「だが同時に無謀でもある。一人だけで向かうなんてあまりにも無計画だ」
「そうは言うが、そっちのユーノがもし来てなかったら、最悪あの世界は消滅してたぞ。むしろ、彼には感謝すべきだろう」
クロノの言葉にユーノの視線が俯くが、そこへオレが口を挟む。別に庇うわけではないが、数分前まで事態に直接関わっていなかったオレ達にユーノの行動を否定する資格は無い。
「あの……ロストロギアっていうのは………?」
再び控え目に手を上げたなのはの質問にリンディさんが答える。
「ああ……遺失世界の遺産………って言っても分からないわよね。
そうね……次元空間の中には幾つもの世界があるの。それぞれに生まれて育っていく世界。その中に、ごく稀に進化しすぎる世界があるの。技術や科学、進化しすぎたそれが自分たちの世界を滅ぼし、その後に取り残された危険な技術の遺産。それらを総じて、ロストロギアと呼ぶの」
「使用方法は不明だが、使いようによっては世界どころか、今僕達がいる次元空間すら滅ぼすほどの力を持つ、危険な技術だ」
「昔にも、そのロストロギアによって引き起こされた次元断層という事象で幾つもの次元世界が消滅した災害があったの。あんなことは繰り返してはいけないわ」
重苦しそうに語るクロノとリンディさんの言葉になのはとユーノは息を呑むが、オレは何かが意識に引っ掛かる。
そして、室内に軽い沈黙が落ちると、リンディさんは自分の前に置かれたお茶に手を伸ばした。
だが、普通に飲んだわけではない。
なんとこの人、緑茶の中にミルクと角砂糖を放り込みやがった。
「………何をしてるんですか?」
「え、砂糖とミルクを入れただけだけど?」
当然のように答えるリンディさん。隣に居るクロノとエイミィさんを見ると、2人とも顔を顰めながら首を振るだけだった。
「あ、あなた達もどうぞ。ミルクと砂糖はいる?」
「「いりません」」
即答するオレとなのは。はっきり言って、そんなものをお茶とは認めん。
リンディさんが少し悲しそうな顔をしているが、これでもグラニデじゃ料理好きだったんだ。認めるわけにはいかんのだ。
その後、質問の対象はなのは達からオレへと変わった。
質問の内容としては、どれくらい現状を理解しているのか、どういう形でジュエルシードに関わったか、何処でヴェルフグリントを手に入れたのか、というものだった。
とりあえず、オレが異世界から来たのは伏せ、現状の理解はさっぱりだと話し、ヴェルフグリントを偶然手に入れたのは、この世界の山の中だと言っておいた。
デバイスに関しては思いっきり嘘だが、アルハザードで見付けましたなんて言えんし、確認する方法も無いだろう。
「そうですか………わかりました。では、シノン君、そしてなのはさんとユーノ君もよく聞いてください」
オレからの話しを聞き終え、リンディさんはリンディ茶(頭の中にコレしかないと出てきた)を飲み干し、顔を上げた。
そして、次に放たれた言葉に………
「これより、ロストロギア、ジュエルシードの回収は時空管理局が全権を持ちます」
なのはとユーノの瞳が大きく見開かれた。
ご覧いただきありがとうございます。
今回は管理局のメンバーが登場です。それでも、主人公は基本的に自分の考えに従って動いているので、あんまりブレません。
近い内、主人公の詳細設定でも書きますかね~
では、また次回。