私事ですが、10年以上愛用していたPCが年を明けてすぐの頃に突然ぽっくりと逝きました。
次のPCを買うまでスマホで執筆・投稿しているのですが、今までずっとPCでやってきたせいで入力や確認作業で難航して普段の亀更新が更に遅くなりました。
大変申し訳ありません。
今回はシノンサイドの視点のみになります。
では、どうぞ。
Side シノン
入院したすずかの友達が八神はやてだと知ったオレは盛大に混乱し、直立した状態からすっ転ぶという奇怪な芸を披露してしまったがどうにか落ち着くことが出来た。
代わりにその場に居たアリサ、すずか、フェイトからは何とも言えない視線を向けられることになったが、今はそれより優先すべきことが有る。
それから翠屋でケーキとシュークリームを購入し、今はショッピングモールに移動して見舞いに持っていく花と本を買いに来ている。
見舞いの定番である花は店員がすぐに用意してくれたのだが、本の方は八神はやてが本好きでよく図書館に行くので中々良い候補が見付からない。
一応オレも意見を求められたので、読み応えを優先して『心理学』に関する本をお勧めしてみたのだが、残念なことに揃って微妙な顔をされた。
「アンタね、私達と同い年の子に何を学ばせる気よ」
呆れたように溜め息を吐くアリサにそう言われ、確かに9歳に読ませる本ではないと反省する。
そんなことも有って、10分程各自で本屋の中を歩き回って本を探すことになったのだが、オレは気付かれないようにその場から離れて人気の無い場所でゲーデに通信を繋げた。
このまま八神はやての見舞いに向かってなのはとフェイトが守護騎士達と顔を合わせたりすれば最悪そのまま戦闘になりかねない。
そうなれば守護騎士達は八神はやての存在を管理局に知られないようにする為に魔力蒐集を二の次にしてオレ達を本気で“消し”に来る可能性が高い。
そんな事態を避ける為に、まずはゲーデに連絡を取って守護騎士達を遠ざけなければ。
だが、そんなオレの不安とは反対に通信に応じたゲーデはいつも通りの調子で答えた。
『ああ、その件ならすずかちゃんのメールで知っている。
朝にシャマルが凄まじい慌てぶりで泣き付いてきたからな。
少し不審に思われるだろうが、はやてと主治医の先生に頼んでシグナム達のことは話題に出さず伏せてもらうことにした』
その言葉を聞いて、安堵の息を吐くと共に頭の中に残っていた不安が完全に消える。
思ったよりも無限書庫での作業の疲れが大きいのか、どうにも思考に余裕が無い。
「……まだ安心は出来んが一先ずは大丈夫だな。守護騎士達は家にいるのか?」
『いや、シャマルを残して蒐集に出ている。
戦いの途中で現れたあの仮面の男を警戒して、1人は必ずはやての傍で護衛に付くらしい』
「……そうか」
蒐集に出ているということは、結局シグナム達は止まらなかったということか。
砂漠で戦った時のシグナムの反応から見て、もしかしたら立ち止まるかもしれないと思ったが。
(なのはのようにはいかないな……)
オレの言葉は届かなかった。
事実を噛み締めながら、友達になりたいとフェイトに手を伸ばし続けたなのはの凄さを思い出す。
所詮、斬った張ったが1番得意のオレではこんなものか。
「……それで、お前はこれからどうするんだ?
昨日話した時は随分と参ってたようだが……」
『……ああ、その件については病院で話そう。
お前の方も、あれから色々と分かったんだろう?
お互い、直接話すとしよう』
「……分かった」
そこまで話して通信を切り、なのは達に不在を気付かれないよう足早に本屋へと戻る。
到着してみると、どうやら丁度全員が集合するタイミングのようだ。
「色々見たけど……何か良い本は見付かった?」
「うん。図書館に無いジャンルの本を2つ見付けたよ」
「それじゃあ、見舞いの品を持って病院に行くか。ほら、荷物寄越せ」
見舞いに買った荷物全てを受け取り、仲良く話すなのは達4人の最後尾を1歩離れて付いて行く。
八神はやてが入院する病院まではバスを使えば10分程で着くので街中を長く移動することもないが、念の為に車道や自転車などにも目を配りながら歩く。
同時に、マルチタスクを使って今後のことを幾つかのパターンに分かれて考える。
「ねぇ、アンタ大丈夫?」
しかし、その直前でいつの間にか話の輪から外れてきたアリサに話し掛けられた。
一先ずマルチタスクを中断し、周囲に気を配りながらも視線を合わせる。
「何がだ? この程度の荷物なら全く苦にならないぞ」
「そうじゃなくて。何か悩みでも有るんじゃないのかって訊いてるのよ。
さっきだって何も無い所でいきなりスッ転んだし、顔色も少し悪いじゃない」
呆れたような口調だが、こちらを見上げる瞳には不安そうな気配が有った。
どうやら、先程の奇怪な行動や疲れが完全に消えていない顔色から心配されているらしい。
その優しさに感心しながら微笑を返し、左手を荷物から放してアリサの頭をポンポンと軽く叩く。
「ありがとうな、心配してくれて。
寝不足なだけで別に深刻な悩みとかが有るわけじゃないんだ。
でもそうだな……少し話し相手になってくれるか?」
「それは良いけど……手をどけなさい!」
僅かに頬を赤らめ、声を上げると共に頭に乗せた手を払うがちゃんと話は聞いてくれるようだ。
悪い悪いと謝罪しながらちょっとした気分転換も兼ねて話を続ける。
「深く考えずに聞いてほしいんだが……
もし、自分の知り合いが何かに追い詰められて悪事に走ろうとしたら、お前はどうする?
例えば家族を助ける為に誰かを傷付けるとか、親しい人に嘘をつくとか」
迷っているわけではないが、今のオレの現状を少々濁して質問を投げてみる。
別にオレがどうすれば良いかの答えを求めているわけではない。
単純にアリサならどうするかと気になっただけだ。
そして、こんな突拍子も無い質問に対してアリサはちゃんと耳を傾けてくれる。
「深く考えずにって言う割には重い話題だけど……そうね、その知り合いが親しい人間なら……」
一度言葉を切って前を向いたアリサの視線が、前方で楽しそうに話す3人に向けられる。
数秒だけ考え込むが、すぐに嬉しそうな微笑みを浮かべてオレの目を見る。
「うん……やっぱり、私ならその人を止めると思う」
特に悩むことも無く、笑顔までセットにしてアリサは言い切る。
「……恨まれたとしてもか?
例えば、自分が止めたせいでソイツの大切な人が苦しむことになったとか」
「……そうね。多分そうなるだろうし、私もすごく辛いと思う。
でも、やることは変わんないわ。
だって、見て見ぬふりをしてその友達や自分に噓をつき続ける方がもっと辛いから」
アリサは一瞬だけ気落ちしたように視線を下げるが、すぐに上を向いて誇らしげに言った。
歳が10に届くか届かないかの少女が、上っ面だけではない確かな自分の答えを言えているのだ。
自分がするであろう行為に対して欠片も臆していないその姿に、オレは素直に驚いた。
「?……何よ、急に黙っちゃって」
「いや、なんというか……お前ってすごいな……」
急に言葉が詰まり出したオレの返答にアリサは首を傾げるが、特に気にせず歩き続ける。
(フェイトのことを諦めなかったなのはもだが……地球の女性って皆こうなのか……?)
普段はどう見ても年相応の子供なのに、時折見せる我の強さというかメンタルは明らかに歳不相応のものだ。
オレがコイツ等と同じ歳の頃はどんな感じだったかなと記憶を辿ってみると、仕事受けて魔物殺して飯食って寝るを繰り返すただの蛮族少年だった。
何となく悲しくなって辿り着いたバス停で他の者に気付かれないように溜め息を吐き、その後は特に変わったこともなく病院に辿り着いた。
* * * * * * * * * * * * *
病院に辿り着いてからは病室の番号を聞いているすずかを先頭に歩き、オレは変わらず荷物を抱えて一番後ろを歩く。
(ん……?)
しかしその移動中、正確には病院に入ってから物陰から視線を感じ始めた。
全くの素人ではないがプロとは呼べない、何処か中途半端な感じだ。
周囲を見渡して視線を飛ばしている相手を探してみるが、簡単には見付からない。
「シノン君、どうしたの?」
自然と立ち止まっていたらしく、不思議に思ったなのはが駆け寄ってくる。
「……いや、結構デカい病院だと思ってな」
「シノン君は来るの初めてだもんね。
お兄ちゃんも膝の定期検診で此処に通ってるよ。
フィリスっていう先生に看てもらってるんだ」
この場で視線の相手を見付けるのは無理だと判断し、楽しそうに話すなのはと共に歩き出す。
気にはなるが、敵意の類いは一切感じなかったので一先ず置いておこう。
「……あ、このお部屋だ」
少し歩いたところで目当ての病室を発見し、先頭を歩いていたすずかがドアをノックする。
すぐに部屋の中から「ハ~イ、どうぞ~」と明るい声が聞こえ、オレ達は部屋の中に入る。
病室にはベッドに座る少女、八神はやてとその傍に立つ紫髪の少年、ゲーデの姿が有った。
「こんにちは、はやてちゃん。具合はどう?」
「いらっしゃい、すずかちゃん。
何日か検査入院することになってしもうたけど、この通り元気や」
八神はやては嬉しそうに笑ってすずかを歓迎し、続いて入室したオレ達に視線を移す。
「そっちの人達は初めましてやね。
八神はやてです。こっちの人は一緒に暮らしとる人で……」
「初めまして、ゲーデだ。よろしく頼む」
嬉しそうに自己紹介する八神はやての隣でゲーデは微笑と共に軽く会釈する。
「初めまして、高町なのはです」
「フェイト・テスタロッサです。よろしく、はやて、ゲーデさん」
「アリサ・バニングスよ。よろしくね」
同じように嬉しそうな笑みを浮かべてなのは達が自己紹介し、残ったオレに視線が集まる。
その中で当然ゲーデとも視線が合うが、今は初対面を装わなければいけない。
「初めまして、シノン・ガラードだ。
2人共、よろしく頼む。
ほらお前ら、コレ渡してやれよ」
簡単な自己紹介をして抱えていたお見舞いの荷物をそれぞれなのは達に渡す。
「うん、ありがとう。
あのね、これウチの店で売ってるケーキなんだけど……」
本人達の優しい性格や歳の近い同性という点が味方してか、買ってきた品々をプレゼントしながらなのは達は自然と楽しそうに会話を弾ませる。
残ったオレは花束を持って水道へと歩き、何をする気か察したゲーデが窓際の花瓶を運んでくる。
そのまま受け取った花瓶に水を注いで花束をゆっくりと挿す。
痛まないように纏まった花を解き、見栄えを整えて花瓶をゲーデに手渡す。
受け取ったゲーデが花の挿さった花瓶をベッドの横に備えられた机に置くと、ソレに気付いた八神はやては仄かに漂う花の香りを感じてニコリと微笑んだ。
「ええ香りや。あんがとうな、シノン君」
「どういたしまして。気に入ってもらえたなら良かった」
感謝の言葉に答えながら、目の前で微笑む八神はやての全身を気付かれないように見詰める。
可愛らしく微笑む顔色は悪くないし、体全体も細くはあるが痩せているわけではない。
下半身の麻痺を除けば健康体に見えるが……
(弱っているな……傷や体力の問題じゃなくて、精神……いや『命』そのものがボロボロだ……)
普通に見れば傷も疲れも無い、今も目の前で心から楽しそうに笑っている。
だが、オレの目を通して見た彼女の『命』……生気と呼べるようなモノが酷く弱っていた。
八神はやてと直接会うのは初めてなので容態を見る機会が無かったが、コレはかなり深刻だ。
「はやて、彼と少し外で話したいんだが……少し病室を離れても大丈夫か?」
「?ええけど……此処で話すのはアカンの?」
「男だけで話しをしたい時が有るんだよ」
そう言いながら視線を向けてきたゲーデに賛同するようにオレも頷きを返す。
本当の理由が内緒の話をしたい口実なのは分かっているが、ソレが無くても少女5人が仲良さそうに話す空間に男2人というのは正直居心地が悪い。
「あ~、そういえば兄ちゃん、よく考えたら男の人の知り合いって殆どおらんな。
分かった、戻るまですずかちゃん達と話しとるわ」
「すずかちゃん達も、悪いがはやての相手をしてやってくれ」
「いえ、悪いだなんて全然。私達もはやてちゃんとお話出来て楽しいですから」
そう言ったすずかにありがとう、と微笑み、ゲーデは病室の外に出る。
オレはなのは達に視線を向けて“行ってくる”という意味を込めて一度頷き、なのは達もソレを了承するように微笑みながら頷きを返してくれた。
病室の外に出ると、傍に立っていたゲーデは上を指差して歩き出した。
恐らく屋上に行くんだろうなと推測し、特に会話も無いままエレベーターに乗り込む。
上昇する狭い空間の中でオレとゲーデは向かい合うように壁に背を付き、互いに視線を落としている。
「……どうだった。実際にはやてと会ってみて」
当然、今まで沈黙していたゲーデが視線を下げたまま口を開いた。
問いに対し、オレはどう答えるべきか少しだけ考えて思ったことを正直に口にした。
「良い子だなと思った。守護騎士達が必死になって救おうとするのも分かる。
……それと、もう殆ど時間が無い」
その瞬間、エレベーターの内の空気がズシリと重くなった。
殺気ではない。だが、ゲーデの全身から放たれた怒りに似た威圧感が空間を圧迫している。
そんな時、ポン という電子音と共に扉が開かれ、エレベーターが最上階に到着した。
「……行こう」
扉に意識が逸れたことで威圧感は霧散し、歩き出したゲーデはエレベーターを出る。
短い廊下の先に有る扉を開けると、少々肌寒い風と共に曇り気味の空が見えた。
人が落ちないように四方は高いフェンスで囲まれているが、それ以外は特に何も置かれていない。
「……八神はやての現状は改めてよく分かったが、希望が完全に消えたわけじゃない。
無限書庫に5時間ぶっ通しで籠もって色々と新しい情報を手に入れたんだ。
もう少し調べれば、この状況を打開する方法が見付かるはずだ」
「なるほど……顔色が少し悪いのはそのせいか。
俺も、お前に幾つか話さなきゃいけないことが有る……」
その時、背後からガチャン! と扉が開く音が聞こえた。
誰か来たのかと背後を振り返ると、そこにはグレーのロングコートを着た1人の女性……シャマルと呼ばれた守護騎士の1人が立っていた。
何の前触れも無くまるで示し合わせたようなタイミングで現れた目の前の存在に、疲れが取り切れていないオレの頭は数秒だけフリーズする。
しかし、その数秒が致命的だった。
「クラールヴィント」
デバイスの名を呼ぶと共に両手の指から緑色のワイヤーが飛び出し、オレの手足を拘束する。
咄嗟にヴェルフグリントを取り出そうとするが、反応が遅れたせいで間に合わない。
「く、そっ……!」
「手足だけでなく腰と胴体も固定しました。前回と同じようにはいかないわよ」
シャマルの言う通り、全身がセメントに包まれたように固まっていて全く動かせない。
確かにこれでは前回のように自分で関節を外して隙間を作ることも出来ない。
しかも……
「……下手に動くな。その拘束でも足りないなら、手足を折るか、最悪首が飛ぶぞ」
……首筋の動脈にピタリと添えられた鎌の刃が僅かなモーションも許さないと訴えている。
顔は見えないがその冷静な声色からゲーデが本気だと理解し、脱出を諦めて全身の力を抜く。
「……“自分がどうしたいのか”とお前に言われて、色々と考えた。
皆を助けたい……ソレが今も変わらない俺の“やりたいこと”だ。
だから次に、その為にどうするべきかを考えた」
背後で仕事の経過を報告するように話すゲーデの言葉を聞いていると、屋上の扉が再び開いた。
見ると、私服姿のシグナムとヴィータ、狼形態のザフィーラが険しい顔で立っている。
(蒐集に出たってのはブラフか……嘘も上手くなりやがって)
相手の言葉を一切疑わなかったオレも間抜けだが、違和感を感じさせない自然体の口調で嘘を付いたゲーデの人間的成長に複雑な溜め息が零れる。
「こんな形ですまないが、まずは聞かせてもらおう……お前が見付けた情報とやらを……
俺が……俺達がこれから“どうするのか”はその内容次第だ」
まるでオレの命を刈り取る死刑執行人のように、ゲーデは変わらず静かな声で告げた。
ご覧いただきありがとうございます。
前回体の関節外してバインドから抜け出したので、オリ主は全身雁字搦めと首筋に鎌の刃沿えて何時でも首撥ねられるという形で滅茶苦茶警戒されてます。
それだけ手強いと見られているのも有りますが、この場合はゲーデがシノンに対して絶対に何もさせないと考えているのが強いです。
原作のように一切耳を貸さないわけではないので、ある意味話し合いの余地はあります。代償はオリ主の命の危機です。
次は今回の話の続きになると思います。
とりま新しいPC用意しないと。
では、また次回。