今回は砂漠の戦闘を終えた後の話です。
※ 今回、キャラの会話の部分だけ文章の形を変えてみました。
試験石みたいなものですが、お付き合いください。
この方が見やすい、前の方が良い等と思った方は可能であれば後で貼っておく活動報告や感想の方にお言葉をお願いします。
では、また次回。
Side Out
「フェイトさんはリンカーコアの縮小して眠っているけど外傷は無し。
シノン君の方は乱入して来た仮面の男との交戦で軽い負傷、か」
無人世界での戦闘が終了してから数時間。
本局の一室にはリンディ、クロノ、アルフ、なのは、エイミィ、アレックスの6名が席に着いており、今回の戦闘報告について話し合っていた。
結果的に守護騎士を確保することは出来なかったが、一先ず重傷者が出なかったことにリンディは安堵の息を吐く。
「いえ、軽いと言っても本人がそう言っているだけで実際は筋繊維に無視出来ないダメージが有ったそうです」
「え、えっと。それ、シノン君は大丈夫なの?」
「医療班の報告では2、3日激しい運動を控えて痛みが無ければ問題は無いそうだ。
……当の本人は無重力空間にいた方が楽だと言って無限書庫に戻ったけどね」
思っていたよりも報告と現実の違いが大きかったことに加えて当の怪我人は全く安静にしていない。
聞いていて頭が痛くなるような内容だが、報告しているクロノの精神的疲労に比べれば自分はマシな方だと思ってリンディは話を切り替える。
「コホン……とりあえず、シノン君の方は好きにさせてあげましょう。
怪我を悪化させているわけではないのだし、大きな問題ではないわ。
それよりも、守護騎士についてだけど……」
「はい。僕はその場にいませんでしたが、直接話をしたシノンが言うには……
“闇の書の主は守護騎士達の蒐集活動を把握していないことを確認した”。
“詳細は不明だが闇の書の主が命に危機に瀕している可能性が高い”。
この情報を元に、一度守護騎士達との交渉の席を考えるべきだと提案されました」
シグナムに敗れたフェイトを逃がすため殿を務めたシノンの報告。
その内容は、リンディ達だけでなく口頭で直接聞いたなのはとクロノにも大きな動揺を与えた。
闇の書の主が守護騎士の蒐集活動を全く知らない、というのはリンディ達も考えていた。
だが、闇の書の主が命に危機に瀕しているというのは全くの予想外だった。
そして、同時に納得も出来る。
管理局は闇の書の完成を阻止したい。しかし守護騎士達は原因は不明だが主の命を助ける為に闇の書を完成させなければならない。
なるほどここまで目的が致命的に食い違っているのなら話し合いに応じるわけもない。
「ただ、自分はあくまで雇われの身だから交渉するかの最終決定はソッチに任せる、と」
「……信頼されている、と思って良いのかしらコレは」
「……いえ、艦長。多分ですが面倒な部分を丸投げされただけかと」
出来る限り気を遣おうとしながらも失敗したクロノの言葉にリンディは何も言わずに溜め息を吐いて同意する。
今言った通り、シノンは守護騎士との交渉を提案こそしたがその決定権は実質リンディ達に丸投げした。
その理由は恐らく詳しい段取りや交渉内容について考えるのが面倒だからだろう。
だが、自分はあくまで雇われの身だというシノンの言う分ももっともであり、現状で充分な成果を示している彼にこれ以上の働きを期待するのは酷というものだ。
「……もし、守護騎士達が交渉を蹴って蒐集を続けた場合は?」
「自分が責任を持って始末を付ける、とだけ」
顎に手を当てて数秒考え込んだリンディが念のために失敗した時の対処を尋ねると、返ってきたのは大体予想通りの答えだった。
しかし、何故だろうか。
(普通に文面だけを見れば“提案者である自分が責任を持って守護騎士を捕まえます”という風に聞こえるのに、彼が言うと“情状酌量の余地は無くなったので皆殺しにしてきます”って聞こえてくる……)
リンディの脳裏に一瞬、血塗れになって倒れ伏す守護騎士達とそれを冷たい目で見下ろすシノンの姿が浮かぶが頭を軽く振ってその光景を消し去る。
「あの……交渉って、管理局はどうするつもりなんですか?」
何も言わずに考え込んでいるリンディの様子に何かを感じたのか、なのはが不安そうな声で尋ねた。
最初に戦った時から今も守護騎士達と話し合うことを諦めていないなのはにとって、指揮官であるリンディがこの先どうするのかとても気になることだ。
「大丈夫よ、なのはさん。
管理局も彼等と戦わずに済むのならその方が良いはずだし、現場責任者として私もそうするつもりよ。
少なくとも、闇の書の主諸共に殲滅、何てことには絶対にならないわ」
「……はい。ありがとうございます、リンディさん」
リンディの言葉に安堵の息を吐き、なのはは微笑みと共に感謝する。
その優しさに微笑みを返し、リンディは軽く咳払いをして話を戻す。
「コホン……次だけど、確保が容易だった守護騎士を見逃して撤退した、ということについてシノン君に懲罰を問うつもりは有りません。
独断とはいえシノン君1人に殿を務めさせた上に彼等との交渉のチャンスまで作ってくれた。
むしろ、よくやってくれたと思うわ」
「ええ、あの場で強引に守護騎士を捕らえてしまえば交渉のチャンスすら失われていたでしょうから。
交渉内容はこれから考案に入りますが、無限書庫の調査は変わらず続行させるつもりです」
「それが良いわね。
嘘の情報を言った可能性は低いでしょうけど、彼等の主が直面している“命の危機”というのが具体的にどんなものなのか分からなければ動きようが無いもの」
事態は確かに良い方向に進展した。
守護騎士の反応を追って後手に回るしかなかった今までとは違い、交渉の席を用意出来るかもしれないところまで迫ることが出来た。
しかし、まだ分からないことが多いのも事実である。
今リンディが言ったように、闇の書の主はどういった形で命の危機に瀕しているのか、何が原因でそのような状態となっているのか、どうすれば解決出来るのか。
せっかく無限書庫という文字通りの情報の塊が存在するのだ。
手に入れられる情報は可能な限り集めるべきである。
「万が一に“時間切れ”なんて事態になってしまったら意味が無いわ。出来ることは小さなことでもやっておきましょう」
『はい!』
気を引き締めた顔でその場にいる全員が答える。
そこで守護騎士についての話し合いは一先ず終了し、リンディは手元の端末を操作して次の議題へと切り替える。
空中に浮かぶスクリーンに表示されたのは、砂漠の大地でシノンと戦う仮面の男。
「次はこの襲撃者についてね。
前の戦闘でシノン君が負傷しながらもどうにか無力化したみたいだけど、問題は……」
「こっちのセンサーに全く察知されず、何の痕跡も残さずにあの場から姿を消したことですね。
少なくとも、僕となのはがシノンの救援に向かった時には既に離脱していました」
「よく分からないって意味なら闇の書よりこっちの方が上ですよ。
防壁や警報に何の反応もさせずにシステムの目を全部掻い潜るなんて……」
心中の不満を交ぜたような声で報告するエイミィの言葉に全員が心中で同意する。
前回の戦闘で仮面の男は確かにシノンが無力化した。
だが、救援を終えたクロノとなのはが確保に向かった時には、仮面の男は既に離脱していたのだ。
決して軽くは無いダメージを受けた筈なのに、司令部のシステムに一切の反応を察知されずにその場から逃げてみせた。
しかも、この男の奇妙な点はこれだけではない。
「戦闘力はかなり高い……というか、異常だ。
なのはの砲撃魔法の直撃を正面から防御した上に長距離バインドで拘束。
そのまま転移魔法で離脱したと思えば、次はフェイトに至近距離から不意打ちを決めるときた」
「なのはちゃんにはクロノ君、フェイトちゃんにはシノン君が付いてたおかげで助かったけど、コレと同じことが出来る人なんて管理局にもいるかどうか……」
そう。仮面の男は最初にフェイト達の方へ現れたわけではない。
シグナムとは別にヴィータの追跡を行っていたなのはが遠距離から撃ち落とそうとカートリッジシステムによって強化された砲撃魔法『ディバインバスター・エクステンション』を使用したのだが、仮面の男はこの時に現れた。
射程だけでなく弾速、精度、威力、バリア貫通力まで強化されたなのはの砲撃魔法を正面から防御してそのまま遠距離からバインドを決めて拘束したのだ。
そのまま仮面の男とヴィータは転移魔法で離脱したのだが、予想外にも仮面の男はフェイトの元へと現れたのだ。
しかも、仮面の男のおかしな点はこれだけではない。
「なのはちゃん達のいた世界からフェイトちゃん達の世界まで、転送ポータルを使ったとしても最低で20分は掛かる。
けど、この人はその距離を僅か9分で移動した」
「正直言って、人間かどうかを疑うレベルよね」
リンディが仮面の男の実力をざっくりと一言で纏めるが、それが最も正しい評価だった。
仮にアースラの戦力だけで同じことをしようとしても確実に無理だ。
「……とりあえず、もう一度システムを見直して防壁とセンサ―を強化してみます」
「今回のことを考えると、司令塔を1箇所に絞った方が良いかもしれないわね。
アレックス、本局に預けたアースラの方はどうなってる?」
「“装備”の装着作業は終了。
整備の方もすぐに最終確認が終わるので、いつでも動かせます」
「結構。それでは、これより司令部をアースラに移行します。
各員は至急準備を始めてちょうだい」
リンディの言葉を合図に、クロノを始めとした管理局組は席を立って部屋を出ていく。
なのはだけが席に座ったままどうしたものかと指示を待っていると、リンディは微笑ながら視線を合わせる。
「なのはさん達は一度家に帰った方が良いわ。
ずっと現場に出てて働き詰めだったから疲れたでしょう」
「え、でも……」
「じっとしていられないのは分かるわ。
それでも、いざという時の為に今は休んで。
フェイトさんのことは、私達の方でしっかり看ておくから」
「……はい。分かりました」
自分にも何か出来ることが有るのではと一瞬食い下がるが、リンディの言い分が正しいと感じたなのはは大人しく頷く。
そこで今度こそ会議は終了となり、なのはとリンディは部屋の外ですぐに分かれてそれぞれの目的地へと歩を進めた。
「えっと……無限書庫ってこっちで良いんだよね?」
『間違いありません。入室許可の申請は必要無いようなのです』
一緒に帰るシノンとユーノを迎えに行く為、なのはは記憶の中の地図と道順を思い出しながら無限書庫への道を歩いていく。
一度も行ったことがない場所なので道を間違っていないか不安になるが、首元に吊り下げられたレイジングハートの助言を頼りに歩を進める。
やがて辿り着いた大きな扉に触れると、圧縮された空気が解放されてゆっくりと開く。
「わぁ……」
その先に広がる光景を目にして、なのはの口から呆けたような声が漏れる。
薄暗い室内の中を見渡す限り無数の本が宙に浮かんでおり、果ての見えない空間が何処までも広がっている。
(これが、無限書庫……)
話には聞いていたが、初めて目にした現物を前になのはは少しの間目を奪われた。
そのまま視線を動かしていくと、薄暗い無限書庫の中で淡い光を放つ2つの発光体が見えた。
「あっ……!」
見覚えの有る翡翠と白銀の2色の光を目にした瞬間、なのはは顔を綻ばせながら地面を蹴って無重力空間に身を投げ出した。
空戦魔導師としてまごうことなき天才であるなのはにとっては無重力による浮遊感も特に気にならず、2つの光へと真っ直ぐ近付いていく。
十秒も経たない内に距離は縮まり、そこには思った通り作業に没頭するシノンとユーノの姿が見えた。
両者とも目は閉じられており、足元に魔法陣を展開して複数の本をマルチタスクと速読魔法で同時に読み解いている。
恐らくこの作業を絶えず繰り返すことで闇の書の情報を集めているのだとなのはは漠然と理解し、作業に集中する2人に自分の存在を気付かせる為に名前を呼ぶ。
「シノンく~ん! ユーノく~ん!」
手を振りながら少々大きめの声で呼ぶと、2人は驚くことなくゆっくりと瞼を開く。
すぐに視線がなのはの方へ向けられ、2人も小さく手を振り返した。
「おう、なのは。会議の方は終わったのか?」
「うん。色んなお話をしたけど、リンディさんが司令部を地球からアースラに移すって。
クロノ君達はその準備に入ったから、私達は一度家に戻って休んだ方が良いって」
「そっか……言われてみれば僕達って今日は殆ど管理局側(こっち)に缶詰だもんね」
「休憩は挟んでるがそろそろ限界だな。
お言葉に甘えて、今日はもう帰るか」
本当に疲労が蓄積しているらしく、シノンとユーノは特に食い下がることもなく息を吐きながら魔法を解除する。
3人で一緒に帰れると嬉しそうに顔を綻ばせたなのははシノンとユーノの背後に回って出口へと背中を押そうとするが、周囲を見渡して思い出したように尋ねる。
「そういえば、ロッテさんとアリアさんはいないの?」
「うん。シノンが出撃した後に連絡が有って、別件で問題が起きたからそっちの対処に行くって言ってたよ」
「あの2人にとってこっちの手伝いは本来の仕事に入ってないからな。
人手不足は否めないが、今はオレ達だけで何とかしよう」
そんな話をしながら3人は無限書庫を出て転送ポートへと向かう。
しかしその途中、シノンの懐に収納されているヴェルフグリントから通信を知らせるコール音が発せられる。
待機状態のままデバイスを取り出して通信を送ってきた相手の名前を見ると、シノンの目が一瞬だが険しくなる。
「すまん、少し話してくる。
すぐに追いつくから先に行っててくれ」
「うん、待ってるね」
幸いなのはとユーノには気付かれず、シノンの言葉に頷いた2人はそのまま歩いていく。
その背中を見えなくなるまで見送り、シノンは近くに気配が無いことを確認してから通路の壁に背中を付いて通信を開く。
そこには、俯き気味の顔で思い詰めたような表情のゲーデが映っていた。
「悪いな、出るのが遅れた。
だが、今管理局の本局にいてな。誰かに会話を聞かれたくないから後で……」
『シノン、マズイことになった……』
周囲を見回しながら話すシノンの言葉をゲーデの声が遮る。
声量自体は決して大きくはなかったが、声の中から滲み出た重みのようなモノがシノンの口を閉ざした。
それによって生まれた数秒の沈黙と共にゲーデの顔が持ち上がり、シノンと視線が交わる。
モニター越しに見るゲーデの虹彩異色の瞳は僅かに生気が欠けており、ハッキリと見えるようになった顔色は酷く青褪めていた。
『はやての容態が……悪化した……』
絞り出したような声で呟かれた言葉は、まるで死の宣告を告げるように周囲へと響き渡った。
たとえ希望の光が見えようとも、闇が消えたわけではない。
悲劇の足音はゆっくりと耳元に近付いていた。
ご覧いただきありがとうございます。
雇われとして求められた以上の戦果出したんで面倒な部分は雇い主に押し付けて調べ物に没頭するオリ主でした。
子供ボディなんであんまり怒られないことも計算に入れてます。う~ん、姑息。
そして、話し合いの準備を始める前に八神ファミリーの方で問題発生。
状況が進展しても問題が消えたわけじゃないからね、仕方ないね。
では、また次回。