白銀の来訪者   作:月光花

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今回は少しだけ戦闘パートになります。

では、どうぞ。


第13話 砂上の激闘

  Side Out

 

 文明レベルがほぼゼロの世界……管理局に無人世界と呼ばれている世界の1つに守護騎士の反応が確認され、本局で連絡を受けたシノンは転送ポータルの前でリンディと通信を繋げる。

 

「それで……なのはとフェイトが別々の場所に出撃したのは理解しましたけど、オレはどっちの応援に向かうんです? というか、この状況って不意打ちを狙うのに最適だと思うんですけど……」

 

シノンが言う不意打ちというのは、前回の戦闘で自分とユーノに奇襲を仕掛けてきた仮面の男のことである。

 

デバイスを強化したとはいえ、なのは達と守護騎士の実力は現状でほぼ互角。

 

そんな敵と戦いながら不意打ちを警戒する余裕など有るわけが無い。

 

しかも通信で聞いた情報によるとなのははヴィータと、フェイトはシグナムと、一緒に付いて行ったアルフがザフィーラと1対1で接敵しているらしい。

 

これでは勝敗など関係無く仮面の男にとっては全員が恰好の獲物である。

 

前回の奇襲を経験して最大限警戒するべきだと進言したにも関わらず、それが全く生かされていないと感じる現状にシノンは怪訝そうな視線をリンディに向ける。

 

その視線が何を訴えているのかすぐに理解したリンディは少々慌てたように手を振って返答する。

 

『もちろん、前回現れた襲撃者の対策はしてるわ。なのはさんの方には既にクロノを向かわせているから、シノン君はフェイトさんとアルフの方に向かってちょうだい』

 

「了解しました。では、オレは仮面の男の警戒に入ります。それと、撤退の可能性を考えてアルフには敵の足止めを優先するように指示してください」

 

『お願いね。アルフにはこちらから指示を出しておくわ』

 

通信を終了すると同時に転送ポートが光を発し、魔法陣が展開される。

 

即座に騎士甲冑を身に纏ったシノンがその上に立ち、魔法陣から放たれる光が徐々に強くなる。

 

「もし仮面の男が不意打ちを仕掛けてくるなら勝敗が決まる瞬間が妥当だが……」

 

乱入の危険を避けるならフェイトに参戦して問答無用で即座にシグナムを倒せば良いのだが……それは難しいだろうなとシノンは考える。

 

もしシノンが戦いに乱入してシグナムを倒せば、間違いなくフェイトは怒るだろう。

 

リベンジマッチか、自分の想いを正面からぶつけたいのか、なのはもフェイトも自分を負かした守護騎士との一騎打ちを望んでいる。

 

傭兵稼業をやってきたシノンからすれば敵を倒すことにそこまで拘る必要が有るのかとも思うが、味方との関係を進んで険悪にするのは良くないと思っている。

 

故に、今回のシノンの役目はフェイトとシグナムの戦いには手を出さず、仮面の男の乱入を警戒・阻止することとなる。

 

不意打ちのタイミングまでは分からないが、前回戦った手応えから仮面の男を抑えることは出来るとシノンは考えている。

 

問題が有るとすれば、シグナムと戦っているフェイトの方だ。

 

勿論、勝ってくれれば問題は無い。だが、もし敗北すればシノンは魔力を蒐集されないよう即座にフェイトを回収して撤退しなければならない。

 

一騎打ちに手を出すつもりは無いが、わざわざ闇の書に……本来の呼び名は夜天の魔導書だが……魔力をくれてやる理由は無い。

 

完成まであとどれくらいの頁が必要なのかは分からないが、フェイトの膨大な魔力は大きな餌となるだろう。

 

全ては結果次第だが、最悪の状況に直面しても素早く動けるようにシノンは脳内でのシュミレーションを続行する。

 

なのはと同じく膨大な魔力を持つフェイトが蒐集されれば、頁が大量に埋まって魔導書の完成が近付いてしまう。

 

八神はやてが魔導書の侵食で命を脅かされていると知っているシノンとしても心苦しいが、夜天の魔導書に関する情報が充分に集まっていない現状で完成を迎えるのはマズイ。

 

そして、魔力が手に入らなければ当然シグナムは追ってくるし、守護騎士の味方をしている仮面の男も当然追ってくる。

 

その場合、シノンはフェイトを回収して撤退しながらシグナムと仮面の男の2人を相手にしなければならない。

 

(ぶっちゃけキツイが……最悪の場合はオレが殿を務めてアルフにフェイトを運ばせるか。連中の狙いが魔力なら、上手くやればオレに標的を変えさせることも出来る筈だ)

 

怪我人を抱えてなら厳しいが、自分だけなら2対1でも上手く立ち回って凌げるだろう。

 

そこまで考えた所で魔法陣の光が一層強くなり、シノンは転送準備が完了したのだと理解して意識を切り替える。

 

「……行くか」

 

呟かれた短い言葉と共に視線が鋭さを増し、シノンは光に包まれて戦場へと移動した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  * 

 

 

 

 

 文明レベル0の地表が砂漠に覆われた無人世界。

 

砂漠の上を金と紫の2色の光が飛び交って激突し、その度に炸裂する衝撃波と爆発が砂塵を周囲に撒き散らす。

 

対決するフェイトとシグナムの戦いは、始まってから今に至るまで殆ど間を置かずに攻撃をぶつけ合い、その勢いは衰えを見せない。

 

フェイトが高速戦闘を仕掛けて絶えず連撃を叩き込んでいるのも有るが、対するシグナムも防御するだけでなく正確な狙いで凄まじい威力の反撃を繰り出している。

 

以前よりも火力と速度が上昇したフェイトの攻撃の殆どを剣と蛇腹剣の形態を使い分けることで迎撃・防御するその技量はまさしく歴戦の兵と呼ぶに相応しいものだ。

 

だが、対するフェイトも決して負けてはいない。

 

唯一相手に勝る速度とカートリッジシステムにより向上した瞬間火力を生かしてシグナムの懐に入り込み、幾度もその喉元に喰らい付こうとしている。

 

しかも驚いたことにその速度は戦闘が続いている今この時も尚速くなっており、シグナムの眼を以てしても追い切れない攻撃が出始めている。

 

結果的に互角に近い戦いとなっているのだが、フェイトとシグナムの両者は今の状況が僅かな天秤の傾きで即座に崩壊するものだと理解していた。

 

(ここに来てまだ速くなるか……眼で追えない攻撃がこれ以上増えれば一瞬の隙を付かれて崩されかねん。それに、これ以上時間を掛け過ぎるのはマズイ)

 

(楽観視してたわけじゃないけど、やっぱり手強い……今はまだスピードで勝っているから食い下がれるけど、マトモに打ち合ったら一瞬で叩き潰される)

 

現状、1対1の勝負においてはシグナムが有利だが、戦略的な面では増援到着まで敵の足を止められるフェイトが有利である。

 

このままでは不利になると理解している両者はどうにか現状を打破する方法は無いだろうかと方法を模索する。

 

(ソニックフォーム……今以上の綱渡りになっちゃうけど、勝つにはこれしか……!)

 

(シュツルムファルケン……当てられるか、あの速度に……)

 

未だ伏せている手札を切り、速攻で決着をつける。

 

図らずも睨み合う両者は同じ戦術を選択し、武器を強く握り締めて覚悟を決める。

 

「「ッ……!」」

 

同時に踏み込むと共にデバイスが振るわれ、数秒間の鍔迫り合いの後に距離が開く。

 

「はぁ……はぁ……っ!」

 

少しずつ乱れ始めた息を整えながら地面を蹴り抜いたフェイトの姿がその場から高速移動で掻き消える。

 

一瞬でシグナムの背後に回り込み、金色のハーケンが振り下ろされる。

 

「くっ・・・せいっ!」

 

しかし、ギリギリで反応したシグナムの剣が攻撃を弾き、反撃が放たれる。

 

(ここだっ……!)

 

だが、その斬撃がフェイトの肉体を捉える寸前、その体が再び高速移動によって掻き消えた。

 

「っ! また消え……!」

 

スタミナが限界に近付いている状態だというのに更に上昇する移動速度。これはシグナムの予想を上回り、フェイトは完全にその背後を取った。

 

掴み取ったチャンスを逃がすまいと、ハーケンの刃が横薙ぎに振るわれる。

 

シグナムは左手に持った鞘を割り込ませたが、咄嗟に張った防御では防ぎ切れず吹き飛ばされた。直撃は避けたようだが軽いダメージではない。

 

「バルディッシュ!!」

 

『Load Cartridge.』

 

畳み掛けるなら今しかないとフェイトのバルディッシュからカートリッジが1発ロードされ、フェイトの左手に電撃を纏ったスフィア、その前方に加速・増幅用の環状魔法陣が複数生成される。

     

「プラズマ……!」

 

「!? 飛竜……!」

 

それが砲撃魔法のチャージだと理解したシグナムは即座に立ち上がりながら剣を鞘に納めてカートリッジを1発ロード。ベルカ式の魔法陣が展開され魔力が圧縮される。

 

だが……

 

(僅かにこちらが遅いか……!)

 

……数秒の差だが、先にチャージを始めたフェイトの攻撃の方が速いとシグナムは直感で理解した。

 

タイミングと距離から考えて回避は間に合わず、防御魔法に切り替えても軽くないダメージを受けて間違い無く敗北するだろう。

 

ならば、打ち勝つことが出来なくても可能な限り威力を削ぐしかないとシグナムは覚悟を決める。

 

しかし、互いの砲撃が放たれようとした時、フェイトの背後の空間が“ぐにゃり”と歪んだ。

 

フェイトとシグナムは目の前の敵との戦いに集中しているせいでその変化に気付かない。

 

そして次の瞬間、歪んだ空間から突然白い服を纏った腕が飛び出してきた。

 

飛び出した腕は音も無く背中からフェイトの体を貫こうと迫る。

 

しかし、その腕がフェイトの背中を貫く寸前……

 

 

「ビンゴだな」

 

 

……爆音と共に真横から割り込んだ右手がその勢いを完全に止めた。

 

その声の主……シノンはフェイトを狙っていた腕の手首をがっしりと掴んだまま捻り上げる。

 

何気無い声と共に乱入して奇襲を阻止したその姿にフェイトとシグナムは呆然となり、今まさに敵へ叩き込もうとしていた攻撃もチャージを維持した状態で止まっている。

 

「シノン……どうして……」

 

「応援だ。見ての通り、敵も1人じゃないからな」

 

そう答えて即座にシノンの左拳が振り抜かれ、何も無いはずの空間に鋭い左フックが突き刺さった。

 

拳が突き刺さった空間が揺らぎを起こし、弾き出されたように人影が飛び出した。

 

その人影は殴り飛ばされた状態からバク転で着地し、シノンの拳が命中したと思われる腹部を抑えながら立ち上がる。

 

「くっ……貴様ぁ!」

 

隠れ潜んでいた存在……仮面の男はシノンへの憎しみを明らかにするような声を出す。もし素顔が見えていれば人を殺すような目付きで睨んでいることだろう。

 

「アレって……前の戦闘でユーノを襲った襲撃者……!」

 

「今の今まで奇襲のチャンスを窺ってたらしいな。あと少しで背中を貫かれてたぞ」

 

仮面の男から向けられている殺気をそよ風のように受け流しながらシノンは驚くフェイトと背中合わせの態勢になって仮面の男を警戒する。

 

奇襲を阻止することが出来たが、結果的にシグナムが体勢を整える時間を与えてしまったので戦術的には仕切り直しの状況となった。

 

こうなるとスタミナが残り少ないフェイトが圧倒的不利となり、即座に撤退するのがベストだとフェイト自身も理解しているが……

 

「……どうする?」

 

……魔法のチャージを維持したまま力強い目でシグナムを見るフェイトの背中に何となく答えを察したシノンが一応質問を飛ばす。

 

そして、シグナムにも分かるようにしたいのかフェイトの魔力が高まって金色の雷撃が周囲に拡散して光り輝く。

 

「ごめん、シノン。私、ここで逃げたくない」

 

「……分かった。それならこっちは仮面の男を抑えておく」

 

「っ! ……うん! ありがとう、シノン」

 

あまりにも眩しい笑顔の前に溜め息は出ないが、事前に考えていた最悪の展開がそのまま近付いていることにシノンは胃が痛くなりそうだった。

 

なら止めろよ、と言われそうだが、知り合ってから今までの短い時間でフェイトの頑固さはなのはに匹敵するものだとシノンは理解しているので無駄である。

 

結果、戦闘続行だ。

 

「プラズマ……スマッシャー!!」

 

気を取り直して放たれたフェイトの砲撃魔法。だが、充分過ぎる程に間を置いてしまったので完全に祝砲のようなものだ。

 

しかし、シグナムは簡単に避けられるはずの砲撃を前に微笑を浮かべ、鞘に納めていた剣を勢い良く抜き放つ。

 

「飛竜……一閃!!」

 

抜剣と共に刀身が連結刃へと姿を変え、圧縮された魔力が斬撃と共に放たれた。2つの攻撃が真っ正面から衝突し、相殺されたことで爆発が起こる。

 

それを合図にフェイトとシグナムは砂塵の舞う空へと飛び立ち、再び衝突した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  * 

 

 

 

 

 「……犯罪者のくせして変なところ律儀だな」

 

避けられるフェイトの砲撃に真っ正面から撃ち合って応えるというシグナムの妙な礼儀正しさに少々呆れながらシノンは飛び立つ2人を見送る。

 

正面に立つ仮面の男はフェイトの後を追い掛けることも、視線を外しているシノンに奇襲を仕掛けることもせず黙ってその場に立っている。

 

最も、もしそんな行動を取ろうとしていたら即座にシノンが腰の太刀を抜き放って斬り掛かっていただろうが。

 

「今は動くな……そう伝えたはずだが」

 

「その言葉を信用して欲しいならまずは正体を明かすことだな。あの執務官と提督を納得させたいなら、それが最低条件だろう」

 

そう言うと、仮面の男はまるで溜め息を吐いたように肩をすくめて腰を僅かに沈める。

 

同時に、シノンも腰に差した太刀を左手で持ち上げて鯉口に親指を掛ける。

 

「ならば仕方が無い。あの少女と共に、お前も闇の書の餌になってもらう」

 

「それは結構なことだ。敵対行動を取ってくれるならこっちも遠慮無くお前を制圧出来る」

 

フェイトとシグナムのような好敵手と対峙している雰囲気は微塵も無く、この2人の認識は互いに邪魔者を排除するというものだけだ。

 

静かに膨れ上がる冷たい殺気が周囲を満たし、空気が重くなっていく。

 

その中で合図も無く仮面の男は拳を、シノンは太刀の柄を握り、全くの同時に駆け出した。

 

直後、魔力を纏った拳と闘気を纏った刀身が激突し、衝撃波によって発生した砂柱が開戦の合図を知らせることとなった。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

無限書庫での情報収集が完全に出来てはいないので、オリ主としては闇の書の完成は可能な限り遅れさせるべきだと考えています。

勿論、単純に味方を守るという気持ちも有りますが。

仮面の男の横槍が入って仕切り直しとなりましたが、現在のフェイトは疲労困憊でギリギリの状態なので普通に不利です。

結果、オリ主の嫌な予感ばかりが当たっていく現状。

では、また次回。

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