白銀の来訪者   作:月光花

4 / 47
今回、ようやく主人公が戦闘に入ります。

では、どうぞ。



第3話 変わったモノ

  Side Out

 

 「これで2つ目か………意外に見つかるものだな」

 

『どういうわけか、ばら撒かれたジュエルシードの半数以上がこの街の近くに落ちたようですからね。発動前に回収出来たのは幸運でした』

 

山の中に転がっていたローマ数字が刻まれている青色の宝石を拾い上げ、シノンは感心するように息を吐いた。

 

手の中にある青い宝石からは不思議な威圧感が漂い、明らかに普通の宝石とは違う違和感を感じる。

 

こんな小さな物が、という気持ちが出てくるが、その半面でこの宝石が世界を滅ぼせるというのにも納得出来てしまう。

 

だが、よく考えてみれば厄介なものだ。

 

シノンはヴェルフグリントのサーチを頼りにこの場所へ来たが、何の手掛かりも無い状態では場所を絞るのも難しいだろうし、ジュエルシード本体の見た目は手の平サイズの石だ。

 

これでは見つけるのはかなり苦労するだろう。

 

だが、幸か不幸かジュエルシードの全21個の内半数以上はこの海鳴市の近くに落下したらしい。

 

それを頼りに転移を終えたシノンは衰えながらも異常な程に鍛え抜いた身体能力によって山などの険しい道をものともせず、捜索開始から数時間で2つのジュエルシードを回収した。

 

両方とも人里から離れた山中にあったおかげで発動も発見もされなかったらしく、現在はヴェルフグリントのストレージに保管されている。

 

「………にしても、海なんて飽きるほど見てきたのにな……」

 

木の幹に立ちながら、シノンは街並みの方向へと目を向ける。無数の建物が並ぶその先には、太陽の光を浴びてキラキラと輝く青い海が広がっている。

 

アドリビトムの拠点、バンエルティア号の甲板から数え切れない程に海を見てきたが、こうして改めて見ると綺麗なものだと思えた。

 

こんな風に景色を綺麗だと思えるようになったのは、子供に見えるまで若返ったからか、それとも精神的な余裕が出来たのか。

 

「……どっちにしろ、悪いもんじゃないな………ん?」

 

そう呟いたシノンは再び両足に力を込めて跳躍しようとするが、遠くから音も無く、空気の振動も無い力の波動を感じた。

 

「これは………」

 

『ジュエルシードです。街中で発動してしまいましたか………』

 

「急ぐぞ」

 

短い返答の後に足に力を込め、シノンはセットアップの光を纏いながら波動を感じた方角へと高く跳躍した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「それで、やって来たはいいが………これは何だ?」

 

波動を感じた場所には、何やら不可思議なドーム状の領域が形成されていた。普通の人間には見えないのか、騒ぎも起こっていない。

 

『マスター、これは結界です。恐らく被害を出さないよう内外の位相をずらして空間を隔絶しているんですよ。この程度なら簡単に侵入できます』

 

ヴェルフグリントに言われて歩を進めると、ゼリー状の膜を通ったような感覚の後に夕焼けが少し出ていた空とはまったく別の色の空が広がる海岸が見えた。

 

そして、シノンが足を踏み入れたその場には、戦いの光があった。

 

戦いの光、魔力の色は桜色と金色の2つ。

 

桜色の光を放つのは肩にフェレットを乗せた白い衣服、バリアジャケットを着た少女。金色の光を放つのは正反対の黒い衣服を着た少女のものだ。

 

その2人の敵意が向かう先にいるのは、10メートルを超える巨体に無数の太い枝を鞭のように振るう巨木の怪物。

 

白い少女の持つデバイスから3つの桜色の光球が、黒い少女の手の平から金色の太い光線が放たれるが、ジュエルシードの暴走体が持つバリアに阻まれて届かない。

 

見た所、苦戦はしてないが手を焼いている、という感じだ。

 

「あの2人は………」

 

『現地の魔導師、あるいはロストロギアの回収者でしょうか………どちらもあの歳にしては異常な実力と魔力です』

 

「とりあえず、あの化け物を黙らせるか………」

 

『よろしいのですか? あの2人が攻撃してくる恐れもありますが』

 

「問題無い。その時はそいつも纏めて相手すればいい」

 

ヴェルフグリントの苦笑を聞きながら、シノンは腰に差した大太刀を抜刀して暴走体へとゆっくり近付いていく。

 

その姿に気付いて2人の少女が動きを止め、自身に堂々と近付くシノンに暴走体の意識が集中する。

 

白い服の少女が制止の声を飛ばすが、シノンは止まらない。

 

数本の枝が鞭のように頭上から振り下ろされる。だが、シノンが右手に持つ大太刀を右薙ぎに振るって発生した衝撃波に押し返され、砕け散る。

 

そこから弾かれたように走り出し、真っ直ぐ暴走体へ迫る。

 

迎撃しようと暴走体はさらに多くの枝を飛ばすが、シノンはくるりと右へ体を回転させ、向き直ると同時に右手の大太刀を右逆袈裟に振り抜く。

 

「魔神剣ッ!!」

 

大太刀の振るわれたコースに沿って無色の斬撃が地を滑りながら暴走体へと直進し、枝を粉々に砕いて吹き飛ばした。

 

斬撃は暴走体へと迫るが、バリアに激突して軋みの音を立てて数秒で勢いを殺される。しかし、その直後にバリアに亀裂が走る。

 

(?………なんだ、今の威力は……)

 

今のは背が縮んで衰えた肉体からは発揮出来そうに無い破壊力だった。

 

だが、今は気にしている場合ではないと意識を切り替える。

 

「シルフ」

 

呟きに答え、シノンの体が風のジェット噴射で前へと押し出された。

 

加速しながらシノンは大太刀を持つ右手を後ろに引き、展開されるバリア目掛けて一気に突き出した。

 

「瞬迅剣ッ!!」

 

破壊力を集中させた刺突は一瞬の抵抗の後にバリアを貫通し、小さな穴を開けた。その破壊力はまたもシノンの予想の上をいくものだったが、今は止まらない。

 

大太刀の長い刀身が半分ほど突き抜けた状態で柄を両手で握り、刀身を縦にして一気に頭上へ跳ね上げる。

 

それによってバリアが大きく斬り開かれ、シノンは防御が丸裸になった暴走体の体に大太刀を深く突き刺した。

 

「イフリート、焼き尽くせ」

 

突き刺した刀身から炎が噴き出し、暴走体の体を燃料にして内側から激しく燃え上がる。炎はすぐさま外側へと巡り、無数の枝が灰になっていく。

 

逃げようのない炎の痛みに暴走体は必死に暴れ回り、シノンは突き刺した大太刀を一度さらに深く刺し、勢い良く引き抜く。

 

「狂乱せし大地の刃よ………」

 

呟いて術の詠唱に入ったシノンは右手で指を鳴らす。

 

「ロックブレイク」

 

すると、地面から岩で作られた5メートルを超す巨大な棘が飛び出し、シノンの目の前で暴れまわっていた暴走体の体を四方から串刺しにした。

 

それがトドメとなったのか、暴走体の動きがピタリと停止し、黒焦げの体がボロボロと崩れ落ちる。

 

崩れ落ちた体の中から青い光と共にジュエルシードが現れ、シノンは白銀色の魔力を帯びた大太刀を振り下ろして深く斬り裂いた。

 

その瞬間、強烈な発光が起こり、空間に満ちていた力の波動が消える。

 

見ると、振り下ろした大太刀はジュエルシードそのものを斬り裂いたわけではなく、魔力の奔流が収まった後に残ったのは青い宝石だけだった。

 

事態の収拾を確認したシノンは軽く息を吐く。

 

「思ったより弱いものだな。暴走体も、オレ自身も。だが………」

 

色んな意味での力の低さに呆れながら大太刀を鞘に納め、シノンは暴走体を串刺しにしたロックブレイクの岩の棘を見上げる。

 

魔神剣や瞬迅剣を放った時もだが、この威力と規模は弱体化した体で普通に出せるものではない。肉体を操る本人がそう思うのだから間違い無い。

 

その原因として考えられるとすれば………

 

(この右腕か………)

 

これしかない。

 

理屈はさっぱりだが、どうやらこの感覚の無い右腕は腕を介して使われた術の威力や効果を増幅させる機能があるようだ。なんだか………ただでさえ人間かどうか怪しいのに段々人間ばなれしてくな。

 

『マスター、ジュエルシードが………』

 

ヴェルフグリントに言われて視線を移すと、先程シノンが無力化したジュエルシードが空中に浮遊していた。

 

そのジュエルシードを挟み込むように白い服の少女と黒い服の少女が互いにデバイスを構えながら向き合っている。

 

唇が動いているので会話をしているようだが、よく聞き取れない。

 

『っ!………マスター! あの2人を止めてください! 強制封印したとはいえ、近くで交戦しては暴走の危険があります!』

 

「二度手間は勘弁だぞ……!」

 

ヴェルフグリントに言われてシノンが動き出すが、2人の少女は既に動き出し、互いのデバイスを振り上げている。

 

少し怪我させるのを覚悟にシノンは大太刀に手を伸ばす。しかし、激突するかと思われた瞬間、二人の間に光が走り、魔法陣が展開された。

 

そして、魔法陣から出てきた一人の影が白い少女のデバイスを素手で掴み、黒い少女の戦斧型デバイスを自身の持つ杖型のデバイスで受け止めた。

 

「ストップだ!!ここでの戦闘は危険すぎる!!」

 

割って入ってそう叫んだのは黒髪に青目の少年だった。少し離れた位置にいるシノンから見た感じ、背丈は自分より低く、2人の少女より少し高い程度だ。

 

服装は肩に角のような突起が付いた黒いロングコートに青黒いズボン。恐らくバリアジャケットだろう、あれが普段着だとはとても思えない。

 

「時空管理局執務官、クロノ・ハラオウンだ!! 詳しい事情を聞かせてもらおうか・・・・」

 

そう言った少年の言葉に、激突寸前だったその場はひとまずの沈黙を得た。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

今回の戦闘、主人公は一切魔法を使用しておりません。せいぜい刀身に魔力を纏わせて斬ったり、強制封印する時くらいです。

よく考えたら、テイルズの技って剣技でも詠唱術でも、魔導師にとっては予測不能な恐怖の対象ですよね。

デバイスいらなくね? と思われるかもしれませんが、後々から魔法技術全般にはかなりお世話になりますのでお待ち下さい。

では、また次回。


▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。