白銀の来訪者   作:月光花

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半年近く間を空けてしまっての更新。申し訳ない。

今回は会話パートのみになります。

では、どうぞ。


第11話 『正義』と『救い』

  Side シノン

 

 時空管理局本局。

 

次元空間内に設置され、外見は空中要塞を思わせるように威圧的なデザインをしている。

 

そんな施設の中に、現在オレはハラオウン家の転送ポートを経由してやって来ている。

 

ちなみに1人ではなく、エイミィさん、クロノ、ユーノが一緒にいる。

 

何の用でこんな場所に来ているのかと言うと、半分はオレの要望でもう半分はリンディさん……雇い主からの命令でもある。

 

要望というのは、ゲーデと話をする前からリンディさんに“闇の書の詳しい情報が欲しい”と

オレが頼んでいたからである。

 

だが、現在の管理局のデータベースには闇の書というロストロギアの詳しい性能や情報は保存されておらず、現在はその情報が保管されていると思われる場所に向かっている。

 

そしてもう半分のリンディさんからの命令と言うのは、これから向かう場所で闇の書の情報を探すのに専念する為に呼ばれたユーノの手伝いと、ある人との面会だ。

 

何でも向こうがオレと話がしたいと希望しているらしく、本局に用事が有るなら直接会った方が良いということになった。

 

「……しかし、随分と大所帯で出て来て向こうは大丈夫か?」

 

「まあ、モニタリングは他のスタッフに頼んであるし、大丈夫でしょ」

 

「それで……僕はこれから闇の書について調査をすれば良いんだよね?」

 

「ああ。これから会う二人はその辺に顔が利くんだ。僕の師匠でもある」

 

そんな会話をしながら通路を歩いていると、先頭のクロノとエイミィさんが1つの扉の前で立ち止まって中へと入って行った。

 

「リーゼ。久しぶりだな、クロノだ」

 

入室した部屋の中には、猫科の尻尾と耳を生やした二人の女性がいた。

 

ロングヘア―の女性は個人用のソファーに座って本を読んでおり、もう1人のショートヘアーの女性はスカートを気にせずロングソファーに寝転び足を組んで寝ている。

 

恐らくアルフと同じく動物を素体とした使い魔だろう。こちらも主人の魔導師としての実力ががかなり高いのか、一目見ただけで確かな知性を有しているのが分かる。

 

そして、後ろを歩いていたオレとユーノが室内に入って扉が閉まると同時に、先頭にいたクロノの姿が視界から突然消えた。

 

いや、正確にはソファーに寝ていたショートヘアーの女性が一瞬でクロノに接近し、その体を抱き寄せていた。

 

「わ~お♪……クロ助! お久しぶりぃ!」

 

「ちょっ! ロッテ! やめろこら! ……アリア! コイツを何とかしてくれ!」

 

「にゃにお~。久しぶりに会った師匠に随分冷たいじゃんかよ~~ウリウリ」

 

「せっかく会ったんだ、好きにさせてやれ。それに……満更でも無かろう?」

 

にやりと口元を歪めたロングヘアーの女性の言葉を引き金に、クロノはそのままソファーの陰に押し倒されてこちらからは姿が見えなくなった。

 

クロノの悲鳴が部屋に響き、オレは無言で合掌してユーノは顔を青くする。

 

クロノと付き合いの長いエイミィさんは表情を一つも崩さず、ロングヘアーに女性に近付き、笑顔でハイタッチを交わす。

 

「リーゼアリア、お久し」

 

「ああ、お久しエイミィ……そっちの2人がリンディ提督の言ってた子?」

 

「そうだよ。2人とも、紹介するね。この人はクロノ君に魔法教育をしたお師匠さんのリーゼアリア、向こうでクロノ君と遊んでるのが近接戦闘のお師匠、リーゼロッテ……2人とも、グレアム提督の双子の使い魔なの」

 

「ユーノ・スクライア君とシノン・ガラード君だよね?……リンディ提督から話は聞いてるよ。呼びにくいだろうからアリアって呼んでくれ」

 

そう言って微笑みながら手を差し出すアリアさん。

 

オレとユーノはそれぞれ握手に応じながらよろしくお願いします、と無難に返してエイミィさんと一緒にソファーに腰を下ろした。

 

それと、押し倒されたクロノの悲鳴が途切れていることに気付いて目を向けると、肩で息をしながら疲れ切った顔で別のソファーに腰を下ろしていた。

 

「さてと……そっちのスクライアの子は“無限書庫”の方だったわね……ちょっとロッテ、その辺にしときなさい」

 

「うにゃ~……ご馳走様♪ お?……おやおや?ねえクロ助、こっちも喰っていいかにゃ?」

 

「……好きにしても良いが作業が終わってからにしろ。僕は知らん」

 

「なっ!?……お、おい!ちょっと待て!……ひっ!」

 

誰も助けようとしなかったことを根に持っているのか、クロノはオレとユーノをジト目で見ながら疲労感たっぷりの声で見捨てた。

 

だが、頬のあちこちにキスマークを張り付けた顔のせいか、オレの心には不満ではなく憐れみと笑いがこみ上げてくる。

 

そんなクロノの言葉を聞いてショートヘアーの女性、ロッテさんは獲物を狙うように目を輝かせ、抗議の声を上げようとしたユーノは怯んでオレの背後に隠れる。

 

「おい、自然とオレを盾にするのはどうなんだ結界魔導士」

 

「ご、ごめん。でも、何か怖くて……」

 

そんな話をしているオレ達を隙だらけと判断したのかロッテさんは足に力を溜めて猫のように跳ぼうとするが、跳躍の瞬間アリアさんに襟首を掴まれて体が宙に浮く。

 

「ハイハイ、お仕事するわよロッテ。あんたは先に無限書庫の方をお願い。私はシノン君を父様の所に案内してくる」

 

「了解、了解。んじゃ、行こっか?」

 

「は、はい」

 

溜め息を吐くアリアさんの言葉で一応スイッチを切り替えたのか、ロッテさんはあっさりと引き下がった。

 

そのままロッテさんは冷や汗を流すユーノと不機嫌顔のクロノの2人を連れて一緒に部屋を出て行く。

 

部屋に残されたのはオレとエイミィさんとアリアさん。

 

この3人で移動するのかと思ったが、エイミィさんは別の用事が有ったらしく、後はよろしくとアリアさんに手を振って部屋を出た。

 

「んじゃ、行こうか」

 

アリアさんの言葉に頷き、一緒に部屋を出て数分廊下を歩く。

 

道中特に会話も無く1つの部屋に辿り着き、アリアさんが扉横のコンソールを操作して扉が開く。

 

アリアさんに続いて入った部屋の中は、さっき立ち寄った応接室とは明らかに質が違った。

 

部屋の広さは縦横共に応接室を上回っており、部屋の中央付近には上等なロングソファーとテーブルが設置されている。

 

明らかに一定以上の階級を有する個人の為に用意された部屋だ。

 

「お父様、お連れしました」

 

「おお、ありがとうアリア……」

 

入室したオレに穏やかな声を掛けてきたのは、奥のデスクに座る初老の男性だった。

 

所属の違いでも有るのかリンディさんとはデザインが微妙に異なる管理局の制服を着こなし、その声色と柔らかな物腰からは優し気な雰囲気を感じさせる。

 

だが同時に、その立ち姿からは齢を重ねたことにより滲み出る威厳が有った。

 

一見すれば優しそうな男性にしか見えないが、オレにはエイミィさんから聞いた通り歴戦の勇士という言葉がしっくり来るような人物に思えた。

 

「初めましてだね、シノン・ガラード君。私はギル・グレアム、先程キミが会ったアリア達の主人だ。よろしく」

 

「初めまして、グレアム提督。もしかして、リンディさんが言っていたオレとの話しを希望している人とは……」

 

「ああ、私だ。なのはくん、フェイトくんとはもう話したんだが、その時はまだキミのことを知らなかったのでね。リンディ提督とクロノ執務官が協力をお願いする程の人物がどんな人間か実際に話してみたかったんだ」

 

手を伸ばしながら微笑むグレアム提督に握手で応じ、向かい合うようにソファーに座ってアリアさんが用意してくれた紅茶を飲む。

 

翠屋の手伝いで何度か紅茶の香りを嗅いだことは有るが、ここまで良い香りと味がハッキリと感じられるのは初めてだ。

 

「……美味い」

 

「ハハ、それは良かった。ピージーチップスという地球のイギリスにある紅茶だよ」

 

「イギリス?」

 

「ああ、私は地球のイギリス出身でね。偶然行き倒れていた管理局員を見つけ、その人を助けたのが魔法を知る切っ掛けだったんだ」

 

懐かしむようにそう言いながら紅茶を一口飲み、グレアム提督はティーカップを置いて真剣そうな表情でアリアさんを見た。

 

すると、アリアさんは無言で頷いてから立ち上がり、部屋を退出する。

 

「……さて、美味しい紅茶を前に無粋かもしれないが、さっそく本題に入ろう」

 

グレアム提督は懐から取り出した携帯端末を操作し、その画面をオレに見せるようにテーブルの上に置いた。

 

ティーカップを置いて端末の画面を見ると、そこには前回の戦闘映像と思われるデータが表示されていた。

 

「正直に言って驚かされたよ。なのはくんやフェイトくんについては半年前の事件の報告書で知っていたが、キミ程の実力者まで地球にいたとは」

 

どうやら、オレとしたい“話”というのはこっちが本題のようだ。

 

覚悟はしていたが、組織の力を通さずにこうして個人的に呼び出して問い詰めてくるとは意外である。

 

「これでも多くの実戦を経験した身でね。この記録を見ただけで、キミの強さは数え切れない程の戦いの経験を血肉としたものだとすぐに分かった。だが、その歳でそこまでの実力を身に付けているのは正直異常だ」

 

グレアムさんの口から出た評価に、オレは内心舌を巻いた。

 

エイミィさんからこの人が管理局でもかなりの実力者であることは聞いていたが、オレの戦い方が長年の経験によるものだと見抜ける程とは思わなかった。

 

まあ、流石に一度死に掛けて目が覚めたら子供になったなんて予想も出来ないだろうし、どれだけ深く考えてもこの人から見たオレの評価は“異常なまでに実戦慣れしてる子供”が良い所だろう。

 

「仰る通り、オレの実力は少々過酷な経験の積み重ねから来るモノです。

ですが、今グレアム提督が言ったようにこの歳でこれだけの経験を積んでいる異常性やオレの素性について管理局に目を付けられたくなかったので半年前はリンディ提督とオレの情報を公開しないように契約を結びました」

 

所々に誤情報を混ぜてあるが、疑われるような内容にはなっていない。

 

ひとまず、これで情報を隠した理由については問題無いはずだ。

 

「なるほど、合点がいったよ。あの2人に尋ねても、返って来る答えが“分からない”ではなく、“答えられない”だったのだから」

 

どうやら、あの親子はきちんとオレとの契約を守ってくれたらしい。

 

しかし、宮仕えの身だと言うのに“答えられない”と返す辺り、あの親子の変な頑固さが窺い知れる。

 

どうにもあの親子とグレアム提督は長い付き合いの間柄のようだし、適当な情報で誤魔化すことも黙秘することも出来ないと考えた結果なのだろう。

 

まあ、あの時のリンディさんとの契約はオレの素性や能力について詮索せず、その情報を公開しないというだけのもの。

 

こうして第3者から直接探りを入れられた場合は、オレ自身がどうにかしなければならない問題だろう。

 

「それで、オレのことで管理局の方から何か?」

 

少々気を引き締めて問うと、グレアムさんは微笑みながら携帯端末を仕舞う。

 

「いや……正義感の強いあの親子が何も報告しないと決めた以上、私からキミの素性などについて尋ねることは何も無いよ。少し話をしただけだが、キミが悪い人間にも見えないしね」

 

そう言ってグレアムさんは再びティーカップを手に取り、紅茶を飲む。

 

どうにか表情には出さないよう留めてたが、正直この結果は予想外も良い所だ。

 

いや、何も言わないでくれるならオレには一切デメリットが無いので助かるのだが、リンディさんもグレアムさんも人が良過ぎやしないだろうか。

 

そんなオレの動揺を察したのか、グレアムさんは微笑みながら話を続ける。

 

「……だが、わざわざ呼び出しておいて何も無しというのは失礼だね。ならば、この件とは関係の無い質問に幾つか答えてくれるかい?」

 

「……それでオレのことを詮索しないと言うなら、何なりと」

 

正直半信半疑だが、リンディさんと同じ提督の階級にいる人間が何も詮索しないというのはオレとって間違い無く破格の条件だ。

 

ならば、ここは素直に従っておこう。下手に疑って立場を悪くしたくない。

 

そう考えてティーカップを口に含むと、もう殆ど中身が入っていなかった。

 

「決して気持ちの良い話じゃない。答えたくなかったら答えなくても全く構わない」

 

同じくカップが空になったのか、グレアムさんはテーブルに置かれているティーポットを手に取って再び紅茶を注ぎ、息を吐いて座り込む。

 

「これはあくまでもしもの話だが、大切な友人が感染力も致死性も物凄く危険なウイルスに掛かったら、キミはどうする?」

 

「……どうする、とは?」

 

唖然としそうになるが、どうにか言葉を捻り出して会話を繋げる。

 

……いかんいかん、予想を遥かにぶっ飛んだ重い質問のせいで酷く動揺してしまった。

 

「キミの思うままに答えてくれて良い。IFの話を持ち出しておいて何だが、選択肢を辿るのではなく、キミがどうするのかを教えてくれ」

 

そう答えるグレアム提督の顔は、どういうわけか先程の本題を話し合っていた時よりも真面目なモノに見える。

 

様子から察するに、どうやら軽い心理テストや小話の類ではない本気の問いのようだ。

 

どう考えても子供に向ける質問ではないことから、オレが“そういう経験”をしていると考えての内容なのだろう。

 

あまりに突拍子も無く意図も読めない質問だが、グレアム提督の雰囲気から見てこの問いには真剣に考えた答えを返さねばならない気がする。

 

腕を組んで視線を下げ、数秒の間だけ黙り込んで思考を巡らせる。

 

オレならその状況でどう思い、どう行動するか。思い浮かべた光景の中に自分自身を投影し、そこに立つ自分がどうするかを考える。

 

目の前には死の危機が迫る友人、その目の前には今は無き愛刀を握るオレ。

 

そんな中で、オレは恐らく……

 

「その友人がどうしたいかによるでしょうね」

 

……熟考の末に出た答えは、意外にすんなりと口に出せた。

 

視線を持ち上げると、グレアム提督は無言だが驚きで僅かに目を見開いていた。

 

その沈黙が続きを要求していると考え、オレは言葉を続けた。

 

「ソイツが本当に大切な友人なら……殺してほしいと懇願されればオレの手で殺すし、命が消えるまで是が非でも生きたいと言うなら守ります」

 

その大切な友人を具体的に“誰”と例えたわけではないが、恐らくオレならそうするだろう。

 

本当に大切なら、赤の他人に殺されるくらいならオレの手で殺す。

 

反対にどんなに無様で醜くても、それでも生きたいと願うなら……その命が尽きるまで一緒に足掻く。

 

酷く歪んでいてハッキリしない答えだが、オレはそういう答えに行きついてしまうのだ。

 

「その選択で……1人を守る為に多くの人を死の危険に晒しても、キミは自分の答えが正しいと、救いだと言えるのか……」

 

「……それは少し違います。正しいか間違いかで言えば、オレの答えは多分間違っているでしょう。でも、命の数を天秤に乗せて少ない方を切り捨てるだけの選択が救いだなんてオレは思えない」

 

数千数万の命を生かす為に1人の犠牲を良しとする。

 

単純に見ればその理屈は“正しい”のだろう。たった1人を見捨てるだけで数え切れない程の命を助けられるのだから。

 

だが、その理屈は正しくはあっても決して救いにはならない。

 

恐ろしいから、危険だからなんて理由で他の者達に切り捨てられ、無慈悲に命を奪われることに一体誰が納得出来るのだ。

 

「所詮は綺麗ごとかもしれないし、もっと酷い地獄を見ることになるかもしれない……」

 

世の中の悲劇全てに希望が有るわけじゃない。

 

傭兵として色んな地を旅する中で、色んな地獄を見てきたから分かる。

 

本当にどうしようもない時も、嫌でもやらなきゃいけない時もあった。

 

正直オレも傭兵稼業でそんな地獄を何度も見せられ、世界なんてこんなものだ、と見限っていた方だ。

 

けど、アドリビトムで出会った仲間達が……アイツ等が世界には悲劇だけじゃないと証明してくれた。

 

だから、オレみたいなヤツでも少しは自信を持ってこう言える。

 

「それでも……とんでもなく難しいけど……その友人と肩を並べて、考えて、どうしようもない状況の中でも希望を見付けるのが本当の救いでしょう」

 

自分の口元が僅かに緩むのを自覚しながら、再び紅茶を飲む。

 

見ると、グレアム提督は深刻そうな顔で考え込み、何も言わず沈黙している。

 

何らかの意図が有ってこんな質問をしたようだが、今はオレの答えを聞いて何らかのショックを受けているように見える。

 

だが、その沈黙は数秒で打ち破られ、グレアム提督は顔を持ち上げた。

 

「……分かった。こんな奇妙な質問に真摯に答えてくれてありがとう」

 

そう言ってグレアム提督は微笑みを浮かべるが、その笑みは先程よりも明らかに弱々しく無理をして作ったものだと分かる。

 

どうやら、あの質問はグレアム提督にとってオレの想像以上に重要な話だったらしい。

 

ならば、今この場では触れるべきではないだろう。

 

そう考えたオレは、グレアム提督にそれ以上の質問を投げずに口を閉じた。

 

「長話になってすまなかったね。アリアが部屋の外にいるだろうから、無限書庫まであの子に案内してもらってくれ」

 

「分かりました。では、失礼します」

 

グレアム提督に一礼し、オレはそのまま部屋を出る。

 

自動で開いた扉を通ると、廊下の壁に背中を預けるようにして立つアリアさんがいた。

 

部屋から出てきたオレの姿を見てアリアさんは微笑を浮かべて迎えるが、その笑顔はクロノ達を前にした時よりも些か硬い。

 

「終わったみたいだね。んじゃ、行こうか」

 

そう言ったアリアさんの後ろに続き、オレも黙って歩き出す。

 

終わったみたいだね、と口にしていたが、魔導師によって生み出された使い魔と主の間には『精神リンク』というパスが存在する。

 

流石に会話の内容全文を共有していることは無いだろうが、グレアム提督の精神的な動揺がアリアさんにも少なからず影響を与えているのだろう。

 

(しかし……誰にでも触れられたくない話題は有るもんだが、主従揃ってここまで反応を隠し切れない程の動揺をされるとどうにも気になる。さっきの質問、グレアム提督にとってはどんな意味が有ったのやら)

 

拭い切れない疑問を抱えながら、オレはアリアさんの背後を無言で歩き続けた。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

   Side Out

 

 シノンが退出した後、部屋の中はただ静寂に包まれていた。

 

ソファーに座り込むグレアムの顔色は、シノンと話をしていた時と違って目に見えて蒼白となっており、病人にさえ見える。

 

背筋からは絶えず冷たい汗が流れ、顔の前で組まれた両手は小刻みにプルプルと震えている。

 

だが、今のグレアムの精神はそんなことを気にも留めない程に乱れ、動揺していた。

 

 

『それでも……とんでもなく難しいけど……その友人と肩を並べて、考えて、どうしようもない状況の中でも希望を見付けるのが本当の救いでしょう』

 

 

頭の中で何度も反響するように先程の少年、シノン・ガラードの言葉が繰り返される。

 

あんな質問を口にしたのは本当にただの思い付きだった。

 

目の前の少年がただならぬ過去を経験してきたことを見抜き、そんな少年ならばどんな決断をするのだろうかと気になっただけなのだ。

 

だが、返ってきた答えは予想を遥かに上回ってグレアムの心に衝撃を与えた。

 

(本当の救い……ならば、私のしたことは……しようとしていることは……)

 

忘れもしない過去が色濃く浮かび上がる。

 

他ならぬこの手で信頼する部下を死なせる引き金を引いたこと。あの時の判断を、グレアムは決して間違いとは思わない。

 

否、思って良いわけがないのだ。

 

それを間違いだと思うことは、命を賭して他の命を救おうとした部下の決断を汚すことに他ならないのだから。

 

しかし、同時にシノンの言葉を聞いてから生まれた感情が心を掻き毟る。

 

それは使い魔と主の間にある精神リンクを通じて双子の使い魔も感じていた。恐怖に似ているが、確かな敵意が抱けない。そんな不安定な感情だ。

 

「クライド……私は……」

 

だが、今グレアムの中に広がる感情を消すことが出来る人間はおらず、その呟きはただ室内に響くだけだった。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

オリ主、グレアム提督のメンタルにダメージを与えている自覚無し。

一応言っておくと、オリ主は現状でグレアムと闇の書の間の因縁は一切知りません。勿論、ハラオウン親子の因縁も。

オリ主は本当にグレアムの質問に対して真面目に考えて答えただけなので、別にエスティア吹っ飛ばしたを否定しているわけではありません。

作者としては、エスティアを沈めたグレアムの判断は正しいと思います。というか、あの時はそれしか選択肢無い気もしますが。

では、また次回。





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