白銀の来訪者   作:月光花

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今回は戦闘後の状況確認になります。

では、どうぞ。


第10話 見えぬ影

  Side シノン

 

 市街地での戦闘が終了し、逃亡した守護騎士達の追跡をクロノ達に一任してオレとユーノ、なのは達は一旦対策本部であるマンションに戻った。

 

ユーノの怪我はオレの治癒術で殆ど治ったので、今は大きめのソファーに横たわらせている。

 

他それぞれのメンバーも若干の疲労感に襲われていたが、未だ警戒態勢は解かれていないので、ひとまずはこの場で待機である。

 

「……カートリッジシステムは扱いが難しい代物なの。本来なら繊細なインテリジェントデバイスに組み込むようなものじゃないんだ。本体の破損の可能性があるし、何より術者にも負荷が掛かるから、やめるようには……言ったんだけどね」

 

横たわるユーノの隣でオレがソファーに背中を預けている中、エイミィさんはなのはとフェイトにカートリッジシステムの説明をしていた。

 

まあ、使っている代物が代物だ。あの2人の才能と技量が幾ら化け物染みていると言っても、危険だと分かっている物を使う以上はしっかりと釘は刺すべきだろう。

 

「しかし、デバイスの性能にも驚かされたが、ソレをすぐさま使いこなす2人にも驚きだな。不貞腐れるわけじゃないが、オレとは大違いだ」

 

『確かに、魔法の才能に関してあの2人の才能は天才としか言いようが有りませんね。そしてマスターの場合、現状カートリッジシステムや大規模な魔法は不要なモノですから』

 

「魅力は分かるんだがな。オレの場合、火力は術技で充分過ぎる程出せるから必要なのは移動か防御くらいになる」

 

自分が特例中の特例なのは自覚しているが、純粋な古代ベルカ式のデバイスを所有していながら攻撃系の魔法を殆ど登録していない変わり者の前衛担当はオレくらいだろう。

 

もしかしたらゲーデも似たようなモノなのかもしれないが、オレと違って空中での移動を難無く行っていたので魔法の才能はアイツの方が上だろう。

 

「モードはそれぞれ3つずつ。レイジングハートは中距離射撃のアクセル、遠距離砲撃のバスター、フルドライヴのエクセリオン。バルディッシュは汎用のアサルトと鎌のハーケン、フルドライヴはザンバー。

 

破損の危険性が高いからフルドライヴはなるべく使わないようにね。特になのはちゃんの方はフレーム強化がまだ済んでないからエクセリオンモードは使っちゃダメだよ」

 

「「はい!」」

 

なのはとフェイトが頷き、自らのデバイスに視線を落とす。

 

フルドライヴ。その名の通りデバイスと術者の出力を完全に引き出す機能のことだ。

 

魔導師も騎士も通常は潜在魔力の6割程度しか出力を発揮出来ない。それ以上の魔力使用は体が負荷によるダメージを抑えるために拒否するからだ。

 

つまりは人間の脳や肉体に無意識に働いているリミッターと同じようなものである。

 

フルドライブはこれらの安全機構をあえて解除し、一時的に限界に近い出力を発揮する。だが当然、少なからず過剰負荷によるダメージは体に残り、傷の治りや体調不良を悪化させる要因にもなりえる。

 

なのはの言葉を借りるなら、フルドライヴはまさに“全力全開”という言葉がしっくり来る状態と言えるだろう。

 

ちなみに、フルドライブは魔法ではなくデバイスの機能なのでヴェルフグリントにも搭載されている。

 

レイジングハートやバルディッシュのように複数の形態を備えているわけではないので、オレが使用した場合は基本的な膂力が強化されるだけだろう。

 

そんな時、短いコール音が鳴ってから正面モニターに通信が繋がり、悔しそうな顔を浮かべたクロノが映った。

 

『……艦長、申し訳ありません。守護騎士をロストしました』

 

「そう……ご苦労様、気に病まないでクロノ。追跡を中止して、こちらに戻って頂戴」

 

『了解しました』

 

そこで通信を終了し、ひとまず警戒態勢は解かれたと見て良いだろう。

 

リンディさんは顎に手を当てながら少し考え込んだ後にオレ達全員を見る。

 

「まずは事態の確認を行いましょう……まず最初の問題は、守護騎士の目的ね。アルフの報告を聞いて確信したけど、どうにも守護騎士達は自分の意思で闇の書の完成を目指してるように見えるわ……」

 

「え? それっておかしなことなのかい? 闇の書って、つまりはジュエルシードみたいに凄い力が欲しい人が集める物なんでしょ? だったら、その力を欲しがってる主の為にあの連中が頑張るのはおかしくないと思うけど……」

 

確かにアルフの言うことは最もである。あの連中が闇の書の主に仕えているのなら、その主の為に頑張っているというのは普通に考えられる理由だ。

 

オレはゲーデから本当の理由……連中が八神はやてを助ける為に動いていると知っているが、どうやら今までの守護騎士達の行動はそうではなかったらしい。

 

リンディさんはゆっくりと首を振って疑問を否定し、エイミィさんが端末を操作してモニターに幾つかの画像を出す。

 

そこには、まるで災害後のように派手に破壊された都市や大地が見える。

 

「まず第一に、闇の書の力はジュエルシードみたいに制御出来るような代物じゃないの」

 

「完成前も完成後も、純粋な破壊にしか使えない。少なくともそれ以外の目的で使われた記録は一度も無いわね」

 

どうやら、これは過去の闇の書が引き起こした被害の画像らしい。

 

しかし、オレの興味は表示された画像ではなく、リンディさんが口にした言葉に向いていた。

 

「一度も無い……なら、前回闇の書が完成した時はどういった形で事態が収集したんですか? 闇の書は転生機能を使って次の主をランダムで選ぶんでしょう?」

 

「……前回は完成、というより暴走を起こした闇の書が一隻の次元潜航艦のコントロールを乗っ取り、奇跡とも呼べるほど最低限の被害でその艦を破壊して事態を収集したの」

 

オレの質問にそう答えるリンディさんの顔は隠し切れないほどの悲しみの色があった。クロノもだが、どうやらこの親子は闇の書に個人的な因縁があるらしい。

 

しかし、知れば知る程に闇の書に対する疑問が増していく。

 

純粋な大量破壊にしか使えない代物だというなら何故転生機能や無限再生などのシステムが搭載されているのだろうか。

 

純粋な破壊に使うなら再生能力はともかく転生機能は必要無いはずだ。しかも、次の主の選定方法がランダムだというのも不可解である。

 

これではまるで、後から機能を付け足されたような……

 

「それとね、あの騎士達は人間でも使い魔でもなくて、闇の書に合わせて魔法技術で作られた擬似人格なんだよ。過去の記録からも守護騎士が外部と意思疎通を行ったっていうことはあるんだけど、感情を見せたことはないの」

 

「だから、今回のように守護騎士達が自分達の意思で闇の書の完成を目指すっていうのはかなり異質なことなの」

 

それを聞いて、オレだけなくなのはとフェイト、アルフまでもが眉をひそめる。

 

今まで都合2度の戦闘を経験したが、あの連中はとてもそんな風には見えなかった。

 

1つ1つの挙動や口調にも確かな感情が感じられたし、当然自我も有った。

 

「けど、あの帽子の子、ヴィータちゃんは怒ったり悲しんだりしてました……」

 

「シグナムもはっきり人格を感じました……為すべきことがある、仲間と主の為にって……」

 

「あのザフィーラって奴もね。じゃなきゃ、あんな返事するわけないよ」

 

今まで人形のように生きてきた奴らが確かな自我を持つことになったきっかけに考えられるとすれば、間違い無く主の影響だろう。

 

ゲーデから聞いてはいるが、今代の主である八神はやての優しさが守護騎士達をそこまで変えたのだろう。

 

「その返事から分かったことだけど、もう1つ重要なことが有るわ。もし相手が嘘を言っていないのなら、今の闇の書の主は守護騎士達の蒐集活動を全く知らない可能性が有る」

 

「転移頻度から見ても主はこの付近にいるには確実です。もし艦長の推測が正しければ、交渉することが出来るかもしれませんね」

 

これは……良い流れ、と見て良いのだろうか。

 

もし管理局側が八神はやてを保護した場合、恐らく彼女は交渉に応じるだろう。

 

そうなれば守護騎士達は騒ぐかもしれないが、八神はやてに現状を知られてしまった以上は彼女の言葉で何とかなるだろう。

 

同時に、オレとゲーデの秘密の協力関係もバレるだろうが、それは別に構わない。

 

構わないのだが何故か、そのビジョンを思い浮かべると嫌な胸騒ぎがする。

 

「……にしても、やっぱり闇の書についてもう少し詳しいデータが欲しいわね……そうだ!エイミィ、本局の方に頼んでおいた申請は通った?」

 

「え? あ、はい、大丈夫です」

 

再び考え込んだリンディさんはオレと、隣で眠るユーノを見てから何かを閃いてリンディさんに確認を取り、部屋の奥で通信を始めた。

 

心当たりが無いオレもなのは達もただ首を傾げるだけで、エイミィさんに視線を向けても「明日になれば分かるよ」とだけ言われた。

 

そう言われれば無理に聞こうとする理由も無いオレ達は黙るしかなく、それ以上の追求を止める。

 

「う……っ」

 

隣から聞こえてきた声に目を向けると、横たわっていたユーノが目を覚まそうとしていた。

 

仮面の男に奇襲された時はビルの中に派手に突っ込んでいったものだが、治癒術を施してから数時間眠っただけで目が覚めるのだからバリアジャケットの保護機能は本当に大したものである。

 

「……なのは、フェイト、ちょっとこっちに来てくれ」

 

「? どうしたの?」

 

首を傾げて疑問を浮かべながらも2人は素直にこちらにやって来る。

 

そのまま2人をオレの座っていた場所に座らせ、ユーノが目を覚ますぞ、と教えてやる。

 

すると、なのはとフェイトは思った通り嬉しそうな表情を浮かべ、横たわるユーノの顔を上から覗き込むように見た。

 

「う、ん……ん? ってわあああぁぁぁぁ!!!!!」

 

その数秒後、目を開けたユーノは顔を真っ赤にして大声を上げた。

 

特に理由があったわけではないが、目が覚めて最初に見えるのがただの天井や野郎の顔などよりも美少女の顔の方が良いだろうというちょっとした労いである。

 

まあ、ユーノの驚きが少々予想以上だったが、役得にはなっただろう。

 

真っ赤になった慌てたユーノの様子を見てなのはとフェイトが笑い声を上げ、アルフとエイミィさんも笑顔で加わっていく。

 

もう少しすれば、追跡から戻って来るクロノもあそこに加わるだろう。

 

そんな中、オレは少し離れた位置でなのは達を見ながらリンディさんに念話を飛ばす。

 

(……リンディさん、オレとユーノを妨害してきた仮面の男のことは……)

 

あの男のことは既にリンディさんに報告し、クロノにも後で伝えることになっている。

 

現状において最も得体が知れない存在である以上、警戒はしておかなければならない。

 

(今の所は何も分からないけど、一応なのはさん達にも注意するように言っておきましょう)

 

(一応ではなく少し過剰な位がちょうど良いかもしれませんよ。経験上、あの手の敵は不意打ちが確実に成功するタイミングでしか仕掛けて来ませんから)

 

相手の数や力量が増せば増す程、戦闘で割ける思考や注意力には余裕が無くなっていく。

 

暗殺者(アサシン)等といった不意打ちに特化した者は、その余裕が最大限まで緩んだ瞬間だけを辛抱強く待ち、見逃さない。

 

戦闘中に見えない敵から狙われていると意識して警戒するのは精神的にかなりのストレスになるが、注意を疎かにして首を取られては笑えない。

 

(……分かったわ。私の口から明日にでも伝えておきましょう)

 

(お願いします。オレの方でも、出来るだけ周りに注意を配ってみます)

 

念話の中で警戒心のネジを締め直し、オレとリンディさんは全貌が碌に見えない敵を心の中で睨み付けた。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 ハラオウン低での話し合いが終わり、オレとなのは、そしてフェレット姿になったユーノは現在高町家に帰宅中である。

 

もうすっかり日が落ちた街の中は低い気温の中で帰宅中のサラリーマンや学生などが多く、車道の方も車が少し多い。

 

(ねえ、シノン君、ユーノ君……闇の書の主ってどんな人かな?)

 

(う~ん……適正を持つ人間をランダムで主に選ぶらしいから……人柄どころか性別も分からないね)

 

(そっか~……案外、私達と同い年くらいの子供だったりして……)

 

((ヤバい)……まあ、情報の1つも無い人間のことを考えたってしょうがないだろう)

 

内心で流す冷や汗と呟きを念話に含まないように細心の注意を払いながらどうにか話題を逸らす。

 

赤信号で立ち止まる中、オレは傭兵稼業で磨いたポーカーフェイスと魔導師のマルチタスクで思考をフル回転させる。

 

何というか、何故子供の曇り無き考えは時にこうまで的確に真実を掠めるのか。

 

いや、ただ単にオレの少年時代の経験と心が荒んでただけか?

 

ピリリ!ピリリ!ピリリ!

 

信号を渡り切った所で電子音が聞こえてくる。音の方向に目を向けると、音源はなのはの携帯だった。

 

「あはは、すずかちゃんからだ……えっとね、友達がお泊りに来てるんだって」

 

「友達……アリサじゃないのか?」

 

「うん、新しい友達だって……ほら、写真も有るよ」

 

なのはが差し出してきた携帯の画面に目を向けると、画面にはすずかと一緒に微笑みながらピースサインを作る少女が見えた。

 

見た目から考えて、恐らくはなのは達とほぼ同年代だろう。

 

「一緒に写ってるこの子、名前は?」

 

「う~ん ……あ、有った。えっとね、“八神はやてちゃん”だって!」

 

楽しそうな声で口に出されたその名前を耳にした瞬間、オレは驚愕を覚えると共に最悪の巡り合わせで気絶しそうになった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

  Side Out

 

 シノン達が帰宅した後、リンディはハラオウン邸のリビングで1人ソファーに座り込んでいた。

 

考えているのは、今回の事件の中心にある闇の書について。

 

「クライド……」

 

小さく呟かれたのは、今は亡き最愛の夫でありクロノの父親の名前。

 

クライド・ハラオウン。

 

今の自分と同じ提督の階級にいた夫は11年前、確保した闇の書の移送を務めたアースラと同型の次元艦「エスティア」の艦長を務めていた。

 

しかし、移送中に暴走した闇の書が次元艦「エスティア」の制御を掌握、被害の拡大を防ぐ為にエスティアはやむなく沈められた。

 

その時、クライドは1人で艦に残り、最後まで闇の書の侵食拡大を抑え込んだ。

 

最終的にはエスティアの破壊を自分から申告するという正義に準じた最後を迎えた。そんな父親の影響か、今のクロノは本当に父親とそっくりの性格に育ったものだと思う。

 

だが、当然その悲劇によってリンディもクロノも心に大きな傷を負った。

 

リンディはまだ大人だっただけマシかもしれないが、当時3歳だったクロノが葬儀の中で必死に涙を堪える姿を思い出すと、どうしようもない後悔を感じる。

 

そんな過去を持つリンディとクロノが11年の時を経て、闇の書と最前線で対峙している。

 

「因果なものね……」

 

呟きながら天井を見上げ、リンディはさらに深く思考を巡らせる。

 

闇の書に対して黒い感情が無いかと言われれば、リンディは素直に否と答えられる。

 

大切な人間の死は、そんな簡単に納得も承知も出来る問題ではないのだから。

 

だからこそ、よく考えなくてはならない。

 

自分やクロノが、過去の同じ事件に対面した人間が、どうしなければいけないのかを。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

自分の預かり知らぬ所で最悪な展開の可能性が高まり、オリ主はストレスで死にそうです。

まあ、ゲーデとの関係がバレた場合は完璧にオリ主が悪いんですけどね。雇い主に隠し事してわけですし。

個人的な要望としては速く戦闘が書きたいぜよ。

では、また次回。

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