白銀の来訪者   作:月光花

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気付けば半年も経過しちまってる現状。

今回はなのは達のリベンジ戦です。

では、どうぞ。


第8話 変化を遂げたモノ

  Side Out

 

 結界内に足を踏み入れ、デバイスを展開したなのはとフェイト。

 

2人の姿を見たヴィータとシグナムは、驚きと苛立ちを混ぜたように顔を歪める。

 

「アイツら……!」

 

「もう魔力が戻ったか……発展途上の歳とはいえ、呆れた回復速度だな……それに……」

 

シグナムの視線がなのは達のデバイスに向けられる。

 

前回の戦闘では見なかったパーツ。古代ベルカ式を扱うシグナムとヴィータにとって、それは見覚えのあるものだった。

 

カートリッジシステム。

 

もしこの短期間でアレを使いこなせる程に腕を上げたのならば、なのはとフェイトの力は間違いなく脅威となる。

 

「関係ねぇ! 邪魔する気なら、ぶっ叩く!!」

 

デバイスを握り締めて声を上げるヴィータとなのは達を見て、交戦は避けられないと判断したシグナムはシャマルの方を見る。

 

シャマルを守るように立つザフィーラの前には、人間形態に姿を変えたアルフが立っている。

 

(シャマル……『外』からこの結界を破壊出来るか?)

 

(出来るけど、少し時間が掛かりそう……)

 

(出来るだけ急いでくれ……管理局に次の手を打たれる前に離脱しなければ)

 

そこまで話したところで、ヴィータがなのは達に向かって真っ直ぐ突撃した。

 

シグナムも即座にそれに続き、なのはとフェイトは一瞬のアイコンタクトを済ませて互いに飛び立ち、それぞれの相手へと向かっていく。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 上空に桜、金、紅、紫の魔力光が尾を引いて飛び交い衝突する中、なのはとヴィータはデバイスを打ち合って至近距離で睨み合っていた。

 

「ねえ、一応訊くけど、落ち着いて話し合うことは出来ないの? 管理局の人達も問答無用、なんてことは無いと思うけど」

 

「笑わせんな。改造施してきたデバイス片手に持ったヤツが話合いだ? 言ってることとやってることが真逆じゃねぇかよ!」

 

「……いきなり襲い掛かって来た子がそれを言う?」

 

呆れたような声を出し、なのははデバイスの持ち手を横に逸らしてヴィータの攻撃を受け流す。

 

馬鹿にされたと思ったのか、横を通り過ぎたヴィータは怒りに顔を歪めながら即座に旋回してカートリッジシステムの撃鉄を鳴らす。

 

『Raketenform.』

 

ヴィータのデバイス……グラーフ・アイゼンが形を変え、ハンマーヘッドの片方が推進剤噴射口に、反対側が鋭利なスパイクとなる。

 

それは、前回の戦闘でなのはの防御障壁を正面から打ち砕き、レイジングハートのコアに大ダメージを与えた形態。

 

「こっちはもうお前に用が無ぇんだ! これでもくらって、もういっぺん寝てろぉ!!」

 

飛行魔法にブースターの加速が加わり、ヴィータは凄まじい速度でなのはに迫る。

 

フェイトの高速移動にも引けを取らない速度からは容易に逃れられず、防御しようともその加速力とスパイクに食い破られる。

 

当然、一度やられたなのはもその脅威は理解している。

 

だが、ビルの屋上に着地して足を止めたなのはの選択は……正面からの防御だった。

 

「レイジングハート!」

 

『Load Cartridge. 』

 

紅玉型のコアと持ち手の連結部分に装着されたユニットが撃鉄音を鳴らしてスライドし、1発の薬莢を吐き出す。

 

次の瞬間、爆発的に高まった魔力を感じると共にそれを制御し、なのはは左手を前方に突き出す。

 

『Protection Powered.』

 

桜色のシールドが即座に展開され、グラーフ・アイゼンのスパイクと真正面から激突する。

 

周囲に拡散した衝撃波が暴風と共にビルを揺らし、ガラス窓が一斉に砕け散る。

 

障壁越しに自分を吹き飛ばそうとする衝撃になのはは踏ん張りを効かせて堪え、ヴィータは目の前の壁を打ち破ろうと両腕に更なる力を籠める。

 

だが、スパイクと障壁の衝突面からは無数の火花が飛び散るだけで、障壁には亀裂の1つも入らない。

 

「固ぇ……!」

 

「無抵抗でやられるつもりは無いよ。それに、そっちに用が無くてもこっちには有るんだから!」

 

「この……ぶっ飛べぇ!!」

 

叫ぶヴィータの左手の指の間に4発の鉄球が出現し、それを眼前に放り投げる。

 

『Barrier Burst.』

 

だが、それを察知したレイジングハートが即座に障壁を爆発させ、ヴィータを後方へと吹き飛ばした。

 

『Schwalbefliegen.』

 

「ふっ……!」

 

再び互いの距離が開くが、即座にヴィータの左手に持った4発の鉄球を放り投げ、ハンマーのフルスイングによって打ち出す。

 

紅色の光の尾を引きながらなのはの四方から誘導弾が迫るが、すかさずレイジングハートのカートリッジユニットが撃鉄を起こして魔法が発動する。

 

『Accel Shooter.』

 

「アクセル……シュート!」

 

魔法陣が展開すると共にデバイスの先端に出現したディバインスフィアに魔力が圧縮される。

 

そして、なのはのトリガーボイスと共に桜色の魔力弾が一斉に射出され、光の軌跡を描きながら空中を走る。

 

その数は合計12発。

 

フェイトとの決戦時に操ることが出来たディバインシューターの最大数は8発。12発の誘導弾の同時制御の難しさはそれの比ではない。

 

だが……

 

『貴方なら出来ます。コントロールを、マスター』

 

「うん……!」

 

……一瞬の足踏みをレイジングハートの激励によって振り切り、マルチタスクによって即座に誘導弾の制御を掌握する。

 

この魔法、アクセルシューターは弾数だけでなく誘導力・威力・貫通力の全てがディバインシューターの上位互換と呼べるものだ。

 

ホーミングレーザーに見える程の速度で空を駆ける誘導弾の内4発が軌道を変え、ヴィータの放った鉄球を正確に撃ち落とす。

 

そのまま誘導弾の全ては加速しながらヴィータを取り囲むように接近する。

 

「ちっ!・・・」

 

『Panzerhindernis.』

 

誘導弾の速度から振り切るのは難しいと考え、ヴィータは舌打ちしながら防御魔法を発動。

 

ヴィータの体が赤色の多面体で構成された障壁で覆われた直後、誘導弾全てが障壁に着弾して凄まじい衝撃を響かせた。

 

ヴィータ自身は傷を負ってはいないが、空中を跳弾するように跳ね回る誘導弾の猛襲によって着実に障壁が削られ、各所に亀裂が刻まれる。

 

「くそっ・・・・!」

 

瞬く間に自分の防御魔法をボロボロにされ、焦りを含んだ声と共にヴィータは苛立つ。

 

だが、離脱しようにも今外に出れば即座に蜂の巣にされてしまう。

 

「レイジングハート!」

 

『All right.』

 

返答と共にデバイスの柄尻がスライドし、持ち手の長さが約1.5倍近くまで伸びる。

 

続いてデバイスの先端に細長く鋭い魔力刃が形成され、見た目の形態を杖から槍へと変える。

 

『Axelfin.』

 

なのはが構えを取ると共に両足に展開されているリアクターフィンが発光し、急加速によって真っ直ぐヴィータに向かって突き進む。

 

同時に、周囲を跳ね回っていた誘導弾がなのはの思考制御によって一斉にヴィータ目掛けて殺到し、全方位からのほぼ同時の攻撃によって障壁にさらなる亀裂が走る。

 

そして、距離を詰めたなのはは槍の形となったレイジングハートを持つ右腕を後ろへ引き絞り、踏み込みと共に突き出される。

 

「瞬迅……槍ォ!!」

 

シノンの教えと鍛錬によってたった1つ……されど確かにその身に修得した技が発現する。

 

 

バリイイィィィン!!!!

 

 

力強い声と共に放たれた刺突は亀裂だらけの障壁に打ち込まれ、一瞬の抵抗を挟んで障壁を粉砕した。

 

「な、にっ……!?」

 

魔法を使っていないはずのただの刺突が障壁を砕いたことにヴィータは驚愕で目を見開く。

 

だが、その体は硬直することなく動き出し、ほぼ無意識に振るったグラーフ・アイゼンの鉄槌がレイジングハートの矛先を逸らし、直撃を免れた。

 

結果、互いのデバイスの持ち手部分が激突し、鍔迫り合いのような状態で睨み合う。

 

(前とは違う……今のすげぇ衝撃……このチビガキの何処にこんな力が有るってんだ……!)

 

デバイスの柄を握り締める自分の手が僅かに震えているのを理解しているヴィータは動揺を必死に押し殺そうとしながら思考を回転させる。

 

だが、目の前で相対するなのはの予想以上の強さに、他のことを考える余裕は次第に削られてしまうのだった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 一方、フェイトとシグナムもビルの間を金と紫の光の尾を引きながら衝突を繰り返していた。

 

フェイトのバルディッシュとシグナムのレヴァンティンが打ち合い、鍔競り合いに似た状態から互いに反動を付けて距離を取る。

 

『Blitz Action.』

 

だが、即座に加速魔法によってフェイトが距離を詰め、バルディッシュを振り降ろす。

 

それに反応したシグナムも振り向き様にレヴァンティンを振るい、両者の刃がすれ違う。

 

フェイトは首筋、シグナムは胸部を捉えた斬撃を放ったが、互いの防御障壁が相手の刃を受け止める。

 

そのまま両者はすれ違うが、フェイトはさらに練度を上げた機動力によって急旋回してシグナムの背後を取った。

 

『Plasma Lancer.』

 

フェイトの周囲に環状の魔法陣を纏った槍型の魔力弾が出現する。

 

「プラズマランサー……ファイア!」

 

フォトンランサーとは違い、弾速加速の役割を担う環状魔法陣によってフォトンランサーよりも速く強力な魔力弾が打ち出される。

 

合計8発の魔力弾が背後から迫るが、シグナムは振り向くと共にレヴァンティンを一閃。炎熱変換によって発生した炎が斬撃の軌道に沿って炎の壁となり全ての魔力弾を飲み込む。

 

「レヴァンティン」

 

『Schlangeform.』

 

レヴァンティンの鍔元からカートリッジが一発吐き出され、その魔力を使用して刀身が姿を変える。刃が細かく分割され、鞭のように伸びる刀身が中心にある一本のワイヤーで固定されている。蛇腹剣と呼ばれる種類の武器である。

 

(シュランゲ)の名の通り、振るわれた刀身は瞬く間に長さを増してフェイトに迫る。

 

『Haken Form.』

 

だがフェイトは怯まずにバルディッシュのカートリッジユニットの撃鉄を鳴らしてカートリッジを一発ロード。サイスフォームよりも格段に大きな魔力刃が展開される。

 

「「ハアァァァァァ!!!」」

 

咆哮を上げながら衝突。炎と雷が混ざり合った爆発が起こり、自然と距離が開く。互いに無傷ではないらしく、フェイトは左腕、シグナムは胸元に傷を負っている。

 

「……なるほど、前回とは比べ物にならない強さだな。かなり鍛えてきたと見える」

 

『Schwertform.』

 

一振りで分割された刃が長剣に戻る。言葉を発するシグナムの顔は何処か楽しげだ。

 

前回戦った時は、ハッキリ言って相手にならなかった。

 

シグナムの防御を殆ど貫けず、彼女の攻撃を受けて呆気なくデバイスを破壊された。

 

だが、今のフェイトの強さはまるで別人。シグナムとほぼ互角に渡り合っている。

 

「ありがとうございます……でも、まだまだこれからです」

 

バルディッシュを握る手を緩めず、視線を鋭くしたままフェイトは礼を述べる。

 

「この身に為さねばならないことが無ければ、心躍る戦いだったのだが……仲間達と我が主のために、今はそうも言ってられん……」

 

左手に持つ鞘に長剣を納め、居合いのような構えを取ると共にシグナムの足元にベルカ式の魔法陣が展開される。

 

「殺さずに済ます自身は無い……加えて、今はあの男も控えている……この身の未熟を許してくれるか」

 

「構いません……勝つのは私ですから……あなたがシノンと戦うことはありませんよ」

 

高まっていく威圧感に冷や汗を流しながらもフェイトは微笑を浮かべ、デバイスを握り直して構えを取る。

 

そのまま睨み合うこと数秒後、両者は再び雷光と紫炎を迸らせて激突した。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 残り1つの戦場。

 

こちらも前回の襲撃の時と同じく、アルフとザフィーラが空中を飛びながら激突を繰り返していた。

 

「「ウオオォォォォァァァ!!!!!」」

 

咆哮と共に突き出された互いの拳が衝突し、空中に炸裂した衝撃波が周囲に爆煙と暴風を巻き起こす。

 

だが、アルフとザフィーラはすれ違って即座に振り返り、周囲に立ち込めている煙の中に迷わず拳を振り抜く。

 

すると、2人の拳は寸分違わぬ位置……敵の顔面を正確に捉えた角度で激突する。

 

再び衝撃波が拡散するが、今度はすれ違わずその場に留まって拳をぶつけ合ったまま力比べのような状態となる。

 

「おい、デカブツ! アタシとは少し違うみたいだけど、あんたも誰かの使い魔みたいなもんなんだろう!?」

 

「それがどうした」

 

「どうしたじゃないよ! ご主人様が悪いことや間違ってることやってんなら……本当に大切に思ってんなら、こんなこと止めなきゃダメだろ!!」

 

反動を付けて後ろに跳び、互いに距離を開けて睨み合うような状態となる。

 

その言葉は、半年前の事件でアルフ自身がシノンに言われたものだ。

 

最も、あの時は怒りの鉄拳と説教もセットで付いてきたのだが。

 

しかし、その言葉を噛み締めて理解したからこそ、今のアルフは目の前の相手に……ザフィーラに怒りを感じているのだ。

 

「我等の所業について、主は何もご存知ではない。全ては我等4人の意思であり、その責も我等にある」

 

「え?……はぁ……!?」

 

だが、微塵の動揺も無く返って来たザフィーラの言葉を聞いて逆にアルフが言葉を失った。

 

今、この男は何と言った?

 

主は何も知らない、全ては自分達の意思だと……そう言ったのかこの男は。

 

だとすれば分からないことが出てくる。

 

目の前の男を含めた4人が()()()()()()で闇の書の完成を目指しているということは、闇の書の主はそれを望んでいない、もしくは闇の書のことを知らない可能性がある。

 

だとしたら、何故この4人は主の意思に背いてでも闇の書を完成させようとしているのだ。

 

予想もしていなかった真実に、自分でも元々頭が良い方ではないと理解しているアルフは頭を混乱させる。

 

それを予想していたのか、ザフィーラは静かに拳を構える。

 

「故に我等は、止まらぬぞ」

 

「くっ……!」

 

眼前に迫る拳をアルフは慌てながらもどうにか右腕でいなす。

 

続いて放たれたレバーブローを左腕で受け止め、横腹を狙ったミドルキックを後方へ飛び退いて避ける。

 

(ダメだ……! アタシが今ここで頭捻っても、何の解決にもなりゃしない。だから今は……)

 

心の中に沸き起こる動揺を押し退け、目を見開くと共に握り締めた右の拳を振り降ろす。

 

「オラアァァァ!!!!!」

 

突き出した拳は同じタイミングで放たれたザフィーラの左回し蹴りと衝突し、衝撃波が生まれる。

 

「ぬっ……!」

 

「ダアァァ!!!」

 

打ち合ったザフィーラが何らかの不吉を感じた瞬間、咆哮と共にアルフの拳が振り抜かれた。

 

バァン! という音が響き、吹っ飛んだザフィーラの体がビルの一角に突っ込んでいった。

 

「言葉で止まんないなら、アタシのやり方で止まってもらうよ」

 

胸の前で両の拳を打ち合わせ、アルフはザフィーラに告げた。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 (状況は、あまり良くはないな……シグナムとヴィータが負けるとは思えんが、これ以上この結界内に留まるのは得策ではない……シャマル、そっちはどうだ?)

 

圧し掛かっている瓦礫を退かし、体の埃を払いながらザフィーラは1人結界の外に離脱したシャマルに念話を飛ばす。

 

ザフィーラの視線は空から自分を見下ろすアルフに向けられているが、それ以外の感覚によって結界内の戦場全体を把握している。

 

未だそれぞれの戦場からは戦闘音が絶えず鳴り響き、閃光と衝撃が空中に四散している。

 

ざっと見た限り、全員 本気(・・)だが 全力(・・)ではない。

 

だが、それでも勝負は全くの互角。早々に決着を付けるのは難しいだろう。

 

(大丈夫、こっちは準備出来た……みんな、合図と同時に結界を解除。閃光弾とサーチジャミングで敵の目を誤魔化すわ)

 

(この状況ではやむを得んか……了解した)

 

(ちっ、流石に潮時かよ)

 

「心得た」

 

念話の中でシグナムとヴィータの声を聞き、ザフィーラもそれに続く。

 

その声が聞こえたのか、空にいるアルフが怪訝な視線を向けるが問題無い。

 

(結界解除までカウントダウン……5……4……3……2……い、えっ!?)

 

(シャマル? ……どうした? シャマル!)

 

「ボサっとしてんじゃないよ!!」

 

突如シャマルとの念話が途切れ、ザフィーラの心に動揺が広がる。考えられる原因は外にいる管理局員に発見された、というのが一番確実だ。

 

だが、その動揺によって生じた隙を逃さず、アルフは拳を振りかぶって一直線に距離を詰める。

 

「くっ……!」

 

慌ててその場から飛び退いて拳を避けるが、ザフィーラは心中の動揺が大き過ぎて反撃に移れない。

 

サポートや補助が得意分野ではあるが、シャマルとて全く戦えないわけではない。

 

むしろ状況次第ではシグナム達にも劣らぬ強さを発揮する歴戦の強者だ。

 

だが、管理局にも手練れの魔導師は山ほどいる。

 

もしSランク相当の魔導師に奇襲を受ければ、シャマルとて危ないかもしれない。

 

その時、ザフィーラはふと、この戦場で誰もが忘却している1つのことに気が付く。

 

(あの銀髪の男達は、何処にいった?)

 

生じたその疑問に答える声は無く、ザフィーラの意識は半ば強引に自分へと迫るアルフの拳に向けられるのだった。

 

 

 

 

  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  *  

 

 

 

 

 「ぐっ……!」

 

「抵抗はしない方が良い。殺すつもりは無いが、無傷で捕らえろという注文も受けていないからな」

 

結界の外で念話を行っていたシャマルは、現在シノンに腕の関節を極められた状態で地面に組み伏せられていた。

 

左手でシャマルの腕を拘束し、左膝で背中を抑え付けて起き上がれないようにしている。

 

右手には太刀の姿となったヴェルフグリントが逆手で握られており、刀身がシャマルの後ろの首筋に添えられている。

 

この距離では、どれだけ素早く魔法を発動させようとしてもシノンの方が速く動ける。

 

「ユーノ、クロノに連絡を入れてくれ。敵の1人を拘束した、とな」

 

「うん、分かったよ」

 

シノンの言葉に頷き、傍に立つユーノは自分達と同様に結界の外を捜索しているクロノに通信を繋げる。

 

それを見たシャマルは目を見開いてどうにか阻止しようとするが、完全に関節を極められた左腕の痛みと首筋に当てられた刀身の冷たさによって動けない。

 

「くっ……どうやって、クラールヴィントの索敵を……!」

 

「逃れて近付いた、か? そんなに難しいことはしていない。ただお前の真上の位置、それも遥か上空にユーノの魔法で転移してから急降下してお前に気付かれるよりも早く接近しただけだ」

 

その言葉を聞いて、シャマルの視線はシノンの両肩に展開されたアクセルフィンに向けられる。

 

同時に、シノンが以前の戦闘で使っていた背狼の高速移動を思い出し、それが嘘ではないと確信する。

 

つまり、シノンは横に移動する手間を省く為にユーノの転移魔法でシャマルの遥か上空に移動し、そこから飛行魔法と背狼の加速によって真っ直ぐに急降下したのだ。

 

この方法なら、確かに移動距離を短縮出来るしクラールヴィントの索敵に引っ掛かっても即座にシャマルに接近出来る。

 

「シノン、連絡が取れたよ。すぐに向かうってさ。それと、管理局の武装隊員も向かってるって」

 

「分かった。ならこの場にはオレが残るから、お前は局員の誘導に向かってくれ」

 

「うん。一応、気を付けてね」

 

そう言って身を翻し、ユーノが空を飛ぼうと地を蹴った瞬間、シノンは僅かな殺気を感じ取った。

 

危機を感じてすぐにシノンはユーノに声を掛けようと視線を向ける。

 

次の瞬間、視界に映るユーノの体が僅かなブレを起こして大きく吹っ飛ばされた。

 

ボォン!! と炸裂音にも似たような音を鳴らして衝撃によって吹き飛ばされたユーノは空中で態勢を整えることも出来ずその先にあったビルの中へと突っ込んでいった。

 

「ユーノっ……!」

 

奇襲を受けたユーノを目で追いながらシノンは声を上げるが、新たに聞こえた風鳴り音に体が反射的に反応して中断される。

 

聞こえた音の発生源はシノンのこめかみを狙った蹴り。

 

鍛え抜かれた動体視力によってソレを視界に捉えていたシノンは太刀を逆手に持った右腕を割り込ませてどうにか防御するが、踏ん張りもマトモに出来ない姿勢のせいか衝撃で態勢を崩す。

 

その隙を逃さず、続いて放たれたアッパーカットがシノンの顔面へと迫る。

 

即座にシャマルの拘束を諦めて左手で拳を受け止めようとするが、態勢を崩したせいで一拍遅い。

 

(間に合わ……!)

 

直後、鋭く重い拳が凄まじい衝撃音を鳴らすと共にシノンの顎を打ち抜いた。

 

「ぐ、おっ……!」

 

打撃の痛みと共に激しい脳震盪によって視界が揺らぐ中シノンの目に映ったのは、拳を振り抜いた態勢でこちらを見る白い仮面だった。

 

 




ご覧いただきありがとうございます。

原作と違い、こちらではシャマルさんが自力で結界を解除できます。まあ、実行前に阻止されましたが。

そして、デバイス強化によって成長したなのは達と違い奇襲によって速攻でぶちのめされる男性陣。

次回で今の戦闘は終わると思います。

では、また次回。

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